第112.5話 沙由良んの気づき
――――陽神沙由良 視点――――
「それじゃあ、またね」
「はい。こちらこそまたです」
「バイバイ、縁ちゃん」
私はゆかりんとマナマナ(※主人公の女装名)との別れを見送るとまだ少し寄る所があったのでユッキーと一緒に街中を歩いていました。
「それにしても、今日はなんとも楽しい日でした。まさかまさかのエンカウントでしたが、話しかけてみるのもいいですね」
「そうですね。それに友達とプリクラなんて取ったのも初めてですし、とてもいい思い出になった気がします」
そういうユッキーは零れる笑みをそのままにプリクラで撮った写真を眺めていました。
確かに、ユッキーは大人しそうなタイプでしょうから友達とプリクラを取りに行くというのは経験にないのでしょうね。
と言う沙由良んも今だ未経験の乙女でしたが、今宵晴れて大人の階段を上った気がします。
まぁ、強いて言えば学兄さんと初めてが良かったですが、百合ならば良しとしましょう。
再びチラッと隣を見てみるとそこにユッキーの姿がありませんでした。
「おや?」っと思いながら後ろを振り向いてみると相変わらずプリクラの写真を眺めながらとぼとぼと歩いています。
ユッキーは小柄故に歩幅も小さいとはいえ、それほどまでに眺めるまで喜びの感情に浸っているのでしょうか。
もちろん、喜びの度合いは人それぞれでしょうが、もうそろそろ一旦落ち着いてみてもいいのでは?
「ユッキー、眺めながら歩いていると転びますよ」
「あ、ごめんなさい。ただ少し......なんというか、この人に対しての自分の感じた気持ちに妙な不可解さを感じていまして」
「あー、マナマナですか」
それは一理ありますね。というのも、沙由良んレーダーもマナマナのただならぬ雰囲気をビンビンに感じ取ってますし、初めてですよ女性相手に同人誌にある強制発情状態にされたヒロインみたいな気持ちの高ぶりを感じたのは。
まぁ、それはさすがに過度の表現ですが、それでも自分でもまさかまさかの気持ちよりも先に抱きつくという動作で示してしまったのは今でも驚きが隠せません。
それは恐らく相手が女性であったからだと思いましたが......ん? 女性?
どうしてそこに疑問を感じるのでしょうか?
本来女性を本当に女性かなんて疑うのは全くしないといっていいんですが、なぜか妙に断定するにはしっくりこないんですよね。
う~~~~~む、ここは沙由良んメモリアルから抱きついた際の沙由良んズダイレクトハグから得た情報で骨格に対する脳内演算処理をかけて。
......む? むむむ? なぜか沙由良んズジャッジメントでは女性と判断されませんでしたぞ? 何故こうなった?
それでいて沙由良んズハンドはあの骨格に対してどこか覚えがあるような感じがしてるのはなぜでしょう?
