#056 『 ベディヴィア 』
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依然として光り輝く右手の甲を俺は見つめる。
熱くもなければ、特にどうってことはない。
ただ、不思議と興味が引かれる。
だが、即座に我に帰り、城門を目指す。
敵を薙ぎ倒し城門に近寄ることに成功すると俺は護衛の騎士に城門を閉める冠木を外すように命令を下す。
二人がかりで冠木を外す間、残りの者で敵兵を食い止めなければならない。
城門を背に弧を描くように構えると敵兵がゾロゾロと俺たちを包囲するように動き出す。
幸いにも上からの攻撃は城壁外の味方が引きつけているためにあまり心配ないが万が一のことを考えて、皆には乱戦に持ち込むようにいってあった。
一度、乱戦に持ち込めさえすれば、敵の弓兵は容易に弓を引くことはできなくなる。なにせ、下手をすれば自分の弓矢で味方を殺してしまうことになるから。
故に、弓を防ぎ、乱戦によって注目を集めることができれば城門が開いた時に一気呵成に敵を殲滅することができるようになる。
敵の殲滅が完了すれば城門は崩れ、ミルフォードという都市は陥落する。
だが、問題はここが港町であるということだ。
港町と言うからには船が存在し、ここの三大商会は皆、私設軍隊を所有していた。
彼らの兵を殺している間に、彼らが海を渡って逃げてしまえば問題は解決せずに先送りになってしまう。
そうならないようにいち早く港の方を確保したいが、海軍を動かすと言うようなことは今すぐにはできない。
また、陸からの侵攻においても未だ城門を開けることができていない今の状態では不可能。
ではどうするべきなのか。
敵の図体を上下二つに切り捨てながら俺は思考を巡らせる。
城門を開け放ち、味方と共に攻め込めんでしまえば敵に逃げられる恐れがある。
であれば、少数精鋭で奇襲をかけ、逃げられないようにするべきだろう。
俺はそう考え、乱戦へと持ち込みつつあった味方の騎士やベディヴィアに向けて叫ぶ。
「敵は港から逃げようとしている!! だから、港を強襲し敵を逃さないようにする!! いいな!!!!」
剣戟音に怒声や怒号、風切り音と鎧のガシャガシャと言う音などの様々な音が鳴り響く戦場の中で俺の叫びは飛び交い、味方の騎士たちに届けられる。
俺の命令を聞いてか、即座に騎士たちは敵を引き込むのではく、むしろ払い除けるように押し込むようになる。
どんどんと敵が押し込まれ、周囲に敵兵がいなくなっていく。
足元には溢れんばかりのしたいがゴロゴロと転がっており、すでに俺たちは全身に敵の血を浴びていた。
真っ赤に染まる鎧を見て、敵の表情はみるみるうちに青白くなっていく。
当然だ。
彼らにしてみれば、俺たちは幾多の兵で囲んでも倒れずに切り捨てる化け物のように写っているからだ。
だが、俺たちにしてみれば、だいぶ無理をしていた。
味方の騎士にはすでに息を切らし、今にでも疲労で倒れそうな者がいた。
とはいえ、一瞬でも気をぬいてしまえば、あの世行きは確定する。
死にたくないのであれば、今戦わなければいけない。
戦い敵を薙ぎ払わなければならない。
そう自分に言い聞かせ、敵を睨みつける。
こちらが一歩踏み出すたびに一歩後退する敵に俺は笑みを浮かべる。
その瞬間だった。
バタンと後方にあった城門が勢いよく開き、城壁外の味方の軍が雪崩れ込んでくる。
一気に人数差をひっくり返したその光景に、敵は戦意を失い、皆一目散に武器をその場に捨てて慌てるように逃げだす。
だが、それを黙って見過ごすほど俺は甘くなく、タイミングを逃すことなく反撃へと打って出る。
