転移と転生って、レバニラとニラレバくらいどうでもいい
今更ですけど、この物語の主人公(笑)ってスローライフしたいんかな?
誰か教えて()
「例の転移者はまだ見つからんのか!!」
とある王国の厳つい顔をした王様が、騎士たちに向けて怒鳴る。その言葉を受けて、騎士たちは体を強ばらせる。
「申し訳ございません!ギルドの方にも、転移者の捜索依頼を出しておりますが、なかなか有力情報が飛び込んで来ませぬゆえ…」
「やつさえいれば、魔王討伐なぞ容易く済む!功績を得るためにはやつを利用しない手はない!冒険者どもめ、転移者を上手く利用できずに死におってからに…」
厳つい顔の王様は、拳を握りしめる。この世界には、魔王というRPGではおなじみの存在がいるようだ。
「世界に名を知らしめるのは、我がエスト王国なり!早急に動け!グズどもめ!!」
「は、はい!!」
騎士たちは、姿勢を正して返事をする。その後、すぐに彼らはその場から離れていった。
ここはエスト王国。正式名称は、グロー=リーク=エスト王国であり、縮めてエスト王国と呼ばれている。ソフ=トオン=デマンド王国からは、かなり離れた場所に存在している王国である。
「おのれタメイケゴロノスケ…捕らえたら貴様を徹底的に利用させてもらうぞ」
そして、溜池語呂之介がこの異世界で初めて訪れた王国であった
「ふわーあ…らっしゃーい、高いよ高いよ~」
場所は変わって、デマンド王国の市場に語呂之介はいた。市場は市場でも、青空市場を開いている。この国は週に1度、フリーマーケットのように広場で敷物を広げて、品物を揃えて物の売買を行うイベントがある。どこか別の国から訪れた人たちや、こういう催し物の時に売りに来る者たちが、こぞって呼び込みをする
「眠いわねえ…」
設営から売りまですべて語呂之介ただ一人で行っている。商売する気が到底窺えない態度で、だらだらとあくびをしなから横になっている。しかも、『死還者』とこの国で呼ばれているだけあって、語呂之介の両隣とかには誰もいない。距離を離して、他の商売人たちは呼びかけをしたりしている。しかし、不気味に思われている語呂之介にも僅かながら話しかける者がいるのだ
「よう!ゴロー。眠そうにしてやがるなあ!」
「おや、いらっしゃいませ店主さん」
「おいおい!相変わらず余所余所しい呼び方じゃねえか!」
「往来で変なヤツの私に話すと、周りに変に思われますよ?あなたは良い人すぎます」
「ガーッハッハッハ!そんな小せえこと気にしてたら大きくなれねえぜ!?すべてはこのビグディク様が決めることよ!」
筋骨隆々の人間ではなく、ビグディクという名のドワーフ。見た目50代ほどで立派な髭をこしらえたビグディクが、自然と話しかけてきた。彼は武器屋『ゴーゴーズ』のオーナーである。豪快な笑い声を発し、細かいことを気にしない性格のようだ。
「さあゴローよ!何かおもしれーもんあるか!?道具でも鍛冶に使う素材でもなんでもこい!」
「店主さんには参りますね。そうですねえ、『落ちてた』剣、弓、杖は並んである通りで。あとは…レアのあれ(ここ回文)が」
「お!見せてもらおうじゃねえか!」
語呂之介は、自分の後ろに停めてある台車に積んである袋を漁る。何か掘り出し物があるのだろうか。ビグディクが楽しそうな顔をしながら待っていると、大きな声が目立っていたのか、別の男が話しかけてきた
「おいおいおっさん、やめとけ。そんな『死還者』に関わってもロクなことねーぞ?そんなのより、うちの店を見てみな?」
「なんだ若造?ビグディク様はゴローに用が会ってきたまでよ。後にしてくれねえか?」
「こんなチンケな店に何の用があるってんだ!こっちは親切心で声かけてやってんだ」
「知らん」
「あ!?なんだと!?」
語呂之介の近くで市場を開いている男だった。『死還者』は不気味に思われている存在である。そんな存在に話しかけているビグディクを離そうとするのは確かに親切心かもしれない。だが、別の理由がありそうだ
「店主さん、やはりめんどくさいことになるでしょ」
「何言ってる!このビグディク様がそんなの気にしてどうする!言いたい奴には言わせとけ!」
「はえー、イイ男♂ですねえ」
語呂之介も会話が聞こえていた。少し申し訳なさそうな顔をして戻ってきた。相変わらずビグディクは、気にしてないといった様子だ。さて、男は標的を語呂之介に変える
「おい『死還者』。てめえ、場所を移せ。それか出ていけ。てめえのせいで人が寄り付かねえんだよ。商売の邪魔だ」
「何を肝っ玉とおティムポと、ケツの穴ルが小さいこと言ってやがるんですか。いや、実際小さいんですかね」
「ああ!!?んだと!!?」
「ガーッハッハッハ!ゴローよ、おめえ言うじゃねえか!」