のどまで出かかってるのに出てこない。このもどかしさはなんとやら。
ここは一旦ユッキーからの視点も考慮して判断してみましょう。
「確かに、マナマナは不思議な女性でした。時折挙動不審な動きが見られましたが、好みのタイプでやや興奮していた沙由良んマンパワーに気圧されたなら納得がいきます。
ちなみに、ユッキーはマナマナに対して感じたことはありますか?」
「感じたことですか......それなら、私にしては珍しく緊張せずに話すことが出来ました」
「ほう、そうなんですか? 私との時でも割に緊張せずに話せていたと思いますが」
「沙由良ちゃんは同類のニオイがしたので」
同類ですか。確かに漫画と小説で表現方法は違えど辿ってるジャンルは変わりありませんしね。
ちなみに、仲良くなった時に布教したおかげで冬コミの時に一緒に話を練ってくれるそうですし。
ユッキーはやはり不思議そうな顔をすると言葉を続けていきます。
「う~ん、あんまり気にすることじゃないと思うんですが、なぜか気になるんですよね。
私って慣れた人にはもうだいぶしゃべれるようになりましたけど、初対面には女性であれ声が出ずにカンペで対応することが未だありますから」
ちなみに、ユッキーの言っていることは本当です。
今となっては慣れたものですが、夏休みでの時なんか店員に話しかけられた時はカンペがないせいで頑張って身振り手振りで対応してましたし。
学兄さんに早く自立できた姿を見せたいらしくて頑張っているらしいですが、結局その時は半泣きでバトンタッチを要求してきましたからね。
あの時のどこか嗜虐心を煽るような顔は......ごほん、沙由良んズデザイアーが漏れてしまいました。これは失礼。
まぁ、つまりはユッキーが初対面相手にこんな態度が取れるのは本当に稀というべきか、異常と言うべきか。
これが本人の成長による結果となれば話はそこで終わるんですが、ゆかりん達と一緒にパフェを食べに行った時も店員相手に身振り手振りの対応でしたからそう考える方になってしまうんですよね。
というか、本人がそれについて不思議がってる時点で、とも言えますが。
「ユッキー的にマナマナの印象はどうでしたか?」
「なんというか、一目見て“好き”と思うほどには魅力的な女性でした。
顔を見た瞬間、全身に電流が流れたような感じで、それでいて名前を呼んでもらった時には顔......いや、胸から火が出るように熱がこみ上げてきました。
もし、私に好きな人がいない状態でその方にたまたま出会ってしまったら、初恋相手はその人になっていたかもしれないと思うほどには」
「それはそれは情熱的な回答ありがとうございます」
ユッキーを一瞬でメス堕ちしたヒロインのように骨抜きでメロメロにした......加えて、学兄さん一途の沙由良んまでもNTRメス堕ちさせる女性。もはや気にならないはずがないですね。
そんなことを考えて歩いていると少し遠くにある本屋にやってきました。
ここに訪れたのはユッキーが読んでいる官能小説の新刊発売日らしく(もともとはショッピングモール内での本屋で買う予定でしたがそこにはなくて)ここに移動中にゆかりん達とエンカウントという流れです。
なので、これが当初の目的ということになります。
私は買い物はすでに済ませてありますし、完全付き添いですね。
店内に入ると足早に歩いていくユッキーの後ろをついていきながらぼんやりと辺りを見回していきます。
そこには数多くの同性がいました。まず間違いなく半数は腐女子でしょうね。
ユッキーの方に目を移していくと新刊を手にしたユッキーが本が横並びになっているところで「へぇ~」と興味深そうに呟いていました。
「何か面白いものがあったのですか?」
「面白いというか気になるものがあって。私の好きな作家と有名な漫画家さんがタッグを組んで一つの漫画を作り出したらしくて」
「この『男装女子と女装男子の秘密の恋愛事情』ってやつですか」
ユッキーからはこの作者の本をいくつか借りて読んだことがあるので、その作者がいるなら恐らく面白い......ん? 女装男子?
私はこの言葉が妙に引っかかりました。なぜだかわかりません。
ですが、同人誌の作者である相良ヒユミ(※沙由良のPN)としてのイマジネーションが女装×学兄さんという創作ネタにつなげた瞬間、全身に電流が流れるように衝撃が走りました。
それはさながらコ〇ンや金田〇少年が事件の証拠を集めてそれらの点と点が降って沸いたようなヒントによって線になるような感じで。
その瞬間、無表情で感情が読めないと言われる私の口角が勝手に上がっていきました。
それはもうきっと鏡を見なくても気持ち悪いといえる感じで。
そんな突然笑い出した私をユッキーが心配そうに尋ねてきます。
「ど、どうしたの沙由良ちゃん?」
「い、いえ、昨日面白い番組を見てつい思い出してしまって」
一旦深呼吸でもして落ち着きましょう......ヒーヒーフー、よし、大丈夫そうですね。
にしても、あのマナマナが本当に学兄さんなら色々と納得いくことがありますが......肝心の学兄さんがどうしてそんな恰好をしたのかはわからないんですよね。
けどまぁ、それはいずれわかることでしょう。それよりも......まさかこのプリクラの価値がこんなにも跳ね上がるとは。
たまたまオークションに出した商品が数十倍の値段で買われたほどにはなりましたね。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')