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第3話 不死

エターナルスキルが明かされます。

…え…うそ。


手から落ちてはガラスのかけらのように散って行くキノコの一瞬の鮮やかさとは裏腹に私の脳内は真っ白になって行く。腕に力が入らなくなりせっかく拾ったキノコは全て結晶と化してしまった。


現実から目をそらすためか目が焦点を合わせようとしない。やっと目の情報を受け取った脳が危険だと警鐘を鳴らす。脳内で大洪水が起こっているような感覚だ。頭の中で小人たちが戦争をしているような偏頭痛も伴ってきた。こんな事があってもいいのだろうか。また前世と同じ死んでも死にきれない苦痛を味わなければならないのか。


現実世界でゲームをしていたときバグで一瞬だけ変な表示によくなっていたこと思い出す。ここは異世界で、ゲームの世界に酷似しているから次開くときは変わっているかもしれない。その一縷の望みにかけて《スキル》のウィンドウを何度も開けたり閉じたりする。変わってくれ、と願うが、その願いは届かない。結果は依然として変わらない。


「フィーナ。クエストを達成できないと死ぬんだよね。」


フィーナは肯定する。今更何を言っているの?という目で私を見つめる。

このスキルはこの世の理から逸脱している。もしかすると私は異端な存在なのかもしれない。中世ヨーロッパの魔女狩りと現代のいじめを想像する。時代が違えど、どちらも己と違うものへの恐怖から起きるものだ。凄惨な末路のビジョンが浮かぶ。火あぶり、拷問、飛び降り。考えただけで吐き気がする。


こんな事は考えたくもない。しかし一度始まった思考は止まらないし止められない。実際に受けたいじめを思い出しうずくまる。あの苦痛の日々を。左の手首をさする。一本のまっすぐな傷はもう無いが心の傷を抉る。傷口が大きく開き、赤く出血するかのように記憶を放出していく。ドクドクと脈打つたびに受け皿のない感情は溢れ、広がっていく。こんなのもう耐えられない。体を熱と冷たさが蹂躙していく。めまいすらしたような気がした。このスキルは絶対に誰にも見せてはいけない。見られてはいけない。「特殊」は時として牙となり自身を蝕む。


「なになに、そんなに下級のスキルだった?」


ネガティブな思考に支配されている私とは対照的にフィーナは知りたくて仕方ないようだ。今か今かとスキルの開示を待っている。このスキルを見られたら契約を打ち切られるかもしれない。そうしたら私は生きるための情報源を失う、つまり死がまた近づくということになる。それだけはダメだ。死にたくない。しかしフィーナはそんなボクの心配など気にも留めず、じれったいなぁ、というとステータスのウィンドウを盗み見る。止めにかかるもむなしく見られてしまった。あぁもうだめだ。この世からもつまみ出される。処分されてしまうのか。せっかく新しい世界に生まれ変わって今度こそ幸せな生活が送れると思ったのに。もうどうにでもなってしまえ。自暴自棄になる。



しかし意外なことにフィーナは、異端者。とも厄介者。とも言うこともなく私と同じように青くなった。正確にいうとフィーナの方は、比喩としてでなく本当に青くなった。髪も、白い陶器のような肌も全て。さっと血の気が引いて2つの青い瞳があちこちを泳ぐ。私よりもパニックになってるじゃないか。それにしてもパニックになったからってなんで青くなるのだろう。体調でも悪くしてしまったのだろうか。それは私のせいだろうか。なぜ青いのかと問おうとするとフィーナに関するウィンドウが開く。こんな時でもしっかり解析するのか。本当に便利な機能だと感心する。フィーナがいつになく焦っているせいか私の頭は冷静さを取り戻そうとしていた。


個体名: フィーナ[ウィンドウナビゲーター]

フィーナは感情や情緒によって体色が変化する性質を持っています。

今の状態は焦り、不安、疑念です。


どうやらフィーナは私のスキルを見て不安になっているらしい。そりゃそうだ。だって今、転生してきた主人が


「不死-生ける者-」


永遠の技(エターナルスキル)を持っていて不死身らしいのだから。死とはかけ離れた存在なのだから。明らかにこの世のルールに矛盾した存在だ。処分(デリート)が効かない人間は、この世の均衡を崩してしまうかもしれない。この世に馴染めない人間と一緒にいたら自分の身も危ない。逃げてしまうのが一番いい。それは私が身をもって体験したことだ。もう私の事はいいから早く逃げな。と言いかける。しかし、それを待たずにフィーナは呪文を唱え、時空の歪みのような黒い入り口を作り、そこからせっせと逃げるようにしてどこかへ行ってしまった。



