#060 『 進むべき道 』
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カーマゼンからボンタデュレーまでは直線距離で二十四キロメートル。
ブリストル海道を通れば二十七キロメートル先にあった。
そんな距離を歩みながら俺は馬の上で追加の情報を鳩から受け取る。
どうやら、敵はボンタデュレーへと歩みを進めたらしい。
相変わらずのイザベルの情報索敵能力に俺は感心しながらも、即座に兵達に伝達すべく、各部隊へと伝令を伝令兵に任せる。
都市、ボンタデュレー。
この都市は少し特殊な歴史を持ち、古くは旧グラモーガン王国の西の国境を守るために建築された歴史を持つ。
故に、城壁や城、兵達が宿泊できる施設等があるのだが、時代とともにそれらもあまり使われなくなり、現在では一般的な都市とそう変わらなかった。
とはいえ、元々国境線防備のための都市であるために城壁等もそう簡単に破れるような品物ではないと噂では聞く。
また、ボンタデュレーの地形は川沿いにある平坦な都市だったが元々は水害が多い地域で湿地帯と化していたのを開拓して潰した結果、平坦な土地に出来上がったという。
とは言え、依然として川が多く、雨などの降水時には川幅が広がり、足元を掬われることが多い。
そんな地形的に難しい場所を敵が選び軍を向かわせていた。
俺は、最初にその文を読んだ時、どういうことなのか。と疑問が沸いたが、即座に考えて敵の思惑を探った。
ボンタデュレーは平坦な土地に都市が一つ。周りには川以外には小高い丘があるくらいで他に目立った障害はない。
敵軍は五千人で向かっており、こちらもそれに近い四千七百人の兵力で向かっていた。そのため、兵力差でいうならば三百人ほどこちらが不利だった。
加えて、兵達のメンタル面においては敵はともかく、こっち側は難しいものだった。依然として帰郷を願う者は多く、長期にわたる戦役に限界を感じている者もいた。
兵力差そして士気においても不利でありながらも俺が突き進むのには理由があった。
まず、すでに引き返せないところまできてしまったことが挙げられる。
また、兵力差、士気面で負けていたとしても実戦経験における兵の質においては––––––––敵兵の質こそ知らないが––––––––敵と比べて五分五分かそれ以上だと思っていたからだった。
ボンタデュレーを攻略すれば、俺はウェールズ南部の最大港都市であるスウォジーを目前にすることができる。
また、南部ウェールズ連合にとってもスウォジーという港都市は重要で、本戦争でも雌雄を分けるぐらいに重要な場所だった。
なにせ、スウォジーは湾が広く、並の船であれば五十隻くらいも発着できるだけの港があった。
また南ウェールズにおける鉄や銅など、鉱石の集積地として知られ、一部の者にとってはどうしても手に入れておきたい場所だった。
無論、その一部の者には俺も入っていた。
本国の北ウェールズでも鉄や金、石炭などは取れるが銀、銅といったものは採掘量が少なく、本国の市場全体を賄うことはできなかった。
故に、一部南ウェールズから仕入れていたのだが、此度の戦争でその取引も取り消しにあっていた。
一応、鉱山の方を防衛陣築城の際に奪ったため、延命程度ではあるが採掘量は増えたが、当然支配領域もそれに準じて広がったために未だ、鉱石不足はいがめなかった。
そのため、ここスウォジーを占領することができれば、不足した鉱石を補えるほか、敵の持つ鉱石の量を減らすことができるようになる。
そうなれば敵は剣や防具といった戦争道具は作れなくなり、戦わずして降伏することもあり得たのだが、三国同盟との戦争を行っている今の状態では逆に三国同盟からの鉱石補給と共に戦争の長期化が予想される。
そのため、鉱石の補給を断たせての降伏案は没にはなったのだが、それでも国内需要を賄えるだけの鉱石を前に何もしないわけにもいかず、港と鉱石そして、侵攻ルートの確保として俺はスウォジーを手に入れたかった。
とは言え、最初はボンタデュレーの攻略だった。
元々湿地帯ということもあり、川も小さいながらに多い地形に加えて、丘などの土盛りはあるものの比較的平坦で堅牢な城壁に守られた都市がある。
そんな中で使える兵科は歩兵や弓兵。騎兵は足元が掬われる地形には向かないために、敵騎兵の妨害や防具を外しての部隊間での情報伝達を行うようにしよと考えていた。
歩兵や弓兵には原則として攻めるのではなく防衛に徹する––––––––以前行ったことのある––––––––タブリン戦術を行おうと考えていた。
敵は独立のために打って出た。
それはそれだけこちらのことを脅威だと捉えていることへの裏返しであり、これ以上は進ませないという意思表示でもあった。
故に、敵は戦場に俺たちが現れたら攻めざるを得なくなる。
仮に、攻めずに持久戦に持ち込まれれば俺たちは不利にはなるが、民の感情に左右されることが少なからずある合議制にはそのような対策は取れない。
なぜなら、それを取ろうと思った瞬間に民からの支持は地に落ちることになるからだ。
だが敵も馬鹿ではないために、それがわかった上での出陣に勝算を見たのは兵力差と兵のメンタルに勝るからだろうと俺は推測した。
西の空に沈みゆく太陽を眺めると俺は兵達に野営の準備を命令させた。
