#059 『 戦う者達 』
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ペンブロークを出発し、早くも一週間という月日が経つ中でようやく、カーマゼン領の領都であるカーマゼンを手中に収めた我が軍は、すでにヘトヘトだった。
最初は激しい戦闘の日々についてこれた兵たちもすでに一ヶ月半もの軍役によってかなり精神的に消耗し、にちらほら帰郷を望む声が聞こえてくる。
されど、残り一ヶ月くらいで南部ウェールズ連合を手中に収めなければ成らないという現実に俺は兵たちに休息を与えながら進み続ける。
特にこの一週間というのはかなりの無茶を行なっていた。
ペンブロークを出発してからカーマゼンまでの間に一つの都市を降伏させ、もう一つの都市を攻め落とした。その上で、カーマゼンを包囲し二日間による攻城戦によってようやくその門を開かせた。
今もカーマゼンの中央に位置する城の旗竿には、赤い布地に金色の刺繍の竜が施されたウェストリー王国旗が蒼穹の空を力強く靡く。
その様子に都市の住人たちは不安と恐怖が入り混じった目で俺やウェストリー王国軍を見る。
「相変わらずと言っていいのか、歓迎されていないわね。」
そう告げるオリヴィアに同じ部屋にいた俺は応える。
「そりゃ、そうだろう。彼らからすれば、俺たちは向かう所敵なしの軍だ。
歓迎されるわけがない。」
カーマゼンにある居城の窓から見る都市の様子にオリヴィアは心配そうな声で告げる。
「これからどうなろのかな。」
「さぁ、わからない。ただ、まだ南部ウェールズ連合がの残っている。
相手の出方がわからない以上どうすることもできない。」
そう告げて俺は少し考えた。
南部ウェールズ連合。正式にはグラモーガン公国という小国がウーサー王の代で分裂し、東西南北の四つの小さな領地になったものだった。
ただ、当時の権力者による分裂だったためにこの四つの領は互いに一つの大きな領として機能しており、四人の領主による合議制がなされていた。
そんな南部ウェールズ連合は、従来より独立による四領の再統一を目指していたがアルビオンにある他国達がそれを認めず、孤立無援となったグラモーガン公国の独立は叶わず、マーシアに従属する形でその命を繋ぎ止めていた。
とはいえ、もはやマーシアはなく、今ではヨークシャー王国やアルビオン王国などが支援していることもあり、再び独立するために俺やウェストリー王国に対して反旗を翻した。
当然、そのようなことは事前にイザベルからの情報で知ってはいたものの、問題はその規模だった。
旧グラモーガン公国は鍛治の国と称されるほどに、鍛治職人達が一度は訪れたい高い技術を持つ技術者が生まれる土地であった。
剣や武具はグラモーガン製が一流と言われる時代もあり、技術の高さ、繊細さにおいても群を抜いていた。
故に、先代ウーサー王に狙われ、分割されるようになってしまったのだが、それはまた別の話だった。
旧グラモーガン公国は高い技術力を持ち、コンウォール半島との距離も近いために武器などの輸出で繁栄してきた小国だった。
食料なども国の郊外で必要な分だけ栽培できるために問題はなかった。
ただ、度重なる襲撃と築城に旧グラモーガン公国の財政が耐えきれずに破綻した。そして、先代ウーサー王の侵攻によって滅亡。
今や旧グラモーガン公国の正統な公位継承者は存在せず、今いる四人の領主はあくまでも遥か遠い公位継承者の血縁だった。
そんな旧グラモーガン公国は善政を敷いていたために民の中では今よりも昔の方が良かったとうさぶく者も少なくない。特に年配をとした民ではそうだった。
「アルトスはどうするのかは決めているの?」
窓の向こうを静かに眺めるオリヴィアは俺に訊ねる。
「………一応な。ただ、まだどう転がるかはわからない。」
確定的なことを俺はまだ言えなかった。
なにせ、カーマゼンの支配までは大分順調にいってはいたのだが、その分だけ時間のロストが大きかった。
残る一ヶ月半のうち、防衛陣の構築を考えて一ヶ月しか戦えない中で俺は考えを振り絞った。
どのように対処すればいいのか。
ただ、それだけを考えていた時、コンコンと部屋の扉が鳴る。
「陛下、王妃様、お食事です。」
そう告げるベディヴィアの声に俺は「入れ」と命ずると、二人分の食事を両手で悠々に持つオリヴィアが現れる。
近くにあったテーブルにそっとおいては食事の支度を始めるベディヴィアにオリヴィアは「ありがとう」と感謝を示した。
料理は内陸の都市では珍しい白身魚のムニエルだった。
パンやスープも美味しく、香ばしい匂いがして空腹だったお腹を刺激した。
テーブルにつき、パンを一口サイズにちぎるとそっとスープをパンに染み込ませるとパクッと口の中に放り込む。
刹那、ハーブのいい香りが口の中に広がり、スープの味が格段に美味しく感じた。
この世界での食べ方はフォークやスプーンを使うものではなく、手で食べるのがマナーだった。
その理由としては色々とあるが主に宗教的な問題によるものだった。
前世や今世でもあまり宗教というものに興味が湧かなかった俺は領主や国王として出席必須の時にしか教会には顔を出していなかった。
そのため、一部の過激な信奉者からは神を尊ばない俺の姿勢に反抗するものも一定数いるとの噂を聞いことがあった。
俺としては、実際に事件等を犯さなかったり公共の場などで一応は進行していることになっている神の存在を否定しなければ宗教の自由は認めていた。
だが、それもあくまでも俺個人ということであり、原則的に俺は宗教の中でも重要な位置にいることになっていた。
そのため、彼らが暴走した際には俺は彼らを止める抑止力になるほかなかった。
さて、そんなことを考えているといつの間にか食べ終わっていた。
少し膨らんだお腹を見て、食べ過ぎだなと思うとオリヴィアが再び話しかけてきた。
「カーマゼンを落とした後は、南部ウェールズ連合へと行くことになると思うけど、大丈夫なの?」
「兵の数でいうのなら大丈夫だ。だが、士気でいうとだめかもしれんな。
兵達の中にはすでに三割方が帰郷したいと漏らしているそうだ。
すでに一ヶ月半も戦っているんだ。当然と言えば当然だが、おいそれと本国へ帰郷させることはできない。
そもそも、帰郷させたら頼りになる信頼できる兵達がいなくなるからな。
こればっかりはどうにもできない。」
「そうかもしれない。でも、少しなら……。」
「オリヴィア、最初に数人程度でも帰郷させたら後の連中はどう思う?
