序章
初投稿です。
至らない点も多々ありますがお手柔らかにお願いします。
どうせ人生はつまらない。
生きていたってしょうがない。
ボクは自殺を唯一の遊びとしていた。
自殺に快楽を覚えていた。それこそネジの飛んだくるみ割り人形のように。
「そんなのはおかしい」と分かったような口を利くものも少なくないが
例えとしては、読書やサッカー、映画観賞といった類の、いわゆる趣味と何ら変わりないのだ。
少し比喩が大げさなってしまうが、自殺研究者といえばいいのかもしれない。
考えてみれば、 今、中東とかアフリカとかの飢えに苦しむ人や戦争の前線に駆り出されている人からしてみれば不謹慎極まりないのだが。そこら辺に関しては申し訳なく思っているし、なんなら代わってあげたいとすら思っている。この日本で生まれたのならば幸せになれた命も多くあっただろう。利害が一致しているのになぜダメなのだろうか。不条理な世の中極まりない。おっと、ここまでは自己中で語ってきたが、ボクの死にたがりにもれっきとした理由がある。このままだと批判が嵐となるので1つ断っておくことにしよう。
遊んでいる。趣味だ。と言っても最初の方は本気で死ぬ気だった。この世の中への復讐のつもりだった。絶対に許さない。呪ってやる。と思ったら奴もいる。死んでそいつらをあたふたさせて絶望の底に沈めてやるつもりだった。
「お前は、菫たちのいうことだけを聞いてればいいの。」
黒髪の優等生の冷たい視線がボクに落ちる。
「そうよねー。そんな目で睨まれたら麻衣怖いよー。」
童話の姫ような見た目とは不釣り合いな残忍な双眸がボクを見る。
あはははははは
うふふふふふふ
主犯や傍観者のあざ笑う声が廊下に響く。
「…うぐっ」
鋭い蹴りがみぞおちに直撃する。空手の黒帯を持つ菫の蹴りは重い。内臓が破裂して中のものが全て出て来てしまいそうだ。喉の奥から苦いものがせり上がってくる。艶やかで腰の高さで切りそろえられた髪が揺れる度に衝撃がボクを襲う。ボクは椅子に手足を拘束され抵抗もできないまま蹂躙されていく。先生も見つけられない体育倉庫で儀式は行われた。クラスの中から1人、生贄を決めてカースト上位の者に差し出すというものだ。こうすることで残りの者は自分たちの平穏な生活を実現する。
椅子ごと倒れてしまっても暴力は続く。こいつらの気が済むまで終わることはない。周りにいる取り巻きは彼女らに気に入られるためにボクを生贄にした。おこぼれにあずかろうという彼らはまるでハイエナ。草食動物に抵抗する術はない。
高校デビューに失敗し、他の人に乗り遅れグループに入れてもらえず、友達が出来ないだけでなく、容姿の悪さから周りから好奇の目で見られ、除け者にされ、時には暴力も受けた。要するにいじめだ。この時ほど切れ長の目を憎んだ事はない。ただでさえ目つきが悪いのに、ボクは近視なので目を細めなければいけない。おかげでタチの悪い奴らにケチつけられて絡まれてきた。何をしても受け入れられずカースト一軍の者のリンチの対象となり続けた。蹴られ殴られと酷いものだ。時には暴力だけでなく、いくらかお金も巻き上げられた。周りの人も助けることはなく、ただ傍観を決めこむか、ヒソヒソと笑うだけだった。周りも決して助けてくれなかった。バレないように顔以外をあざだらけにされて帰路につく。いつしかそれが日課となっていた。
担任教師もモラルの授業ではいじめはいけないと言いつつも、ボクのことはいないものとして扱う。ボクに関われば自分の出世に響くからだろう。いったい彼は何を目指して教師になったのだろう。子供の成長は二の次でまずは自分の保身に回った。奴が、
「いじめはする人も悪いけどされる方も原因がある。」
