#066 『 雪の降る夜 』
投稿が遅れてしまい申し訳ありません!! m(_ _)m
「お初にお目にかかります、アルトス王よ。
私はシオール家の次期当主。名をグレイ・シオール。以後、お見知りおきを。」
王族専用の天幕の中でベイロン、ベディヴィア、オリヴィア、俺の計四人に見られながら、礼儀正しくお辞儀する男性に俺は目を光らせた。
男性の見た目は、二十代と思えるほどに若く、赤ワイン色の貴族服を纏っていた。そして、腰には愛剣の剣が一本、ぶら下がっていた。
「こちらこそよろしくお願いする。グレイ殿。」
互いに笑みを浮かべる中で、俺は早速とばかりに本題へと移らせた。
「して、何用かな?」
あくまでも、こちらが上であることを確認するように挑発を行う。
だが、グレイと名乗る男は特段顔を歪めることもなければ反応を見せることもなく、優しい笑みを浮かべたまま応える。
「すでにご存知でしょうが、改めて言わせていただきます。
軍をお引きください。」
軍を引け––––––––その言葉を聞いて周囲は一瞬にしてピリついた。
張り詰めた空気が天幕の内側に張り詰める中でも、男は胸をはりさらに続ける。
「もうご存知だと思いますが、これ以上の攻勢は不可能なはずです。
外にいる兵をご覧ください。皆、寒さに震えて動けもしない。
仮に動けたとしても、この寒さの中で籠城した都市を落とせるはずもない。
我らがカーディフには、山のような食料と暖房のための薪があります。
それこそ一冬を追い越せるほどです。
そうした中でなおも貴方は無謀な攻勢をかけるのですか?」
つい数秒前までの表情から変わり、今度は俺を下に見下すような下卑た笑みを向ける中でグレイは続ける。
「確かに貴方は強い、それは認めましょう。
だが、それだけです。所詮、貴方は我らには遠く及ばない、ただの匹夫の勇なのです。
そうでしょう? 現に貴方の軍は我々をここまで追い込んでいるにもかかわらず、目と鼻の先にある都市一つすら陥落させられない。
故に、軍をお引きください。これ以上の無駄な犠牲を払う前に。」
こちらの神経を逆撫でする口調で告げるグレイに俺はただ黙って聞いていた。
だが、我慢の限界なのか俺の後方にいたベディヴィアとベイロンが一斉に腰にあった剣に手をかけて今にでもグレイ目掛けて襲い掛かろうとしていた。
「ふざけたことをッ!!」
「このッ!!」
そう告げるベディヴィアとベイロンを俺はそっと左手を上げて止めると鋭い眼光でグレイを睨みつけた。
「……話はそれだけか?」
静かに告げる俺に、グレイは圧倒されたのか数歩引き下がると僅かに震えた声で「ええ、そうです。」とだけ応えた。
数秒の沈黙が流れ、俺は一度深く深呼吸すると再度口を開き、グレイに告げる。
「まず、我々は軍を引かない。」
そう告げる俺にグレイは一瞬「何を、馬鹿なことを……。」と口ずさんだが、それを無視して俺はなおも話を続けた。
「次に、我々を下に見るのも大概にしろ。我々は誇り高き騎士だ!!
そして、その騎士に跪くのはお前達だ!!! お前をここに送ってきた城壁の中で籠る愚かな貴族達に伝えろ!!!!
三日だ。三日でカーディフの都市を陥落させてやるとな!!!!!」
「なッ!! 何を馬鹿なことを!!!
三日でカーディフを陥落させるなど不可能だ!!!」
俺の発言に驚きながらも声を荒げるグレイに俺は静かに怒りの篭った声で告げる。
「不可能かどうかは三日後にわかることだ。
それよりもお前は自分の心配をしろ。我らを侮辱した罪は重いぞ。」
そう告げて俺はわずかにオーラを放った。
刹那、怒りに燃えた俺のオーラを至近距離で浴びたグレイはバタッとその場で尻餅着く。
ブルブル震えながらも、こちらを僅かに睨むグレイに俺は短く「行け。」とだけ告げると、そのまま慌てて天幕を出て行った。
「さて、腹は定まったな。三日後、カーディフの全てを手に入れる。」
怒りに燃え、広げた手を強く握りしめて告げる俺とは対照的にオリヴィアやベディヴィア、ベイロンの三人は小さく震えていた。
◇・◇・◇
数時間後。
ようやくオーラが完全に治ったのを確認したと同時に俺は天幕で出て数時間ぶりの外の空気を肺いっぱいに吸った。
怒りの感情をそっと胸の中に仕舞い込み、冷静さを取り戻した俺は三日というタイムリミットの中で如何様にカーディフを攻め落とすかを考えた。
カーディフという都市は南東方向に巨大な港があり、その周囲を長大な城壁が囲んでいた。
そしてその中心部にはカーディフ城が丘の上にポツンと佇み、来るものを威圧していた。
城壁の高さは約五メートルほどだが、各五十メートル程の間隔でD型の側防塔が築かれていた。
そして、そうした側防塔の二つに一つが城壁上部にバリスタを備え付けていた。
加えて、城壁までには約二メートルほどの堀と盛土があり、盛土には逆茂木が侵略者を拒むように刺さっていた。
堅牢。ただそうとだけしか表現できない都市防衛に俺は曇り空を眺めて思った。
いかにして、被害を最小限かつ短期間で攻め落とすか。
そうした疑問が脳内で幾度となく繰り返されていくうちにいくつかの戦術を脳内でシュミュレーションする。
だが、どれも被害が多いか、時間がかかりすぎるかの二つにしかならず、三日という短時間では到底、都市攻略などはできないように思えた。