私はこの世界にも見捨てられた。向こうでも歓迎されず。少し寂しさもあったが、フィーナは賢明な選択をしたと思う。でも、堰を切ったように涙が溢れ、大粒の雫が頬を伝う。嗚咽が止まらない。なぜ? 私も逃げて欲しいと思ったのに。忌まわしく思われても側にいて欲しかったのだろうか。友達が欲しかったのだろうか。母に捨てられ、友だったものに裏切られた時の記憶が蘇る。あの暑い夏の日を。溢れるのは疑問だ。なぜ私は生まれてきたのか、なぜここにあるのか。意味のない無価値な人間ではないか。それとも神のマリオネットか。好き勝手に弄ばれ、壊され、捨てられていく使い捨てのおもちゃか。



止まらない涙を止めようとしていると草むらから千草色のスライムが2体現れる。草の緑がスライムの青に透け水晶のような美しさとなる。その美しさが私の醜さを、卑しさを一層引き立てる。魔物相手に武器もなしに戦うことなんて無茶だ。無事でいられるわけない。私はここで死んでしまうのかと絶望する。苦しんで、もがいて、憎悪しながら死んでいくのか。まぁ、ここで終われるわけがないだろう。不死の能力があるのだから。神の慈悲、お節介によって守られているのだから。何かの手違いで殺してもらっても構いませんけど。と自殺ばかりしていた頃の私が顔を出す。こちらに来てからはそんな衝動も落ち着いたかと思っていたが、研究するほどになっていた自殺依存はそう簡単には治っていなかった。



絶好の獲物と思ったのか、いっせいにスライムが飛びかかってくる。スライムに触れた身体に火傷のような傷ができていく。服が溶けていき、袖、裾の麻はとうになくなっている。身体中に赤黒いあざのようなものができていく。まるでそれはリンチの傷のようだ。熱い。スライムなんかに殺されてしまうのか。呼吸が荒くなっていく。HPのメーターがどんどん減る。誰だよ簡単なクエストって言ったの。


「がはっ…。」


ネトネトうっぜーんだよ。

不死が何だっていうんだよ。

こうやって不死の間何回も蹂躙されろってことかよ。

そんなのってないだろ。


肌を焦がすスライムの熱が父につけられた煙草の熱とリンクする。途方も無い虚無感と怒りが弾ける。それに任せて、


(死ねえええええええええええええ!)


と念じる。

私が父に向ける負の感情だ。自分が闇のようなものに飲まれて行く。自我を保つ余裕などなく、ひたすらに感情を爆発させる。体が耐えかねたのかあちこちが軋み、細胞は沸騰し、鼻からは鮮血が溢れる。呼吸もままならない。理性を失った猪が止まることができないように、私も自分が制御できていない。

狂う。狂う。狂う。


永遠の技(エターナルスキル)《不死》を起動します。」


というフィーナとはまた違う声が消えかける意識の中に聞こえる。その青年の声には感情はなくただ決定事項を読み上げるだけの冷たいコンピュータのそれだった。私の真紅の片目があやしげな光を帯びる。ばらばらになっていた歯車がぴったりはまり、軋みながらも動き始める。それは壊れた私を真にこの世に受け入れられたことを示すかのようだった。人に避けられて得た認可なんて本当はいらない。

私が本当に欲しかったものは…。この問いにはまだ正解は見いだせそうもない。



《不死》を起動したという報告の直後、大きな爆発音と共に私の頬にネトっとした液体とも固体とも取れない青色の何かが降ってきた。それが爆散したスライムの残骸であることを確かめると力尽き、草の上で意識を失った。深海のようなところへ堕ちていく。安楽の地へ行こうと身を委ねる。もうこのまま楽になってもいいんじゃないかな。異端者だし。



誰かが私を手招く。そう思ったら引き止める。

遠くから聞き慣れたフィーナの声がかすかに聞こえた気がした。



誰もいなくなった草原にクエストをクリアしたという場違いに明るい通知だけが響く。




私が目覚めたのはそれから3日後のことだった。

すみません。冒険させられませんでした。

自分の語彙力の無さに落胆しました。

次こそは冒険させようと思います。


フィーナ視点も書いていきたいなぁ、

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