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終わりの炎と抗う者達  作者: しやぶ
第一章:逃避行編
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第10話:荒ぶる少女と女神の気紛れ

 鉄壁の龍を相手に如何なる手段で戦うか……


 ここが第二の分岐点。


 博打か、裏技か、王道か。


 『主人公』になれなかった少年の選択が、未来を決定することになる。


 ()()()勝ち目がないと判断したアクアは、何もただアルテミシアが龍化する様子を眺めていただけではない。その間に、打てる手は打っていた。


 ── エンジェリカ、アンタ今どこで何してる? ちょっち手を貸して欲しいんだけど、いいかしら?


 ── お、お姉様!? 今私は貴女様の神殿で執務中ですが……お姉様こそ、今どちらにいらっしゃるのですか!?


 ── ブーゲンビリアで依代の娘(レーヴァテイン)と交戦中よ


 ── んなっ、何故そんな危険なことを!? どうして貴女様はいつもいつも────


 ── あー……文句なら後で聞くから。

    それよりも、心配してくれるならアンタの力を貸してくれるかしら?


 ── うぅ、ぐ、ぐぬぬ……承知しました。今そちらに向かいます


 ── あぁいや、アンタ今私の神殿に居るんでしょ? ならそのままそこに居てくれるかしら? 住民をそっちに避難させるから、対処をお願いするわ


 ── ……あぁなんだ、そういうことですか……いや、そうですよね。だって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことと同義なんですから。いくら『終わりの炎』が強力とは言え、流石にそれはあり得ないですよね


 ── …………そうね。だから、後のことは任せたわよ


 ── はい、お任せください! 我ら従神一同、貴女様の帰還を心待ちにしておりますので!


 ── ……ふん、お役所仕事なんて二度と御免よ。私に帰る気はないから、そのつもりで


 ── そんなぁ、お姉さ────



 念話を切り、アクアは嘆息する。


(……何か変ね……普通に考えたら、戦神が出てきても不思議じゃない状況でしょうに。今思うと、私が最初から全力を出さなかったのもおかしいし……

 なんというか、()()()()()()()()()()()()()()()気がするのよね……)


「──ァァ゛ア゛ア゛ア゛!」


(ヤバッ、考え事してる場合じゃなかったわね!)


 アルテミシアが吐いた『炎』の息を間一髪で避けたアクアは、住民を避難させるべく行動を開始する。


『ブーゲンビリアの全住民に、神界での一時的滞在権を付与。

 〝()()()()〟により、必須工程『最高神の承認』を代行。皆様方、良い旅を』


 アクアは一撃必殺の攻撃を回避しながら神言を紡ぎ、見事住民の避難を成功させた。


(問題はここからなのよね……)


 依然として、アクアには龍化したアルテミシアへの有効打がない。


(……まぁ、全く手が無いワケじゃなし。やるだけやってみましょうか)


 アクアは転移魔法でアルテミシアの背後に回り、続けて黒魔法を行使する。


(地に足を付けてるなら、足裏は炎で覆われてないと見たのだけれど、どうかしら?)


 地面から、砂鉄の槍が発生する。

 それは────龍化したアルテミシアの足を縫い止めた。加えて、ダメージに怯んだことで炎の鎧が一瞬剥がれる。


(──好機! ここで仕留めるっ!!)


 その一瞬で、町一つ潰せる魔力が放出され──圧縮される。

 そして炎の鎧が復活するより早く、アクアの魔弾がアルテミシアに放たれた。


(やったかしら?)


 魔弾によって発生した砂塵の向こうを注視し、様子を伺う。

 ……アルテミシアの影は動かない。


(……ふぅ、終わったみた────)


 ──アクアが気を抜いた瞬間、アルテミシアの影が消えた。


(──っ!?)


 アクアは反射的に転移魔法を用い、距離を取ると── 一拍の後に、彼女が立っていた場所に大穴が空いた。


(…………相手の呼吸を読んで、死角になる上空に転移して大火力をぶっ放す、ねぇ……しかもそのまま飛行魔法で滞空してるし。あの娘本当に理性トンでるのかしら?)


「カ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛! ! !」


 アクアがまだ生きていることを確認したアルテミシアは、咆哮を上げながら突進する。


(うん? この距離なら黒魔法のが早いでしょうに……

 まさか魔力量が多過ぎて制御できないから、通常規模の魔法は使えないのかしら?

