デュエルしようぜ!
『ネタバレやめろ』って書かなきゃネタバレってわかんねえのに!
そんなことがよくある
「け…結婚!?わ、私はノンケなのでご遠慮したいんですが」
「マジでこの場でぶっ殺すぞ!!?」
青空市場にて、溜池語呂之介は結婚ではなく決闘を申し込まれた。相手は同じく商売をしていた別の店の男。語呂之介が超レア素材を取り扱っていたことに、納得がいかなかったこと。それと、単純に煽りにムカついたこと。それらが合わさって、今なおキレている。
「はあ…はあ…くそっ!腹立たしいっ!!いいか!?1時間後に広場に来い!てめえが忌み嫌われていることを自覚しろ!イカサマ野郎が!」
別の店の男は、言うだけ言って自分の店の商品を片付けて帰っていった。何か、語呂之介を倒すための準備でもしようというのか
「大変なことになったなゴローよ!どうすんだ?決闘って言ってやがるぜ?」
ドワーフのビグディクは、最後までやり取りを聞いていた。語呂之介から、エモンドラゴンの鱗を買い取った貴重な顧客だ
「あー、まあ、言ってましたね。あれはモテませんね。衆人環視の場には少なくとも出たくないですね」
「お?蹴るのか?」
「私は弱っちいですからね。みすみす殺されに行くほど馬鹿じゃないですから」
「そうか?ゴローよ、お前さん死にたいんじゃなかったのか?」
「…」
語呂之介はそう言われて少し黙った。ビグディクは、軽く疑問として投げかけた。以前、ビグディクの経営する『ゴーゴーズ』で、語呂之介は無事に死ねる武器を求めに来たことがある
「私はきちんと楽になりたいだけです」
「そうか、よくわからねえがな。まあ、ビグディク様は死に急がなくてもいいんじゃねえかなと思うがな。決闘は蹴るんだな?」
「いや、そもそもこっちは了承してないですから」
「ガッハッハッハ!屁理屈がすぎるぜ!」
語呂之介は、そう言って荷台に荷物をいろいろ詰めて、そそくさと門の方へと向かっていった。普通ならば決闘を受けて話が広がるものなのだが、この男は違った。本当の本気で、決闘に興味は無く関わらないことに決めたのだった。特に弱みを握られているわけでも無く、人質を取られているわけでも無い。全く悪びれも無くこの国を去ったのだった
「あの野郎!!まだ来ねえのかあ!!あ!?なんだ王国騎士!俺より捕まえるやつがいるだろうが!離せ!!何やってんだよ揃いも揃って!!」
1時間以上待っても当然、語呂之介が現れることは無かった。決闘を申し込んだ別の店の男は、いつまでも騒いでいたため、王国騎士に拘束され厳重注意を受けたのだった
あれから3日後
「ふわーあ」
何食わぬ顔で、語呂之介はデマンド王国に再び訪れた。今日も何かを積んだ荷台を引いて、ギルドに向かうのだろうか。通りをのんびりと歩いていると
「見つけたぞこの野郎!!」
3日前に、語呂之介に決闘を申し込んだ、青空市場での別の店の男が怒鳴りこんできた。決闘を蹴られたため、表情は怒りに満ちている
「えっと、どちらさん?」
「…てめえ、おちょくってんな?決闘には来ねえわ、すっとぼけるわ…ふざけてんじゃねえぞ!!」
「あー、あの難癖つけてきた粗チン&素材知らないダサ男さん?」
「…剣を抜け!!もう容赦しねえ!!」
さらに怒りを上塗りされてしまった。別の店の男は、もういてもたってもいられず、衝動的に自分の腰の剣(もちろん性的な方ではない)を抜いた(鞘から)
「どうせてめえは死なないんだろう!?なら徹底的に痛めつけてやる!!」
「あー、やっぱり私ってヘイト集めやすいのかな。どうなんだろうなあ、クソ神さん…」
神の住む世界にて
