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Godin Fantasy —異世界建国譚—  作者: 高峰 遼一
七王の戦旗
57/70

#054 『 ミルフォード 』

毎日投稿 24日目!! (● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾

 荷馬車に必要な物資を詰め込み終えると兵とともにフォードウェストを後にした。

 フォードウェストから南に約十二キロメートル。そこに天然港と名高いミルフォードの都市があった。


 その昔、土砂降りの雨と海の波が次第に激しくなる中、全財産をかけた船体がギィーギィー不快な音を立てながら上下左右に揺れていた。

 激しい嵐が船を襲い、耐久性の乏しかった船は沈没し船員は全員、死亡した。

 しかし、奇跡的にもニフリス商会の創設者だけが生き残り、偶然にも辿り着いた浜辺がミルフォードの地だった。


 激しい嵐の中を一人生き残った創設者は生への喜びとともに絶望した。

 なぜなら、全財産を注ぎ込んだ船が沈没したからだった。


 船はなく、船に積み込んだ商品も無駄にしたことで無一文となった創設者は全てを失ったそんな喪失感に苛まれていた時、偶然にも一人の村の漁師が発見し、立ち直るまでの間に世話を焼いた。


 男に連れられて創設者は小さな田舎の漁村へと連れてこられ、そこで久しぶりの休暇を得た。

 神経を消耗していた創設者は何もやることが起きずいつもただ無意味な日々を過ごし閉じこもっていた。


 そんなある日、いつものように定期的にくる商人が都市から購入してきた物資や商品を村人たちの持つものと交換していることを偶然にも目撃したことでかつての商人魂が熱を持ち始めた。


 村に訪れた商人はどうやら古くから村人達との関係が非常に良く、常に頼られていた感じだった。

 しかしそんな商人の商品を見ると見る人が見ればわかるぐらいに高値で都市で取り寄せた物品を村人達に売り込み、村人達からの農作物をこれでもかという感じで買い叩いていた。


 確かに、田舎の村には商人や町役場の人と同じように計算などできる人物がいない以上、訪れた商人のいう値段を信じるしかない。

 例え、それが法外に高く値上げされたとしても、向こうには「これはここまでくるのにかかる手数料だ。」とでも言ってしまえば解決する問題だった。

 しかし、一度は絶望した人生に住処を与え、養ってくれた優しい村人達が嬉々として騙されているのにも気づかずに訪れた商人に群がるのを見てはいられなかった創業者は商人に意義を申し立てた。


 かつて、自分が都市にある小さな商家の見習いとして汗水流して働いた下積みの僅かな時間を削って勉強した算数などの計算して商人としての才を磨いてきた苦労の思い出を思い出しながら、訪れた商人が持ち込んだ都市の物資の一つ一つの相場を言い当てた。


 この商品は三銅貨、これは一銅貨だ。というように指をさして問い詰めた。

 その結果、商人は「商売の邪魔をするな!」と逆ギレしたが、怒り散らしたことで創設者の言い分が正しいとわかったしまった。

 その一部始終を見ていた村人達は騙されていることにやっと気がつき、商人を問い詰めたが、即座に商人が逃げたことでどうすることもできなかった。


 後に残されたのは、商人の来ないことを思い知らされた村人達の閉塞感だった。

 その様子に創設者は立ち上がり、自分が真にすべきことを思い出す。

 商いで困った人々を救う。かつて、自分が夢見た商人の姿を思い出し、創設者は僅かな食料と洋服を持って、村を旅立ち都市へと向かった。


 都市で再び働き、稼いだ金を少しづつ溜めこんだ。

 そうして、およそ一年の年月をかけて必要な物資を購入して再び村に戻った。


 今度は商人として訪れる創設者に村人は驚きながらも、正当な値段で売ってくれる彼を信じ、専属契約を結んだ。

 そうして、村を発展させていった創設者はかつて自分が助かった浜辺を見て天然港であることを知った。


 そして、創設者は村を今以上に発展させるために領主の元へ赴き、天然港の存在を明らかにした。

 大型の船だけでも二十隻もの船を止めることができるという情報に領主も満足し、新たな交易港としてミルフォードの村が選ばれ、領内から職人たちが溢れかえるように訪れる様になった。


