#053 『 企む者達 』
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森での生活を終え、俺たちはようやく未開拓の森を突き抜けた。
森を避けるのであれば一週間程かかる距離をわずか三日で走破したのだ。
幸いにも敵に攻められたりはしなかったが、野生動物には幾度となくぶつかり、その分だけ食事のお供が増えた。
特に肉というのは腐りやすいために兵の間には積極的に狩ってくる者も多かった。そのせいか、動物たちも俺たちを見た途端に逃げるようになり、二日目の夜にはいつも通りの携帯食しか食べるものがなく、兵たちは若干落ち込んでいた。
そして、三日目。
俺たちはついに森を抜け、都市フォードウェストへと辿り着いた。
着いて早々にフォードウェストは青旗を掲げ、門を解放したため俺たちは何もすることなく都市を占領。
兵たちには休息を取らせ、必要な物資の調達をベディヴィアに任せて俺たちは交渉へと移った。
ただ、向こうもすでに受諾の意を決めていたらしく、特段揉めるようなことはなく、わずか一刻で全ての内容が決まり、フォードウェストは完全降伏した。
会議の際に、なぜこれほどまでに早く降伏したのかを訊ねたらここの領主だった、リチャードからの事前通知で“万が一に自分が負けここに敵軍が来たら抵抗することなく、降伏するように”と受けていたらしい。
そのことを聞いて、俺はリチャードの有能さを改めさせられた。
リチャードは決して武勲が良いわけではない。しかし、無能でもないことがここでわかる。
俺は、この戦いの後にリチャードを含め、幾人かの貴族の処遇を決める立場にあるが、多くの場合には悪くて死刑か、良くても投獄を行う予定だった。
だが、有能なものが混じっているとなれば、それを使わないてはない。
無論、反抗や拒絶するのであれば容赦無く処分を下すつもりでいる。
しかし、現在の我が国の状態には有能な者が足りない。
現状、戦争などの影によって問題としては大きくはなっていないがすでに国内はボロボロの状態のはずだ。
無茶な戦争を立て続けに行い、財政は火の車。
負ければ即に全てが終わってしまう、その状態に俺は帰った時のことを考えると頭を抱えたくなる。
国内問題は即座に解決しなければ、その責任を時の権力者が背負うことになってしまう。
そうなれば、だいぶ不利になってくる。
民の暴動は最悪、騎士や軍を動かせば鎮圧できるがこの手段は最終手段だった。なにせ、この手段を用いたら最後、民の信頼を損ねてしまうことになるからだ。
故に俺は、そうならないように常に次の戦略を考えて、ことに当たっていた。
そして、今回の戦いで勝てばある程度の期間を民衆は俺に託すだろう。
そうなれば、その期間中に成功し財政だけでも立て直さねば俺の寿命は縮まるに違いない。
そんなことを考えているとベディヴィアが俺の元に戻り、全ての内容が終わったことを報告する。
「ありがとう。では、いくか。」
そう告げる俺にベディヴィアは「はい。」と短く返事しながら賛同し、二人して兵たちのいる場所へと歩み出す。
オリヴィアには事前に兵たちの指揮と管理を任せていたため、合流は兵たちのいる場所でということになっていた。
◇・◇・◇
「次だ。早くしろ!!」
叫ぶ部隊長の声に、兵たちは「「はい!!」」と返す。
今まさに、荷馬車にベディヴィアが集めさせた物資を乗せている光景に俺は「おおぉ!」と呟きながら驚いた。
なぜなら、この世界では馬車は未だ貴重品。
特に大容量の荷物を運べる荷馬車は軍の中でも重宝されており、大量の物資の運搬にはどうしても必要だった。
しかし、現実的に軍専用の荷馬車を購入するなど無理な話だった。
まず、この世界の馬車は職人が一からオリジナルで制作しているため、大量生産はできない。
またそうしたなかで数を揃えようと馬車を作ることになる幾人かの職人に分担して作業してもらうことになるとその分だけ費用が嵩むことになる。
特に問題なのは人件費だった。幸いにもこの世界では最低賃金という概念がないためにやりようによっては権力を盾に値下げを要求できるが、そういう話は広まりやすいために印象を悪くしたくない俺としてはできるだけ避けたかった。
加えて、ここの馬車には統一規格がないために壊れた二台の馬車を分解して一つの新しい馬車にしようとしても、部品が合わないために馬車を修理することもできなくなってしまう。それに修理は製作した側でしかできないために、一度に大量に壊れてしまっては修理に時間と費用がかかってしまうことになる。
そうしたことを考慮して俺は馬車による輸送は最低限かつ必要な分だけを行っていた。
だが、ここフォードウェストでは南にある天然港のミルフォードから陸揚げされた物資の集積所として発展してきたこともあり、馬車の数はそれなりにあった。そこで俺は今回、兵力ではなくいくつかの馬車を用意させて賠償金の前金にしたのだ。
もちろん、賠償金を支払い終わればこの馬車たちを返すつもりだが、その頃には別で馬車をいくつか買い揃えれば問題はない。
また、ウェールズだけでも度量衡の統一したものを作り、標準化させることによって、先程の馬車が壊れた際の修理においてもある程度の修復性を持たせたかった。
加えて、規格統一による標準化が浸透すれば、大量生産も夢ではなくなってしまう。
