#058 『 カーマゼン 』
毎日投稿 28日目!! (● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾
「いいか、オリヴィア。経済は国の根本だ。それこそ民と同レベルくらいな。」
そう告げて俺はオリヴィアを見つめる。
「国の根本……。民と同じ。」
インコのように繰り返すオリヴィアをよそに俺は話を続ける。
「そうだ。だから、そしてその経済において彼女の才能が活かせる。
故に俺は彼女の後ろ盾となり国内の経済を発展させる。
今回の戦争で勝ち進んでいけば、ウェストリー王国はウェールズを統一できるだろう。
しかし、力で支配したとてそこに住む民までが従順になるわけではない。
恐らくだが、支配者層を失った大半が我先にへと空いた支配者の椅子に座りたがるだろう。そうなれば各地で反乱やら武力蜂起が起こってしまう。
なぜだかわかるか?」
「統治する人がいないため?」
「ああ、そうだ。彼らは統治者が変わったのではなく、元いた統治者を失ったという認識に近い。
だからこそ、俺がウェールズを統一しても民がついてくることは難しい。
とはいえ、策がないわけではない。」
乾いた口に俺はエールを流し込むと空になったコップに再度ベディヴィアがエールを注いでくれる。
そして、俺に注ぎ終えると話を聞くオリヴィアにも同じようにエールの注いだコップを渡す。
「それが彼女ってこと? でも、彼女の才能一つで反乱や武力蜂起が治るとは思えないけど……。」
「そうだな。普通なら無理だ。だが、経済なら話は違う。
人はなぜ反乱や武力蜂起するのか。それは先で説明したように権力を求める一定数の人間がいるからだ。しかし、それは少数であって大多数ではない。
ならなぜ、反乱や武力蜂起に至るまでの大事になるのか。」
そこまで告げて俺は不敵な笑みを浮かべて話した。
「知識ある者が民を扇動するからだ。
民とは無知蒙昧な愚かな連中だ。故に少しのアメを与えてやれば容易に尻尾を振り従順となる。そして事は大きくなる。だからこそ民の不安や不満を見つけ出しては解決していくしかない。
そのために最も簡単かつ皆が求めるものとは経済だ。
経済が回れば誰でも食料が買えてしまう。誰でも贅沢な暮らしができてしまう。故に皆が求める。
しかし、経済がそう回るかといえばそうではない。
経済は経済で曲者だ。そのために彼女の才を使う。
経済をまわし、国富を増加させ、民の生活水準を向上させる。
そうすれば、反乱や武力蜂起はどこ吹く風の如く、消えて無くなり、王国は栄える。」
俺が告げる言葉にオリヴィアは感心するとすぐさま、自身の考えの浅さにショックを受けて肩を下ろす。
「そこまで考えての爵位譲渡だったのね……。」
短くうさぶくオリヴィアを眺め、俺は少しやりすぎたと思った。
王族の娘として生まれ、この世でも比較的質の良い英才教育を受けてきたはずの自分よりも遥かに賢く、数手先を見据えての俺の行動はオリヴィアの王族としてのプライドを傷つけてしまう事になる。
実際に目の前のオリヴィアは俺に引け目を感じているように見えた。
「まぁ、そうだな。」
そう応えて俺は下唇を噛んだ。
次期女王や王妃として生まれ、あらゆる英才教育を受けて育った彼女は恐らく人類の中でも優秀な部類だろう。
だが、数世紀先の前世の記憶を持つ俺とは明らかにそのレベルは違ってくる。
最初から全てを知っているものと知らぬ者。その間にある溝は一日や一週間では到底埋まることはない。
それは彼女も知っていることだ。
もし仮に、オリヴィアにどこでその知識を得られたのかと問われるのならば俺は答えに詰まるだろう。
転生したなんて事は口が裂けてもいえない。
