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煙幕薄いよ!何やってんの!

『隙あらば自分語り』っていうあんま面白くないコメントに対して、『隙を見せたお前が悪い』って返した秀逸なコメントに最近感動しました









「何してるの『死還者』さん…全然武器を構えてない…っていうか持ってるの…?」




アオカは、どうぞ喰ってくださいと言わんばかりの語呂之介をはらはらと見ていた。ワーゴンと対峙した際もそんな態度だった。オークリーオオカミたちは、ガウガウと吠えながらあっという間に距離を詰め、語呂之介に飛び掛かった




「『死還者』さん!」


「…ソクイキ」




噛みつかれる直前、語呂之介は短い言葉をつぶやいた。それから、首、胴体、手、足などを貪るようにオークリーオオカミたちは噛みついていった




「ぐああ!!」


「ひい!!」




服は爪と牙でいともたやすく裂かれ、皮膚も鋭利な刃物で切り裂かれた状態になっていく。口や傷口から鮮血が飛び、語呂之介は叫び、アオカは思わず目をそらした




「あああああ!!煙玉を!!」


「わ!そ、そうだった!!えい!」




アオカはそう言われて思い出したかのように慌てて動いた。袋をごそごそと漁り、白い玉を取り出した。まずはそれを、語呂之介の方に投げつけた。続けて自分の足元に叩きつけた。白い煙かと思いきや、緑と紫が混じったような見るからに毒々しい色の煙が発生した。みるみるその煙に包まれ、独特な臭いを発している




「げほっ!ごほっ!」




思わずむせてしまう臭いだが、これでも人間に対して死をもたらすものではないらしい。しかし、オオカミに対してはどうだろうか。嗅覚の優れた動物に対してなら、効果的だろう。煙に包まれた語呂之介の方からは、オークリーオオカミたちが食い荒らしているような音が聞こえるが




「え!?」




突然、ギャイン!やキャン!と言った高い犬の鳴き声が聞こえた。まるで、何か痛みを感じたような犬の声が。それから、少しして煙幕の中から人影が現れた




「忍法、煙遁の術」


「うわ!し、『死還者』さん…!?ニンポー?」


「煙の支援、どうもです。んじゃあ降りてください。台車引きますので」


「は、はい!あの、助かったんですか?すごく服がボロボロで…」


「んまー、とりあえず」




煙が晴れた時には、オークリーオオカミが、首元をずたずたにされて倒れていたり、前足後ろ足から血を流しながらよろよろとここから離れて行く姿もあった




「あ、ありがとうございます!助かりました…。どうやって倒したんですか?さっき思いっきり噛みつかれていたのに」


「見えないように煙で隠したのに何で聞くんですか?」


「え!?あ、その、すいません…。って怒ってるんですか!?まさかそんな返しがくるなんて、教えてくれるのかなって…」


「どこぞの漫画のキャラじゃないんですって私は」


「もう何言ってるかわからない!」




言動を物理的にも文字通りにも煙に撒くのである。語呂之介はとにかく自分の事を徹底的に話さない。漫画や小説で、主人公が他者に自分のことを話すということを一切しないのだ




「まあ、助かりました。そうだ、これをお渡ししましょう」


「え?何ですか?」


「お嬢ちゃんの落とし物です。牢屋に入ってましたよ?」




語呂之介は、何かが入った袋をアオカに手渡した。なかなか重さがあり、ジャラジャラと音がする




「落とし物?え?私、これに覚えがないですよ?それに、持ち物といえるほど持ってないんですよ?」


「じゃあ、支援のお礼です。お礼兼落とし物です。お嬢ちゃんのお家で役に立つでしょう。それは今開けないで、家に帰って開けてください」


「ええ?なんですかこれ…。役に立つ?大丈夫ですかこれ…?」




アオカは、語呂之介からやや重たい袋を強引に持たされた。厚手の袋であり、中に何が入っているかは分からない。急に渡されて中身が怪しいものか考えなくもなかったが、とりあえず受け取った。気を取り直して、ここから移動しようとしたとき、遠くから何かがまたやってきた。近づいてくるにつれて、足音がリズミカルに聞こえてきた。それは、立派な馬に乗った人物




「煙がここら辺からあったはずだが…。あ!?貴様は『死還者』か!?」


「ん?ああ、騎士と思い込んでるお嬢さん」


「おい!私は騎士だと何度も言ってるだろう!さっきの狼煙は貴様があげたのか?いや、待て、そこの少女は」


「え!?騎士さん!?」




王国騎士所属のアナが現れたのだ。先ほど、アオカが使用した煙玉の毒々しい煙を、狼煙と思ったのか偶然見かけてここまで来たのだ




「その髪の色、もしかして、君がアオカという子か?なぜ『死還者』と一緒にいるんだ!?まさか、こいつに!?」


「ちょ!ストップ!この人は私を助けてくれたんです!あの盗賊の人はこの台車に…」


「なに?わ、確かに…ワーゴンだ…。にしても、この姿は…悪趣味だろう。貴様がやったのか?」


「いえ、このおじさんがやったことです。んで、私は助けてません。この子が勝手に助かっただけです」




一度、語呂之介を睨んで剣に手をかけたが、アオカのフォローによりすぐに手を離した。ワーゴンの手足を失っている姿に若干引いたが、語呂之介はややこしいことを言いごまかした。ごまかせてないような気もするが




「またよくわからないこと言ってる…」


「…いろいろ思うことはあるが礼は言っておく。それで、アジトはどうなった?」


「後で見てみたらどうです?まあ、金目の物を頂きました」


「そうか…。手間が省けたと言えばアレだが、無事でよかった。後で調査はしよう。君のお姉さんから頼まれたんだ。妹を助けてほしいと」


「お姉ちゃんがですか?そうだったんですね!ありがとうございます!」


「お嬢ちゃん、その馬に乗せてもらったらどうです?私より強い人に助けてもらいなさい。それで、早くお家に帰りなさい」




語呂之介は勝手に話を進めて、馬に跨っているアナの後ろを指さした。アオカのような小さい子ならば容易く乗せることができそうだ




「え、は、はい。でも…」


「貴様はどうするんだ?と言っても、乗せることはできないが歩く気か?」


「いつも通りです。この賞金首はもらいますよ?私の明日の昼飯代にしますから」


「まあ…仕方ないな。早い者勝ちだ」




ワーゴンの見るも無残な姿を、少しいやそうな顔をしてそう言った




「まあ、いろいろ聞きたいことがあるが、少女の安全が最優先だ。しかし、どういう風の吹き回しだ?貴様が人助けとは」


「ですから勝手に助かっただけですよ」


「…その割には気遣っている気がするが、相変わらず喋る気は無いんだな?」


「どう思っていただいても結構です」


「…ふん。じゃあ、しっかり捕まるんだ」


「は、はい!あの、ありがとうございました!『死還者』さん」


「グッドラック」




アオカはアナの肩をしっかりと掴み、軽快に走っていく馬に跨がってあっという間に距離を離していった。その後、語呂之介はいつも通りにギルドへ赴き、賞金首を差し出した。その時のギルド職員達は、手足を失ったワーゴンの姿に引いていた。そんな姿で持ってこんでも、みたいな。スムーズに事が進み、語呂之介は出国したのであった




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