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第101話 休日の強制労働#1

 俺の足は“前に進みたくない”と言わんばかりに足取りが重く、それでも行かないとなんかとんでもないことが起こるんじゃないかという不安に駆られつつやっとのことで足を動かしたが......ついに止まってしまった。


 見上げるは懐かしの大豪邸。

 その玄関から十数メートル離れた位置にある豪華な装飾が施された鉄柵の前で俺は引きつった笑みで立ち尽くしていた。


 そう、ここは俺の幼馴染である花市の家である。

 といってもここは別荘に近いらしく、本当の家は京都らしいが......普通の一軒家が3つぐらい入りそうな家を別荘と呼ぶのだろうか? はなはだ金持ちの思考は理解できない。


「足が進まない......」


 昔はなんだかんだで何回か入ったことのある家でどんな感じだったのかも小学生の俺にとっては印象に強かった出来事なのか覚えている。


 しかし、それはそれでこれはこれ。

 今もこの豪邸を目の前にして平然と足を踏み入れることが出来るほど俺の精神は強くない。


 あぁ、足に鉛の鎖がつけられていて、さらに足自体にコンクリートがくっついているかのように重い。っつーか動かない。


 ただ見ているだけで軽く数分過ぎてる。

 時折通りすがりの子連れからなんとも言えない視線を送られるが、それでも勇気を振り絞って前に進めるほど主人公メンタルはしてないのだ。


「もう覚悟を決めるべきか......いや、後5分......待て10分だな――――」


「ちゃっちゃと入ったらええのに」


「うぉっ!?」


 突如背後から聞き覚えのある声が。

 思わずビクッとして振り返るとそこには着物を着た花市の姿があった。


「お前......いつからそこに......」


「あんたが来る10分前にはもう隠れて見張ってしたで」


「なんて無駄な時間を......」


「あんたもそう思うやん? この時間でうちの執務終わる時間も早なったかもしれへんのに。誰かさんが全く動かへんさかい」


 え、なんで俺が悪いみたいな流れになってんの?


「よう聞くやん? タイムイズマネーって。早う執務終わったらその分どうあんたを弄んやろうか考えられたのに」


「それを俺の前で言うのか腹黒女」


「クスクス、そう易々と罵倒できるのんはあんたぐらいやで」


 俺の言い返した言葉が本当におかしかったのかしばらく俺の前で腹をよじらせて笑ってた。

 そこまで面白いこと言ってないけど。もうその言葉で笑える時点で性格ひん曲がってるわ。


「で、俺をわざわざここに呼んだのは何のためだよ?」


「あんたを呼んだのはなんでうちがわざわざ出向かなあかんのかって疑問に思たのもあるんやけど」


「おい」


「それ以上にここでしか見れんものを見るためどす。あんたの適性をね」


「適正?」


 そう聞くと「それ以上は家の中で話しまひょ」と言われて花市に押されるがままに豪邸の中へ押しやられていく。

 あぁ、どうしてここに昂がいないんだ。でなければ、コイツがこんなにはしゃぐこともないのに。


 それから数分後、俺は花市の家で働くメイドや執事にあれよあれよと俺の言葉に耳を傾ける様子もなく準備をさせられるととある格好に着替えさせられた。


 身だしなみを整えるように薄く化粧をされるとそのままキリッとした髪型にワックスでセットされ、純白のようなワイシャツとワインレッドのネクタイ、()()()しっくりくる燕尾服に身を包むと――――花市家執事の出来上がり。


「いや、なんでだよ」


 さすがにこの状況にはツッコまざるを得ない。なぜ俺がこんな格好しているのか。否、させられているのか。はなはだ理解に苦しむ。


「ごめんね、お嬢様の決定には基本的に逆らえないからさ」


「アイツ、妙なことを考えてるな?」


 俺が執事の恰好になった所でようやく我が癒しの爽やかイケメン昂に会うことが出来た。

 そんな昂も同じような恰好をしていて、なんとも大変だなぁと思わざるを得ない。


「昂はなんかアイツの企みについて知っていることないか?

