#067 『 火蓋 』
投稿が遅れてしまい申し訳ありません!! m(_ _)m
まだ朝日が上ってもいない早朝。
俺はわずかに降る雪の中、軍を引き連れてカーディフ西側にある小高い丘の上に陣取った。
丘の上は比較的に平坦だが、カーディフのある東側へは多くの樹々と登るのは大分キツイぐらいの急な斜面があった。
加えて、斜面がなだらかになる場所には幅三十メートルほどの川が流れていた。
そんな場所を俺は一気に攻めようとしていた。
構築した陣の中で俺は工作兵達を呼び出すと、今作戦における攻城兵器の立ち回りを説明した。
また、歩兵や弓兵、騎兵などにも同様に作戦を伝え、各々の役割を果たすようにした。
そうして、朝日が登ったタイミングを見計らい、俺は馬に跨りながらも剣を腰から抜き、短い演説を兵達を見て行う。
「諸君らを侮辱した敵に私は膝を曲げたりはしない!
今戦いも敗北するのは我らではなく、城壁の中に籠る奴らだ!!
故に兵達よ!! 今こそ力を見せよ!!!」
力強く、それでいて簡潔かつ明確な演説に兵達の士気は高まった。
その様子に畳みかけるように俺は演説を続け、兵達に最後の言葉を送った。
「いざ!! 進めッ!!!!」
そう告げて、俺は天に剣を掲げて手綱を精一杯引き、馬の前足を上げさせて声高く鳴かせた。
その様子に兵達の士気は上がり、兵達の上げる声だけで僅かに大気が震えたと思えるほど大きな声で「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」と唸りを上げた。
こうして作戦開始の合図を送った俺を置き去りにして兵達は我先にと急斜面の林へと入り、カーディフ西側の城壁を目指した。
そして、防衛隊とともに小高い上に残ったオリヴィアに笑みを向けると俺も兵達にならい馬を急勾配の林へと突っ込ませた。
ベディヴィアも俺と同じように馬を林の中に突っ込ませ俺の後方を守ってくれていた。
林の中に入って数秒。
突如、後方からガコンと一際重たく大きいししおどしが何かを叩いかのような音が響き渡り、頭上高くを五つの火球があたりをわずかに照らしながら飛んでくる。
ヒューーーとまるで矢のように風を切りながら飛んでいく五つの火球を追って俺は前線へと向かった。
だが、俺が林を抜けるよりも先に火球の方が先に城壁へと辿り着き、ドカンと爆発音を響かせて、敵の防衛の要であったバリスタをほぼ正確に射抜いて使用不可能にしていた。
そこへ一気呵成に迫る我がウェストリー兵に対して敵軍は反撃をしようと一気に弓を放つ。
今だわずかに雪の降る中で雨のような矢を見分けるのは難しく、タイミングを読みきれなかった者や降り積もった雪に足を掬われ滑った者などは敵の矢によって一気に倒れていった。
だが、幸いにも前線の中には持ち前の盾を掲げる兵士もおり、全ての兵が被害を受けたわけではなかった。
とはいえ、今の一撃でかなりの兵達が傷を負い、後退せざる終えなくなった。
しかし、今の攻撃で敗北を受け入れて都市攻略を諦められるはずもなく兵達はさらに勢いを増してカーディフの城壁へと迫った。
その様子をようやく林から抜けた俺とベディヴィアが捉える。
敵は城壁上で使えなくなったバリスタをなんとか稼働させようと修理を急いだが、依然として俺の後ろにある城壁を越える高さにある丘からの投石を防げるはずもなく、次々と降り注がれる火球から逃げるように慌てふためいていた。
同時に城壁に亀裂のようなものが一瞬走った。
その瞬間を逃すことなく視界に捉えた俺は叫び、命令を下す。
「もうすぐだ!! もうすぐで城壁が崩れる!!! それまで持ち堪えて、なんとしてでも川を渡るんだ!!!!!」