と言いきったときには怒りを通り越して心底呆れた。うわべだけの正義とはこういう事をいうのか。その時の眼鏡の奥の冷たい瞳は忘れられない。見下すような哀れむだけの眼。人間は結局のところ自分が良ければいいというエゴで生きている。保身のためならなんだってする。どんなに綺麗事をペラペラと御託に並べてもだ。口だけの正義はかえって人を貶める。僕を含めてだが。
そしてボクは頼みの綱だった両親からも裏切られる。どちらも毒親でボクに罵詈雑言を浴びせたり、暴力を振るったりした。そしてボクは親の離婚とともに捨てられる。母はボクが高校に上がる直前に、使えない、価値のない子はいらない。と言い残してどこかへ消えた。きっと今頃ボクなんか忘れてほかの男と新しい生活を送っているのだろう。もしかするとそいつの子供を身ごもっているのかもしれない。生まれてくるであろうその子が可哀想になる。
まぁ、母が僕に迷惑かけまいと消えてくれたのは有り難かった。しかし、問題は父親だ。父は毎日昼から酒に溺れる。そして呂律の回っていない状態で、訳のわからないことをブツブツ呟いては僕に八つ当たりする。殴られ、蹴られ文字通りボコボコにされる。働くのならまだ助かるが、父は前の会社で不祥事を起こしたからどこの企業も雇ってはくれない。前にいた企業は海外に進出するなどの大企業で、父はそこで、横領という取り返しのつかない事をしでかして解雇となった。その企業の幹部であった父の不正はニュースにも出ており、いまさら誰も助けてはくれないだろう。あの頃は家族円満で温かな家庭だったのに。はたまたそれは自分の勘違いか。
そういうことで、家計はボクが担わなければならない。必死でアルバイトを掛け持っているが家計は火の車だ。収入より支出の方がはるかに多く、借金や学費もまともに払えない。奨学金の返済もまともに出来ないと思う。なんせこの親父がいるのだから。こんな生活を来る日も来る日もしていて健康でいられるはずがない。目の下には黒いクマができ、食事も喉を通らない日が続いた。かつて、ボクはこのろくでなし親父を殺してしまおうかとも思った。たまに黒い影に飲み込まれるといった幻覚も見るようになった。クスリにも手をだしかけたが、良心の呵責と金銭面の問題で廃人直前でなんとか踏みとどまった。頑張っても頑張っても報われない。受け入れてはもらえない。そんな日々が辛くて苦しくて死のうとした。
だが、神様はこんな役立たずなボクなんかも救ってくれるらしい。ボクなんかに構ってないで、紛争地帯の子供達を救ったり、砂漠に雨を降らせればいいのに。そっちの方が生きたい人を救えて、利益があることは火を見るよりも明らかだ。僕でも自覚があるのに神もおかしなものだ。
神の加護のお陰で自殺はことごとく失敗し、傷だけが残っていった。
初めは死ねない辛さや傷の痛みがあった。しなきゃ良かったと後悔することも多々あった。しかし自分の存在や生きている証となる自殺への挑戦が辞められず、幾度となく自殺を試み、失敗していく中で自分の何かが壊れていった。人として生きていくのに欠かせない大切な何かがずるりと抜け落ちる。
そのうち痛みも感じなくなり無機質なただの傀儡同然となった。ただただ自傷行為を行い、手首、腕、頭、脚、体のいたるところに芸術を刻んでいった。
さて、自殺マニアといえども自殺を成功させるのは至難の技だ。それはボクだけなのかもしれないが。
一番最初は自宅で練炭をたいてみた。煙が立ちのぼり、それは死の霧となってボクを襲う。しかし完全に煙にやられる前に警報器とスプリンクラーと管理人の喧騒に邪魔された。一酸化炭素が神経を蝕む前に警察に通報された。ぼろっちいアパートでもそこらへんはちゃんとしているらしい。マニュアルどうり蘇生させられてしまった。救急隊員は慣れた手つきで酸素を僕の肺に閉じ込めると、犯罪者を見るような目でボクを見ていた。警察からも何度も呼び出しを食らった。
