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終わりの炎と抗う者達  作者: しやぶ
第一章:逃避行編
7/13

間話:老婆と老翁 最期の戦い

 ──運命に分岐点があるのなら。きっとここが、最初で最大の分岐点。


 ────狼神は、違和感を抱いていた。


 老婆の剣は、既に何度も彼の爪を受け止めている。何度も、何度も、()()()()()だ。


(……()()()()


 ヴォルグは、生存競争の果てに神獣へと至った狼である。

 今でこそ他の追随を許さない強者と化しているが、彼は産まれた時から強かったワケではない。

 獲物に抵抗されて怪我をしたこともあれば、縄張り争いで負傷したこともある。人間と戦った経験も、少なからず持っている。

 故に彼は、エリザベートの膂力に違和感を覚えた。


(原人種にしては、明らかに力が強過ぎる)


 しかし、原人種ではないのなら『種族特性』──種族固有の能力を使わない理由がない。よって彼は違和感を抱きつつも、老婆の種族を『原人種』であると断定する。


(……では、老翁はどうだ?)


 エリザの剣撃を弾きつつ、ヴォルグはルークに目を向ける。


(……普通だな。ひたすら白魔術を極めただけの、只人か)


 そして狼神は、老翁を脅威から外した。


 ──その瞬間、ルークは()()()()使()()()()


 地面が一瞬で盛り上がり、いくつもの岩石がヴォルグ目掛けて殺到する。


「──っ!?」


 咄嗟に同じく岩石の魔弾を構築し、相殺した彼だったが────



(──()った!)



 驚愕による精神の隙。魔弾の対処による肉体の隙。

 この二つを、エリザベートが見逃す訳がなかった。


 狼神が気付いた時には、既に彼女はヴォルグの懐に潜り込んでいた。後は剣を振り抜いて首を落とすだけ────



『──止まれ』



 しかし彼女の剣は、ヴォルグの首を目の前にして停止した。担い手であるエリザの腕が固まったからだ。


(くそっ、相変わらず『神の力』ってのは、デタラメにも程があるっさね……!)


 魂を持つ相手への強制命令──〝神言〟

 そもそも狼であるヴォルグが人間と意思疎通を取れていたのは、魂に直接働きかけるこの力を応用していたからだが……その本来の性能が今、発揮されていた。


「……戦闘で我に本気の〝神言〟を使わせた人間は、貴様らが初めてだ。誇りを胸に死ぬがいい」


 そうして狼神が、爪の一撃を放ち────



 老婆はそれを()()()()()



「──バカなっ、何故動ける!?」


 それから何度攻撃されても、エリザベートはその全てを完璧に捌き切った。

 加えて、ルークが黒魔法を乱発。ヴォルグを心身共に疲弊させた。


(なんだ、これは……! 何が起こっている!?)


 神獣と張り合うエリザベートの身体能力。何故か尽きないルークの魔力。


 酷使し過ぎた爪が斬り飛ばされ、気圧されたヴォルグは遂に、奥の手を使うことを決断した。



『──神威(かむい)ッ!!』



 『神』は、ゼロから魔力を生み出す力を持つ。

 それこそ『神の威光』を示す力──即ち〝神威〟である。

 そして、ヴォルグの魔力が持つ『属性』は重力。無限に発生し続ける魔力の重りが、ルークとエリザを地面に縫い付けた。


 動けなくなった二人を観察しながら、狼神は慎重に、ゆっくりと老婆に近付いていく。


「……散々手こずらせおって。今、食い殺してやる」


 脂汗を滲ませ、立っていることすらままならない二人を見て、ヴォルグはやっと勝利を確信した。


 そうして彼が大口を開け────



「──ッ!?」


「やっと……首を近付けてくれたねぇ……これで、()()()()()()()っさね」



 地面に片膝を突き、剣を杖代わりにしていた筈のエリザベートは、何事もなかったかのように立ち上がって、ヴォルグの首に剣を突き付けていた。


「バカな……! バカなバカなバカなッ!! 何なのだお前は、お前達は!? 貴様らの力は、()()()()()()()()()()()()!!」


「──()()()