 まるで、奇跡の様にみるみる変わる村の姿に元の村人達は感謝を示し、創設者のところで働き始めた。

 そうして出来上がった商会が後の海上交易で最も稼ぐニフリス商会が生まれたのだった。



 そうして発展してきたミルフォードを俺は手中に入れようと軍を向けていた。


 ミルフォードの天然港についてはウェールズでは有名なことで特に驚きはしなかったが、その天然港が生み出す利益が膨大だった。

 なにせ、北ウェールズ、エール島、コンウォール半島の三地域を結ぶ線上に浮かぶのだから、利益が上がらないはずがなかった。

 だが、その利益は膨大すぎる故に領主と商会主の立場が逆転するほどのものだった。


 だからこそ、俺はイザベルにカーマゼンのことを調べるように通達したときにあらかじめミルフォードの商会の者たちについても調べてもらっていた。


 その結果、出発直前に届いた情報によれば、ミルフォードの商会は自由に関税を決める権限を持ち、ミルフォード内に入るための通行税や港に船を止めることへかかる税金なども自由に決められる様だった。

 また、商会の意見を無視する輩には排除するための独自の軍を持つことが許されていた。

 加えて、噂程度ではあるものミルフォードの商会たちが実は裏で海賊と手を組んでおり、気に入らないものや大きな獲物が来ると海賊に襲わせては利益を受け取っていたなんていう話もあった。


 イザベルからの情報を見るたびにやりたい放題だなと思った俺は商会に対する今後の姿勢を強固にすると同時に、敵に逃げられないようにするために何が必要かを考えた。



◇・◇・◇


 都市に到着し、俺は兵達に今までと同じ様な感じで包囲をするように通達した。

 兵がザッザッと動く間、俺はオリヴィアに今後の流れを軽く告げるとそのまま軍の指揮権を託した。

 そして俺とベディヴィア、そして五人程度の護衛の騎士を連れて馬を走らせ、門前まで近づく。


 いつもながらに降伏勧告を行い、城門を放つように告げると敵はあっさりと城門を開き、黄色の旗を掲げた。


 黄色の旗が意味する内容は“交渉”。

 敵は交渉団の俺を含めたベディヴィアと五人の護衛騎士のみの入場を許可して再び門を閉ざした。


 この世界の慣習では、黄色の旗が掲げてある間は例え交渉が決裂しようとも交渉団の生命と自由は保障される。

 故に、城壁外にいるウェストリー王国軍及びオリヴィアは俺たち交渉団が無事であることをいつでも知ることができた。

 ただ、これは逆に黄色の旗が下がった場合にはその限りではない。つまり、これは完全に相手に主導権を握られていることを意味する。

 下手に交渉中に刺激してしまえば旗を下ろし迫ってくるに違いない。

 だが、そうなればその瞬間から城壁外にいるウェストリー王国軍が侵攻してくるのは間違いないために敵も容易にこちらを煽るような真似をすることはできない。


 そうした疑念の中を俺たちウェストリー王国の交渉団はミルフォード側で用意された交渉の場に案内される。


 交渉の場は一際大きな屋敷であり、恐らく商会側の方で用意されている建物である様子が窺えた。


 その屋敷の中に入り、会議室へ通されると案内役から待つようにとの言葉が告げられる。


 そして待つこと一刻。

 ようやくしてミルフォード側の交渉団が会議室の扉から出てきた。


 そのメンツはミルフォードの三大商会と称されるパール商会、ニフリス商会、グライツ商会の現会長だった。


 互いに笑みを浮かべてる中、対面に座る。

 その様子はこれからこの会議室で行われる水面下での戦いの火蓋を切っていた。


◇・◇・◇


 アルトスに全軍の指揮を任されたオリヴィアは少しオドオドしていた。

 なにせ、全軍を率いるというようなことをするのは初めてだったからだ。

 