 いやでも、それって無駄な被害を出さないためだし……もしかしたら本当に理性が残ってるのかもしれないわね。ちょっち試してみますか!)


「──降参するわ。もうアナタ達を狙わないから、止まってくれるかしら?」


 アクアが一旦足を止めて両手を上げ、戦意が無いことをアピールすると────


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ ! !」

「ア、ハイ。やっぱり普通に暴走してるのね」


 ……やはりと言うべきか、獣と化したアルテミシアにはただの『隙』としか認識できなかったらしい。


 しかしそれでも先の失敗を学習し、足裏も炎で覆っているアルテミシアを見て、アクアは苦笑いするしかなかった。しかも既に傷は塞がっている。


(……でもよく見ると建物には被害が出てないし、野生動物も巻き込まれてないのよねぇ……)


 理性を失った時の行動こそ、人の本質であるのなら。無意識にまで刻まれた他者への配慮は、慈愛か自戒か──いずれにせよ、アルテミシアという少女の本質は、これ以上ない程の『善性』だった。


「…………勿体ないわね。貴女みたいな娘を殺しちゃうのは」


「──その言葉に嘘はありませんね?」



 二人の少年が、アクアの前に躍り出る。


 ────次の瞬間、龍が地に堕ちた。



「うっそ、コレ重力魔法!? なんで()()()()()()()()の!?」

「対象を彼女ではなく、彼女の上空に設定しました。これによって、彼女に空気を消して窒息するか、重りに縛られるかの二択を強要したのです」

「なるほど……可愛い顔して、意外とソロモンみたいな厭らしい戦い方をするのね、アナタ」


 アクアの疑問に答えたユダに対し、アクアは感心しながらもおちゃらける。


「そう言う貴女も、幼い見た目に反してかなりの使い手と見ましたが?」

「あら、もっと大人な姿がお好みでしたらそうしますわよ?」

「お前ら冗談言ってる場合かっ! 俺達の魔力量じゃあ長くは抑えられないぞ!?」

「えっ、そうなの?」

「ハハハ……実は僕も、こう見えてあまり余裕はありません」


 未だ危機を脱していないことを悟ったアクアは、再び意識を戦闘用のものに切り替える。


「──で、どうやってアレを元に戻す気?」


 龍化を解く方法は二つ。

 気絶させるか、魔力切れまで追い詰めるかだ。

 彼らの選んだ方法は────


「──僕が『奥の手』を使って、気絶するまでタコ殴りにします」

炎の依代(レーヴァテイン)相手に肉弾戦!? 秒で消されるわよ!?

 ……そんなことをするくらいなら──私に賭けなさい」

「……どうする? エンデ」

「待て、少し考える」


 今、彼等には三つの道がある。


 成功する期待値が三割程度しかない、ユダの『奥の手』を使うか。

 実力が未知数のアクアに賭けるか。


 将又(はたまた)──エンデュミオンがこの場で炎を破壊するか。


 ユダに頼るのも、アクアに頼るのも、結局は博打になる。だがエンデには、確実にこの場を切り抜ける方法があった。しかし……


(…………今炎を破壊したら、確実に元凶から警戒される。今はまだ駄目だ)


 そして、彼が選んだ結論は。


「──決めた、お前に賭ける」


 エンデュミオンは、『アクアに頭を下げた』

 それを受け、彼女は好戦的に笑う。


「任されたわ」


 ── ()()()()、〝全王特権〟


 アクアの頭上に手をかざすと、三つの光輪が出現した。


 金色の光輪──〝神王〟の王環。

 漆黒の光輪──〝魔王〟の王環。

 白銀の光輪──〝冥王〟の王環。


 それは、()()()()()()()()()であることを示す光輪。


「『魔力押収令を、全世界の知的生命体に!』 さぁ、我慢比べをしましょうかっ!」


 アルテミシアの魔力が、アクアに吸収され始める。


 ──瞬間、宿主への干渉を受けた『炎』がアクアを燃滅させんとする。


 アクアは世界中から掻き集めた魔力の海によって、それを阻止すべく奮闘するが……特権による魔力供給より、『炎』の方が僅かに速い。


(ああぁぁぁもうっ、想像の百倍キッツいわねコレ!

 よくもまぁコレを死ぬまで耐えて観測し続けたわね、クロノスッ!)


 だがこのペースなら、アクアよりもアルテミシアの魔力が尽きる方が先だ。


 ──『これなら、いける』


 誰もがそう思ったその時────






 ──アクアは、龍に捕食された。


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