働きたくないでござる
ハソター×ハソターのアニメオープニングを変えろって文句言ってるやつ、それアソパソマソのアニメオープニングの前でも同じこと言えんの?
「忍法、聞き耳立てーるの術」
猛スピードで、溜池語呂之介の傍を走り抜けていった一人の女性。オレンジ色のセミロングの髪で20歳ほどの容姿だ。彼女は一目散にギルドの受付に訴えた
「私はリンカ!お願い!妹を!妹のアオカを助けて!!」
今にも泣きそうな顔でギルド職員に訴える。その気迫に少々うろたえるも、対応は落ち着いてしなければならない
「ま、待て待て、落ち着くんだ…。何があった?」
「と、盗賊団の『ハイエーサー』の男たちに妹が攫われたの!!森で薬草採取をしていたら急に!!明日までにお金を揃えてこいって言われたけど!額が額で、とても払えないの!!このままじゃ妹が!!」
「うーん、主に若い女を拉致し、金を要求してくる集団『ハイエーサー』か…。リーダーの名前は確かワーゴン。ト・ヨータの森の近くにアジトみたいなものを構えているんだっけな」
ギルド職員は深刻そうな声でそのように確認していく。そこから少し離れたところで、語呂之介は振り返らずにその話を聞いていた
「穏やかじゃないねえ。名前よ」
リンカは居ても立ってもいられず、懇願を続ける
「ねえお願い!!誰か助けて!!金貨を何十枚とか用意なんてできないわよ!!なんとかあいつらを!!」
「だが、カチコミを決めたらあんたの妹さんがどうなるかわかったもんじゃねえぞ。それに報酬は払えるのかい?緊急依頼を出すからには、それ相応の報酬がいるぞ」
「依頼は出すだけ出してよ!!ギルドの誰かが動けないの!!?それか騎士団とか!!」
「おいおい、慈善事業じゃねえんだ。そりゃ同情はするが、うまみが無いと仕事は受けてくれないよ。こんなケースは何件もある。全部に付き合ってたらキリがないんだ」
悲しいことに、どの世界でも金は重要なものである。骨折り損はしたくない、危険な仕事にはきちんとした褒美が必要だ。リンカは盗賊団に何十枚もの金貨を要求されたようだ。何年もかけて稼ぐ額であり、むちゃな話だ。そして、依頼の際の報酬もまともに払えないほど、経済状況は苦しいようだ
「くうううう!!だって!!しょうがないじゃない!!小さな仕事をコツコツするしかなくて、貧乏なんだから!!ここでもお金お金って!!」
「そうは言ってもなあ…。依頼は出すこと自体は勝手だが、ロハで受ける物好きなんざ…」
リンカはぽろぽろと涙を零していく。目の前で泣かれては、たじろいでしまう。女の涙ほど強力な武器はない。ギルドの職員は、ここから立ち去らずに少し離れたところで立っている語呂之介にようやく気付く
「一人いるかもしれねえな。お人よしかは知らねえが、少なくとも腕利きだ」
「え!!?誰!!?」
「あいつだよ。あんたが猛ダッシュして脇を通り過ぎたろ?目もくれない様子だったから無理はないが」
ギルド職員は指をさす。語呂之介は、ギルドに賞金首や盗賊を何度も死体の形で連れてきた実績がある。犯罪率は、これでも抑制されており純粋にそこは評価されている。人としての評判は悪いが
「う、あれって…『死還者』じゃない…!?冗談じゃ無いわよ!!あんな不気味なヤツを勧めるなんて!!」
「だが、何度か見たことあるだろう?賞金首を運んでいる様子を。認めたくはないが、腕前自体はなかなかだぞ。それに死んでも蘇る事は分かっている。上手くいけば油断を突いたり長期戦もいけるかもな。それは何度も立ち向かえるって事だろ?」
「それは見たことあるけど…でも!あんな何を考えてるか分からないヤツなんて!」
「ああ、同感だな。だが選択肢は与えたぞ。少なくとも、俺らはホイホイと動けない。依頼は出しておくから、後は自分で頼み込んでみな。なりふり構ってられないんだろ?」
「ぐぐぐう…!」
そう、この依頼は一刻を争うのだ。金を盗賊団の『ハイエーサー』に渡さなければ妹がどうなるか分からない。期限が設けられていても、律儀に守ってくれるとも限らない。最悪、考えたくはないが、貞操も無事で済まないのかもしれない。歯を食いしばり、おろおろと周りを見渡すリンカ。そして語呂之介は、このギルドを出ようとしていた
「(『死還者』がいたなんて気づかなかった…。確かにあいつは中身は分からないし、死んでも蘇るなんて不気味なヤツだけど、賞金稼ぎみたいなことしてるから腕は悪くない…。どうしたらいいの!?頼ってもいいのか分からない…でも…)」
気がつけば、リンカは語呂之介を呼び止めようとしていた。皆が不気味な『死還者』を避けてきており、もうそれは度外視して話すだけ話すことにした
