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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

やっぱり君が好き

作者: ししとー

「はぁ~~やっと終わったぁ」


今まで張りつめていた空気はどこへやら。教室の片隅で、アタシも緩んだ空気の発生源の1つとなった。高校2年の1学期の期末テストが終了し、これから先には夏休みしか無いのだから当然だと思うのだ。今のところ何の予定も立ってはいないけど、長期の休みというだけで浮足立つのは仕方のない話だ。当然、山のように積み上げられるはずの課題はあるが、今だけは目を逸らそう。


そんな緩んだ空気の中、机に突っ伏してだらけきっていると、頭をちょいちょいと突かれて私は顔を上げる。少し赤みがかった茶色い瞳と視線がバッチリ重なった。高校生にしてはやや小柄だけど、凛とした空気を漂わせる彼女。私を視線が合うと「にへら」っと緩んだ表情になる。彼女が親しい人だけに見せる、私の好きな表情。私の好きな人”向田夏美むかいだ なつみ”。そしてナツミもアタシのことが好き。それはきっと私と同じくらい好きだとアタシは思ってる。


「お疲れ様、サクラ。テストはどうだった?」


彼女にそんな笑顔で労われただけで、先ほどまでのテストの疲れも吹き飛んでしまいそう。腰まで伸びたサラサラの黒髪は、いつ見てもうっとりして触りたくなってしまう。


くせ毛のアタシとは大違い。でもわざわざストレートパーマを当てるのも面倒なので、基本的にはヘアゴムでまとめてポニーにしている。あたしには「キレイ」なんて言葉は似合わないし、薄めにメイクだけしておけば、まぁ何とかなると思ってる。


「バッチリ!・・・って言いたいところだけど、物理だけはどうしてもね・・・。でもナツミに教えてもらったから平均くらいは行くんじゃないかな。」


解答欄への記入が終わったら、必ず名前を書いたかは確認しているので、名前未記入で0点という、小学生のころに犯した失態の再現は無いはずだ。しっかりと”桜田さくらだ はな”と書いてあることを確認したので、いつもよりはそれなりに点数は取れているだろう。


「そっか、さすがに苦手教科の克服には至れなかったかぁ。私も、もうちょっと分かりやすく教えられたら良かったんだけどね。」

「いやいやっ!ナツミがいなかったら赤点待ったなしだったよ。ホントにありがとう。」


彼女の両手を取って私はナツミに感謝を目いっぱい伝える。包み込むようにぎゅっと握ると、自分の手が熱っぽいことがよく分かる。ちょっとわざとらしかったかもしれないけど、自然とナツミに触れられる口実があるのだから仕方ない。校内で人目をはばからずにイチャイチャできる機会なんて限られているのだから。



テスト前に泣きついて勉強会を開いてもらい、少し強引に勉強を教えてもらったのだ。赤点ギリギリであった中間テストの物理科目の結果は、ナツミに泣きつくために大変有効な手札にはなったが、私の成績を多大に足を引っ張っているので手放しでは喜べない。


大抵のことはそれなりにこなせると自負しているアタシだけど、一度『苦手』と認識してしまうとてんでダメになってしまうのが弱点だ。期末の結果次第でお小遣いの減額も母親からチラつかされ、どうせならとナツミに土下座をする覚悟すら持って頼み込んだのだ(なお、土下座する前に快諾してもらえたので、ホッと胸をなでおろしたのは内緒だ)。


「これで心置きなく夏休みを満喫できるよ~~ナツミ様様だよ!」

「もう、サクラは大げさなんだから。」


たしなめるようなセリフだが、頬をうっすらと染めており、照れているだけなのは丸わかりだ。普段は凛とした雰囲気を漂わせるナツミだが、こういう可愛いところがあるのを、クラスの中で知っているのは私だけかもしれない。今はそんな彼女を独り占めタイム。


「・・・一緒に勉強したはずの彼は大丈夫だったかしら。」


短い独り占めの時間だった。少し心配そうにナツミがぽそりとつぶやくのは、『彼』と言うように当然アタシのことじゃない。アタシが泣き落として(はいないが気持ち的にはそういうことにしている)無理やり開催してもらった勉強会には、アタシたち2人の他に、もう1人居た。アタシは物理だけがネックになっていたが、ナツミのいう『彼』は全般的に平均ギリギリを行っており、アタシよりむしろ『彼』のための勉強会になってしまっていた。


ナツミはクラス委員というだけあって、担任から何かと頼まれごとをされることが多く、それをなかなかNOと言えない優しい性格をしている。そして『彼』のことを頼まれてしまったわけだ。