次に、7階建のビルの屋上から空へと飛んでみた。最初の挑戦から僅か1ヶ月後のことだ。足元を見つめる。ビルの明かりが夜空の星のように煌々と輝いていた。ボクも星になりたい、そう思った。この高さなら絶対助からないと思った。足がすくむだがなんとか屋上の床を蹴る。ボクの体は夜の空に蝶のように舞った。しかし、これも落下の途中に大木に死を阻まれた。ベストな場所へと誘われるように落ちた。身体中に擦り傷を負っただけで、骨折などは全くなかった。こういう時だけ運がいいんだと、つくづく嫌になった。
なにもかも中途半端だった。
何故、死ぬことができないのだろうか。いつもそれだけを考える。
まあ、二度も失敗すれば、普通の人なら改心して自殺など二度としないのだろうが、ボクは死への畏怖と羨望がさらに募っていった。そして研究を始めた。いかにして命を絶つか。それだけを考え続けた。神の救いとボクの死。どちらが速いか競争するようだ。くる日もくる日も身体に傷をつけ、血を流していく。その鮮血はボクに生の証をくれた。
こんなボクは、廃人と例えるのが最もあっていると思う。心は枯れ果てて、もはや人かどうかも危ういけれど。
自殺をし始めてからというもの学校にめっきり行かなくなった。
高校入るまでは、まあまあ勉強もできて、受験も第1志望の中堅校に進学できていたのだが。人生、いつ歯車がダメになるか分かったものじゃない。狂うのは簡単でも治すには時間がかかりすぎる。
神は慈悲深いものだ。いつもいつもボクを救ってくれる。ボクに何の価値があるのかは知らないけど。
皮肉にも昼のニュースで今日もテロで多くの人が犠牲になった、通り魔が出て子供が死にました。とニュースキャスターが無機質かつ事務的に生きているボクに伝える。そのニュースを見るたびに、ボクもその場にいればと思う。
自殺研究と一言で言ったが、何もメジャーな方法を試しまくるとか、ワンパターンではない。研究者が数式の謎を解くときのように明らかな理屈があるわけではない。だから数多ある方法を片っ端から試し、マイナーなものでも試し、自らにあった死に方をする。それがボクの自殺研究。
普通の人間なら一発であの世行きだからこんなことはしないのだけれど。
例えば、手首に証を刻んでみたりした。赤い刺青だ。さらには、睡眠薬を過剰に摂り、眠り姫ならぬ眠り王子になってみたりもした。童話のような美しい死に方とはかけ離れて、とても苦しかった。どうやったら美しく死ねるのか教えてほしい。ガソリンをまいてみようかとも思ったが、流石に後片付けが大変そうなので妥協した。
こんな風にたくさんの方法を試し自分に傷をつけていった。
でも、結果は同じで、ダラダラ生きながらえる。「不死」の能力でもありそうだ。
自分で死ねないのならいっそのこと後ろから包丁を持った殺人鬼に殺してもらえないものだろうか。少し苦痛を伴うだろうがそっちの方が死ねそうだ。殺人鬼も欲求を満たせてWIN-WINだと思うのだが。
そんなこんなだったが、遂に神に見放された。呆れられたのだろう。もしくは次の面白いおもちゃでも見つけたのかもしれない。ボクの人生に終止符を打つことになる。
死に方としてはこうだ。
その日、ボクはP箱を入手し、ホームセンターでロープを買った。
何に使うのか疑問に思ったのか、自殺志願者かもしれないと思ったのか、訝しげに見つめる店員にもボクの遊びを見せてやりたいと思った。流石に、本当にするとは思っていないだろう。冗談半分の奴らの目にものをみせてやりたい。
ボクの戯れの邪魔されるだけだから見せないのだけれど。
自宅の天井にフックを付けロープを通す。
ロープを結んでいく。外れないか確認する。ネットのブログで調べたので本当にできるか心配だったが、どうやら問題なさそうだ。ネットの便利さとともに恐ろしさも思い知る。いじめられ、罵詈雑言を言われていたのもネット上だし、自殺に関しての知識を書くなんて無責任すぎる。今こうやってその情報のせいで人がひとり命を絶とうとしている。ネットの使い方も誤れば取り返しのつかないことになるんだとこの期に及んで思った。まあ今更そんなことはどうでもいい。楽しければいいんだから。
