第97話 もしかして始まっちゃう!?
今日も一日が終わった。
学校生活は花市が加入したことで混沌さを増してきたが、昂のおかげでそれでも大分ラブコメとしてまとまってる気がする。
特に昂に対しては一度不幸自慢したあれ以来ちょくちょく話すようになった。
ま、もとより花市と同じ腐れ幼馴染だったわけだから気を遣わずに距離を詰められるわけだけど。
そんな俺は日に日に陽が落ちるのが早く感じる茜色の空の下で少しだけ涼しくなった丁度いい温度の風を浴びながら下校中だ。
本来ならこのまま直帰する予定なのだが、今日は少しだけ寄り道する予定があるのだ。
というわけで、やってきましたショッピングモール。目的はその中にある百均である。
店内に入ってエスカレーターで上に昇ってもはや慣れた百均までの道をのほほんと歩いていく。
その時偶然、目の前の通路に花市と昂を発見した。
花市も普通に買い物しに来たりすんだなぁ。
お嬢様だしてっきり必要なものはパシってるかネット注文だと思ってたが。
とはいえ、俺は出来ればアイツに関わりたくないので少し面倒だがここは遠回りして――――
「どこ行くの?」
「......っ!?」
俺が後ろを振り向いた瞬間、肩にポンと手が置かれたかと思うとすぐ耳元に声がかけられた。
それに対し、当然俺の体は驚きでゾワッとする。
おいおいお前との距離10メートルほどあったはずなんだが!?
「きょうびの女子高生は瞬歩使えるんどすえ」
「JKは武人か! ってそうじゃねぇ!」
何サラッと人の心読んでるんですかねぇコイツは!?
それにわざわざ話しかけるって何の用だよ。
「何の用言われても、幼馴染に声をかけるのんは普通ちゃいますか。ねぇ、昂?」
「だから人の心を読むんじゃねぇ。つーか、こっちはお前らの邪魔しないようにせっかく気を遣ってやったのに」
「逃げるための口実としては結構。そやけどやっぱし、幼馴染としては避けられてるようで辛おす」
そう言うんだったらもうちっと悲しそうな顔をしてくれませんかねぇ?
そんなニッコニコした笑顔でまるで「おもちゃミッケ」とでも言ってそうな表情浮かべられてもなぁ。
「で、何の用?」
「ほんまに話しかけただけどすえ。買い物も丁度先ほど終わったし。そちらも買い物終わりなんどすか?」
「いや、今日俺のお気にのボールペンのインクが切れてストックもなくなったから買いに来ただけだ」
「そう。なら、うちの昴を貸したるで」
「お嬢様!?」
突然の花市の提案に昂が驚いている。
まぁそりゃそうだろうな、昂の存在はいわばボディーガードの役割も持っているわけで、ここで昂を差し出してしまえば花市は一人になる。
これが普通の高校生であれば特に問題もなかっただろう。
しかし、花市はお嬢様である。それもかなりの。これでもし何かあれば大事になるのは必須。
その昴の反応に対し、花市も当然わかってるような態度で返答する。
「いけますえ。ちゃんと迎え呼ぶし、なんやったらうちが車に乗って帰るとこを見届けてから買い物をしたらええ」
「お嬢様、そういう問題じゃ......」
「お前、どんだけ昂を置いていこうとしてんだよ。
っていうか、何ちゃっかり俺までお前の帰りを見届けさせようとしてんだよ」
「あら、別に見送るのんは昂だけのつもりで言うたんどすけど。
まぁ、見送ってくれるなんてえらい優しおすなぁ」
「ぐぬぬぬ......お前に褒められても全然嬉しくねぇ」
結局、俺は花市が迎えの電話をよこしてから迎えの車が来るまで話をしていた、否、話をさせられていた。
正直その間何度逃げようと画策したが、その度に妙に力強く肩を掴まれ、さらにはなぜか知っている中学の時の黒歴史を囁かれ苦悶していたら時間が過ぎていったのであった。
花市が帰った後、結局残ることになってしまった昂は申し訳なさそうに謝ってきた。
「ごめん、お嬢様が......」
「あの傲慢さは昔っからだ。正直こう言うのもなんだが多少の耐性はついている。
にしても、別に律儀に残らなくても良かったんじゃないか?」
「まぁ、良かったと言えばよかったんだけどそれはそれでお嬢様機嫌が悪くなるから」
え、なんでよ?