『彼』は陸上競技のスポーツ特待生で入学しているため、勉学が得意ではなく、中間テストの結果が余りにもよろしくなかったために、担任から何とかしてやってくれないかと言われてしまったのだ。


本来ならば、ナツミはアタシだけに勉強を教えてくれるはずだったのだが、困っている担任からの頼みをナツミは断ることができず、アタシはしぶしぶ『彼』の勉強会参加を認めたのだ。


「ナツミが勉強見てくれたんだから大丈夫に決まってるじゃん。ほら、その証拠。」


自分を指さして渾身のドヤ顔を披露する。一瞬ナツミはきょとんとした顔になったが、クスリと笑いながら「ありがとね」と小声でつぶやいた。


このまま2人で甘いものでも食べて帰れたら最高だなと・・・思ってたのに、神様はどうにもアタシのことが嫌いらしい。


「おー、桜田の言うように今回は余裕もありそうだぜ。この前はありがとうな、向田。ホントに助かったぜ」


アタシの幸せタイムを2度に渡って横槍を入れてきたのは、『彼』こと”一条裕也いちじょう ゆうや”。ニカッと効果音でも出そうなくらいの、爽やかな笑顔でサムズアップを決める彼は、陸上200mで将来有望な成績を出してはいるが、勉強の成績は残念な、スポーツマン。クラスでは『ジョー』と呼ばれている。


クラスの女子曰く「磨けば光りそうな素材」らしいの良いのだが、如何せん本人は陸上に全力投球。そのため残念なイケメンという評価をされている。毎日泥臭いほどに部活動に汗を流しているため、陸上の成績に関してはしっかりと磨かれているものの、容姿に関しては原石のままらしい。しかし、全国への切符まであと少しというところまで来ているので、そのまま部活をしっかり頑張ればいいと思う。


しかし、勉強会ではナツミだけじゃなく、アタシだって教えたはずなのに、なぜナツミにしか礼を言わないんだコイツは。


「いやいや、アタシもちゃんと教えたでしょーが。」

「だって桜田は教え方が下手ぐぇ!」


なんか文句を言いそうだったから鳩尾を殴ってやった。ざまぁ。


「スポーツバカのジョーが勉強なんて雪が降るかと思ったわよ。」

「いやいや降るわけねーだろ。夏だぞ夏。」

「嫌味に決まってんでしょ、バカなの?いやバカだったわーゴメンね。」

「くっそ、事実だから言い返せねー!」

「まぁまぁ。2人とも落ち着いて。テストは終わったけどまだホームルームが残ってるんだからね」

「「はーい」」


バカなやり取りをしていたらナツミに窘められた。勉強会の時やテスト期間中は、さすがにこんなやり取りはしていなかったが、ジョーのこともはそこまで嫌いってわけじゃない。あだ名で呼ぶくらいには好感を持っている奴ではあるのだ。ナツミといるときに乱入されるとお邪魔虫でしかないのだが、陸上に関してはマジに生きてる奴なのだ。そういう熱いのは嫌いじゃない。


ジョーが全国への切符を掴み損ねた地区予選。本人が言うには「あの時は最高のスタートが切れた」とのことだが、それでも全国への道にはあと一歩届かず、本気で悔し涙を流す姿を見て、不覚にも、人として美しい在り方をしていると思ってしまった。


だからアタシはこいつを邪険にできない。嫌味やからかいと言ったコミュニケーションにはどうしてもなりがちだが、そこに悪感情はさっぱり無い。だからせっかくセッティングしたナツミとの勉強会に、急遽追加されたときにも仕方ないと了承した。


アタシも丸くなったもんだ・・・。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇


担任が教室に入ってきたところでそれぞれの席に戻ったが、特に連絡事項も無かったのか、ホームルームは直ぐに終わった。テスト明けのため、今日は部活動も委員会もない。

となるとやることは一つ。


「ナツミ。久しぶりにどこかによって帰らない?」


アタシはナツミを誘って寄り道でもして帰ろうと思って声をかけたのだが・・・


「お!どっか行くのか?俺も俺も」


と、お邪魔虫が現れる。もちろんジョーである。これ見よがしに「はぁ~~」っと思いっきり溜息をついてやる。


「あたしはナ・ツ・ミを誘ってんだけど」

「いやまぁそうなんだろうけどさ、俺としてはお礼がしたいわけよ、お二人さんには」


はぁ?2人きりの時間を邪魔しといてお礼とか、この男は何を言っちゃってんの?


