第六話 電波塔の少女 その⑥
今回も相変わらずSFっぽくないお話です。(笑)
「それにしても良く出来てるね。昨日は怖くて触れなかったけれど、表面はフエルトの様な感触がする…ねぇ、引っ張ってもいい」
一通り話し終えた小百合は、それまで触れていた小巻の頭から生えているバニーガールの様な耳を、そう言うと突然思いっきり引っ張った。
「痛いっ!」
だから話を聞くうちに昨夜の事を思い出し始めていた小巻は、その突然の行動にそれまでの神妙な顔から激しい激痛に叫ぶ。
「ああ、やっぱり頭から生えて来たんだ。突然頭にくっ付いたというのとは違うみたい。その激痛、神経も繋がってるんじゃないの」
小巻の叫び声に慌てて手を離した小百合は、それでも尚興味深そうにその生え際を覗き込みながらそう言うと、その接続部分を確認する様にそぉーと、再度今度は小巻の髪を掻き分けようと手を伸ばした。
「ちょっと、やめて!」
しかしそれには小巻も直ぐに気付いて手を頭の上にかざして防ぐ。
「なんで~」
「だって本当に痛かったんだもん」
不満そうな顔で言う小百合に小巻は唇を尖がらせてそう言い返すと、ゆっくりとかざしていた手を下ろして、更に話を続けた。
「思い出したよ。私が星の音階を口ずさんでいたら突然空から光が降って来て、それに包まれた後、小百合ちゃんが私を見たら、こんな変な物が付いていたんだよね。で、小百合ちゃんはなんでもなかったの?」
「私は光に包まれなかったから。周りもひどく明るい、昼間の様な明るさにはなったけれど、それは小巻ちゃんに降り注いだ光の滝の所為で。だから私は何にもなっていないと思う。それに小巻ちゃんその前に、何かにそこに呼ばれたみたいな事言っていたよね」
「うん…」
昨夜の事を思い返す様に黒目を天に向けて力なく答える小巻は、正直その事についてはそれ以上答えられなかった。何かに呼ばれた様な感覚というのを、上手く言葉で言い表す事が出来なかったからだ。
「じゃあやっぱりこれって、宇宙人の仕業か何かなのかな」
そんな中、小百合は昨晩眠れずに考えていた事の一つを口にする。
「宇宙人!?」
その言葉には黒目を上に上げて昨夜の事を色々考えていた小巻も驚いて慌てて目を小百合の方へと向けた。あまりにも突拍子もない言葉だったからだ。
「ほら、キャトルミューティレーションとかインプラントとか。TVのUFO番組で良く出て来るじゃない。だからその大きなウサギの耳も、実は小巻ちゃんの頭の中に宇宙人が色々と入れて、それで入りきらなくてそんな形になったとか」
「えーっ! 嫌だよ。じゃあこれは私の伸びた頭皮なの? そんなの絶対嫌だよ~!」
「まぁそれは半分冗談だけど」
驚いて両手を上げては自分の頭の側でそれをワナワナと震わせている小巻を見ては、笑いを堪えながらも小百合はそう付け加えた。
しかしその様子を快く思わなかった小巻は、ちょっと意地悪を思い付いては言い返す。
「でも、他の誰にも見えないらしいこの耳みたいなの。小百合ちゃんには見えるんだよね~? それって小百合ちゃんも昨日の夜の事に何か影響を受けたって事じゃないの」
「えっ?」
確かにそうである。
他の人には見えない物が二人にだけ見えるというのは、二人だけが幻覚を見ているのか、それともやはりそれは実在して、その上で二人にしか見えない物なのかのどちらかである。
つまりは小百合にも何らかの影響はあったという事は明らかなのだ。
その事を全く意識していなかった小百合は、小巻の言葉に面食らったと当時に、では自分は何処かあれ以降変わった所はあるかと思考を巡らした。
だが、その間にも小巻は追撃の手を緩めはしない。
「思うんだけどさ~。私には頭の上にこのウサギの耳の様な異物が付いたんだよね。だから思うんだけど、もしかして小百合ちゃんも何処かにこういった棒状の異物とか付いてるんじゃないの?」
「えっ? ないよ。そんなもの私には何処にも付いてないよ」
小巻の言葉に考えも纏まらないまま、今度は小百合は自分の体を紺色のスクールジャージの上からだが、慌てて見回す。
「いやいやいや、見えないとこかもよ。それに私のは頭の上だったから、小百合ちゃんのは下の方かも知れない。ほら、丁度そこなんか♪」
そう言って小巻が厭らしそうな顔をして指差したのは、小百合の股間だった。
「な、なに言ってるの小巻ちゃん!」
だから小百合は慌ててジャージの上から自分の股間の所を両手を合わせて隠す。
「こんな所にそんな物生えてる訳ないでしょう」
「いやいやいや、慌てて隠す所が尚怪しい。もしかしたら小百合ちゃん、男子のオチンチンみたいなのがそこに生えてるんじゃないの~!」
言うが早いか、小巻はそう言うと中学生独特のちょっとHなネタに大興奮した様な異様な満面の笑みで小百合のジャージの下を掴んだ。
「ちょっと、やめて!」
それには叫び声をあげて後ろへと後ず去り、、逃げようとする小百合。
「良いではないか~良いではないか~」
それを面白がった小巻は更に掴んだ部分を力強く引っ張ると、ジャージの下を脱がそうとする。
「だからもう止めてよ~」
小巻の表情にふざけているのは分かっているものの、当たり前の事だが小百合はジャージを脱がされパンツ丸出しになる事は嫌だった。
だからずり下げられるジャージを手で一所懸命引き上げると、小巻から逃げる様に女子トイレの中を個室の一つへと逃げ込もうともがく。
そしてもう押さえている前はともかく、後ろはずり落ちて小百合の綿100%、ねずみ色の細かいチェック柄のパンツが半分も姿を見せた時だった。
ようやく個室の扉を開き中へと入った瞬間、小百合はそこにとんでもないものを見たのだった。
「ちょ、ちょっと小巻ちゃん。たんま」
そう言うと突然それまでの抵抗をやめて両手をぶらんと下げると、立ち尽くす小百合。
車は急に止まれない。その事で小百合の下のジャージごと小巻はトイレの床へと引力によって引っ張られては落ちて行く。だから慌ててジャージから手を離すとそこに両手を付く小巻。
もちろん小百合のジャージは脱げて、パンツは丸出しだ。
しかし彼女の股間には、先程まで小巻がふざけて言っていたオチンチンの様な異物はやはり何も生えてはいなかった。
「ちょっと、痛ーい。急にやめるからトイレの床に手を付いちゃったじゃないの~」
ふざけていた自分が悪いのに小百合に文句を言いながら立ち上がる小巻。
しかし小百合はそんな小巻を振り返り見る事もなく、相変わらず個室の中の方を向いたまま立ち尽くしていた。
そしてパンツ丸出し。ジャージを上げて直す事もなく口を開く。
「小巻ちゃんあれ、盗撮のカメラだよね…」
その頃二人の教室では、担任の八千代薫によって、既に朝の出席確認が終わっていた。
つづく
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