俺の声に感化されてか、兵達が一斉に雄叫びを上げると雪崩れ込むように城壁へと走り出した。
瞬間、一つの投石器が解き放った火球が川側に面している城壁面にぶつかり、爆発音と大地をわずかに震わせる振動、そして粉塵が最前線にいる兵達を襲う。
わずかな爆風に兵達が耐えること数十秒。
ようやくして振動が収まり、舞い上がった粉塵が空気によって晴れた瞬間、目の前に広がる光景を兵達は一気に目を輝かせて眺めた。
先程の爆発によって、ついにダメージに耐えきれなくなった城壁が崩れ、その間からは朝日が顔を覗かせていた。
その光景に兵達は勝利を確信し、なおも前進する。
同時に、最前線にいた工兵達は即座に自分たちの仕事をこなし、幅三十メートルある川に簡易的な橋をかけて、後続兵の通り道を確保する。
そうして、カーディフの都市へと続く道が完成すると俺は兵達を鼓舞するように叫ぶ。
「今だ!!! 突き進め!!!! 勝利は目前だぞ!!!!」
矢が降り注ぐ中で俺は馬を駆けさせて、前線を一気に走り抜けて川を渡り、崩した城壁からカーディフの都市へと入る。
すると、城壁を崩した場所を囲むように、剣を構える敵部隊が数百人いた。
しかし、俺はそれを気にすることなく、後ろに続く兵達をあてがい、一気に情勢を自分の方へ傾ける。
城壁を崩し、都市内部へと侵入できた時点で俺は計画の第一段階は完了しており、続く第二段階においては出入り口の確保を考えていた。
そのため、俺は一部の兵達に城壁の内部へと続く廊下を剣で指し示しながら攻略するようにと命令を下す。
途端、兵達は即座に命令を受け、数十人で城壁内部へと侵入し戦闘を繰り広げる。
同時に俺は一度はベディヴィアからの報告を受ける。
「陛下、どうやら第二軍、第三軍も予想よりも多少被害はあれども突破できたようです。」
「わかった。では、騎士を十人、兵達を三十人集めてくれ。
敵の中央を叩きに行く。」
笑みを浮かべながら告げるとベディヴィアは「かしこまりました。」とだけ告げて兵達の中へと消えていった。
そんな時だった。
カーディフ城内部にある鐘の音が都市中に響くようにゴーンゴーンと聞こえてくる。
瞬間、俺は敵の増援を覚悟し戦闘への参加を余儀なくされる。
鐘の音というのは本来、都市の開門と閉門を知らせる人々の時計の役割をになっているがそれとは別にもう一つの役割をも担っていた。
それは、侵入及び脱走についてだった。
犯罪者の脱走であったり、捕虜の脱走。敵の侵入や暗殺者の侵入の四点では警告の意味を込めて鐘が鳴ることがある。
特に今回の騒ぎでは敵の侵入にあたるために鳴ることは予想していたが、俺はなるのはもう少し後と考えていた。
なにせ、この時代においては高速通信の手段がほぼない。
あるのは精々、鐘の音や伝書鳩や伝書鷹のようなものばかり。
細かい内容を伝えたり、長い文面を伝えることは困難。それなのにこうも早く敵に内容を知られた場合には各場所からの応援が呼ばれることになる。
そうなれば、一気に物量責めにあった俺たちは徐々に劣勢へと追い込まれることになる。
兵力差が敵に有利に働く以上、長期的な戦闘は不利だと考えた俺はそれ故に奇襲性に富んだ今作戦を利用して、都市内部へと侵入。
機動戦を駆使して、一気に敵の頭をおさえるという斬首作戦を考えていた。
指揮官なき軍はただの武装した集団と同じ。
まさにそのような言葉を今作戦で俺はしようとしていた。
だが、敵のそれはそれで馬鹿ではない。
容易にやられる筈もなければ襲いかかる者に抵抗しない筈もない。
ともなれば、必死に俺たちを都市外へ押し返そうとあの手この手を利用するだろう。
敵に追い込まれるより先に敵を追い込み、殲滅する。