確認するとロープは、中学の美術が2で不器用なボクにしてはいい出来だったようだ。あとは首を通してP箱を蹴るだけ。首吊りというスタンダードな方法で死んだのだ。
もし死ねたのなら、明日にはクソ親父がブラブラのボクをみて泡を吹くに違いない。そして稼ぎ頭がいなくなったと騒ぐんだ。笑えてくる。ボクにあんな生活をさせた罰だ。せめて自分の愚かさを呪うんだな。ニンゲンに「残機」のシステムがあれば葬式の時に復活して棺桶から飛び出して親の醜態を笑うこともできるのに。全く神も大事な所の詰めが甘い。
まあ死ねないんだろうけど。そう思った。
そしてその時が来る。
さてと。そろそろ遊びの時間だ。
ロープに手をかける。高鳴る鼓動とは裏腹に手汗が出ていた。
恐怖はとっくの昔に葬り去ったと思っていたが。一応まだ人間らしい。
たるんだ輪に首をかける。その輪はギチギチと音を立ててボクの首にまとわりつく。
背伸びをしていた爪先が踊り出す。
ボクがドラマや漫画の主人公で彼女か親友がいれば、ここでドアをぶち破って止めにくるだろうが、そんなものはいない。ただただ死へ引きずりこまれるだけだ。果てしない孤独。
視界が徐々に黒い靄でいっぱいになる。
脳と喉と肺が悲鳴をあげる。幾度となく死に近づいて来たが身体はまだ機能を止めてはいなかった。
全く律儀な奴め。
さて、そろそろ終わりだ。どうせ死にたくても死ねないんだ。
神さまよぉ、できるんならボクを地獄に叩き落としてくれよな。
そんな事を思って降りようとするがP箱が遠くに飛ばされている。
そんなに強く蹴っていたのか。
これでは降りられない。降りようとしていたのは何故だろう。急に怖くなったのか。本当は死ぬ勇気なんてなくて、ただ悦楽に浸りたかっただけなのか。それとも哀れんで励まして欲しかっただけなのか。答えは出てこない。
ああ。今回ばっかりは神もお怒りか。
まあ、やっと死ねるならそれでもいいか。
やっとクソ親とアホガキどもとおさらばできる。
それにしても、苦しいな。もっと楽なやつにしとけばよかった。
後悔がよぎる。
意思とは関係なく、条件反射でもがいているとベランダから黒い影が伸びてくるのが見えた。
なんだ?と考えさせるいとまもない。
その刹那、急にロープがプツンと音を立てて切れた。
地へと引っ張られて頭に衝撃を受ける。
そして意識を失った。
果てなく闇が広がる。
目を覚ますと地獄だった。
なんてことはない。
もちろん自室の床にうつ伏せになっていた。
また助かってしまった。ベランダにはもう影はない。
だが、そばにフリルたっぷりの悪魔のような格好をした金髪の少女がちょこんと体育座りで座り込んでいた。その服はメイド服と言うのか、それともゴスロリと言うのか。黒い生地が沢山の白のフリルで装飾されている。
まだ10歳と言ったところだろうか。まだあどけなさが残っているが、端正な顔立ちをしていて、髪は艶のあるストレートのロングヘアだ。瞳は蒼くまるで宝石をはめ込んだかのような透明を誇っている。
というか何故俺の部屋にいるんだ。当然の疑問が浮かぶ。
問おうとするも激痛で声が出ない。神経がおかしくなりそうだ。
彼女がしゃがみこみ、丸まったボクの顔を覗き込んでにこりと口角を上げる。
「lt’s show time」
と流暢な英語で言い、指を鳴らすのを聞くとまた暗闇にボクは引きずり込まれた。
覚めることのない永遠の眠りに襲われる感覚がする。
死とはこんなものなのか。
そして意識を手放した。
この時ボクは、まさか異世界に召喚されるとは微塵も思っていなかったのだ。
これは、命の能力者の成長と末路の物語。
ふー。大変ですね(はやっ)
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感謝しかないです。
次回もよろしくお願いします。