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Godin Fantasy —異世界建国譚—  作者: 高峰 遼一
七王の戦旗
65/70

#062 『 王の資質 』

今日から毎週火曜と金曜の15時に投稿します!!( ^ω^ )

なお、理由等につきましては活動報告をご覧ください。

 タルボット子爵の剣が振りかざされると同時に俺は剣を構えて防ぐ。


 バチっと小さな火花が散りつつ睨みつけ合う。

 そして、互いに距離を取るように俺は後方へ飛び、タルボット子爵は手綱を引いて馬を移動させた。


 馬上からの有利を依然として捨てるような真似はしないタルボット子爵に俺は、落ち着いて対処する。


 はぁーと呼吸を強制的に沈めると体の正中線にそって剣を構える。

 その様子を見たタルボット子爵は覚悟を決めるように馬に前進するように命令を下すとそのまま突撃してくる。


 馬の走力を使った突撃は並大抵の兵であれば恐れ慄き逃亡するだろうが、なぜか俺は、不思議と落ち着いていた。


 そして、馬が進むのをまるでスローモーションを見ているかのように感じながら俺は剣を構え、するりとタルボット子爵の剣を躱すと馬の下から掬い上げるように右切り上げる。


 刹那、馬の左前足がスパッと綺麗に切れて馬は悲鳴をあげるように鳴き暴れ出す。


 しかし、いくら暴れようがすでに足を失った馬にバランスを取るようなことは難しく、なんとか暴れるのを収めようとしているタルボットを逆に馬が振り払うように、その場にバタッと倒れる。


「クソッ」というタルボットの声とともに俺は小さくほくそ笑む。


「どうした? タルボット子爵。顔色が悪いと見えるぞ。」


「この青二才如きに……。」


 奥歯を噛み締めて告げるタルボット子爵に俺は剣を構え直す。


 いくら、馬を殺したとて依然として敵の大将は存命中。

 戦いの中でも敵軍はほぼ混乱の最中に虐殺をされており、戦いは勝利であることには間違いないが、今ここでタルボット子爵を捕まえることができなければ後々に厄介なことになりかねない。