そんな時、空から小さな白い綿雪がポツンと俺の鼻先を捉えてゆっくりと降ってくる。
刹那、雪が俺の鼻先にあたり溶けていく。
その様子を見て俺は脳内である作戦を思いつく。
そうして俺は笑みを浮かべて、一人小さな声で呟く。
「まさに、天の時だな。」
その日の夜。
兵達には早めに暖かい食事を与えた後、俺はベイロンと各部隊の隊長を国王専用の天幕に呼びつけて軍議を行った。
「さて、これより軍議を始める。」
一人、笑みを浮かべて告げる俺に各部隊長やベイロン、ベディヴィアとオリヴィアは不安の眼差しを向けていた。
◇・◇・◇
「あははははは。馬鹿なことを申すな、グレイ殿。
この都市がたかが三日程度で落ちるはずなかろう。」
腹を抱えて笑う男性にグレイはアルトスの言葉を届けていた。
『三日で落とす––––––––。』
その言葉になぜかグレイ自身も妙に感じていた。
都市の防衛能力についてグレイ自身は誰にも負けないくらいに知っていただが、その知識を持ってしてもグレイの胸の中にあった疑念は払拭されなかった。
「良いか、グレイ殿。この城は過去二十年間、敵の手に落ちたことはただの一度もない。
それがどういう意味かわかるか? な、わかるよな。皆の衆!!」
「「然り!! 難攻不落の都市カーディフ!!」」
「な、わかっただろ? グレイ殿。ここは難攻不落。誰もこの都市を落とすことなどは不可能。
例えどのような兵力を持ってこようがここを落とすことは無理だ。
だから、安心したまえ。」
「そうですね。杞憂でした。」
「それより酒だ。酒を飲め。ほれ!!」
「いえ、私は結構。これより見回りに行きます故。」
そう告げて、グレイは宴会を行っていた会場を後にした。
夜の月光にのみ照らされた城の中でグレイは一人、考える。
ここまで、連戦連勝をしてきた若き王が策なくして攻めることはない。
確実に落とせる判断がある。もしくは、すでに内通者を忍ばせており、時間とともに内門を開ける手筈となっているか。
どちらにせよ。兵達には今以上の警戒を促し、怪しい人物は誰であろうが即刻捉えて調べなければならない。
敵が攻めてくるのであれば迎え撃つまでのこと。
「残りわずかな時間の中で逆転できるのであれば逆転して見せろ。アルトス王よ。」
一人、城の廊下で呟くグレイはズカズカと歩み出し、兵達のいる休憩所を目指した。
◇・◇・◇
その頃、アルトスの命令でベイロンは少数の兵を連れて、雪が静かに降る夜中に城壁の近くまで近づき偵察を行っていた。
「ったく。寒いな。」
そんな悪態を吐きながら、ベイロンは堀の幅や深さを改めて計測し、城壁の弱点となりそうなところを探し、都市の攻略法を見つけようと躍起になっていた。
雪の降る夜の中で、松明の光もない状態での作業では正確な計測などできようはずもなく、ベイロン含め少数の兵達は大まかに測った。
加えて、城壁上部には今なお数十人もの兵達が寒さに震えつつも見張りを継続しており、もし見つかれば一網打尽にされるのはまず間違いないくらいに危険な作業を黙々とこなしていった。
「どうだ? 見つかったか?」
小さな声で訊ねるベイロンに偵察した兵は告げる。
「いえ、見つかりません。やはり、ないのでは?」
「いや、必ずあるはずだ。ここ近年は特に修繕した話は聞かないしな。」
「……わかりました。再度、別のところを探してきます。」
そう告げて再度、危険な城壁へと赴く兵士にベイロンは小さく「すまない。」と謝罪する。
そんな時だった。
ベイロンの後方でガサガサと草が擦れる音が響き、人影のようなものがふっと現れる。その人影にベイロンは反射的に剣を向け、首を飛ばそうとするが、寸でのところで剣をとめ、人影だった人物の首を少しだけ斬りつける。
「なんだ、お前らか。」
そう告げて、剣を納めるベイロンにまた別の所の城壁を偵察した二人の兵の内、一人が腰を抜かしながら「生きた心地がしませんでしたよ。」と胸に手を当てて愚痴をこぼした。
その様子に笑みを浮かべながら「すまなかった。」とだけ告げるベイロンにもう一人の兵が告げる。
「ありました。一見して見えにくくされていますが西側の城壁で一箇所だけ劣化が激しいところがあります。
恐らく、すぐ破れるかと!!」
「でかしたぞ!! これで城壁をこじ開けられる。
あとはアルトス様の思う通りにことが運ぶ予定だ。
お前達、早急に残りの偵察部隊に告げろ。帰還するとな。」
「「はい!!」」
◇・◇・◇
ベイロンが都市の城壁を密かに調べていた中でカーディフの都市内でグレイは兵達から止めどなく上がってくる報告に目を通していた。
「クソッ!! いったいどうなっているんだ!!!」
そう告げながら、頭を掻きむしるグレイの手元には届けられた兵達からの報告が簡潔にまとめられたメモ書きがあった。
北門付近に怪しい人影あり。西の城壁付近に複数の人影あり、などの情報が記されていたが、どれもこれも人影ばかりでその実態は不明だった。
正体のわからない不気味な影に兵達も怯え始めていた。
警備の手が薄まる夜間でたびたび目撃される正体不明の謎の人影に翻弄されながらも、仮に敵であった場合を考慮して兵を動員していたグレイはすでにアルトスの手の中で踊っていた。
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