「そ、そこのあんた!」
「ん?誰か呼んでますよ?」
「は!?あんたよ『死還者』!!そこにはあんたしかいないでしょ!?聞いてたでしょうが!!」
「聞いてないです」
「な…!!?あんたふざけてんの!!?」
「え?ふざけてますけど?」
初めて口を聞いた。その会話は、まったく成立しなかった。気がつけば、リンカは語呂之介の頬を思いっきりひっぱたいていた。バチンと激しい音が。こんな緊急事態に、空気を読まずに、いやあえて読んでぶちこわしているのか知らないが、意味不明なことに思わず手が出た
「うわ…おいおい勘弁してくれよ…。頼むから騒ぐなよ…?」
遠くでその様子を、ギルド職員はおそるおそる見ていた。
「おうふ、強烈じゃないですかお嬢さん。いいパンチ(ビンタ)もらっちまったぜ」
「はあ、はあ!あんた!人の気も知らないで!!切羽詰まってる状況も分からないわけ!!?」
「知らないし分かりたくもないです」
「…この!!」
こちらはもう一発の強烈なビンタ。リンカが振り抜いた手はジンジンとしびれているが、そんなものはお構いなしだ。注意しておくが、語呂之介は決して被虐体質ではないのであしからず
「ああう!すごい!口から血が出てきた…。お嬢さん、元気良いですねえ。ですが、急に暴力を振るうのは周りから変な目で見られますよ?」
「まだふざける気!!?あんたに言われたくないわよ!!」
「用があるなら早く言ってください。私は帰って寝たいんですよ。こんなところで油売ってると、妹さんが体を売る状況になるでしょうが」
「は!?やっぱり聞いてたじゃないのよ!!軽い感じで言わないでよね!!?なんでこんなムカつかなきゃいけないのよ!!」
「この人こっわ」
「ぐぎぎぎ!!いや…ダメだわ…。あんた!!腕が立つんでしょ!!?聞いてたなら妹を助けてよ!!」
リンカは3発目のビンタを繰り出そうとしたが、妹の状況を鮮明に想像させられたためか、ようやく語呂之介に依頼を出した。いや、語呂之介は遠くから聞いていたはずだが…
「(くっ!こんなヤツに言うなんて!!でも、本当に危ないんだもの、もう仕方ない!)」
背に腹は代えられない。これは苦渋の決断だ
「あー、やっぱり守るものがあると大変なんですねえ」
「え?何の話!?」
「身内を守れないで、盗賊団のシマである森にいくなんて危ないですねえ。自分でやっちまったなら責任もって行きましょう。今なら強盗して金を集めたら間に合いますよ!」
「…あんた何言ってんの!?本当に何言ってんの!!?私の責任って言いたいの!!?」
「イエス!」
「…このおおおおお!!」
助けに言ってくれるかどうかの答えが返ってこなかった。それどころか、さらにふざけた解答が返ってきた。まだ怒らせたいのか、リンカはやはりビンタの構えをし、勢いのよい叩いた音が聞こえた
「………え???」
ただし、リンカの頬から聞こえた。右の頬がジンジンと腫れて痛む。突然のことに、どうなったかまるで分からないといった顔をし、きょとんとして右の頬に手を当てる
「あー、お嬢さん。私は、女の子はだーい好きなんですけど優しくはないですよ?」
語呂之介は手を出していない。それどころか、ポケットに両手を突っ込んでボーッとしている。ぺたんと座って、リンカは未だに混乱して語呂之介を見る
「え???………え?????」
「急に私をぶっ叩いて来る人の頼みなんか、怖くて聞けません。自分の身内の問題は、どうぞ自分で解決してください。早く動いたらどうです?妹さんが可哀想でしょ?」
「は…?はあ…!?最初にふざけたあんたが言う!!?さっきの聞いてたの!!?私たちは貧乏で!だから頼んでるのよ!!妹が危険なことは私だって知っ」
ここで、もう一発の激しいビンタの音が聞こえた。語呂之介がされたのではなく、またしてもリンカの頬から聞こえた。手を頬に添えて、じわじわくる痛みを感じていく。またしても、何がなにやら分からず床に座った
「うう…!?い、痛い…痛い…」
「あー、まあ頭を冷やしましょうや。守るものがあるってそういうもんですよ。まあ、ネバーギブアップです!ファイト!がんば!ほな!」
そんなことはお構いなしに、流れるようにギルドの出口から軽やかに出て行った。取り残されたリンカは床に座り、頬に手を当て、口から血が出ていた
「うう…意味わかんない…わかんないよ…ちくしょう…ぐす…うう…」
「何が起こっているんだ…ああ胃がいてえ…」
そんな泣き崩れている様子を、ギルド職員は遠くからただ黙っていた。腹の部分を手で押さえながら