 とはいえ、オリヴィアには王族として最低限の指揮能力はあり、また、軍の専門家による最低限の戦略、戦術に関する講義も受けていたため、決して軍の動かしからがわからないわけではなかった。


 だが、それでも初めては不安なもので、オリヴィアは自分を落ち着かせようと先ほどから渡された水をガブガブと飲んでいた。


 自分の命令一つで人の命が消える。

 前に、アルトスに訊ねた強さの秘訣が今になって自分に重くのしかかる。

 人を殺すという覚悟。それは並大抵のものではできない。

 しかし、王族はそれをなさねばならない。なぜなら、それが結果として民を、国を守ることに繋がるからだ。

 だが、今の自分はどうだろうか。

 不安に駆られ、自分の言葉の重さを改めて思い知らされる。

 自分のそばにいる兵でさえ、本国へと戻れば家族がいる。

 そんな人物に自分は最悪、死ぬことになるであろう戦場へ立たせねばならない。


 『使命のやらのためにあと何人死ねば姫は満足ですか? 我々はあと何人に死ねと命じればいいのですか?』


 今になってアルトスの言葉が自分に重くのしかかってくる。


 人の上に立つ以上、自分の言葉には一定の重さが加わる。

 その言葉を意味あるものにするのか、それとも無意味なものにするのかは自分次第。


 アルトスにはそれができてしまう。

 例え、犠牲を生み出す様な結果になってもそれが最終的に前に進む行為につながるのであればそれを容認し切り捨てることができる。


 戦場で兵を鼓舞するアルトスを見て、オリヴィアは思う。


 自分にはないものがアルトスにはある。

 だが、アルトスにも欠けているものも当然のようにある。


 アルトスは見ていて常にこっちが不安になる。

 前を見すぎるあまりに、自分のことを後に回す。もはや数ヶ月前の熊との戦闘においても彼は自分が戦うことだけを考えた。決して逃げず、前のみに活路を見出す。

 だからこそ、頼りたくもなる。しかし、それではやがて誰も追いついて行かなくなり、孤立してしまう。

 そうならないようにオリヴィアはアルトスのそばにいたいと思っていた。


 そのためにも今の自分にできることをオリヴィアは考え行動する。


 最初は、軍の指揮をなぜ自分に任せたのかがわからずにいたが、今になって考えてみれば、アルトスは自分を信じていると思えた。

 この大事な局面でアルトスは他でもない自分に託した理由それは、上に立つ覚悟を覚えるため。


 自分は理想によく走るとアルトスから怒られることがある。

 でも現実は理想のように動くことはない。


 だからこそ、現実を覚えて叶えられる理想を探す。

 それが今の自分にでできることだった。



「オリヴィア様。偵察からの報告です。

 敵軍が黄色の旗を下げました!! 敵は交戦のつもりです!!!」


「!!!!」


 突如、天幕に入ってきた伝令の言葉に声が出ず、思考が真っ白になる。

 戦争。ただその二文字が脳裏を駆け巡る。


 数秒の沈黙ののち、オリヴィアは怒りに身を任せるように叫ぶ。


「総員、戦闘準備!! 敵を一人残らず、薙ぎ払え!!!」



 伝令兵が動き、急ぎ命令が各兵へと通達され、剣を、槍を、弓を構える。

 そして、雄叫びとともにウェストリー王国軍はミルフォードへと迫った。

読んでくださってありがとうございます!! ( ^ω^ )V


広告の下にある星をタッチすると私を応援できるのでよろしくお願いします!!

また、少しでもこの物語を『面白い』、『続きが気になる』と思っていただけたら、

レビューや感想等の方もお願いします!!


( ✌︎'ω')✌︎<オネシャス!

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