味方の兵に雑魚兵を任せながら、俺や騎士たちは一気に前へと出る。
目指す先は先程告げた、ミルフォードの港だった。
◇・◇・◇
「早く急げ、このノロマども!!!」
パール商会の主人たる男は地団駄を踏むように私設軍隊の兵たちを急かす。
元より交渉が破綻した途端に部屋に兵をなだれ込ませ敵を始末させるのが彼の常套手段だったが、敵の力量さを見誤った今回ではうまくいかずに敵に逃げられてしまった。
おかげで、今まで積み上げた財産を失うことになった。
だが、幸いに男の手にはまだ起死回生の一手が残されていた。
それは兵をなだれ込ませたが故に使うタイミングを失ったウェストリー王国の存亡に関わる貴重な情報だった。
それを知れたのは長くから各地へと密偵を送り情報を探っていたからだった。
偶然にも手に入れたその情報をネタに彼はアルトスを揺さぶるつもりだった。
しかし、先にアルトスが海賊の件を話題にしたことで、逆に追い込まれてしまい、逆上してしまう。
兵をなだれ込ませ、始末しようにもアルトスは逃亡。
城門付近にて兵と交戦中ではあるもののすでに黄色の旗を下げたミルフォードでは城壁外の敵とも交戦している。
遅かれ早かれ、この都市はアルトスの手に落ちることは確定する。
であれば今の男に起こされた行動というのは一早い逃亡だった。
残された資産の中ですぐに持ち運べるものは全て持ち運び、現在ウェストリー王国と対峙していてかつ身近にあるアルビオン王国への逃亡をするほかなかった。
そこでアルビオン王国の王に謁見し今、手に持つこの貴重な情報を引き換えに安全と地位を手に入れる。そして、アルビオン王国とウェストリー王国の間で起こる戦争を食事の種にしながら悠々自適に暮らす。
まさに理想とも思える想像に男は笑みを浮かべる。
しかし、それも束の間、荷物を運んでいた兵が突如首に矢が刺さり、荷物ごと海へと倒れ込み、ボトンという音とともに沈んでいく。
「何ッ!!」
矢が飛んできた方向に男が視線を移すとそこには全身を血で染めたアルトスとベディヴィア、護衛の騎士が三人立っていた。
◇・◇・◇
弓を引き兵を殺したのは俺だった。
「まずは、一人。」
そう告げて、俺は弓をその場に捨て腰に掛けた愛剣を抜く。
僅かに血がこびり付いた愛剣を手に俺は皆に号令をかける。
パール商会所有の船目掛けて走り出す俺たちに立ちはだかるように荷物を運んでいた兵たちが武器を取る。
だが、そんなものでは俺たちを止めるようなことはできず、華麗なステップで次々とパール商会の私設軍兵を屠っていく。
港と船を繋ぐ小さな橋を駆け上がり、船に乗船するとそこには囲むように兵たちが配列されたが、騎士と兵では実力が違うために、一方的に薙ぎ倒されていた。
俺は、兵の対処を護衛の騎士に任せ、ベディヴィアを連れてパール商会の男がいる船尾に向かった。
だが、そこには一際大きい図体をした巨漢がおり、死角から斧を振りかざした。
僅かな殺気に俺は途端に防御体制をとり、間一髪傷を避けることができたが後方へと激しく飛ばされる。
その様子にベディヴィアが大丈夫かどうかを訊ねてくるが、飛ばされた衝撃で船の手すりに激しく頭をぶつけたためによく聞けずに、頭から血を流す。
視界はピントが合わないカメラのようにピンボケし、足元はフラフラと立てるかどうかだったが、なんとか根気で立ち上がる。
俺の異常な様子にベディヴィアは心配し俺の元へと駆け寄るが即座に今の自分にすべきことを理解する。
やっとのことで立ち上がった俺を横目に、ベディヴィアは剣を抜くと溢れんばかりの怒りを抑えて、巨漢へと歩み寄る。
まるで化け物のように見える巨漢が可憐でするりとしたスタイルのベディヴィアを襲うかの如く斧を振り下ろす。