もはや前線の突破しか道はないと考えると俺は兵達とともに剣を握り、迫る敵兵を次々と薙ぎ払った。
そうして続くこと一刻。
敵の増援よりも先にベディヴィアが強襲部隊を引き連れて戻ってきた。
「陛下、お待たせしました!!」
「わかった。ではカーディフ城へと行くぞ!!」
短く告げて、俺は馬を走らせて前線を強引に突破して都市の内部へと一気に踏み込む。
都市の内部では敵兵がウジャウジャと集まり始めており、一部の場所では馬が通れないように木製の拒馬が使われていたが即座に進路を変更したことで特段の被害を受けることなく、俺とベディヴィア、そして強襲部隊の皆がたどり着けた。
遙か後方では黒煙が上がり、都市の西側近くでは火災等も発生していたがそれ以上に城のところからも聞こえてくる戦闘音が戦いの熾烈さを物語っていた。
「よし、ではカーディフの城へと入るが、その前に目標の再確認だ。
目標はただ一つ、ここカーディフ城城主の身柄確保だ。
そして、抵抗する者がいたら容赦無く撃退しろ。
それと、もし城主と出会ってしまい抵抗するようであれば、腕や足の二、三本は切り落としても問題ない。
ただ、殺すことは禁じる。いいな?」
「「仰せのままに!!!」」
◇・◇・◇
アルトスがカーディフ城へと到着した頃、オリヴィアはわずかな兵達と共にカーディフの城壁を攻略していた。
「このッ!!」
まるで流星のような素早くも正確な一撃を相手の兵に叩き込む。
刹那、敵は電源が切れたロボットのようにその場にバタッと倒れ、オリヴィアは剣に付着した血をサッと払うように振り払った。
「妃殿下。敵の残党はあらかた始末しました。
城壁は我々の物です。」
「……そう。」
立て続けの戦闘によって一気に体力を消費したオリヴィアは肩で息をしつつも短く応えた。
瞬間、どこからともなくコツコツという足音と不気味な笑い声が城壁内の廊下に響き渡る。
咄嗟にオリヴィアは剣を構えて、あたりに視線を動かす。
そうしてようやく見つけた音の発信者を見て、驚きのあまり目を見開く。
「!!!」
そこには以前、講和の交渉役として自軍の陣地にきた男ことグレイとその他、少数の敵騎士がいた。
「……グレイ殿。」
そう呟くオリヴィアに当のグレイは特段、何も言わずに先程の兵が告げた内容への訂正を求めた。
「勘違いしないでもらいたい。ここは依然として私たちのものです。」
そう告げるグレイの目にはどこまでも冷酷で鋭いものだった。
突如現れた強敵の存在に兵達は一斉にオリヴィアの前に出て敵を牽制する。
同時に隊長クラスの兵が慌てるように自分の後ろにいるオリヴィア王妃に告げる。
「妃殿下。道は我々が切り開きます!! ですから、どうか皆がいる場所までお逃げください!!」
「いいや、私は逃げない。」
だが、兵からの提案にオリヴィアは即座に拒絶すると、そのまま敵を見据えて剣を構え続けた。
「妃殿下ッ!!!!!」
慌てるように催促する隊長クラスの兵にオリヴィアは落ち着いた声で告げる。
「私は王妃。この国の民を従え、そして導く者。
故に敵を目前に、民を置いて逃げるなど私はしない。」
そうして一拍をおき、呼吸を整えるとオリヴィアは兵達を鼓舞するように叫んだ。
「総員、覚悟を決めなさい!! ここで彼らをやるわよ!!」
王妃の覚悟を真摯に受け止めて兵達はようやく自分たちのしようとしたことを後悔する。
だが、即座に気持ちを切り替えて、王妃の命令を受領する。
「「はい!!! 仰せのままにッ!!!」」
こうして、城壁中で名もない戦いの火蓋が切って落とされた。
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