#057 『 才ある者 』
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目を開けるとそこは石畳の見知らぬ天井だった。
未だ頭が痛む中、上体を起こし俺は周囲を見渡した。
豪華な家具に、石造りの壁や床。どれをとってもこの世界にはそうそう無い物の数に、俺は恐らく貴族などの城に運ばれたのだと察した。
俺自身が来ていた鎧などは全て脱がされており、近くにあった椅子と小さな一人分のテーブルに手入れされた状態で置かれてあった。
剣も同じように椅子によたれかかるようにあったため、俺は掛けられた毛布を払い、この世界では比較的ふかふかのベットから脱出して剣を取ろうとした。
刹那、視界がぐにゃりと曲がりくねったようになり、突然足腰に力が入らなくなる。
だが、俺は今にでも倒れそうなところをグッと堪えて、壁を支えにした。
壁に左手を当てながらゆっくりと剣の下へ歩み寄る。
そうして、ズキズキとする痛みに耐えながら俺は剣を手に取る。
途端、先ほどまでの痛みが和らぎ、視界も元のように戻った。
そのことにホッと安心していると突如、部屋の扉が開き出す。
「アルトス!!!」
扉が開き、目があってすぐにオリヴィアは驚くように告げながら俺に飛び込んでくる。
しかし、依然として怪我人であった俺がオリヴィアの体重を支えられるわけもなく、一緒にバタンとそのまま倒れた。
倒れた衝撃で、俺は再び軽く頭を打ったが特に痛みがひどくなるようなことはなく、むしろオリヴィアの柔らかい胸が当たっていることに少し、ドキドキとした。
「王妃、王がお困りです。」
そう告げる冷静な俺の専属メイドのベディヴィアにオリヴィアはハッと気が付く。
若干照れながらも、即座に俺の上から立ち上がると手を伸ばし、俺が立つのを手助けしてくれた。
「して、状況はどうなっている?」
そう告げる俺に、オリヴィアは心配そうに色々といってくるが、ベディヴィアは腰に手をかけながら、胸を突き出し自慢げに「それでこそ、我らが王です。」と小さな声で告げた。
「現在はミルフォードより約六マイルも東にある。旧ペンブルック都市のペンブロークにいます。
ここはペンブロークにあるペンブローク城です。」
「なるほどな。でも、なぜミルフォードではなく、ここペンブロークを休息地として選んだ?」
「それは……。」
まるで言いにくいことがあるように護衛の騎士は口を閉ざした。
その様子に違和感を感じた俺ははぁ〜とため息を吐くと騎士に話すようにと命令した。
「はい。その実はミルフォードでは手の施しようがないくらいに頭を激しく殴打されていたので、比較的に医術の優れる者がいるというこの街に来た次第です。」
「なるほどな。」
一理あると考えながら俺は、そのまま護衛の騎士を部屋から退出させ、部屋の中にはベディヴィアとオリヴィアを残らせた。
先ほど護衛の騎士になぜここなのかと問いた時にまるで葬儀のような暗い雰囲気と不穏な気配が漂ったため俺は何かを知る、二人を問い詰めた。
「して、何が起こった?」
少し声を低めて言う俺に、オリヴィアはビクッと体を跳ねさせながらも無言で俯き、ベディヴィアはその場で跪き右手を心臓に当てて忠誠の礼をする。
数秒の沈黙が流れ、痺れを切らした俺は再度同じ質問を二人にぶつけた。
すると、オリヴィアが沈黙を破るようにゆっくりと口を開き、呟くような声で話し始めた。
「ミルフォードでの戦いが終わった直後、頭へのダメージからかアルトス、あなたは意識を失った。
私たちは急いで治療しようとしたけど……。」
「けど……なんだ?」
「はい。治療する必要性なかったのです。」
俺とオリヴィアの会話にわって入るようにベディヴィアが応えた。
治療が必要なかった?
どう言うことだ?
そう思いながら顔を顰めると何かを察したのか今度はベディヴィアが話し始めた。
「頭から血を流していたので傷を防ごうと濡れたタオルで血を拭きながら、傷を探したのですが見つかったと思った傷はたちどころに再生し、数十秒ほどで傷がわからなくなるくらいに完治いたしました。
ですが、それでも意識を取り戻さないので慌てていたところを捕まえたグライツ商会の女性主人が自身の安全を保証する見返りとして、陛下を助けられるかも知れない人物を紹介するというような条件を提示されました。
背に腹は変えられない我々はそれに縋り、彼女の安全を保証し紹介するように伝えました。
そして、その者がいるここへ訪れたのです。このペンブロークの城へ。」
話し終えたベディヴィアに俺はオリヴィアへ、今の話が真実かどうなのかを確認すべく視線を移した。
オリヴィアもそれを悟ったのか、小さく頷くと俺は「––––––––わかった。」とだけ告げて、グライツ商会の女主人の現在の所在と俺を救ってくれた人物についての情報を訊ねた。
「はい。グライツ商会の女主人は現在、身の安全を保証しているとはいえ確保したままです。
ですので、陛下のご命令があればすぐにでもお連れいたします。
また、陛下を目覚めさせた人物ですが………名を、ロアイーズ・クレアと申します。
捕虜となっているペンブルック伯のリチャード・クレアの母君です。」
それを聞いて俺は奥歯を噛み締めた。
◇・◇・◇
本来、ペンブローク城の食堂である場所から長椅子とテーブルをどかして急遽、作らせた謁見室にて俺は一人、多少装飾の入った椅子に腰をかけながら目の前に跪く、女性二人を眺める。
俺の右手側にはオリヴィアが、左手側にはベディヴィアがそれぞれ完全武装で佇んでいた。
「面をあげよ。」
形式的な発言に目の前の女性たちは言われたように顔をあげ、俺を見る。
グライツ商会の女主人はウェールズでは珍しいやや赤髪がかった髪にショートカットヘアーの二十代半ばの女性だった。
また、ロアイーズ・クレアは煌めく銀髪に碧眼の持ち主であり、見た目の三十代前半との情報がなければ二十代に見間違えてしまうくらいに若々しい可憐な女性だった。
そんな二人に見つめられながら俺は口を開き、先に対する褒美を改めて俺の口から告げると共に感謝の意を伝えた。
「グライツ商会、代表。スカーレット・グライツ。
一度は敵対した身でありながら、意識の失った私を救う手伝いをしたとして恩赦を与え、捕虜の身からの解放する。
また、ロアイーズ・クレア元伯爵夫人。
あなたには今現在、我が軍で捕虜となっている息子のリチャード・クレア伯爵の解放を許可する。」
「ありがたき幸せです、アルトス陛下。」
そう告げるロアイーズ元伯爵夫人に対して、スカーレットは無言のまま何かを迷っていた。
そして、数秒の時間が慣れた時、近くにいた護衛の騎士が「無礼だ!!」と叫びながら剣を抜く。
その様子に俺は即座に待ったをかけ、スカーレットに向けて問うように話しかけた。
「自由の身だけでは不満か? スカーレット・グライツ。」
「……私は、自由の身になりたいがために手を貸したわけではありません。
確かに、私はロアイーズ元伯爵夫人を紹介するにあたり、身の安全を要求しました。
しかし、それはあくまでも私が果たしたい願いのためです!!