「なに……?」


 ルークは溜め息を吐きながら地べたに寝転がり、解説を始める。


「人間は皆、肉体に制限をかけておる。だからエリザは、それを意図的に外す技──〝限界突破〟を編み出した」

「まぁ、これを使うと勝っても負けても体がズタボロになるんだけどねぇ!」


 さらりとトンデモないことを言い放った彼女は 『カラカラ』と笑った後剣を降ろし、ルークと同じように寝転んだ。


「……ではルークよ、貴様の魔力が尽きなかったのは何故だ?」

「ワシの魔力? いや、尽きとる尽きとる。すっからかんじゃて」

「……何を言うか。今も、魔力、が──本当に切れている、だと……!?」


「──〝限界突破:三式〟

 魔力切れという『限界』を克服するために、アタシが編み出した技法さね。

 ……三式は、失敗作なんだけどねぇ」

「失敗作……? 〝神威〟の如き力が、失敗作だと……?」


 エリザベートは苦虫を噛み潰したような顔で、解説をする。


「一式と二式は身体能力補正。これはいい。

 だけど魔力補正の三式は、未来の自分から()()()してるだけなんだよねぇ……〝神威〟には遠く及ばない、紛い物っさね……」

「前借り……? 待て、それでは──!」


「……あぁ、お察しの通りだよ。使()()()()()()()()()()()()()()さね」



 ──『魔力欠乏症』

 読んで字の如く、魔力が欠乏した場合に現れる症状のこと。

 通常であれば、一度体内の魔力を使い切っても、自然に回復するのを待てば無症状で済む。

 しかし回復してすぐ使い切る、という行動を繰り返すと、初期症状は軽い頭痛や倦怠感で済むが、そこで止めないと……最終的には死に至る。


 魔力は生命力だ。足りない状態が続けば、そうなってしまうのは自明の理。


 三式を使うということは……そういうことなのだ。



「ちなみに、アタシも『神言』を無理矢理掻き消そうと色々やって、べらぼうに魔力を使ったからねぇ……実はアタシも使っちまったんだよ……三式」


「……おい、待て。では貴様ら、我に勝っておいて……ここで死ぬのか?」


「90年も生きれば、大往生じゃろ。未練は特にないのぅ。子供達には、いつワシらが死んでもいいように色々仕込んであるし……うむ。特に思い残すことはないな」

「まぁ、そうなるねぇ。あ、アンタに勝って死んだこと、冥界で自慢話にしていいかい?」


 勝者は息絶え、敗者は生還する。この結果に、ヴォルグは釈然としない思いを抱いていた。


「……いくらでも武勇伝として語るがいい。そんなことはどうでもよいのだ。

 ──何故、我を殺さなかった」


 ルークとエリザは、互いに顔を見合わせ、笑った。


「アンタが死んだら、この辺りの生態系がおかしくなりそうだからねぇ。そうしたらウチの村にどんな影響が出るか分からない。結局はアタシ達人間のためだよ」

「ワシらとしては、お主を足止めできれば十分。勝てたら幸運くらいの気概で挑んでおったからのぅ」


「……お主ら、逃げた二人の心配はせんのか。生き残った我が、奴等を殺しに行かない保証がどこにある」


「いいや、アンタはあの二人を追わないし、あの二人は心配しなくても生き残る。アタシの〝勘〟がそう言っている」

「勘だと……? ふざけているのか」


「カカカッ、ふざけていると思うじゃろ? だけどなぁ、王様だってこう言うぞ────」



 ── エリザの〝勘〟は、未来予知より正確だ。




 ルーク・クロッカス、エリザベート・クロッカス────死亡。


 クロッカス陣営、残り三人。




 ──情報が公開されました。



エリザベート・クロッカス


種族:原人種  性別:女性


容姿:身長152cm 体重55kg

 白髪黒目の老婆。背筋は伸びており、肌も若々しいため実年齢よりかなり若く見られることが多い。


年齢:90歳(第一章)


特化属性:拡張  所有加護:剣の才

戦闘スタイル:剣士


 清く正しく美しく、明朗快活な女性。

 人間の剣士としては、空前絶後の技巧を持つ。その力は、徹頭徹尾『守護者』として振るわれた。人生の前半は『騎士』として。後半は『義母(はは)』として。


その他特記事項

 拡張された五感由来(?)の〝勘〟は、生涯外れることがなかったという。




ルーク・クロッカス


種族:原人種  性別:男性


容姿:身長159cm 体重53kg

 白髪にグレーの瞳を持つ老翁。美形が多い原人種の例に漏れず、ハンサム。


年齢:90歳(第一章)


特化属性:治癒  所有加護:必中

戦闘スタイル:魔術師


 白魔導師向きの才能と、黒魔導師向きの加護を持っていた彼は、その温厚さから白魔導師となる道を選んだ。

 魔力があるという前提だが、死んでいなければどんな傷も、部位欠損だろうと治せる『神域の医者』

 彼が妻と共に救った命は、数知れない。


その他特記事項

 彼の出生には何か秘密があったらしいが、今となっては知る意味も無い────


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