間話:少年と少女 それぞれの内面
──母さんに、聞かなければいけないことができた。
アルテミシアの様子は明らかに異常だ。早急に、原因を突き止める必要がある。
普通、『何故そこで母を引き合いに出すのか』と思われるだろうが、彼女と母に限り、同時期におかしな行動を取り始めたらまず『繋がっている』と見ていい。
コレには、アルテミシアの才能──『特化属性』が関係している。
特化属性『共鳴』
他人と波長を合わせて感情を読み解いたり、動きを真似て技能を盗むことが得意になる才能だ。
──ぶっちゃけ、これは俺の上位互換となる才能である。
俺は『死者』から『一生の記憶』を受け取ることで、その経験を疑似体験するが……これだと余計な情報が多過ぎて精神汚染が発生する。
対し彼女は『生者』から特定の感覚だけを抜き取れるから、俺が正気を削って体得した技能を、気軽にホイホイ習得してしまう。おまけに剣技で抜かれた時は、本気で発狂するかと思った。
……しまった、話が逸れている。今は俺のことなんてどうでもいいのだ。
ともかく、アルテミシアには『対象と感覚を共有する』力がある。経験則だが、彼女はその能力で、母さんの未来予知染みた〝勘〟と共鳴した可能性が高い。そこで、母から話を聞こうとなる訳だ。
──加えて、少し保険もかけておく。
密着している彼女に気付かれないよう、極小規模の黒魔法でアルテミシアの髪を数本切り落とし、袖口に仕込んだ。
魔力は生命力。全身のどの部分であろうと、少量は含まれている。宮廷魔導士くらいの腕があれば、この髪数本分の魔力で縁を作り、彼女の居場所を把握できるようになる。ちなみに俺の場合、加えて精神状態すらもある程度読み取ることができる。
これで、遠くで彼女の身に何か起きてもすぐに対応できるようになった。
──しかし、運命とはわからないものだ。
人殺しのために身に付けた己の技が、今はこうして守るために使われている。
『ずっと一緒に居てくれる?』
『それがお前の望みなら』
……本当に、わからないものだ。
彼女が近くに居てくれるだけで、何度も狂って歪んだ筈の心が、こんなにも暖かい。きっと彼女が俺を必要とする以上に、この心は彼女を必要としている。
──だからこそ、自戒しよう。
アルテミシアは、世界中の狂気を観たこの俺とすら『共鳴』し、最大の理解者となってくれた。誰にも理解されなかった苦しみを共有してくれた。それがどれほどの救いになったのか、彼女は知らない。
彼女はきっとこれからも無自覚に、多くの孤独を取り払い、人を救うだろう。その時隣に居るのが、俺のような殺人鬼であってはならない。
──だからこの想いは、墓場まで持っていく。
高鳴ろうとする心臓を魔術で押さえつけながら、そう誓った。