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終わりの炎と抗う者達  作者: しやぶ
第一章:逃避行編
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第3話:終炎の種火


 かつて、千里を見通す『眼』を持つ者がいた。


 ──あぁ、それだけなら別に珍しくもなんともない。


 ただ不可解なことに(・・・・・・・)、その『眼』は未来や過去すら見通したと言う────


「遅い」


 成人式の式場となる教会の前──そこに、仁王立ちをしている少年が居た。


 彼の名は『ユダ・ゼラニウム』


 俺とアルとは同い年の親友。つまり彼も、今日が成人する日。だから俺達は、同じ時間に儀式を受ける約束をしていたのだが……


「一応聞いておこうか。何か言い訳はあるかな?」


 ユダは怒っていた。彼にしては珍しいことに、目に見えて不機嫌だ。

 まぁ、待ち人が一時間以上も遅れて現れたら、誰だってこうなるだろうが。


「悪い。日の出前に、山まで走り込みに行ってたんだけどな? そこで父さんと母さんに会ったんだ。んで模擬戦に誘われて、そのまま熱中し過ぎて遅れた」

「む、ルー爺とエリザ婆との模擬戦……? なるほど。てっきりまたアルの盛大な寝坊かと」

「……む、失礼な」

「そういうことなら許しましょう」

「……え、無視?」


 しかし、彼の怒りはあっさりと収まった様子。

 ずっと不機嫌でいられても困るが、これはこれで大丈夫なのか、少し心配になる。


 それと、アルは自業自得なので放置でいい。


「ユダ、もうちょっと怒っても良いんだぞ?」

「むむ? 実はエンデって被虐趣味?」

「前言撤回。久しぶりに拳で語り合おうか」

「ちょっ、止めてよ冗談だって!

 ……別に儀式は時間指定じゃないし、本音を言うと、今までルー爺を独占しちゃってた負い目もあるからさ……」

「あぁ、そういう」


 なんというか本当に、俺の親友達はお人好しが過ぎる。


「気にすんなって、何度も言ったろ。父さんがお前を弟子にしたのは、お前がこの村で一番、白魔術を学ぶ意欲と才能があったからなんだしよ」

「でも……」

「でももヘチマもねぇ! ほら、とっとと中入って、貰うモン貰って帰ろうぜ!」

「うわっ、引っ張るなよ! おい、エンデ!」


 俺は二人の手を取り、教会に向かって歩き出した。



 ──こうして、最後の平穏が過ぎていく。




 *




「ふむ。来たか」


 白髪赤目の少女、アルテミシア。

 『終わりの予言』における、炎の依代(レーヴァテイン)と同一の特徴を持つ者。

 彼女を発見してから十年、常に監視をしてきたが、今のところあの娘に異常は見られない。気になる点は、せいぜい()()()()()()()()()()()()()()くらいか。


「何もなければ、それで良いのだが」


 彼女は今、成人式に来ていた。我々()()の誰かが、彼女に加護を下賜することになる。


「ふむ。一人目は、奴か」


 黒髪黒目の少年、エンデュミオン。

 アルテミシアに最も近い少年。


「……よし。ならば貴様には、私の『眼』をやろう」


 ──『千里眼』

 読んで字の如く、千里先を見通す力。動体視力も限界以上に向上し、訓練すれば透視もできる。

 数ある加護の中でも『当たり』の部類だと、人間達は言っていた筈だ。


「その眼でしっかり、彼女のことを見張るがいい。私はもう疲れたのでな……」


 加護を通じて、彼の視界に接続できるようにした。これで私の負担も減るだろう。


「だがまぁ最後に、彼女が得る加護くらいはこの眼で直接見届けてやろうか」



 そう呟いた、その瞬間。


 『視たな』という声と同時に、眼から『炎』が噴き出した。


「──なっ、ア゛アァぁぁぁぁ!?!?」



 消える、消える、消される。


 『炎』は眼から始まり、反射的に患部を押さえようとして触れた両手にも伝染した。そしてこの四点から、私の存在そのものを焼滅すべく全身に燃え広がろうとする。


 このままでは燃えて消えて無くなって、薄れて消えて死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ────



「こう、なったら……!」



 だからそうなる前に、私は患部を切り落とすことを選択した。


「──はぁっ、はぁっ、クッ……」


 切り離された腕と目は、地に落ちる前に跡形もなく消滅した。

 痛覚は遮断しているが、酷い倦怠感だ。この短時間で、魔力の八割は持っていかれたか。身体を維持するだけでも辛い。


 だが────


「遂に見付けたぞ、レーヴァテイン……!」


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