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第4話 運命

私ね、死ぬ時ね、神さまが手招きしててその手の上に乗ったら天に登れると思うんだ。……(くん)はどう思う?

そう女の子が言っていた。その子の顔には靄がかかっていて、はっきりとは見えない。しかし彼女も私も笑って話していたような気がする。そんな曖昧な夢を見た。




───遠くで私を呼ぶ声が聞こえる。それはまるで眠りを妨げるアラームのようだ。ひっきりなしに金切り声をあげるそれはよく私を朝から不快な気分にさせた。甲高い叫び声と体を振動させて私を眠りから覚まそうとする。私は起きたくないんだと言う意思を伝えても鳴り止まないアラームはうざったい以外の何物でもない。スヌーズなんてもってのほかだ。でも今回のアラームは少し違う。朝自力で起きた時の心地よいような感覚がする。きっと強引に起こさせれていないからだろう。されども急かされているような気もする。そんな不思議な音だった。そして私はそれを器用に止め、朝の陽気の中二度寝する学生の気分になる。なんともいえない幸福感、優越感がそこにはある。


こんな気持ちになるのは久々だ。中学生の頃はよく寝坊して学校までダッシュしたものだ。先生に怒られ、クラスのみんなと笑い合っていた。しかし高校生になり自殺症になってからは、うまく眠れておらずいつも目の下に黒々としたクマを作っていた気がする。暗闇から禍々しいものを感じて連れて行かれるような気がして、恐怖で眠れていなかった。安心して眠りにつけることがどれだけ有り難いものかが十二分に分かった。


今のうちに眠っていよう、そう思って寝返りを打つ。何度も何度も。しかし、なかなか寝付けない。もどかしい気分になってくる。羊も数えてみたが眠れない。頭では眠ろうとしているのだが、身体が求めていないのかもう眠れない。睡眠欲が足りていないのだろうか。人間の三大欲求の1つである睡眠欲がないということは私には問題のように思える。なんとしてでも眠ってしまおうと言う気持ちと、処分されないように、もう起きて行動を起こすべきだと言う気持ちが交錯する。2人の相反する自分がいて、自分のことじゃないみたいだ。長い議論の末、結局覚醒を促すことにした。現実に引き戻される。急速に上空に引き上げられていく感覚がする。ジェットコースターみたいだ。そういえば前の世界ではジェットコースターなんて乗ったことがなかっ…た…な…。


そんな事を思いながら私は目覚めた。



呻きながら瞼をあげる。急な明るさによってぼやけた視界に飛び込むのは、真空色のキャンバスと淡い青みを帯びた白。風になびいた鮮緑の草々が私の横腹を掠めていく。のどかだ。草原に仰向けになっていたようだ。エネミーに襲われた形跡もなく、ただただ眠っていたようだ。私はどうなってしまったのだろうか。ここ最近はこの問いばかりを繰り返している気がする。この世界は私で遊んでいるような悪趣味な世界なのだろうか。不明瞭な記憶を辿る。スキルに唖然としていたらスライムに襲われたんだっけ。そうか、永遠の技(エターナルスキル)を発動した後に倒れたんだった。やっと思い出すことができた。よくもエネミーの出るこんな危険なところでのうのうと昼寝をしていたものだ。自分でも聞いて呆れる。とんでもなくラッキーなのだろう。とにかく誰かに自慢したかった。


「なぁ、フィーナ…っ。」


そうだ。フィーナはもういないんだった。誰も応えてはくれない。孤独だ。私はひとりぼっちでこの世界も生き抜かなければならないのだ。向こうでもこっちでも報われない運命にあるのだ。そう思うと寂しさがこみ上げてきて、目頭が熱くなってくる。周りの景色が歪んでいく。しかし、今回は涙を零すことはなかった。ぼろい麻の袖で雫を拭き前を向く。これからは、後ろは振り返らない。ひたすらに生きて、生きて、生き抜く。そう決心して起き上がり、一歩を踏み出そうとする。


すると、上着の裾を引っ張られた。弱々しい力で必死に止めようとしている。一体誰だろうか。せっかく出発しようと思ったのに。これでは決心が鈍ってしまうではないか。咎める気持ちはなかったのだが、新しい旅路を邪魔されたので少々怖い顔で振り返った。

そこには、瑠璃色の瞳を持った薄紫の髪の少女がいた。少女というよりは幼女といったところか。4、5歳といったところか。瑠璃色の瞳には水晶のような涙が溜められていた。姿形は絵になっていて、童話のお姫様と言われてもおかしくないほどだ。フランス人形のような顔つきとはこういうことを言うのだろう。そんな彼女が今にも泣きそうになっている。もしや怖かったか。フィーナにも目が怖いと言われていた。そうだな、話をしようと思ったのに急に睨まれたら誰でも怖いよな。私が大人気なかった。謝罪しようと口を開きかけたその時、幼女が


「リオラちゃぁん。無事でよかったぁ。」


と震える声で言った。私はまた軽いパニックに陥った。なぜこの娘が私の名前を知っているのか。記憶に全くない。それとも眠っているうちに忘れてしまったのだろうか。考えているうちに眉間にシワがよる。すると幼女は何かを察したのか、自己紹介を始めた。