素直に退くかと思ったら、まさかのおちょくり。普通の顔で臆面もなく言うその様子に、ビグディクは思わず笑う
「反応したってことは小さいんですかね。図星?図スターですか?」
「わ、わけわかんねえこと言うんじゃねえよ!とにかくどけや!大した品も置いてねえくせによ!」
「店主さん、こんなんどうです?」
「お!こいつはいつぞやの!」
男の言うことなど全く気にせず、語呂之介はあるものを見せた。ビグディクは、それを見て驚いた様子だ
「なんだそれは?ただの黒い板っきれじゃねえか」
「若造、本気で言ってるのか?これが何かわからねえのか?」
「知るかってんだ。そんなもの売るつもりかよ。やっぱりロクでもねえじゃねえか」
「あのエモンドラゴンの鱗と言ってもか?」
「………………はあああ!!?」
ドラゴンの名前を聞いて男は本気で驚いた。語呂之介が持っていたのは素材としても使用できるエモンドラゴンの鱗だった。色は黒く、しかし透き通っており、内部は光の角度により七色に光る神秘的なものだ。名前は知れど、そのドラゴンを生で見たことがなく、入手難易度がとても高いために男は驚いたのだ。
「なんだなんだ?」
「いや、あの『死還者』ってやつ、エモンドラゴンの鱗を持ってるってよ」
「はあ!?超レア素材じゃねえか!」
男の思わず出た驚きの声に、周りの者たちはがやがやと興味深そうに集まる。するとやはり、皆も鱗を見て驚いていた。そう簡単にお目にかかれる素材ではないようだ
「あ、ありえねえ!!エモンドラゴンってえと、S級冒険者でも命を落としかねねえ魔物だぞ!?そもそも辺境の過酷な土地にしかいねえんだ!大抵の武器や魔法が通用しねえ鱗を、なんでてめえが持ってる!?」
「まあ、腐っても雑貨屋ですから。ロクでもないことないでしょ?」
「…そ、そうか!こいつは偽」
「偽物だなんて喚いてくれるなよ?現物を見たことない若造が断定できまいよ。目に狂いはないこのビグディク様も馬鹿にするつもりか?」
「ぐっ…!!」
偽物、そう言いたかった。だが、こう言われてしまっては、下手なことも言えない。男は苦々しい顔をして歯を食いしばった
「で、こいつはいくらだ?さっそく買わせてくれ!」
「適正価格がわからないです。店主さんはおいくらだと思います?」
「おいおい!この前もそうだったじゃねえか!このビグディク様を試そうってかい!?金貨2枚出そうじゃねえか!」
語呂之介は、前にビグディクの道具屋を訪れたことがある。その時から、『死還者』で通っていた語呂之介に対して、分け隔てなく話してくれたのである。そこで何か売るものを聞かれ、鱗を差し出したことがあるのだ
「マジっすか。では、良い人キャンペーンってことでもう一枚あげます」
「こいつは驚いたな!そんな高価なもんをホイホイ出しちゃいけねえぜ!?これじゃあ釣り合わねえ!金貨4枚やる!」
「いいですよそれは。そんなつもりでもう一枚出したわけじゃないんです」
「かてえことを言うなって!これでいい武器が作れるってもんよ!感謝するぜ!」
気前よく、金貨を差し出した。鱗1枚に対して金貨2枚という高額なレートである。ただ、これはもしかしたらまだ安いほうかもしれない。オークションでは更に値段が高いこと請け合いである
「ば、馬鹿な!?金貨がそんなに簡単に動くもんかよ!?て、てめえごときがそんなもの持って言い訳がねえ!!」
それを見て、納得しないのがよその店の男である。鱗自体が本物であることは認めざるを得ないようだが、それを語呂之介が持っていることに納得がいかない
「おい『死還者』!イカサマだろう?てめえにそんなドラゴンを狩れる実力があるとは到底思えねえ。その腰にぶらさげてる剣で斬ったってのか?あり得ねえよな?どこで盗んだんだ?」
「あなたのぶらさげているおティムポより役に立つ剣ですよ?短小で嫉妬とは、みっともなさのごった煮じゃないですか」
「…あああ!!?てめえ!!?」
「ガッハッハッハッハ!言いたい放題だな!」
確かに狩れる実力があるのかと言われたらそれはない。こんなチートじみたことをされたら疑うのは人として自然である。それを訴えたものの、語呂之介は、オブラートが破れたような発言をしていく
「喧嘩売ってんだな!!?俺をナメてんのか!!?」
「いや、素材を売ってます。おたくのおティムポは舐めたくないです。変なこと言わないでください」
「ぐぐぐがががががあああ…!!!」
男は言葉にならない唸り声と歯ぎしりを激しく立てる。目も、こいつを殺してやろうかというギラついたものになっている。そして男は、自身の腰に備えた剣の柄を握りしめ
「決闘しろ『死還者』!!てめえの無能さを晒してやるよ!!」
皆に嫌でも聞こえるようなでかい声でそう言った
「うそーん…」