 また、精鋭を引き連れたタルボット子爵が負けたのと、タルボット子爵すら敵わず偉大なる戦死を遂げたと行ったほうが、俺の力を示すのには十分すぎるものだった。


 とはいえ、彼を殺すつもりは俺にはなかった。

 せいぜい、彼を捉えて幽閉し、戦争が終わるまでの間には戦死者として言わせてもらうが、戦争が終わればそのまま故郷の土地を踏ませるつもりだ。


 そこに故郷があればの話だが…。


 そんなことを考えている隙に体勢を立て直したタルボット子爵を見て、俺は集中する。


 準備が整ったとでも言わんばかりにタルボット子爵が剣を構えこちらを睨むとそのままの勢いで、互いに距離を詰めて激しく剣を切り付け合う。


 キンキンとした剣戟音が激しさを増す中で、互いに歯を食いしばる。


 右袈裟斬りを繰り出せばそれを相殺するように左切り上げが。

 下から一直線に切り上げる逆風を繰り出せば同じ型の唐竹で相殺される。


 そして、刺突を仕掛けてくるタルボットに俺が気がつくとそのままするりと状態を捻るように躱す。

 一気に攻守交代した俺は逆袈裟斬りを出すがそれを見破るようにタルボット子爵が上半身を退け反らせる。

 だが、上半身を限界まで退け反らせて躱そうとするが剣先が僅かにタルボット子爵の左膝を捉える。


 剣先がタルボット子爵の左膝を捉えて僅かに肉を削ぐことに成功すると苦虫を潰したような表情でタルボット子爵は睨みつけてくる。

 刹那、そのまま体勢を崩すように右足で蹴りを入れてくる。


 バコッという衝撃が腹部から全身へと巡る中、俺は僅か数メートル横に飛ばせられる。

 しかし、幸いにもそこまで威力は高くはなかったようで最初の衝撃の他に距離を取られる以外では特に目立ったダメージはなかった。


 俺とタルボット子爵の一進一退の攻防に周囲の兵達は次第に武器を置いて試合を見る観客のように観覧する。


 とは言え、タルボット子爵率いる強襲軍のすでに半数以上が囚われており、残りの半数も劣勢のままで捉えるのは時間の問題だった。


「どうやら、お前たちの負けのようだな。」


 そう告げる俺にバランスを崩して倒れていたタルボット子爵は起き上がる際に応える。


「何を言う。私がお前を殺すことができればこっちの勝ちよ。」


 そう告げて睨みつけるタルボット子爵に俺は呆れるとともに剣を構え直すとタルボット子爵に諭すように告げた。


「これでもか?」


 告げる俺は右手の甲を光らせながら周囲に俺の存在感を解き放つ。

 刹那、空気が代わり敵味方関係なく、震え出し、その場に腰を抜かす。


 距離が大分離れているはずの戦場に置いても、一部の者たちはパニック発作を起こし、馬たちは暴れ出す。

 ボンタデュレーの都市に置いても俺のいる場所からでもわかるぐらいに悲鳴が聞こえてくる。


 そんな中を俺はゆっくりと剣を構えることなく、歩みを進めて肝心のタルボット子爵との距離を詰める。だがタルボット子爵は恐怖のあまりにその場で嘔吐と脱糞してしまう。


「され、もう一度問おう。タルボット子爵。

 お前は、俺がこれでも倒せると言うのだな?」


 睨みつけ、怒気を強めた声で告げる。


 その様子にタルボット子爵は動転してしまい、その場で泡を吹いて白目で倒れた。


 一連の様子を静かに見守った俺は深呼吸するように気持ちを抑えると徐々に解き放したオーラを収めていった。


「お前達、こいつを捕らえよ。」


 近くで依然として震える味方の兵に命令を下すとそのまま、俺は剣を鞘に収めて、その場を後にする。



 数分後、戦場からほど近い木陰で休んでいると、ようやく見つけたとでも言わんばかりの表情で馬から降りてくる二人の女性が現れる。


「アルトス様、私を側から離されますとお使いできなくなります。」


 開口一番に告げるベディヴィアの言葉に俺はプハッと吹き出すと、「それはすまないことをした。」と軽く謝罪した。

 そしてもう一人、不満そうな顔でぷくっと頬を膨らませていた女性ことオリヴィアは俺に向かって、指を刺しながら告げてくる。


「まだ、使う時じゃないっていったのになんでこうもポンポン使うの!!

