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Godin Fantasy —異世界建国譚—  作者: 高峰 遼一
第一章 女神の選定と竜の刻印
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#005 『 船旅 』

ヤード・ポンド法は、よくわかんね。

( ^∀^) <ハハッ!!

 ホーリーヘッドへ戻ってすぐ俺とフィンはカーナヴォン行きの商船へ乗り込んだ。

 行きの船と言えども定期船のようなものではなく、むしろ目的地が同じの船に乗船させて貰い連れて行ってもらうと言う前世でのヒッチハイク的なものだった。


「それにしても少し肌寒いな。」


 一人、船の甲板で海を見ながら言う。

 船とは言えども前世の知識を持つ俺に比べれば、どちらかというと面長で低いガレー船と小さくギュとしているコグ船の両方を組み合わせた船だった。


 帆のある主柱は船中に一本と大きく推進力はあるものの想像していた船とは違ったため、少し残念に思えた。


「それもそうですよ。今は夏と言っても結構冷えていますから。」


 フィンが俺の肩に布をかけると続けて言う。


「そよれりもアルトス様、これ以上はお体にさわります。ですから、船内へ。」


「船内とはいってもほとんど荷物の山に囲まれながら物の様に運ばれるだけだろう。それならば遠慮する。」


 皮肉交じりに告げる俺に一瞬、航海士兼船長はムッと顔を歪めたが俺の身分を知っているせいもあり、特段何も言わなかった。



 ガレー船を少し大きくしてコグ船へ近づけたかのようなこの船は主に商業などに使われることが多い。

 それは通常のガレー船と比べて積載量が多く、また帆による推進力も高いことからである。


 本来、ガレー船というのは何十人という人に櫂をこがせて推進力を得る。

 だが、この船の主な動力は風による帆の推進力。

 そのため多かった人を少なくさせることができ、より荷物を多く載せることができるようになった。

 また、形も俺の想像していたガレオン船のような船だがその際部は少しばかり違う。


 船の動力は帆による推進力だけではなく、中には数名の水夫がおり必要に応じて櫂を漕ぎ推進力を得る。

 これは凪に遭遇した時の対応策であるため、よっぽどの時しか使われない。


 また、甲板はまるで一枚板のように真っ平の様であり、ガレオン船などにみられる船首と船尾にある大きな段差がほとんどなく、船内へ行くには甲板に備え付けられた扉を開けて梯子で降りるしかない。


 それに加えて、端の柵もあまりないことから風や波の強い時には甲板は非常に危険な場所になる。

 そのため海上交易を主に仕事にしている交易商人にとって海とは死と隣り合わせの場所となる。


 例え、死ななかったとしても商品を失えばその分の費用は無駄となる。

 また、船が傷つき使い物にならなかったとしても商売道具を失うことになる。


「…………これは早急に、改良が必要だな。」


 隣にいるフィンに聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で俺は一人、零すように呟くと自分の上を覆う壮大な蒼穹を眺める。

 何処までも続く蒼穹に俺は心を奪われ、目を閉ざす。


 波風の音や海鳥の鳴き声が響き渡る中、かすかに潮の香を含ませた風が頬を掠める。

 まさに海という光景に俺は心を躍らせた。




 二度目の人生にしてようやく息苦しかった何かが払拭され、俺は心の底から安寧を得た。

 前世の世界は平和で穏やかだった。

 だが、一方でうるさく、眩しすぎていた。


 毎日のように右から左へと情報という目に見えないものが流れ、その中で生きる。

 それはまるで常に情報という洪水の中に埋もれ、流されるようだった。


 世界の裏側で起こった出来事がものの数分、下手をすれば数秒差で朝食の食卓で流れる。

 こうした、ある意味革新的な技術によって世界は狭くなり、知らないものがなくなるほど多くの情報を子供のころから刷り込まれる。


 そうして育った子供というのは夢や希望というものを砕かれる。

 宇宙飛行士になりたい。サッカー選手になりたい。

 そう、子供の頃に思っても大人になるにつれて、自分は無理だと思い知らされる。

 周囲の人たちも同じようにお前には無理だと言い、諦めさせる。


 そんな雰囲気、空気を心の奥底で俺は息苦しく感じた。

 だからこそ、この二度目の人生は俺を大きく変えた。


 あたりに映る光景はどれも新鮮なものであり、前世と比べればかなりというほど非効率だが、それを営む人の顔には常に笑顔があった。悲しみがあった。怒りがあった。嬉しさが溢れ出ていた。