なぜなら、転生は本来ありえない。特に宗教が実際に力を持つこの世界においてはなおさらだ。
魔女や異端だと言われ、火刑に処されるかもしれない。
もしくは俺の持つ知識を話させるために飼い殺しにされてしまうかも知れない。
そう成らないようにするにはこの知識をいち早く俺の独占にしないで広く普及させるしかない。
同じレベルの者が複数人現れれば、転生者である俺はそこに隠れることができる。
そうなれば、処刑や飼い殺しはできなくなる他、例え敵が知恵ある者だったとしても数世紀先の知識や考えを持つ俺からすれば容易に出し抜くことができてしまう。
そのためには一早い教育機関の設立と安定した収入、そして長い時間が必要になってくる。
天才は時として歴史に現れるが時代や世界に馴染めずに闇に消えた天才も多くいる。
そして俺もこのままでは闇に消えゆく者になるだろう。
下手に多くのことを話せば俺はかしこすぎるとして目障りに感じる者が現れる。
そう成らないように俺は適度にレベルに合わせなければ成らない。
思考を張り巡らせている中でオリヴィアは俺に告げた。
「教えてくれて、ありがとう。アルトス。」
笑顔を見せるその姿に俺は一瞬、口を開こうとするが即座に理性が働き溢れそうになった言葉をグイッと押し戻す。
「ああ、いい。遅かれ早かれ聞かれることだしな。
それよりもカーマゼンの話だ。イザベルからの情報はどうした?」
話を逸らし俺はカーマゼンのことを訊ねた。
「カーマゼン? ええ、そうね。
あそこは現在、海賊に荒らされているらしいわ。」
「海賊?」
「ええそうよ。女海賊のシーサーペイントっていう凄腕の海賊よ。
何も、軍艦五隻を相手に一隻で立ち向かい、完膚なきまでに叩きのめして兵たちを海の藻屑にしたとか。兵たちを攫って隠れ家に連れ帰り、食べたとか。いろんな残虐な噂を聞く海賊連中よ。」
オリヴィアの伝え聞く噂話を聞いて俺はカーマゼンの連中が海賊の件を明らかに大事のように吹聴していると理解した。
「まぁ、噂の信憑性はともかく、問題は軍艦を相手に戦い、勝ったと言う点だな。いかに数をちょろまかしているとはいえ、軍艦はそうそう沈まないように作られている。
なのに、容易に沈ませているということを考えると非常に厄介な相手だな。」
「そうね。でも、特に気にしなくてもいいと思うわよ。相手は海賊だし……。」
オリヴィアの発言に割って入るように俺は告げた。
「いや、海賊だからこそだ。
いいか、オリヴィア。俺たちは陸はともかく、海戦はしていない。なぜだかわかるか?」
「海軍がいないからでしょ。」
「ああ、海軍がいなければ海戦はできない。
今までは港を占拠することで敵の海軍を孤立無縁にしていったから問題ない。
だが、海賊は違う。目立つような港に船をおいておく訳が無い。
ではどのように必要な物資を得るのか。それは街道への襲撃だ。
街道を通って進む商人を襲い、金品と物資を得る。もしくはひっそりと街に入って物資を整えるか。
どのみち、船を見える場所にはおいてはいない。
そうなれば問題はどこに船をおいているかだ。船の場所がわからない限りは神出鬼没の敵だ。」
商船は常に軍艦で固めて防衛しなければ成らないし、海岸沿いの街道にも定期的に兵を展開しなければ成らない。
また、今はカーマゼンだけだがそれがいつミルフォード周辺に現れるのかわからない。
敵の動きを予想できないが故に色々と対策を講じる必要がある。
だが、戦争中の俺たちにそれができるかと言われれば答えはノーだ。
兵力も財力もない我が国に海賊への対処などまだできない。
特に海軍が不足している今ならなおさらに。
「とりあえず、海賊の件は保留にしよう。
カーマゼン侵攻時にはできるだけ内陸から進み、攻略していく。
そして、ブリストル海道を伝って南部ウェールズ連合のカーディフへ攻める。」