 あれの力は強大すぎるのよ!! 戦場にいた私ですら、あまりの強さに手綱を握る手が震えたのよ!!!」


「すまない。だが、タルボット子爵を捉えるにはああするしかなかったんだ。

 子爵は例え差し違えても俺を殺そうとしたからな。

 だから、脅かすついでに解き放ったら、ああなったんだ。」


「だとしても!! 今、兵達の中にはあまりの恐怖で発作を起こしている人がどれだけ居るのやら。もう!!!!」


「それはともかく、アルトス様。そろそろ陣営内に戻ってもらわなければ軍隊を維持できません。」


「ああ、それもそうだな。わかった。すぐ行こう。」


 そう告げて、俺は立ち上がるとオリヴィアとベディヴィアのどちらの馬に乗るべきかを数秒迷ったのちに、ベディヴィアがオリヴィアと乗ることで万事解決した。

 そしてそのまま、馬を駆けさせて陣営内に戻った。



◇・◇・◇


 陣営に戻ったと言うよりも実際にはタブリン戦術を展開した際に指揮していた場所に再び戻っただけだったが、あたりの兵達からは不安そうな眼差しを向けてきていた。


 その様子に俺はまぁ仕方ないことだとして気にしない素振りを見せた。


 なにせ、兵達のほとんどは今回、新たに支配したデヒューバース地方出身の者たちだった。


 それ故に、彼らからすれば先程のオーラ解放は恐怖でしかなった。

 なぜなら俺に反抗すれば、容赦無く先程のオーラを受けることになるのだ。

 それこそ先ほど捉えたタルボット子爵とその兵と同じような運命を辿ることになる。そうなれば力もそこまで強くない自分たちがいくら束になっても勝算などはない。


 そんな潜在的な恐怖が刻まれた兵達の気持ちは下がっており、これからくるであろう俺の治世が暗く苦いもののように思ってしまう。


 だからか、ベディヴィアは俺に陣営に近づいた際に演説をするように語りかけていた。


 演説し、少しでも兵達の不安や恐怖を拭うことができなければ真に兵達がついてくることはない。

 例え一時的に恐怖で縛り上げても、時間とともにやがてどこかでそれが破綻してしまうことになると俺は暗殺されることになる。

 そうならないためには民の支配者ではなく民の指導者としての威厳を見せなければならない。

 まさに、アメとムチの理論に俺は同意しながらも演説で何を話すかを必死に考えた。


 そして現在。

 即席の演説台を上り、俺は眼下で佇む兵達一人一人の顔を見る。

 少しばかりガヤガヤとしているが、それは各々が抱えている不安、恐怖そういった負の感情をどうにか発散したい思いがあったからだった。

 そんな負の感情が溢れんばかりに醸し出される中で俺は口を開いた。


「––––諸君、この度は我が軍の勝利だ!!」


 俺が言葉を発すると先ほどまでの喧騒がピタッと止み、兵達は俺の方に耳を傾け、静かに聴き入った。

 その様子に俺は固唾を飲み込み、覚悟を決めて言葉を発する。


「だが、諸君らの中にはこの勝利に不安を覚える者がいるだろう。

 素直に喜べぬ者もいるだろう。」


 そう告げて俺は蒼穹の空を見上げ遥か彼方を眺める。


「若干十五歳という若さで私は北ウェールズからここまで来た。

 隣国マーシアを滅ぼし、破竹の勢いで南ウェールズを征服した。

 振り返ってみれば、私が剣を取り戦場を駆け回ってからまだ一年と経っていない。だが、諸君らと同じ場所で同じ時を刻んできた!!」


 覚悟ある眼差しで今度は兵達一人一人の目を見て告げる。


「始まりは、巧妙に仕掛けられてきた戦争だった。

 食料はやっとのほどで領内にわたる分しかなく、民にも全員に行き渡らせるために苦しい思いをさせた。

 そんな中で仕掛けられた戦争に我々は勝利した!

 奪われようとしているわずかな食料を守り、愛する者たちから脅威を排除した!!」


 先のマーシアとの戦争を思い出しながら告げる俺に本国から来た兵達は若干、頷く。


「それからと言うもの。我々は思い知った!!

 誰も救ってはくれぬと。人は助け合うのではなく、奪い合うものだと!!

 だから、来る日も来る日も鍛錬を重ね、力を蓄えた!!!

 そして、マーシアの喉に剣を突き立てた。全ては奪われんがために!!」


 そうして、俺はデヒューバース出身の者達へ向けて告げる。


「だが、私は諸君らから奪おうとは思ってはいない。

 なぜなら、侵略された日に思い知らされたあの感情を! 屈辱を!!

 私は息子達やお前達に味合わせたくはないからだ!!

 確かに奪われた。確かに傷付けあった。水に流せと言うにはあまりある犠牲を双方が支払った。

 だが、今必要なのはどっちだ!!

 目の前の相手を殺せる剣か!! それもと互いに協力し新たな恩恵を享受できる和平の手か!!

 どっちだろうか!!」


 兵の一人一人に問いかけて、俺は深呼吸する。


「多くの兵達を自身の命令で失ったは私は和平を選ぶ。

 なぜなら、先に死んでしまった彼らが未だ争いを望んでいるとは思えないからだ!! 争いは憎しみや悲しみを生み出すだけで誰も喜びはしない。

 だからそこ、手を取り合い互いに力を合わせて今一度一つの種族としてこの地に根を下ろし、大陸に住む他種族にすらも劣らぬ国を築くべきではないのか!!

 私は諸君らを許そう。

 一度は互いに殺し合った者同士、今度は手を取り合いともに発展していこうではないか!!

 私はそのために諸君らを代表しよう!! あらゆる脅威から諸君らの愛する者、財産を守ろう!!

 そして、共に理想と呼べる国を築こうではないか!!!!」


 そう言葉を締めくくり俺は天を仰いだ。

 刹那、兵達は「「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」と叫び出して演説台から降りる俺を見送った。


 もはや、兵達の中には恐怖も不安もなく、あるのは俺が示した理想の国への憧れだった。


読んでくださってありがとうございます!! ( ^ω^ )V


広告の下にある星をタッチすると私を応援できるのでよろしくお願いします!!

また、少しでもこの物語を『面白い』、『続きが気になる』と思っていただけたら、

レビューや感想等の方もお願いします!!


( ✌︎'ω')✌︎<オネシャス!

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