「勉強教えてくれたじゃんか。まじで向田と桜田には感謝してるわけよ。ってことでなんか奢らせてくれよ。明日からは部活に行きたいもんで今日で頼む!」


両手をパンと鳴らして頭まで下げられてしまった。うーわ、断りづらいやつ来た。マジかー。そういわれたらナツミが断るわけないじゃんかー。ナツミの方を見ると、予想通りぱっと見分かりづらい苦笑いをしてはいたがコクリを小さく頷いた。まぁしゃーないか。


「ナツミがいいっていうならしょうがない、奢らせてやるか。ちょっと足を延ばして駅前のクレープ屋さんはどう?ナツミもあそこ気に入ってたよね?いつも何頼むか迷うもんね。」

「・・・だってしょうがないじゃない。あんなにたくさん美味しそうなのがあるんだから。サクラだって2つも3つも食べるじゃないの。」

「まぁね。あれは美味しすぎるのが悪い。食べれるだけ食べちゃいたくなるんだもん」

「・・・太っても知らないからね」

「ぐぬっ・・・そういうことをいう口には、大量のクレープを詰め込もう、そうしよう。」

「サクラは自制という言葉を覚えた方がいいよ。私に対しても自制してね」


えー。結構自制してるよ?がっつり我慢してるよ?テスト期間中はちゃんとナツミ分の補給を我慢して勉強してたもんね。


「でも今日は財布には自制しなくてもいいよね」


にやりとジョーを見る。一瞬何が起きてるか分からなかったようだが、『財布=自分』ということに気づいたようで、すぐに顔が青ざめていく。くっくっく・・・無傷で帰れると思うなよ。


「お、おぅ、ま、まかせとけ・・・ははっ・・・」


力なく断言するジョーに少しだけ同情はするが、自分から言い出した責任は取ってもらおう。


「あ、あの、ジョー君。無理はしなくて大丈夫だからね。こんなのいつもの冗談みたいなものだから。」

「え?本気だけど?」

「もう!サクラ!」


ははっ!さすがに調子に乗ってたらナツミが怒っちゃった。ごめんごめん。


「ぬぉぉ・・・どっちなんだ・・・えぇい!男に二言はない!いくらでも奢ってやるよ!」


お!実は冗談だったけどやったね。言ってみるもんだねぇ。アタシがニヤニヤしていると、サクラが「もう!」といった感じで睨んできた。おぉ怖い怖い。手加減はしてあげるから大丈夫だって。それを伝えるように手をひらひらと振ってみるけど伝わったかな。


「言質とーれた♪よーしじゃぁ早速行こ!頭使った分だけたくさん食べるかもねー?」


アハハと笑いながら、アタシはナツミの手を取って歩き出す。


「ちょっとサクラ。ジョー君を置いていかないの。」

「大事な財布を置いてくわけないじゃん」

「もう!またそういうこと言って。ごめんねジョー君。着いてきてね。」

「あ、あぁ。大丈夫だ、脚には自信がある。」


こうして3人で寄り道することになった。途中、ナツミが耳に口を寄せてきて「ちゃんと加減しないとダメだよ」と囁かれて変な声が出そうになったのを必死でこらえた。あ、あぶなかった・・・。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「しっかしスゲー行列だな。そんなに旨いのかココ?」

「黙って並びなさいよ。しょうがないじゃない、テスト明けなんだから。」


ジョーがげんなりした様子で言う。考えることはみんな一緒ってことだね。おんなじ制服ばっかりだ。ま、しょうがない。のんびり待つとしますか。


「サクラは何にするか決めてる?やっぱりイチゴ系?」

「うーん・・・たまには別のもありかなって思うんだけど、やっぱりイチゴに戻っちゃうだよね。ナツミは?」

「いつもの抹茶に、今日はせっかくジョー君が出してくれるなら、白玉もつけちゃおうかな。いいかな?ジョー君。」

「おう、まかせろまかせろ。」


お、余裕の表情じゃん。じゃぁ加減無しでもいいかな?