「フィーナだよ。ウィンドウナビゲーター改め伝導者(ミチビクモノ)フィーナだよ。」


(あぁもうだめだ。頭がおかしくなっている。きっと不死を起動したせいで幻覚が見えたり幻聴が聞こえたりしているんだ。フィーナが巨大化したって?今一番出会わない人だろう。不死に関係なくショックで死んでしまうかもしれない。)


そう思った。


きっとその時の私の目は丸く見開かれていて口は阿呆の如く開いていただろう。まるで埴輪のように。脳の処理速度はとうに追いついておらず、ストレージもパンパンだ。フル回転した脳で理解するにも時間を要した。もともと頭がいいわけではないので、普通の人よりもかかっていただろう。


フィーナが大きくなっている。たしかに髪といい瞳といい言われてみれば似てないこともないが、なぜこんなに早く成長した。細胞分裂の域を超えている。私だって前世では成長期に一気に背が伸びたが、それも20センチといったところだ。しかし、フィーナは一気に1メートル以上背丈が大きくなった。もはや成長期ではなく巨大化期だ。まぁそんなことはいい。それよりも聞きたいことがある。


「私はなぜここにいるのか。」


と問う。フィーナは、帰ってくると私が倒れていて、そのまま3日も眠っていたこと。さらに、どこかへいったのは、逃げたのではなく《創世神》なる者に不死の能力者が生まれたと報告しに行っていたこと、その時に洗礼を受けランクSに進化(アップロード)したことを告げた。どうやら逃げたと思ったのは、とんだ杞憂だったらしい。それにしても不死の能力者に付いただけで進化させてもらえるなんて、不死にはそんなに希少価値のあるのだろうか。生物の理に反しているから、それもそうか。


そんな事を考えていると、ふとフィーナと目があった。フィーナは焦ったように目を逸らす。何か後ろめたいことでもあるのだろうか。マスターの私には隠し事などはして欲しくない。あからさまに大粒の汗をかくフィーナはわかりやすくて助かる。きっとフィーナの重荷になるような事なのだろう。あの天真爛漫なフィーナでも困ってしまうほどのものなのだ。本当に重大なものかもしれない。私がどうこうできる話ではないかもしれない。しかし胸のつかえは、早めに取っておくに限る。それこそ私みたいに追い詰められる前に。そんな善意で


「フィーナ。私が力になれる事ならなんでも言って欲しい。仮にも私はお前の主人なのだから。」


と優しく。されど断れないような口調で言った。するとフィーナは観念したのか急に跪き、


「リオレイル=ヘレナリア様。貴女は神託により救済者(スクウモノ)となりました。どうかマキシランスをお救いください。」


またまた理解が追いつかない。例えるなら学校を何日も休んだ後の数学の問題以上に分からない。急に壮大なスケールになった。世界を救うってどういうことか分かって言っているのだろうか。こんな非力そうな女子(中身♂)に何ができるというのだろうか。本当に私で遊ぶのが好きな神様だ。創世神とやらには後から危険手当をもらわないと割に合わない。


慌てる私をよそにフィーナは説明を続ける。どうやら不死の能力者は、数千年に1度の割合でマキシランスを救うため、意思とは関係なくこちらに連れて来られるそうだ。その目的はただ1つ『神々の争い』と呼ばれる戦争の切り札となり、邪悪を退け、世界に安寧と秩序をもたらすことだという。不死身の身体は、神々の技以外は全く通さず、命を絶つには《創世神》のみぞ知る処分(デリート)でしか方法がないという。


受け取りかたによっては、素晴らしいとも、哀れだとも取れる。そんな極限の状態で発狂させないためにも伝導者(ミチビクモノ)が存在するらしい。伝導者(ミチビクモノ)は、洗礼を受けたことにより主人の命が尽きるまで共に生きなければならないという使命が存在する。老いることも禁じられ、ただただ、くる日もくる日も主人に使えなければならない。そんな過酷な運命によって今まで多くの番いが戦争を終わらせることなく処分(デリート)されていったのだという。


フィーナは私は一心同体、一連托生となり生きなければならないらしい。『神々の争い』はいつ起こるかわからないから、それまでに戦闘の技術を磨かなければならない。全く対価が払われないということはないらしく、『神々の争い』を終結させることができたらその対価として願いが1つ叶うらしい。終結させられればの話だが。


不安が心の隅から隅までを覆い尽くす。まるでいばらのように絡みついては離れようとしない。役目を全うすることができるのか。生きて帰れるのか。私だけでなく、フィーナの命運もかかっているのだ。自己満足ではいられない。決して失敗は許されない。しかしネガティブな感情の中にも希望はある。一度向こうで捨てた命。今度はこっちで私とフィーナのために役に立てるのだ。他のものは何人たりとも邪魔させない。そう心に決めた。


その直後、覚悟を決めるのを待っていたかのように救済者の称号が厳かな機械音とともにステータスに追加された。

遅くなってしまいましたorz

これからは頻度を上げていきたいと思っています。(思ってるだけ……)


死なない程度に根性出して頑張ります。

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