巨漢の斧から伝わる衝撃に耐えきれずにバキッと船尾の板が壊れる中、スルッと華麗に躱すベディヴィアに男が襲いかかるだが、その全てを軽く躱し尽くすと、剣を構えた。
それを警戒し男は斧を右薙ぎ払うかのように振り回し、距離をおこうとするがベディヴィアは距離を置くどころか、ただジャンプして躱すと巨漢の喉仏目掛け刺突を繰り出す。
刹那、ベディヴィアの剣が巨漢のうなじまで貫通する。
巨漢の方はベディヴィアの剣のあまりの速さに一瞬、呆気に取られたことで防ぐ間もなくその場にゆっくりと倒れ込む。
バタン。
船尾の床に僅かに積もった塵を舞い上がらながら倒れ込む巨漢に同じく船尾にいたパール商会の男が溢すように告げる。
「あ、ありえない……。こいつが敗れるなど……。」
恐怖のあまりに腰を抜かし、その場に倒れ込むパール商会の主人にベディヴィアは殺意を向ける。
睨みつけられ、殺意を向けられたことでゾッと身震いするパール商会の主人は情けなくも命乞いをする。
頭を船尾の板に擦り付けながら土下座するように慈悲を乞い、命だけはとせがむその光景に俺は呆れ果て、ベディヴィアに男を捕縛するように命令する。
船上ではすでに騎士たちが敵兵のほとんどを屠り終えており、船のあちこちに倒れ込んでおり、その周囲の海にもプカプカと血を垂れ流しながらも浮かんでいた兵の姿があった。
船上での戦いが終わり、一番厄介だったパール商会の男は捕縛した。
時同じく城壁周辺の戦いも終わり、城壁近くにあった旗竿にはミルフォードの港からでもわかるくらいに燦然とはためく、赤い布地に金のドラゴンが刺繍されたウェストリー王国旗が堂々と掲げられていた。
「終わりましたね。」
優しく告げるベディヴィアに支えならながら俺は王国旗を眺める。
「ああ……これでミルフォードの港は手に入った。」
これでペンブルックの主要だったミルフォード港は俺の手に落ちたことでペンブルックの残りの都市は降伏せざるを終えなくなった。
物資の調達を一手に担っていたミルフォードの港が奪われたことで物資の補給ができなくなったことで降伏せざる終えない状況に追い込んだことで俺は現有兵力の消耗を抑えると同時に、無血開城することで争いや血を好まない印象を与える。
そうすれば俺の支持率は上がり、民衆はより俺の指導を受けようと権力を俺に集中させようとする。
そうなれば、一早い中央主権化が可能となり、未来の知識を生かした文明の発展を行うことができるようになる。
そこまでのことを見据えて俺は行動していた。
ただ、それらを行うにはまだすべきことが山のように残っていた。
「護衛騎士たち!! 陛下をすぐさま治療すべく、安全なところへ運びます!!」
「「仰せの通りに!!!」」
両肩を支えられるように肩を組みながら船を降りると、慌てた様子でオリヴィアが兵たちとともに近づいてくる。
しかし、俺の姿を見て開口一番に告げる。
「アルトス!!!」
心配そうな眼差しを向けてくる中、俺は必死に笑みを浮かべ、「大丈夫だ」と強がる。
今、俺が倒れてしまえば兵たちは指導者を失うことになる。
かといってそう簡単に直せるような傷ではないことは実際に負っている俺からすればよくわかることだった。
少なくとも前世の病院のような施設が存在し、前世の医者がいれば助かるかも知れなかったが、この世界の医術では怪しいところだった。
薄れゆく意識の中で俺は最後に「少し休んでくる。」とだけ告げるとまるで電源が切れたテレビのように視界が真っ暗になり、音も聞こえなくなった。
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