「じゃぁアタシはカスタードイチゴとイチゴバナナチョコ、両方にアイストッピングで・・あ、期間限定あるじゃん!これもいいなー。あとね」

「ちょちょ、ちょっと待てぇい!」

「何よ?」

「お前いったい何個食べる気なんだ!?」


失礼ね。そんなに食べるわけないじゃない。


「2つはここで食べて、残りはお土産用よ。お母さんもここのクレープ好きだし。」

「さすがにそれは勘弁してくれよぉっ!」


ちっ。やっぱダメか。


「さすがにやりすぎよ、サクラ。」


ちょっとナツミに睨まれた。通るかなと思って言ってみただけだよ。さすがに・・・ね。


「しゃーないから加減してやるか。5つで勘弁してしんぜよう。」

「サークーラー?私の言ってること分かってる?ほんとに分かってる?」

「いっ、わかっ、分かったわよ、調子に乗ってゴメンってば。いたた。2つ!2つでいいから!」


結構な勢いで指を何度も二の腕に突き刺してきたので、結構ご立腹だったらしい。ナツミって怒ると物理で攻めてくるんだもんなぁ。これ以上はさすがにナツミに嫌われちゃいそうだ。


「ジョーもごめんね。ついついね。」

「い、いや、2つまでなら大丈夫だ。・・・向田って物静かに見えて、桜田にはグイグイ行くんだな。」

「えっ・・・」


とたんに真っ赤に染まっていくナツミの頬。ぐわーしまった!ちょっとイチャイチャしすぎた?ナツミの可愛いところをこれ以上見られるわけにはいかん。


「ちょっと、うちのナツミをいじめないでくれますー?女の子いじめて楽しいですかー?」

「へっ?いやいや、何言ってんのそういうつもりじゃねーっての!?」

「いやいやいや、そっちにそういうつもりが無くても、現にナツミがいたたたた」


ちょちょちょっとナツミ、無言で腕を絞らないで痛い痛いギブギブ!雑巾絞りの要領で絞られた左腕を救うべく、残った右手で必死にタップして反省の意思をナツミに伝える。その甲斐あってか力は緩み、コテンと私におでこをぶつけてきた。今度は痛くない。けど心の方がチクリと痛い。


「・・・バカ。」

「ゴメンってば、ナツミ。」

「ダメ・・・バカサクラ。」


左腕は解放されたものの、ナツミが完全に拗ねちゃった。うーん・・・ほんとゴメンね。


「ゴメン、ジョー。ちょっとナツミなだめてくるから並んどいてくれる?」

「あ、あぁ分かった。よく分からんけどなんかごめんな、向田。」

「・・・いい。」


周りが女性だらけの空間に、ジョー1人ってのもなんか可愛そうだけど、ナツミが最優先だからしょうがない。ナツミの手を引いて列から一旦離れる。近くに人の少ないところを探したけど無さそうだったので、少し距離はあるけど、駅のエントランス端の柱の陰にナツミを連れて行く。ココならわざわざ見ようとしない限りは人の目には入らないはず。


「ゴメンね、ナツミ。アタシが悪乗りしちゃった所為で・・・」

「サクラの所為じゃないの・・・私が・・・。サクラ以外にあんな姿見せるつもりなんて無かったのに・・・。」

「大丈夫だよ。ジョーは鈍ちんだから気づかれないって。」

「・・・サクラだって鈍ちん。」


えっ?なんで私?


「私、ヤキモチ焼いてたの気づいてる?私がいるのにジョー君とばっかり話してさ。勉強会でもジョー君とばっかり話してた・・・。」


・・・そういえば勉強会の時は、乱入者であるジョーに嫌みを言ったり邪魔をしたりしてて困らせていたような・・・。そうか、アタシ、ナツミに寂しい思いをさせてたんんだ・・・ごめん。アタシが鈍ちんだったよ。

謝罪の意味も込めて柱の陰でナツミを正面からぎゅっと抱きしめて、頭を撫でるが、その手を取られた。


「かぷ」

「いたた。指を噛まないでよ。」

「やだ。サクラは私のなんだから、その印をつけてるの。邪魔しないで・・・かぷ」


歯形が付くぐらいの強さで薬指を噛まれているので結構痛い。でもナツミに傷つけられるのは嫌じゃない。


「じゃぁアタシも・・・そういう印つけちゃってもいいよね。」


抱きしめたナツミの首筋・・・は他の人に見られるから、制服の襟元を少しずらして見えない位置に吸いつくように口づける。


「っ!」


ナツミが何か言いたげに、指を噛む力を強くする。アタシは構わず『アタシ』という跡を残そうとナツミの首元を吸い続けた。腕の中で身じろぎするナツミが愛おしくてついつい力が入ってしまったが、ナツミが可愛いから仕方ない。これは・・・仕方のないこと。


「サ、サクラ・・・これ以上はっ!」

「・・・っ!ご、ごめんっ!」


無意識にエスカレートしていたらしく、彼女の白い肌にいくつかの赤い痣を増やし、ついには制服を脱がそうとしていたところをナツミに止められたらしい。ずり下げられたナツミの制服を慌てて元に戻し、恐る恐るナツミの顔を伺う。


「・・・怒った?」

「・・・怒ってない。」


アタシとは絶対視線を合わせないと言わんばかりに、プイと顔を逸らされる。あれ、これ怒ってる?照れてる?どっち?