 さすがに俺の情報網でもアイツのことは探れんからさ。

 唯一引き出せたのはアイツが光輝の押しに弱いぐらいで」


「その情報ってお嬢様ががっくんに一番知られたくないはずの情報でお嬢様も学校で情報規制をしたはずなのに」


「すまんな。どんなに上手く穴を塞ごうと全ての整合性が揃うことなんてないんだよ」


「がっくんは一番敵に回したくない相手だなぁ」


 昂はそう言いながらその発言を聞いても特に気にするようすなく楽しそうに笑う。それからすぐに俺の質問に答えてくれた。


「それでお嬢様の企みについてなんだけどボクは特に知らないかな。

 お嬢様って時折思いついたことをそのまま実行することがあるからさ」


「だとしたら、こんな格好までさせておいてアイツは本当に何を考えてんだ」


「そら先ほど言うたで? 適性を見るためって」


 俺と昂の会話にしれっと入ってくる。そのたびに俺はビクッとしてすぐさま花市を見る。

 ほんとコイツの気配の消し方キ〇アかよ。もう少し足音ぐらい出して!


「そう言えば、そんなこと言ってたな。で、俺の何の適性を見るって? まさか執事としてのじゃあるまいな?」


「ピンポンピンポン大正解~♪ そら適正を見るためじゃなかったらそないな恰好させへんって」


 ぐぬぬぬ、なんともムカつくような言い方しやしがって......! 指さして笑ってんじゃねぇ!


「とはいえ、うちは執務があるさかいあまり見れへん......ちゅうことで、後はよろしゅうね執事長はん?」


「お任せ下さい」


「え、執事長? 昂が?」


 俺がメイドの恰好をさせられた時、明らかに昴よりも年上の執事やメイドがいたし、執事に至って二代先の当主から仕えていますみたいな歴戦の執事もいたんだけど!?


 花市はそれだけ告げるとさっさとこの場を離れてしまった。

 本当に俺のことは昂に全投げしやがった。っていうか、昂はこの結果に対して驚くことないの?


「お前はなんも動じないんだな」


「まぁ、お嬢様だし」


「その言葉で片付くアイツという存在の説得力はなんなんだ」


 そのパワーワードはおおよそ俺の知らない言語に近いだろうな。

 少なからずここで数年と使えてないと通じないタイプの言葉であることは確かだ。


「執事としての適性を見るとか言ってたし、恐らく執事の仕事を体験させればいいって感じかな」


「俺は自分のシルバーウィークを返上してどうしてここにいるんだ......」


「ははは、それについてはもう諦めるしかないだろうね。だけど、ボクとしてはこうして一緒に過ごせるのは嬉しいかな」


「くぅ、お前だけだ。俺に優しくしてくれるのは」


 姫島は変態だし、雪は思考が乱れてるのに加え最近は妙な積極性が見られるし、沙由良は脳内だけじゃなく言語も乱れてるし、生野は......何なんだろうなアイツは。


 ともかく、4分の3が俺におおよそ疲労という害を及ぼしてくる存在だ。

 俺の癒しと言えば光輝か昂だが、光輝のラブコメを邪魔しないためにはあまり関われないし、つまりは俺の中で安定した心で会話できるのは昂しかいない。


 ......男に癒しを求めている俺は果たして変なのだろうか? 否、それは断じて違うと言えるだろう!

 なぜなら俺がたとえ男であっても癒しを求める理由が明らかであるからだ!


 とはいえ、あまり昂と絡みすぎても腐女子のネタにされるので必要最低限であるが。

 つい最近花市がどうにも腐ってると知ったばっかりだし。


「ハァ、ここまで来た以上もう腹をくくるしかないか。んじゃ、よろしくな執事長さん。あ、敬語にした方が良いか」


「いや、そのままでいいよ。がっくんに敬語使われるのはなんか距離置かれたみたいで変な感じするから」


「昂......」


 お前ってやつは......!


「それじゃ、最初は何するんだ?」


「そうだね......この家の見取り図を知ってもらうついでに掃除と行こうか」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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