俺の提案にオリヴィアやベディヴィアは賛同する。
こうしてある程度の作戦が決まり、兵たちには物資の補給と兵力の補充を行なった。
すでに最初の三千人弱から幾ばくかの降伏都市からの徴兵と戦死者を足したり引いたりして、結果的に四千七百人へと増加していった兵力には改めて、作戦を伝えると同時に休息を取らせ、この先に待つ戦いに備えさせた。
◇・◇・◇
「クソッ、おい!! 早く火を消せ!!!」
「はい!!」
バタバタと慌てる兵たちをよそに炎は高く燃え上がる。
「やっちまおうぜ!!」
「この野郎!! 死ね!!! 海賊風情が!!!!」
海賊の剣を寸でのところで受けるとキンという金属音を鳴らし火花を散らす。
カーマゼンのラネリーという都市のあちこちで火の手と悲鳴が轟く中、海賊たちは好き勝手に暴れ回る。
それを防ごうと都市の兵や他の都市からきた援軍なども加勢に加わり海賊たちを抑えようとするが、その勢いは止まることなく激しさを増す。
都市の至る所で行われる海賊の被害に都市住民は震えて家に引きこもり、ただ嵐が過ぎ去るのを待つかのように互いに抱き合って震える。
悪夢よ終われ。
誰もがそう願う中で海賊たちは雄叫びをあげ、兵たちを無惨にも殺害していく。
総勢六百人の海賊に都市兵及び援軍一千人が押される中で行われる殺人や強盗に兵たちの指揮官は頭を悩ませる。
死体も海賊よりも兵たちの方が多く、被害が拡大する中で一向に海賊の攻勢が収まる気配を見せないことに苛立ちを募らせた指揮官は憤慨する。
「兵たちは何をやっているのか!! 敵はたかが海賊だろう!!! 早く処理しないか!!!!」
叫ぶ指揮官に隣にいた将兵は諭すように告げる。
「無理です!! 敵は海賊とはいえ、勢いが凄まじくここいらの兵では役に立ちません!!!」
歯軋りしながら拳を握る力を強める指揮官に将兵も苛立つ。
指揮官が眺める遙か遠方にある港を守る城壁上には海賊の頭と思える女性が一人佇んでいた。
その姿を見て、指揮官はうさぶく。
「シーサーペイントめ。」
◇・◇・◇
眼下に荒らす都市を眺めながら城壁上にいる女性はふと西の方角に顔を向けると何かを悟ったように呟く。
「やっと現れた。野郎ども!!! 今宵は終いだよ!!!」
そう告げる彼女に部下の海賊は「「おおおおぉぉぉぉぉ」」と叫び武器を掲げる。
荒らした都市から物資を運び出し、小舟に乗って船へと帰る女性に兵たちが追撃を行おうと迫っくるがそれをさせまいと海賊たちが兵たちの前に現れては剣を交える。
悠々自適に小舟に乗って海風を感じてながら船へと帰る女性に船に残った味方が問いかける。
「収穫はどうですか? 船長!!」
「ぼちぼちだ。ったく、最近の連中は気合が入ってないからか実りが少なくて困っちまってよ。もう少し、頑張れってんだ!!」
「「ハハハハ」」
女性船長の冗談に船員たちの海賊は甲板で腹を抱えて笑い出す。
だが、女性はそれを気にすることなく船にある船長室へと戻るとスイッチを切り替えたように、笑みを浮かべる。
心臓の鼓動が早くなり、全身の脈という脈がドクンドクンと血液を流す感覚が女性に伝わりだす。
「この感覚はやっぱり……。」
一人船長室で呟いて、そっと太ももを覗き見るとそこには馬の模様が浮かび上がっていた。
「ったく、またこれかよ。」
そううさぶき、女性はその場に腰を下ろし、近くにあった酒を呷った。
読んでくださってありがとうございます!! ( ^ω^ )V
広告の下にある星をタッチすると私を応援できるのでよろしくお願いします!!
また、少しでもこの物語を『面白い』、『続きが気になる』と思っていただけたら、
レビューや感想等の方もお願いします!!
( ✌︎'ω')✌︎<オネシャス!