彼らはよくて自分たちがダメな理由は何か。それを訊ねに俺たちに殺到するだろう。また、そうでなくても今が大事な時なんだ。
五分五分の兵力のなかで少しでも減らしたら犠牲が増すのは必定だ。
故に、帰郷はまだできない。とはいえ、南部ウェールズ連合を手中に収めた暁には帰郷させようとは思っているがな。
ただ、そのためには最低でも南部ウェールズの主要な都市に聳えるカーディフ城を攻め落とさなければ成らない。」
諭すように説明する俺にオリヴィアは黙ってしまう。
そこへ、ベディヴィアがそっと小さな紙を俺に手渡してくる。
「これは?」
「イザベル殿からです。」
短く応えるベディヴィアに俺は紙を手に取ると書かれていた内容を読む。
イザベル曰く、南部ウェールズ連合の兵達は動き始めているらしく、持てる兵力の中でも精鋭を集めた軍で我が軍を迎え撃つとのこと。
また、南部ウェールズ連合軍は総勢五千人もの兵力でスウォジーに集合しているらしいとのことだった。また、今回の戦には四人の領主のうち一人であるタルボット子爵が率いていた。
仮にタルボット子爵を倒すことができた場合には敵軍には動揺が広がり、思った以上に早く南部ウェールズ連合を敗れるかもしれない。
そう思った俺は、すぐさまベディヴィアに伝達事項を伝えて軍議の準備をすべく、準備をする。
俺の様子が一変したことでオリヴィアも何かを感じたのか同じように準備をするとすぐに俺の後をついてきた。
部屋を出て、角を二回ほど曲がると現れる会議室のドアを俺は会えると、そこにはすでに数名の部隊長が今か今かと待ち構えていた。
「「陛下!」」
皆一斉に視線を向けながら告げる様子に一瞬身構えてしまうと俺は堂々とした態度で会議室に入り会議室の中にある上座に座った。
オリヴィアも同じく会議室の中にあった二番目の上座に座ると他の部隊長隊たちも習うように座り始めた。
「では軍議を始める。」
そう告げる俺に、会議室に集まったもの達は一斉に頷いた。
◇・◇・◇
「急げ!! 敵はすぐに来るぞ!!」
叫ぶながら指揮する男ことタルボット子爵に兵達は慌てて命令に従う。
旧グラモーガン公国の精鋭兵と呼ばれる彼らには領内全ての民からの信頼が集まっていた。
過去にウーサー王に大敗北し、国を奪われた屈辱を遂に拭えると思ったのも束の間、新たな侵略者がウェールズの北方から現れた。
そんな新たな侵略者は進むところ敵なしの如く戦い、勝利を重ねていった。
しかし、すでに幾多の戦いを繰り広げている敵の兵力の疲れはピークを達しており、同数での対決になるだろう今回の戦いにおいても十分に有利なものになっていた。
今回、旧グラモーガン公国の代表として先陣を切ったのはタルボット子爵という男は、智略ではなく兵達をうまく指揮することから選ばれ、その戦いの地となる場所も彼がよく知る場所に指定されていた。
合議制で全てを決めるこの政治体制にタルボット子爵は時々難儀なものだと思うこそあれ、概ねその意思は尊重していた。
かつて、旧グラモーガン公国においても王が君臨したことはあった。
だが、王の身勝手な行動や散々にわたる無駄使いに家臣達は反旗を翻し、王を処刑して自らが政治の指導権を得たという歴史があった。
そのため、多数の人物による合議制は旧グラモーガン公国の民や貴族にとっては当たり前であり、王による専制政治には懐疑的だった。
故に、新たな侵略者が王であり、かつ専制政治を推し進める者だと知るとかつての屈辱を忘れない民から戦争の声が上がった。
武器も防具も一流の鍛冶職人達が鍛え上げ、兵力も各地の精鋭達が集まった。
食料も十分に確保し、準備は整った。
そういった人々の希望の灯火を受け取ったタルボット子爵は必ず勝利すると明言し、スウォジーへと出発した。
もはや残すことはないとでもいうようにタルボット子爵は兵達に、いかに正しい行為をするのかを説き、過去の歴史を持ち出してなぜこのような決断を下したのかを一つ一つ絡まった紐を解きほぐすかのように演説した。
その演説に熱が入り、兵達は声を荒げる。
元より血気盛んな文化を持つ旧グラモーガン公国軍の指揮は上がり、タルボット子爵の命令を忠実に従うようになった。
後は敵の侵略者と対峙するだけと考えたタルボット子爵は決戦の地となるボンタデュレーへと駒を進めた。
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