それこそ、職人を大量に雇い入れることで分担して作業を行えさせれば工場製手工業ができるようになる。
そうなれば大量かつ安価に物を製作することができるほか、軍事力も増幅し国力は増強されることになる。
武器の増産が容易になれば、兵力の拡大も容易に行えるようになる。
また、工業製手工業ができるようになれば、他国よりも安い値段で物資を売れるようになる。市場からは俺たち以外の者が作った物資が売れなくなり、他国は物資を我が国に依存することになる。
無論、これほどまでに簡単になるわけではないが高いものと安いものがある中でどっちを選ぶかと言われれば多くのものは安いものを選ぶだろう。
他国も同様にそう考えて物資をウェストリー産を選ぶようになれば、他国の経済は実質的に支配できるようになる。
あとは市場に介入して関税をあげたり下げたりすれば、敵の市場経済は乱高下して経済は壊滅的な被害を被る。そしてそれを口実に攻めて来られれば俺は大義名分の元に敵を侵攻、領土を増やすことができるようになる。
脳内で考えられるシナリオを幾度か想像すると俺は不敵な笑みを浮かべる。
「で、どうするのよ? アルトス。」
腰に手を当てながら訊ねてくるオリヴィアに俺は応える。
「そうだな。物資の積み込みが終われば、そのままミルフォードまで行きたいが……。ミルフォードは天然港だ。できるだけ無傷で手に入れたいと思っているからな。」
「交渉してはいかがでしょうか? アルトス様。」
ベディヴィアが隣から割って入るように俺に意見を提案する。
「ああ、それも考えたが問題は足元を見られる可能性があるということだ。
向こうはいざとなれば天然港を盾に降伏条件の緩和を求めてくるはずだ。特に賠償金に関してはな。
そうなれば、交渉は向こうの思う壺だ。
そして天然港を無傷で手に入れるためには俺たちは向こうの提示してきた降伏条件を受け入れざるを得ない。
例え、それがこちらに不利だとしてもな。」
「なぜ?」
キョトンと首を傾げるオリヴィアに俺は説明するように応えた。
「天然港は南ウェールズにおける商業中心地区だ。そこから生み出される資金は馬鹿にはできない。
とはいえ、それは適切に運用していればの話だがな。
そして、それを向こうは知っている。つまりだ。向こうは美味い汁を啜り続けるには俺が邪魔、だからと言って降伏しなければ死ぬのは向こうだ。
故に、向こうが許せる範囲内で妥協し、こっちにはその倍以上に妥協するように告げてくるはずだ。
それこそ、税を下げろだの、賠償金はなしにしろだのと言った具合にね。」
「なるほど。でもそれだと向こうが損をするんじゃ……。
だって、都市が発展すればその分だけ自分たちの取り分が増えるわけでしょ? なのになぜ?」
「その通りだよ、オリヴィア。都市の発展は皆に幸福をもたらす。
でも、向こうは皆ではなく自分たちだけが利益を得たんだ。
そもそも開拓が進まなかったこの地の最大の問題点は、この地に蔓延る大商人達だ。彼らが利益だけを追求した結果、税を下げさせ領主の力を削ぎ落とし、懐に入るお金を増やした。
そうすることで豪族達を買収し、腐敗政治を行ったわけだ。
だが、俺はそうはさせないつもりだ。」
「どうするの?」
「何、少し面白いことをしようと思っているだけさ。
それに俺が考えていることをするにはイザベルの情報もいるしね。今はまだ動けない。
ただ、彼らを崩す方法はすでに考えてある。」
そう告げると俺は再度、不敵な笑みを浮かべた。
◇・◇・◇
「もうじき、奴がきますな。」
一際豪華な一室でその三人は久々に顔を合わせる。
すでに三十代後半の男であるパール商会の会長は会って早々に本題へと移る。
「然り。」
「そうですね。」
パール商会の会長の言葉に応えるように残りの二人の男女は応える。
「では、各々意見を教えてくれ。何を彼に要求するのかを。」
腕を組みながら告げるパール商会の男に、もう一人の男。ニフリス商会の会長は告げる。
「私からは関税に関することを意見しようかと思います。」
ニフリス商会。それは古くから海運で利益を得てきた大規模な商会であり、ウェールズにおける海上貿易には必ず名前が上がるほどに有名だった。
また、ミルフォードという天然港もこのニフリス商会の初代が見つけ開拓した都市だった。しかし、それも昔の話。今では金に物を言わせて、自身の意見を強引にも押し通す商会になっていた。
「私めからは、流通にかかる税と販路への護衛の提供、保証などですかね。」
グライツ商会の女性会長は告げる。
南部ウェールズの全ての流通を率いており、元伯爵貴族の名であるグライツ家の末裔だった女性は元々あった権力を再び手にするために暗躍していた。
奪われたものを取り返す。そのために女性はお金を求めて、女性ながらに今の地位を手に入れていた。
圧倒的なまでの度胸。それが彼女の武器であった。
三者三様の意見にパール商会の会長は告げる。
「では、あとは私だな。私は……。」
パール商会の要求を聞いて、ニフリス商会の男やグライツ商会の女性は驚く。
「本気で言っているのか?」
「できるとは思いませんけど、それをいうからには確かな方法があるのよね?」
「ああ、ある。そして勝算もな。」
パール商会の男は笑みを浮かべて告げた。
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