ゾロゾロと動き出す兵達に俺は馬から降りて行くと暫くの間、考えに耽った。
敵の攻撃に俺はタブリン戦術で迎え撃つ。
タブリン戦術の攻略法が未だ発見されていないこの世界では、まず負けることはない。であれば、後はどれくらいの兵を敵に消耗させるかだけだがそう簡単なものではない。
タブリン戦術は防衛に関しては最強だが、その分受け身の戦術であるために敵が来なくなれば一兵も殺すことはできない戦術でもある。
無論、敵は政治的な理由故に攻めざるを得ないが、途中で攻めることをやめてしまった場合には我が軍はなす術を失ってしまう。
なにせ、下手に攻勢へと出れば敵の兵力差に押されてしまい、兵力を無駄に消耗してしまうことになる。
そうなれば、例え敵に勝利したとしても、内部分裂を起こし我が軍は瓦解することになる。
それを防ぐにはできるだけの消耗を抑えた上での決定的な勝利が必要になってくる。
非常に難しい問題に頭を悩ませながら俺は、ふと前世のことを思い出した。
前世では社会に出てすぐに交通事故で死んでしまった俺だが、その前までは経済を専攻する一大学生だった。
タブリン戦術やその他の知識があるのは、俺が趣味程度で読んでいた歴史書や戦術書に書かれていたからだった。
とはいえ、実際にやるのと文字を読むのとでは雲泥の差がある。
最初こそ、俺は気づかれることなく堂々とした態度でテキパキと指揮していたが、その実は内心では常に脳をフル回転させていた。
一大学生ができることなど限られる世の中で俺が転生を果たしたのは過酷な世界だ。
当たり前のことが当たり前ではなくなって、僅かに知っている者だけが権力を増大していく弱肉強者の世界。
そうした世界で、絶対の法則とでも言いたい絶対的な力である魔法が使えない人類という種族。
––––––––無知で非力な醜い種族。
この世のことが書かれた本の中にあった一文。
その一文にどこか納得しつつも俺は前世の世界を、知っているからだろうか怒りを覚えた。
どこまでもうるさく、そして窮屈な世界は俺の目からしたら灰色の世界だった。
しかし、同時に世界は多くのもので満ち溢れていた。
そのことに今になって知った俺はどれだけの馬鹿野郎なのか。
だが、過去に戻ることなどはできない。
人は未来にしか進むことができない生き物だ。
だからこそ、俺は証明したくなった。
無知で非力な身でありながらも勝利を掴むことができることを。
「……トス! アルトス!! アルトスってば〜〜!!!」
バコンという衝撃とともに俺の意識は現実へと引き戻される。
目の前には、拳を握りながらも痛がるオリヴィアと僅かに微笑むベディヴィアが二人して立っていた。
その様子に俺は暗に悟り、背を預けていた木から立ち上がる。
「大丈夫か? オリヴィア。」
訊ねる俺にオリヴィアは「大丈夫に見える?」とでも言いたげな表情でキランと鋭い眼光で睨みつけてくる。
「なんか、すまない。」
両手でオリヴィアを落ち着かせながらに告げる俺に、ベディヴィアはお構いなしに話しかけてくる。
「アルトス様。王妃様。お戯れはそこまでにして、食事の準備ができました。」
「「戯れて ない!! ないわ!!」」
俺とオリヴィアがハモってしまい、一瞬気まずくなるが即座に話題を食事に切り替えて、その場を後にした。
王族専用の天幕が用意されており、砦の方も櫓やテントなどを作りつつあった。
天幕に入るとベディヴィアは暖かいスープとパン。そして、近くで取れた牡丹肉があった。
戦場の食事にしては豪華な中で俺とオリヴィアは席につき、食事を始めた。
牡丹肉を食す中で俺はふとベディヴィアに兵たちへの肉の支給があったかを訊ねたが、ベディヴィア曰く、取れた肉は少なく、全兵士に十分な量を行き渡らせるほどの量はなかったためにスープの中に放り込み、運よく得られた者だけが食べることができるようにしたと言う。
なるほど〜と思いながら、パンを口に放り込む俺は今後の兵たちの食事に関しての最低限支給されるべき食べ物や飲み物を考えた。
そうして数十分。ようやくして食べ終えた俺とオリヴィアは最後にお口直しのエールをグイッと飲むとこの後のことを考え始めた。
南部ウェールズ連合との正面衝突。
勝てる算段があるとは言え、すでに南部ウェールズの侵攻開始から二ヶ月近くたとうとしている中でもはや時間的猶予は失いつつあった。
特に最近では夜と明朝の冷え込みがすごいらしく、あまりの寒さに兵たちの中では少なくない犠牲者がボチボチと出ていた。
戦闘以外で兵たちが死ぬ。
その現実に俺は歯軋りしながらも表には一切出さずに、ただ前だけを見続けた。
この戦いに終止符を打ち、勝利を得るには敵の予想を遥かに上回るしかない。
だが、それにも限界はあった。
国力も兵力も限界に達していた今のウェストリー王国ではウェールズ全域を支配することが唯一の活路だった。
ウェールズを手中に収め、国力を増大させることができれば、三国同盟をも破る力を持つことができる。
そしてその力を習得するための知識が俺にはある。
しかし、それも簡単なことではない。
今以上の民からの信頼と権力が必要だった。
そのために俺はこの無謀とも思える行軍を行い、戦い勝利を積み上げる。
誰にもなせないことを俺なら成せると民に信頼させるために……。
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