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終わりの炎と抗う者達  作者: しやぶ
第一章:逃避行編
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第9話:抗えない力


 地面から生えた細い杭が、少女の身体を貫いた。


 返り血で視界が赤く染まる。


 鉄の臭いが鼻を突く。


 突然の事態に、頭が上手く回らない。


「……ぁ」


「──ユダッッ!!!」


 少女が小さく呻いた。まだ息があるらしい。

 それなら、まだ生きているのならば、彼さえ来てくれれば────


 ……だけど、行動するのが遅すぎた。


 私が叫んだ次の瞬間、大きな炎が降ってきて


 ──白い髪の女の子は、灰も残さず燃え尽きた。



「分っちゃいたけど、やっぱこの程度で殺れるほど甘くはないか……」


 反射的に声がした方向を向いて、息を飲む。


「でも、今のを加護抜きで防がれたのは驚いたわ。結構魔力を込めたのに……アンタが着てるその礼装、どんな性能してんのよ」


 屋根の上からこちらを見下していたその少女は──()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()


「……ん、何をそんなに驚いているのかしら?」

「だ、だってあなた、さっき──」

「あぁアレ? アレは私の『分霊』よ。騙しちゃってごめんなさいね」


 『分霊』 魔力で編まれた、感覚を共有する『人形』のようなもの。使用するのは主に──


「私はアクア。『盗賊神』アクアよ」


 ……やはり、神霊か。

 しかし、何故私を狙う……? ユダのおかげで、見た目的には私が炎の依代(レーヴァテイン)だと判断する術は無いハズだ。


「……アクア様、何故私を殺めようと?」

「アンタが炎の依代(レーヴァテイン)だから」

「──ッ、少なくとも外見は誤魔化せていた筈です」

「あぁ……それは運が無かったとしか言いようがないわね。たぶん私以外なら騙せてたと思うわよ? だって、私がアンタに気付いたのはユダが居たからだし」

「ユダが……?」

「そ。私の旦那が珍しく加護を与えたもんだから、目を付けてたの。

 さ、無駄話はここまでにして──殺し合いましょうか」


 駄目だ、一人で神霊相手に勝てる訳がない……!

 説得を試みるか……?


「私達に世界を滅ぼす気はありません! 時間さえ下されば、炎を破壊する手段だってあります!」

「悪いけど、今ここでアンタを殺した方が確実よ」

「──ッ」


 説得が失敗した直後、二人と合流すべく逃走を開始する。

 さっき直撃した彼女の不意打ちは、装備によって防げる程度だった。分霊も、加護で迎撃できている。背を向けて隙を晒すことになっても、速度を優先すべき──そう判断した矢先、背中に衝撃を受け、転んでしまった。

 慌てて立ち上がろうとして、全身に力が入らないことに気付く。


「……良かった。その様子だと、ちゃんと『痛み止め』は効いてるみたいね」

「なに、を……」


 ──と、言っている途中で自覚した。


 胸の辺りから、黒い剣が生えている。痛みは無いが、どうやら刺されていたらしい。どう見ても、致命傷。


「アンタの加護と礼装の力、あとついでに痛覚を『盗んだ』の。楽に殺してあげるって言ったでしょ?」


 ……なんて、あっさりとした結末。

 でも、咎人の私には上等過ぎる最期だと思った。

 ほんの数年だけだったけれど、心から『家族』と呼べる人達と暮して、恋をして、受け入れられて……こうして苦痛もなく死ぬことができるのだから──


「さて、()()()()か」


 …………あ と、ふ た り ?


「ま、待って……! 私が死ねば、もうあの二人に戦う理由は……!」

「あぁ、アンタが責任を感じる必要は無いわよ? 『炎』とは別件だから」

「別件……?」


 あの二人が何か悪事を働いているとは考えにくいのだが……いや、エンデュミオンはかつて違法なことに手を染めていたと聞いているけども。その件は神々も黙認していた筈だ。


「私達相手の逃避行に付き合ってくれるような仲なら気付いてると思うけど、あの二人──魂が歪に過ぎるわ。いつどこで何をやらかすか分からない、危険な状態。そういうの、冥府所属の女神として見過ごせないのよね。暴れられたら普通の人間じゃ対処できないだろうし、何かされる前に、私が冥界へ連れて行くわ」


 魂が歪──そうか、そういうことか……!


 彼女は勘違いをしている。だが、それを解く時間も力も私には残されていない。


 …………ならば、使うか?

 終わりの炎── 十二の主神すら恐れるこの力も、今はただの種火。しかも宿主が死に体の状態なら、出力は大幅に落ちているハズ。関係ない人を巻き込む火力は無いと思われる。

 コレを使って、少しでも彼女の力を削ぎ落とす──!


 そうして己の中に眠る力へ手を伸ばし──別の『ナニカ』が私を呑み込んだ。



 *



「──ゥゥゥ ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛……!」


 背後から、獣の唸る様な声が聞こえる。

 『神言』で密かに人払いをし、住民は皆自宅待機中。万が一を防ぐため、町中の建物には『盗賊神』としての力で『鍵』をした上で防音の結界を張っている。だから外に居るのは、私以外には一人だけの筈だ。


 ……なら、この唸り声はなんなのだろう。明らかに人間の声帯から出る音ではないのだが。

 恐る恐る振り返り、依代の少女の状態を確認する。


 ──そこには、全身から白い炎を噴出している少女が居た。

 胸に刺さった剣と衣服が消滅し、金色だった髪は白色に戻り、傷がみるみる再生していく。

 四つん這いで此方を睨む瞳は縦に裂け、歯を剥き出しにしながら唸る様子は、とても『人』とは思えない。


 ──まだ隠し球があったか。

 炎を警戒し過ぎて、潜在能力を探ろうとしなかったのは失策だった。


 慌てて黒魔法を打ち込んでみるも……炎に阻まれ相手まで届かない。


「あー……コレ、詰んだかしら?」


 もし彼女が予想通りの存在なら、私では勝ち目が無い。

 ……いや、『もし』なんていう希望的観測はよそう。あんな風になる種族は、一つしかない。


 少女を包むように発生した魔力の『殻』を視認して、苦笑いを浮かべる。

 その『殻』は一拍の後に弾け、中から────



「カ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アァァッッ!!!」



 ──血色の瞳を輝かせた、純白の龍が出現した。




 ──情報が開示されました。


アルテミシア・クロッカス


種族:リザードマン(龍人種+原人種)


特化属性:共鳴+消滅


所有加護:終わりの炎+自動防御


状態:龍化(暴走)

 理性を失っているため、戦闘経験が吹っ飛ぶ代わりに手加減を一切しなくなる。

 フェイント、罠、不意打ち等に弱くなるが、普段なら絶対に使わない『炎』の力を躊躇なく使用してくる分、敵からしたら厄介になっている。

 ただし、(それ)を抜きにしても異常な身体能力を誇るため、シンプルに強い。特に防御力はずば抜けて高く、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

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