無自覚煽り運転(無自覚とは言ってない)
俺、敬語苦手なんだよね、助かる。楽に話そうぜ!って言ってたやついたけど誰やったかな。敬語が苦手って、なんでそれで日本人やれてるのか
「やっと見つけたわよ!あんた、2、3日この国に来なかったわけ?」
「…」
溜池語呂之介は、背後からリンカに呼び止められた。だが、語呂之介は一瞬振り返りそうになったが、そのまま歩みを進めていった。何も反応がなかった語呂之介に対して、リンカは慌てる
「な!?ちょ、ちょっと待ちなさいよ!あんたよあんた!」
「…」
「無視するんじゃないわよ!!『死還者』!!」
「うわあ、やっぱり私だったかあ」
「あんた」だけだったので、別の人の可能性もあったわけだが、語呂之介は薄々自分のことだろうなと思った。だが振り返らなかった。街の中で手を振られたときに振り返したら、実際は自分の後ろにいた別の人に対して手を振っていた、そんな経験ありません?あれ恥ずかしいよねえ。語呂之介は勘弁したのか、仕方なく後ろを振り向いた
「…えっと」
「なんで無視するのよ!さっきから呼んでるのに!」
「えー。あんた、だけじゃわかりませんものでして」
この言葉狩りのような、それじゃわからない理論。融通の利かない認証装置みたいなことしたら、いろんな人に嫌われるからやらないほうがええでみんな
「なんとなく察しなさいよ!それに憶えてないの!?2、3日前に会ったことぐらい!」
「逆に憶えてもらえてると思ってるんですかね。自意識過剰ですか?図々しいです」
「っ!!?」
リンカは、流れるような煽りに思わず手が出てしまった。右腕が勝手に動き、気づけば語呂之介の左頬をビンタしていた。人が多い場所で、気持ちがよい音が響き渡った
「あべしっ!」
「あっ!!しまった!やっちゃった!!ち、違う!こんなことするつもりじゃ!」
リンカはつい手が出てしまったことに、自分で驚く。頬をたたいた感触と衝撃が残る右手を自分で触り、慌てて語呂之介に弁明する。しかし
「え、え、なに?こっわ…きもいきもい…騎士さん!騎士さーん!」
「やっ、やめて!!ちょっと!!」
ビンタされた語呂之介は、まるで初めて喰らった様子と、大げさに被害者を装い叫び走り回った。周りの人々は、その様子に驚いたりドン引きしたり嫌悪感を抱く。蜘蛛の子を散らすように、動く語呂之介から距離を置いていく
「暴力娘がここにー!」
「誰が暴力娘よ!!くっ!無駄に足早い!!」
リンカの言うことには聞く耳持たず、距離をどんどん離していく。リンカに対して根も葉もない悪口をまき散らしながら。ビンタをしたという暴力は事実だが、それでも街の住人達に伝わってしまうのは嫌である
「待ってったら!今日は話したいことがっ!!」
「掘られるううう!!」
「するかそんなことっ!!変なこと言わな、いたっ!!」
無駄に足が速い語呂之介は距離を伸ばしていき、ざわざわとした取り巻きに無理やり自らねじ込み、狭い路地裏みたいなところに消えていった。リンカは必死に追いかけたが、途中で自分の左頬に強い衝撃が走った。突然の痛みに、ぐらっと倒れそうだったが、なんとか踏ん張り自分の頬を手で押さえうずくまった
「う、うう…。やっちゃった…痛い…」
リンカはじんじんと痛む頬をさすりながら、衝動的に手を出してしまった己を反省する。少し涙目になりながら、この突然襲った痛みを考えていく
「でも…やっぱりこれは私のビンタみたい…」
その痛みを『理解』し『自覚』した