#055 『 王の刻印 』
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オリヴィアの全面攻撃より時は二時間くらい前に戻る。
会議室にパール商会、ニフリス商会、グライツ商会の主人がミルフォード側の交渉人として入ってくると俺はやはりと悟る。
ミルフォードという都市は領主管轄として維持管理されているはずだが、その実態は三大商会による合議によって維持管理されていた。
故に、当然交渉の際にはミルフォード側の交渉人として出てくる事になる。
つまり、互いのトップ同士の会議となるのだ。
僅かに余裕を見せるパール商会の男に俺は手を伸ばし、握手を求めた。
この世界でも当然、握手の文化はあったため、問題はなかった。
ともに手を握り、数秒。
お互いに満足できる演出を終えて、初めて会議が始まった。
「では講和会議を始めよう。」
パール商会の主人たる男が一際鋭い眼光を覗かせながら告げる。
見た目的にすでに三十代後半でこの世界では結構な長生きであるにも関わらず、刺さるような視線を向けてくるパール商会の主人はまさに商人らしいと言えた。
幾多の修羅場を括りぬけ、利益を出し続けたその商人を相手に俺は騙さねばならなかった。
パール商会の男性に睨まれながら俺は軽く頷き“どうぞ、そちらが先で”と先方を許す。
本来、先に発言させるというのは交渉において少し不利な状況に陥る事になることが多い。しかし、それが相手による意図的なものであれば別だ。
相手による意図的なものであれば、それは譲ったのであって、決して奪われてはいないということを意味する。
つまり、相手に余裕を見せつけるという心理的プレッシャーを与える事になる。
案の定、パール商会の男も同じように考え至ったのか、少し顔が硬直するのを俺は見逃さなかった。
「では、好意に甘えまして。
私どもミルフォードが降伏する意見としましては、まずいくつかの点を許容していただきたい。
一つ目に賠償金についてです。こちらはやめていただきたい。
二つ目にして今まで通りにミルフォード港の管轄は、領主や国王ではなく都市ミルフォードが維持管理することを許容していただきたい。
三つ目に合議制を維持していただきたいと思います。
これらを約束してくださるのであれば、すぐにでも城門を開けましょう。」
笑みを浮かべながら告げてくるパール商会の男の話に俺は内心で怒りが込み上げてきた。
賠償金の支払いに関してはある程度予想はしていた。
無論、賠償金の支払いを無しにするなど俺は許すわけにはいかなかった。
とは言え、問題は第二、第三の条件だった。
第二のミルフォード港の維持管理というは裏を返せば、ミルフォード港の全権利は自分たちが頂くということであり、とても許容できる話ではなかった。
また、第三の条件も同じで、合議制の維持とは詭弁であり、むしろ、自分たちの支配権を認めろというものだった。
つまり今、俺の目の前にいる男は、俺に向かって賠償金も払わなければ、都市の統治権もミルフォード港の利用権も渡さないという。
では何を得られるのかと言えば、都市の名前だけだった。
ミルフォードという都市を占領したという名目しか俺の手元には渡されない。
そんなものに兵たちの犠牲が釣り合うのかと思いたくなる中で、俺は口を開く。
「残念だが、どれも許容できない。
第一の条件としては、最低でも賠償金は三金貨は支払ってもらわなければならない。
また、第二のミルフォード港に関しても原則、国王たる俺が直轄する。
それと第三の合議制に関してだが、都市に関する一定の条約や物事に関しての決定権は与えるつもりではあるが外交権、税の徴収権、軍の統帥権などに関しては与えるつもりはない。
故に、それらの条件を認めることはできないし、新たに俺が告げた条件を飲むのであれば私はこの都市の三大商会であるパール商会、ニフリス商会、グライツ商会に率先して交易権と関税に関する意見申し入れを認める意思がある。
さぁ、どうする?」
俺の発言にニフリス商会の男は考え込み、グライツ商会の女性は割って入るように訊ねてくる。
「先ほど、交易権とおっしゃいましたが通行税に関してはどうでしょうか?」
「通行税に関しては我が国の領内にある都市であれば全て撤廃する予定だ。
故に、都市と都市をつなぐ物流を司るグライツ商会にはデメリットはありませんよ。」
「そうですか……。」
未だ疑念が振り払えない中でグライツ商会の女主人は考え込む。
「では俺はからも一つ。」
そう告げて、ニフリス商会の男は質問する。
「先ほどの交易権とはどういう意味での発言か、教えてもらおう。」
「そのままの意味だ。北ウェールズ、エール島、コンウォール半島をつなぐ一大拠点であるこの港の利用権を献上する代わりに各地域への優先的交易権を与えるということだ。
他の商会に代わって独占的な利益を得られる保証がある。」
「なるほど。」と唸りながら、ニフリス商会の男は下がる。
そして最大の問題点だったパール商会が前に出る。
「アルトス国王の仰りたいことは理解いたしました。
ただ、我々も苦しい状況なのです。
この周辺海域はみな海賊が大勢潜む場所なのです。そうした脅威から度重なる海賊の被害に怯えながら護衛船を雇い、細々と商いを行う我々に賠償金の支払いはかないません。」
「確かに。軍の統帥も噂では三大商会が自前のお金で雇っていると聞く。
その中に賠償金というのは非常に重いというもの。
ただ、パール商会の主人よ。私が阿呆に見えるのか?」