「今は顔見ちゃダメだから。」


確認しようと回り込んだらまた顔を逸らされた。そう言われたらますます見たくなるってもんでしょ。しょうがないから両手でナツミの顔をそっとこちらへ向ける。


「や・・・今絶対変な顔してるから見ないで・・・。」


赤く火照った頬に、とろけそうな口元。潤んだ瞳と視線が合う。自然と互いの吐息は混じり合い、互いの心を確かめ合うように、何度もお互いを溶かし合った。


どれくらいそうしていただろうか。もう一回、もう一回と急いている内に歯がぶつかり、その痛みでお互いに我に返った。お互いに目をパチクリと見合わせ、恥ずかしさに顔を染め、今いる場所に気づいて更に頬が熱くなった。


2人揃って「はぁ~~~」と深く息を吐いて、冷静に周囲を確認した。良かった、誰にも見られてはいない様だ。足音は聞こえるものの、近くに人の気配や視線を感じることはなかった。


「外ってこと忘れてたわ・・・」

「うん・・・私も途中から・・・。」


ナツミから指に噛み跡をつけられたように、『ナツミはアタシのもの』っていう印をつけたかっただけだったのに、気が付けばナツミの全部を求めてた。テスト期間中に触れ合えなかったストレスが、ここに来て大暴走するとはさすがに思わなかった。


「我慢は体に良くないってことかもね。」


アタシのつぶやきに、ナツミはコクリと頷いた。多分あの勉強会が行けなかったんだ。アタシとナツミの2人だけだったらストレスもこんなに溜まることなんて・・・・。


「あっ!」

「どうしたの?」

「ジョーのこと忘れてた!」

「あぁっ!ホントだ、ジョー君!」


佇まいと服装、跡が目立つところに付いていないか等々をお互いに確認しあってクレープ屋に戻ると、行列はすでにほとんど無くなっており、お店の脇で哀愁を漂わせながら1人たたずむジョーの姿に、少し申し訳ない気持ちになったけど、ここで加減をする私ではない。


「待たせてゴメンね、ジョー。早速クレープを5個を、いったぁ!」


ナツミに脇腹をぎゅっとつねられた、痛い。


「待たせてごめんねジョー君。サクラは2つで良いって。」

「あ、あぁ。すまんが俺はこれ以上この空気に耐えられそうにない・・・。後から支払いだけはするから注文が終わったら呼んでくれないか?」


なんかジョーがげっそりしてる・・・。女子だらけの空間に男が1人ってのは結構精神に来たらしい。


「そう?じゃぁ支払いだけお願いねー。じゃぁナツミ行こっか。」


さりげなく手を恋人つなぎで握りながら、2人で店内へ。


『いらっしゃいませー。ご注文はお決まりですか?』

「はーい。ここからここまで全部くださ、痛い!いったぁ!」

「すいません。この子にはイチゴカスタードにアイストッピングで。私には抹茶クリームに白玉トッピングでお願いします。」

『か、かしこまりました。しばらくお待ちください。』


ナツミに肘で思いっきり突かれた脇腹を押さえているうちに、ナツミが注文を済ませてしまった。ぐぬぬ・・・見誤ったわ・・・。もう少し冗談で行けると思ったのに。


「ちぇー。もう1個くらい頼んでもバチは当たらないと思うけどなー。」

「サクラは食べすぎなのよ。ほら、このお肉。」

「いたた!さっきから脇腹ばっかり突かないでってば。」


冗談ばかりを続けていた甲斐もあって、ようやく普段の空気に戻ってきた。ちょっとバカやってナツミに怒られて。そんな時間がたまらなく好きだ。たまにこうやって小突かれたりしたりもして・・・って、アタシって実はMなの?いやいやそんなまさか。


「サクラ―?何してるの?クレープ出来上がったってさ。」

「ん?おっけー。じゃぁ財布呼んでく、いったぁ!」


すかさずナツミからのアタックが飛んできて、アタシは再び脇腹を押さえることになる。へへ、やっぱり君が好きだよ。ナツミ。


勢いで書いてしまいました、初投稿作品です(´・ω・`)

どこにでもありそうな話ではありますが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

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