『お、あいつようやく気づきよったな!ワイの隠し祝福やで!全部言ったらおもんないからな!さあて、他にも早く気づいて慌てろ!じゃない!上手く使いこなしてみいや!にしても、ワイをクソ神とか抜かしよったな、生意気なやっちゃなあ。まあしゃあない、このカルマ様は寛大な神やからな!水に流したるわ!ははっ!』
「抜け!!一方的にやってもつまらねえからな!!」
「そこは待ってくれるとは律儀な人ですねえ。逃げても追いかけてきそうだし、仕方ないかあ」
気づけば、2人を取り囲むようにざわざわと野次馬が押し寄せていた。別の店の男は、いまかいまかと待っている。本当にちょっとの刺激で爆発しそうな危険物のようだ
「では、私の性剣、もとい聖剣を見よ!」
語呂之介は、居合抜きの体勢で構えていた。そして、鞘から勢いよく剣が抜かれ刀身が露わとなった
「じゃん!」
「………………………は?」
別の店の男は、その抜かれた刀身を見たとき非常に呆れたような声を出した。その刀身は細身の木で出来ており、先端が少し曲がっている。仰々しい柄と鍔に対してあまりにも不釣り合いだった
「なんだあれ?」
「あれがあいつの強さの秘密か?」
周りの人たちも、あれが何かとざわざわしていた。それから語呂之介はその剣みたいなものの先端を背中に持って行き
「あー、かゆいかゆい」
「………」
掻き始めたのだった。気持ちよさそうな声をもらし、ほがらかな表情をしている。さて、その表情と対照的に、別の店の男の表情はピークに達し
「おらあああああ!!!」
「…ぐぼっ!」
勢いよく突進し、語呂之介の喉を横一文字に斬ったのだった。喉からは鮮血が面白いように吹き出し、語呂之介は声も発することが出来ず倒れてうずくまった
「…ご…が…っ!」
「はあ、はあ、もう喋ってくれるなよてめえ…!!」
警戒すること無く、語呂之介に剣を突きつける。周りの野次馬たちは、殺人現場を目の当たりにしたと同じようなものだ。パニックとなり、叫び声も聞こえてくる
「静かにしろ!!見たかお前ら!こいつは攻撃も捌けずに無様に倒れやがったんだ!こんな奴が稀少な素材を手に入れられるわけがねえ!とんだイカサマ野郎だ!恐れるに足らねえ!いつまでもこんな奴にビクついてんじゃねえぞ!!」
声を高らかに上げて、アピールをする。『死還者』と呼ばれた語呂之介は、皆から不気味な存在と認知されている。死んでも蘇る。それ以外にも、どうやって相手と立ち向かっているのか分からない。関わりたくないから距離を置いている
「『死還者』、てめえがどうやって殺しているかは知らねえが、少なくともこれで魔法は詠唱できねえよな?ついでだ、てめえの情報を喋ってもらおう。とっとと蘇れ。これぐらい、てめえは慣れてるんだろ?」
「…ぐぶっ」
別の店の男は、少し余裕が出来たのかいくつか落ち着きを取り戻している。相変わらず自分の血で苦しそうにもだえている語呂之介は、起き上がる様子が見えない。
「妙なことをするなよ?てめえが従うまで、こっちは徹底的に痛めつけてやる。それとも、今すぐがお好みか?」
別の店の男は、そう言って剣を振り上げた。鬱憤を晴らそうとしているのか、不死であることを良いことに、痛みを重ねようというのか。群衆は、相変わらず止めようとはしない。関わりたくないからだ。皆が固唾を飲む。だが、そんな群衆をかき分けてくるある人物が居た
「とっとと起きろおおおおお!!」
勢いよく振り下ろされる剣は、鈍い金属音を鳴らした。
「…乱暴な奴だ」
「ああ!?騎士がなにを!?」
別の店の男の前に、騎士と呼ばれた者が飛び出してきた。鋭い声で注意深く斬撃を受けたのは、語呂之介もご厄介になったアナだったのだ