キョトンとシラを切るパール商会の男に俺は食ってかかる。
「お前や他の商会が海賊と繋がっていることなどは知っている。
それに税でたっぷりと肥えた資産があることも知っているわけだ。
大人しく、差し出せ。死にたくないのであればな?」
不敵な笑みを浮かべて告げる俺に、三大商会は驚く。
自分たちの秘密を知られている以上俺を野放しにはできない。
かといって、自分たちには戦えるだけの力がない。
そうなれば、予め用意した細工を使うしかなくなる。
そう考えて、パール商会の男は叫ぶ。
「やれ!! お前ら!!!」
すると、突如壁が倒れ、兵たちがなだれ込む。
まさに、からくり屋敷のようなこの展開に俺やベディヴィア、護衛の騎士たちが剣を抜くと、ニフリス商会の男は兵たちに旗を下げるように命令を下す。
黄色の旗は交渉を意味する一方で剣を抜くことは許されない。
これは交渉人となる条件の一つであり、慣習でもある。
それを破った俺たちは彼らにしてみれば好都合だろうが、実際には少し違う。
これで俺たちが生き延びてしまえば、彼らは慣習を無視したとして様々な場所から非難される。
商人であれば、商売ができなくなるほどに信頼を失い、取り戻すことはできない。
それほどまでにこの旗の意味は絶対だ。
「お前ら、撤退する。」
そう告げる俺に、護衛の兵たちは「「ハイッ!!」」と叫ぶ。
剣戟音が会議室に響き渡り、兵たちが薙ぎ払われていく。
そうした中を俺は窓を蹴破ると、そのまま窓から飛び降りた。
幸いに、二階だったこともあり大した怪我にはならなかったが、衝撃が両足を伝って全身へと駆け巡ったことで一瞬体が硬直した。
続いて、ベディヴィアや護衛の騎士たちが続き、急いで馬の元へ走り出す。
後ろから兵たちが叫びながら追ってくる中、俺は城壁の上に掲げてあった旗を見た。
そこには黄色の旗が下ろされ新たに赤旗が掲げられていた。
「クソッ」
一人悪態をつきながら俺は、馬を探し出す。
赤旗の意味は継戦もしくは宣戦布告。
そのことを知っているオリヴィアや城壁の向こうでまつ兵たちは恐らく今頃戦闘準備へと移行しているだろう。
このミルフォードを落とすことは容易ではあるが、ここで兵力の消耗を避けたかった俺はできるだけ交渉で物事を解決したかった。
海賊との癒着を指摘した途端に怪訝な顔をされた上で何かの間違いではないのですかと聞き返してくると思ってはいたのだが、即座に剣を向けてくることは流石に予想はしていなかった。
また、例の壁に関しても特段見る分には不自然な感じはなかった。
壁の向こう側に兵を配置していたことは俺でもびっくりしたが、一番気になったのは会議室の壁が倒れるといった点だった。
しかも、兵たちの動きもまるで手慣れていた感覚だった。
恐らく、長いことこの仕掛けを使い自分たちに有利な条件で条約を結んできたのだろう。
俺はそれを察するとこの後における処罰を考えた。
「王よ。馬です!!」
護衛の騎士の声でふと我に帰った俺は馬のいる方向へと走り出した。
依然として敵兵に追われていた俺たちは、必要最小限の戦闘で敵陣の中にある馬を探していた。
このまま城門などに向かうこともできるが城門は最も敵が警戒する場所であり、敵兵の密集も予想されていた。
故にまずは馬を見つけて、騎馬突撃による奇襲を城門にかける。
そうして乱れた敵の指揮を破壊し、外にいる味方の軍を引き込めば、まだ勝算はあった。
ただ、その際の問題点としては三大商会の主人の行方が一時的にわからなくなることだった。
彼らのことだから兵たちを相手にしている間に奴らが逃げていってしまう可能性があった。
もし逃げられでもしたら、後々厄介な事になる。
無駄に金と権力を持ち合わせている者を脱がすのは厄介だ。
なぜなら、逃げた途端に力を取り戻してすぐに戦いを挑んでくるからだ。
また、今回の三大商会は物流と交易に重きを置く商会ということもあり、国内における物流と交易が激減しかねないものだった。
仮に彼らをここで倒すことができれば、物流や交易は一時的には下がるがすぐに回復を見せる事になる。だが、逃がしてしまえば彼らを捕まえるまで物流と交易は阻害されかねない。
経済を柱に富国強兵を掲げる俺にとってそれは致命的だった。
そう考えていち早く捕らえようとするが、追っての兵たちがそれを阻止するように食ってかかってくる。
剣を振りかざし、致命傷を与えるが敵は怯むことなく突撃してくる。
馬に乗った状態で囲まれ、敵は槍を俺たちに向けてくる。
その状況に俺は苦虫を潰したように顔を顰めるが、途端に右手の甲が光出す。
手袋越しでも光り輝いていることがわかるぐらいに眩しい光を放つその刻印を見て、突如脳内に声が聞こえてくる。
『我を使え。』
唸るような声にどこか懐かしさを感じながら俺は意を決したように剣を掲げる。
それに釣られて馬も前足をあげてヒヒンと鳴いた。
刹那、剣が光輝く。そして光が霧散するように四方へと円形に広がると味方の兵や騎士が僅かに赤く染め上がる。
薄くて一見すればわかりづらいが、確かに光をまとった味方に俺は命令を下す。
「敵を突破し味方に合流する!!」
命令に応えるように騎士たちは声をあげ、城門へと向かう線上に突撃をする。
その瞬間、敵は飛ぶように薙ぎ払われる。まるで映画のワンシーンを見るかのようなアクションの中、俺は一人右手を見た。
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