 そんな人たちを見て、俺は前世の人たちと比べた。

 毎日似たようなスーツを着ては真顔で通勤し、労働しては帰宅する。

 そんな同じ毎日を一分一秒の狂いなく送る––––––––まるで、機械の歯車のように生きる毎日。


 平和であることが当たり前の社会で、娯楽はあるものの楽しみはほとんどない。

 仕事も頑張ればすぐに他の人から何頑張っちゃってんのと言われ裏や陰で意識高いとののしられる。

 そんな退屈な世界で俺は何も成すこともせずに亡くなり、転生を果たした。


 なぜ、俺なのか。なぜ、俺であるべきなのか。そんなことは、わからない。

 だが、俺はこの転生を果たして、生きていることを実感した。




「…………ムス様ッ! アルムス様ッ!!!」


 俺の肩をがっしりとつかみながらフィンは叫ぶ。

 それに対して、目を開けた俺はゆっくりと、落ち着いた口調で応える。


「どうしたんだ、フィン。」


 俺の落ち着いた態度に面を食らうとフィンはすぐさま肩をつかんでいた手を放し、すみませんと軽く頭を下げながら謝罪する。

 そして、下げていた頭を上げるとフィンは本題へ移る。


「もう間もなく、カーナヴォンに着きます。」


 そういうと俺は笑みを浮かべて遠くに見える堅牢な城を眺める。

 莫大な出費と膨大な労力を投入して改築されたカーナヴォン城。

 その端には多くの船が行きかう中規模程度の港があった。


 多くの商船や漁船が帆に風を孕ませて行き交うその様に俺は街の賑やかさを想像した。


「それにしても大きいな。」


 近くカーナヴォン城を見上げて俺は呟いた。


「そうですね。今回、改築した城壁は高さは二十六フィート、厚さはおよそ四ヤード、全長三マイルですからね。実際、エクトル卿から改築を指名された石工職人の伝説的な名工たるジェイムズも計画を見た際には、首を傾げましたから。」


 俺の呟きにフィンが水を得た魚の様に突如として、生き生きとした口調と輝きの籠もった目で説明してくる。

 その説明を聞いていた俺は内心、色々と混乱をしていた。


 古代末期から中世前期の時代水準にいるこの世界では、前世で当然の如く使われていたメートル法などはなく、むしろ古の時代から慣例として使われている人体の一部を基礎とした長さを基準とする単位から発展し独自に進化したヤードポンド法が使われていた。