そして、その願いとは元のグライツ家の復興です!!!!」
グライツ家の復興。
その言葉を聞いて、俺は椅子の背もたれに背中を預けた。
グライツ家は代々、南部ウェールズの有力貴族だった。
しかし、南部ウェールズの有力豪族たちが手を組んで、イングランドを初統一した先代ウーサー王にありもしない罪で告発し、汚名を着せられ取り潰されていた。
取りつぶしが決まったその夜に謎の火災がグライツ家の屋敷で突如発生。
後日、鎮火した屋敷からは二体の焼死遺体が発見されたが一人娘のものとされる遺体は発見されなかったという。
そして噂では、グライツ家唯一の生き残りだった娘が行方不明とされ、一大捜索されたが見つかることはなかったという。
ただ、その娘が成長し、金も信頼も何もないところから商会を立ち上げ、一大商会へと変貌させた上でミルフォードという離れた場所に潜伏していたことで今までなぜ、見つからなかったのかについては判明した。
この世界では前世のような科学力も捜査力は一切ない。
だから、街を一つ変えるだけで犯罪者であろうが悠々自適に街に入り過ごすことができる。
それを利用して目の前のスカーレットは敵から逃げ続け、いつか訪れるであろう復讐の時を待っていた。
そしてその時に必要になるであろう力を蓄えていた。
それを知ると俺は彼女の目を見て訊ねた。
「君は何を望む? 家名に泥を塗った者たちへの復讐か、それとも汚れた家名の名誉を挽回することか?」
「私は、グライツ家の名誉を取り戻したい!!
汚され、地に落とされた名誉を!!!
両親の築き上げてきた全てを取り戻したい!!!!」
ポロポロと涙を流しながらに訴える彼女を見て俺は、一つの決心をする。
「わかった。では、その願いを叶えてやろう。
だが、ただではない。その見返りとしてお前は何を差し出す?」
俺は冷たくも告げるように彼女に訊ねる。
何もかも全てを与えてしまっては王としての威厳が無くなってしまう。
そうならないように俺は彼女の願いに釣り合うだけの対価を要求する。
そうすることで、周りにいる皆に俺は必ず対価を求めることをアピールして、権利には義務を課すことを改めて周知させる。
「私の全てを差し上げます!!
私の忠誠から、財産、そしてこの体に至るまで、全てを陛下に捧げます!!!」
「承知した。
では、カーマゼンや南部ウェールズとの戦争の後、改めて貴族に足り得るだけの功績を残せば汝、スカーレット・グライツに爵位を与え、貴族として迎え入れよう。」
「はい!! ありがたき幸せ!!!」
長年の願いがもう手の届くところにある。
そう思う彼女は涙をポロポロと流しながら頭を下げて忠誠を誓った。
◇・◇・◇
そうして終えた一連の謁見騒動に、再び部屋へと戻った俺ははぁ〜と一際大きいため息を吐いた。
「どうして彼女に爵位を?」
部屋に戻る俺について来たオリヴィアは訊ねる。
「どうも、こうもない。
ただ、彼女を味方にしておきたかっただけだ。」
「どうして?」
「彼女は一から商会を立ち上げた。これは並大抵にできる芸当とは思えない。
彼女には才能があり、知恵がある。だが、圧倒的に後ろ盾に欠ける。
だからこそ、俺が後ろ盾になり、彼女を支えることで彼女の持つ才能を生かし国の国力を増幅させる。」
そこまで告げて俺は同じく部屋までついて来たベディヴィアに注いでもらったエールをグイッと口に含み飲み干すと話を続けた。
「そもそもウェストリー王国の国力は知っての通り、すでに限界を超えている。
この戦争も勝ち続けなければ国は終わってしまう。
その中で重要なのは何か、わかるか。オリヴィア。」
「国力を回復させるために必要なこと……? 増税とか?」
「まぁ、間違いではないが、正しくもないな。
増税は、最終手段だ。だが、やり方が違う。
経済だ。それが今のこの国に足りないものであり、彼女の才が生かせるものだ。」
笑みを浮かべて告げる俺にオリヴィアは食い入るように話を聞き始めた。
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