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彷徨線  作者: 孤独堂
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第八話 電波塔の少女 その⑧ 消えたカメラ

 隣の教室の、斜め向かいに並ぶ様にある男子トイレと女子トイレ

 その女子トイレの中の一つの個室の中に、今小百合と小巻、そして八千代薫先生の三人は入っていた。


「何にもないじゃない」


 ギュウギュウ詰めのトイレの中で、果たして何を調べる事が出来るのかは甚だ疑問だし、とりあえず私が説明するからお前らは外で見てろよ! と、言いたい気持ちもかなりあったのだけれど、相手が先生なので小百合はその質問には冷静沈着丁寧にこう答えた。


「確かにここにあったんです」


「何処?」


 しかしそれに対してすかさず訊き返す薫先生。

 それはもとより個室の中が狭すぎて小百合が盗撮カメラのあった場所を指差せなかった為だ。


「ちょ、先生、一回中は小百合だけにして私達はトイレから出ましょう。これじゃあ説明も出来ないよ」


 だからこの状況を打破する為に小巻が口を挟む。


「ああ、確かにそうね」


 先生も盗撮の二文字に勢い込んで入っては来たものの、実際の便器を跨いで立っている様な今の状況ではどうにもしようがないという事に気付いてか、その小巻の提案には素直に頷いて見せると、小巻の肩に手を掛けて、一緒に個室の外へと出た。


 そこからはトントン拍子だった。

 小百合は盗撮用のカメラらしき物があった辺りを指差すと、それは何故か今はなかったのだが、確かに先程まではあったのだと主張しては、更にもう一人の目撃者でもある小牧へも同意を求めた。


「うん、本当にさっきまでは確かにあったんです。黒くて小さなレンズが付いていました。だから見て直ぐに盗撮とか隠し撮りとかピンと連想して。こればっかりは流石の私も忘れずにちゃんと覚えています。でも何で今はないんだろう…私達が見て、それから先生を連れて来るまでの間って、数分とかかっていないと思うんだけれど」


(いやいや小巻ちゃん、それこそ数分前の事まで忘れられちゃ困るよ)


 小百合は小巻の話についそんな事を考えては苦笑いになった。

 しかし確かにほんの数分のうちにカメラがなくなった事に関しては腑に落ちない。

 それは証拠がないという事だ。

 証拠がないという事は小百合たちにとって自分達が嘘を付いていると疑われる可能性を残す事になる。


(本当にあったのに…)


 だから先生に説明しながらも小百合は不安で胸が苦しくなった。



  ───────────────────────────────



 一通りの説明を終えると、それまでもちょこちょこ口を出しては質問して来ていた先生が、いよいよ結論を口にした。

 

「だいたいは話は分かったわ。つまり今はないけれど、確かにさっきまでは此処に何の目的でかは知らないけれど小型のカメラがあったのね」


(いやいや、あんな所にあったんだからどう考えても盗撮目的でしょ。だから犯人は女子中学生のお尻が好きな変態野郎よ)


 先生の話の冒頭ですかさずそんな事を考える小巻。

 しかしそんな小巻の考えなど欠片も気付かない薫先生は尚も話を続けて行った。


「つまりあなた達の話を信じれば、あなた達がこのトイレにいた時にも、そのカメラを設置した人はこのトイレにいた可能性があるって事ね。そしてもしかすると今も!」


 最後にそう叫んだと同時だった。

 先生は扉の閉まっている隣の個室をおもいっきり叩いては開く。

 そしてその後も並んでいる個室の扉を立て続けに叩いたり、スリットスカートから色っぽく伸びている足を高くかかげて蹴り飛ばしたりしては開けて行く。


「はぁはぁ、誰もいないみたいね」


 一通り確認して息を切らせながらそう呟く先生を、小百合達は思わぬ出来事にただその場に固まる様にして眺めていた。


「とにかく注意しましょう。とりあえず男子のトイレも含めて全部のトイレと、あと教室や女子が体育とかで着替えそうな場所も一通り調べた方が良いわね。今回証拠は何もないけれど、あなた達が不審なカメラを見たという事だし、用心には用心を重ねた方が良いでしょう。それじゃあ私はこれから絹代先生が連れて来る教頭先生とかに今の話をしなければいけないから、あなた達は先に教室に戻りなさい。そしてみんなに一時限目は自習になると伝えて」

 

「「は、はい」」


 二人は先程の先生の行動に驚いたのと、あの時二人の他にも誰かがいたのかも知れないという推測に少し怖くなって、声を上ずらせながら答えた。

 そんなだから強張った表情にギクシャクした動きで出口へと向かう二人。

 そこへ先生が再び声をかけて来た。


「そういえば『将来の夢・職業アンケート』の方、一之谷さんは出していたけれど、三原さんの方は出てなかったわよ。私が戻るまで書いて教卓の上に出して置いてね」


「へ? アンケート?」


(また忘れてたんだ~)


 先生の言葉にそう呟いた小巻に、小百合はやはりそうかと思うと、肩を落とし頭を垂れると、片手で顔を覆った。


「そうアンケート。確か一之谷さんは職業に教師って書いていたわよね」


 笑顔でそう尋ねる先生に、小百合は何だかそう書いた事が恥ずかしくなって、頬を赤くして「はい」と、小さく答えた。





              つづく

いつも読んで下さる皆様、有難うございます。

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