「別にお前が俺と一緒にいるメリットって特にないだろ?
俺はまぁ、俺のやってるのを知ってる唯一の“男友達”ってわけだから大分リラックスして話せるけど」
「メリットは......なくはないかな。ま、お嬢様は最終的な総取りをするためにガンガン関係性を構築させようとしているだけで......」
「......何言ってるかサッパリわからん」
「あ、いや気にしなくていいんだよ!? 全てこっちのことだから」
いや、花市が関わってるというだけで正直気にしないことなんてできないんだが。
昂を妙に残したがっていた理由に花市の画策が関わっているのか?
「ともかく、ボクはがっくんと一緒に買い物出来て嬉しいよ」
「お前......それで何人の女子落としてきたんだ?」
「え、何急に?」
「普通の男にその返しは出来ん。ハハハ、モテてんだろどうせ」
そう言いながら昂に肩を回していくと昂は顔を赤らめながら「コクられたのは全部で10人ぐらい」と返答してきた。
中学3年間で8人はやべぇな。
よくラブコメの学校のマドンナ的な女子が数か月で10人にコクられたみたいな設定があるが、現実的に見ればこれぐらいであろう。
特に「8」という数字がリアルすぎてやべぇ。マジパネェっす。
しかし、こんな質問に恥ずかしがって答えるなんてコイツはどんだけ初心なんだか。
男にとってのコクられた数なんてむしろ勲章みたいなもので誇ってなんぼみたいなところがある。
もしかして、コイツは女子が苦手なのか?
いや、少なからずコイツがクラスの女子や姫島達と普通に話すところは見たことあるから苦手というわけじゃなさそうか。ま、なんでもいっか。
「やはりモテるのは顔なんかなぁ~」
「どうしたの急に?」
昂の肩から腕を外すとふと昂の顔を見て思ったことを呟いた。
それに対し、昂は軽く息を整えてそう聞いてくる。
「モテたいの?」
「いや、特にそういう願望はねぇな。
もとより俺にそういう要素がねぇことは俺自身が一番分かってる。
それでも好意を寄せてる姫島達は正直奇特な奴らだ」
「それは言い方が酷いし、結構な自虐だよ......」
「で、前に昂が笑みを浮かべただけで女子をバタンキューさせてたこともあったからこう考えるとやっぱルックスって強いなって思って」
「まぁ、初対面の人に会った時にその人に対しての情報を得るのは“話す”よりも先に“見た目”だからね。
もしこれから話すとして身なりの整った人かボロボロの服を着た人かだったら当然前者の方が印象は良いし」
「とはいえ、服装で着飾っても生まれつきのものはそう簡単に変えられない。特に顔なんて」
「それはそうだけど......」
「いや、別に今のは俺とお前を比べて言ったわけじゃねぇ。総合的な一般的意見としてだ。
ま、“第一印象は大事”なんてよく言ったものよ。結局この世界はイケメンが得する世界になっている」
「――――ボクは嫌いじゃないよ。がっくんの顔」
急に少し強めの口調で言ってきた昂に思わず驚いて立ち止まってしまった。
それと言ってる言葉が言葉だけになんか恥ずかしい。
そんな俺の気持ちを露知らず、昂は続けていく。
「やや眠たそうにしてる目や意外に長いまつ毛。スッとした鼻筋。
目鼻の位置も整ってると思うし、だからボクは......って何言ってんだろね。
ごめん、忘れて。すっごい恥ずかしいこと言った」
急にふと我に返ったのか言った内容に対し顔を真っ赤にし、右ひじで口元を隠すように覆って俺から顔事逸らしていく。
その表情はパシャリと音を立てて確実に脳内フォルダに保存してしまった。
正直、今の昴の表情は誰よりも断トツで可愛かったと思う。
思わずこっちが恥ずかしくなるぐらい。え......もしかしてBL始まっちゃう!?
読んでくださりありがとうございます(*'▽')