 また、独自に進化したこともあり、地域によってはヤードの長さが違ったり、ポンドの重さが違ったりと色々問題がある。


 そのため、王国は統一的な度量衡を作るべく長さ、体積、重さの基準を決めたが、それらが普及しているのは王国でも一部の大都市であり、地方では普及していない。


 むしろ、地方では昔ながらに使っている自分たちの度量衡をなぜ変えないといけないのかとさえ思っている。

 そのため、未だ統一的な度量衡はない。


 実際、エクトル領でも民衆の反発もあり、民衆間では王国の定めた新度量衡は普及しておらず、昔ながらのヤードポンド法を導入している。

 ただ、エクトルなどの貴族や豪族、一部の商人内では王国の定めた新度量衡を導入しているため、王国においてある意味では統一的な働きをしている。


 ただ、今年起こった冷害による不作で度量衡の問題も浮上しているため、近いうちに度量衡問題が再燃するのは目に見えいる。


 俺も俺で、メートル法にいちいち脳内変換するのは大変なため、いち早くメートル法を導入したいのだが、辺境伯の一子息にそのような権限などはなく、困り果てていた。


「それよりもフィン。例の司令官は俺たちの訪問には気づいていないのか?」


 一頻り、話終えたフィンに俺は冷静な態度と口調で訊ねる。


「そのようです。もし、気がついていましたら今頃、この船の周囲はあそこらで停泊している軍艦によって護衛及び先導を理由に囲まれています。」


 港の奥に停泊しているいくつかの軍艦もといガレー船を指す様に腕を伸ばすフィンに俺は頷く。

 それを見て、フィンは俺の質問に応え続ける。


「また、そうでなくとも港の方ではアルトス様を迎える為の兵士や音楽隊、馬車などがあるはずです。ですがここから眺めるあたり一切、その様な動きなどはないので気が付いていないどころか、知らないと思います。」


「なら、いいな。」


 俺は、フィンとの会話を一旦切ると船尾で操縦する船長に向かって叫ぶ。


「船長、このまま係留してくれッ!」


 俺の命令が届き、船長は船を操作する。

 次第に、港へと近くと船長は“係留準備ッ!!”と叫ぶ。

 すると、船内にいた水夫達が瞬く間に甲板に集まり、各自の持ち場へと走る。


 力のありそうな者は船を繋ぎ止める綱をもち、係留する為に接岸する瞬間を待つ。

 また、目のいい者は船長の元へ行き、係留する場所を教えていた。


 こうして幾人の力を合わせて船はゆっくりと係留の準備を進めていた。


 船が係留所の桟橋に近づくと力のある水夫が勢い良く綱を投げ、上手いこと係柱に絡ませると水夫はすぐさま係柱とは反対方向へ綱を引く。


「なぁ、フィン。軍艦はどのように停泊しているのだ?」


 水夫の働きを見て俺はフィンに訊ねる。

 フィンは一瞬、不思議そうな顔をするとすぐさま応えた。


「そうですね。詳しいことは私も専門外なのでわかりませんが、昔の友人曰く軍艦などの大型船は木と鉄でできた重い錨が備え付けられているそうです。」


 フィンの答えに俺は“そうか……”とだけ言うと、船から降りる用意をする。


 その様子を見て、フィンも慌てて用意をし始めるが近づく気配に気がつき、すぐさま顔を上げ全神経を尖らせる。

 だが、近づいてくるのがここまで連れてきてくれた船長だと認識すると警戒心を解き、隣にいる主人に小さい声で耳伝いに伝える。


「アルトス様、船長が来ます。」


 フィンからの耳伝いによって、船長が来ることを知った俺はまるで猫を被るように、笑みを浮かべ、親しみ易い口調と雰囲気で船長を迎える。


「アルトス様。無事、カーナヴォンへ着きました。」


 船長は礼を尽くし手短に要件を伝える。

 また、身分制度故に自分よりも幼い同性に頭を下げながら敬語で話す。


「いやはや、ここまで早く到着するとは……。これもひとえに船長の力量によるものですかね?」


 笑みを浮かべながら、俺は船長と如何にもな形式的会話を行う。

 表面だけを取り繕うその様はまるで旧知の中の様だった。


 船長との形式的会話をすること一分。

 長引きそうだった船長との会話を隣にいたフィンが強引に断ち切る。


「いやあ、どうもすまない船長。どうやら時間が来てしまったらしい。あとの話は今度会った時に何かを飲みながら。」


「なんとッ! さようですか。では、次お会いになった時にでも。」


 船長は頭を下げ、礼を尽くす。

 船長のお見送りを受けながら俺とフィンは荷物を持ち、船を降りる。


 船を降りて早々、桟橋の景色が歪み、上下へと揺れ動く。


「くッ————」


 胃から逆流する感触に、俺は一瞬で口を塞ぎ奥歯を強く噛む。

 それに加えて、陸酔いによって倒れそうだった足と意識を何とか持ちこたえさせると、付近に積み上げられた木箱の隅に隠れる様にと視線でフィンに告げる。


 俺の視線を受け、その意味を理解したフィンはすぐさま俺の腕を自分の肩まで回し支えとなってゆっくりと歩き出した。


『面白かった』

『続きに期待ッ!!』

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