#049 『 ランビターの戦い 』
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夜、闇の中。人々が未だ夢の世界を彷徨ってる頃にそれはなんの前兆もなく、起きた。
ボワッと都市ランビターの至る所から一気に火の手が上がった。
その炎に夜間警備を任されていた兵たちはパニックになる。
夜という時間帯で視界が限られる中での警戒に気を抜くなど馬鹿げたことをする警備隊などはいないはずなのにもかかわらず、突如上がった火の手に混乱が生まれる。
その混乱をなんとか抑えようと警備隊の隊長はすぐさま命令を飛ばす。
「何をぼさっとしているんだ!! 早く火の手を止めろ!!」
叫ぶ隊長に守備隊は急ぎ炎を止めようとするが、この年には二、三個の井戸しかなく、そのどれもが炎が勢いを増す場所周辺に位置していた。
そのため、すぐさま消化活動は行えず、手間取ってしまう。
そんな状況を傍目に闇に蠢く者達はこれを合図に手信号を送り合い、次なる作戦を展開していた。
火の手が勢いを増す中、徐々に周りの兵達も異変に気がつき飛び起きる。
そんな中をなぜか煙が視界を遮るように徐々に濃くなっていく。
そしてわずか数分で、もはや二、三メートル先もはっきりと見えない状態にランビターの都市全域が煙で充満する。
そこへ、蠢く者達が動き出し、次々と死を撒き散らしていく。
その様子に兵達は動揺してしまい、剣を抜く。いつどこから攻めてくるかわからない敵を身構えるように自分の周囲をバサッバサッと振っていく中で、すでに理性的な状況判断ができていない兵達は、ありもしない敵と誤認した味方の兵を見つけては斬りつけ合い、同士討ちを始めた。
将軍や部隊長が幾ら叫び、命令を下しても一度上がった戦いの熱を早く醒めさせるどできようはずもなくとは出来ず、無尽蔵に兵達が斬りつけ殺し合う地獄を見せられる。
そしてそれは総大将たるリチャードもその一人だった。
「やめろ。やめてくれ。」
一人呟くリチャードの声が届くはずもなく、ランビターの都市は一気に惨劇の現場へと変貌しだす。
炎という潜在的な恐怖に、視界を遮る煙。そしてその煙の先から現れる見えない敵。
そんな恐怖に釣られて、兵達は剣を振るい身を守ろうとする。
その光景を見てリチャードは必死に叫ぶ。
「やめろ!! これは敵の思惑だ!! 剣を引け!!」
刹那、虚空から矢が飛んできてリチャードの頬を掠める。
命をかけて叫んだ命令に誰も従うことなく、絶えず剣戟音と悲鳴がランビターの都市に木霊する。
その状況で、朝日が優しく地平線の彼方から照らし出される。
そして、ドンドンと太鼓に似た様な音を立てながら、それは近づいてきた。
リチャードは急ぎ城壁を登り、城壁の向こう側を凝視した。
すると、そこには整然と佇む幾多の兵が一糸乱れることなく、同時にその歩みを進めていた。
ガシャガシャという鎧の擦れる音を打ち消すように太鼓の音だけが強調され、敵は近づいてくる。
その景色にリチャードは敗北という文字を脳裏に巡らせた。
今からでも急ぎ、兵達の動揺を振り払い、迫る敵に向けて陣形を整えるだろうか。
いや、無理だ。
どんなに早くても動揺を振り払うことができたとしても、敵への対処に一歩遅れてしまう。
対して、敵はこちらを倒す準備もその心がけもできている。
そんな相手に急造品のような陣形など意味をなさない。
であれば……。
考えを巡れせ、なんとか勝算を導き出そうとするリチャードにさらなる衝撃が刻まれる。
それは空から降ってきた岩だった。
バゴンと壮大な音を立てて飛んできた岩をリチャードは驚愕しながら目線岩が落ちたであろう場所に移す。
依然、煙のことがあり視界は遮られた状態ではあるものの確かに幾人かの兵の悲鳴が聞こえてきた。
「突撃!!!」
城壁の向こう側から告げられる言葉にリチャードは即座に反応する。
大丈夫だ。
城門内側には数人の守備兵がいるため、即座に城門を破られる心配はない。
だが、それも時間の問題だ。
次々と起こる出来事にリチャードは反応こそすれども依然として後手に回されていた。
対処が遅れ、被害が拡大していく。そんな状況の中で再び衝撃がリチャードを襲った。
それは城門が開く音だった。
城門には夜間を通して十人くらいの守備兵を待機させ、夜襲を警戒した。
無論、煙が出てからも城門の守備隊は城壁を背中に城内を監視していたはず、にもかからず城門が開かれたということは敵の夜襲隊が城内にこもり機会を伺っていたということを示す。
そうであるならば話は早い。
夜間に夜襲をかけ、動揺を与え、兵達の正常な判断を削ぎ落とす。
また、煙で視界を奪うことで同士討ちを狙い、混乱を際立たせて指揮系統を阻害する。
加えて、将軍などは視界を遮られたい際に声を出し命令を下すために指揮官の居場所を声を頼りに襲撃する。
夜襲による混乱、指揮系統の破壊と確実に手を打たれる中で、次は正面からの制圧だ。
綿密に計算されたこの作戦にリチャードは自身の起こした間違いに気がつき、笑みを浮かべる。
「ハハハ、なるほど。私では叶わないということか。」
諦めながら一人呟くリチャードにどこからともなく現れた騎士に告げられる。
「リチャード・クレアだな。お前をアルトス王の元へ連れていく。」
そこ声に、リチャードは降伏を認めた。
◇・◇・◇
朝日が昇ってから二時間後、ランビターの都市を覆っていた煙はなくなり、炎も消し止められていた。
ただ、都市の至る所には兵達の無惨なしたいがあちこちと転がっており、都市は死が溢れていた。
いくつか投げ込まれた岩が建物を壊したせいか、一部の建物が崩壊していた。
ウェストリー王国兵はそうした都市を徘徊し、身動きの取れる兵がいないかを確認していた。
そして、見つければ降伏をすすめ、抵抗すれば容赦無く切り捨てていった。
また、デヒューバース兵の多くは傭兵であったこともあり、俺は傭兵達を正規兵とは分けて、可能な限り雇い直し、雇えなかったものには解放することなく手を縛り拘束し敗残兵として周囲の村々を襲うような盗賊になるのを防いだ。
また、降伏した正規兵には治療を行い、食料の配給も行うなど捕虜としての権利を与えた。
こうすることで俺は、敵になれば容赦せず、また降伏した者には寛大なる慈悲を与えることを印象付けさせた。
そうしてランビターの都市を徘徊すると俺は捉えたリチャードのいる建物に護衛の騎士達とともに入り、リチャードと面会した。
小さな椅子に腰を下ろし、手首をロープで縛られた上で、幾度と顔を殴られていたリチャードを見て俺は“こいつは武将ではないな”と一瞬で悟った。
何せ、リチャードは筋肉らしい筋肉がなく、この時代の男としては珍しい体の傷が見えけられなかったからだった。
この世界の男は体の傷が一種のステータスであり、よく酒場では俺の傷はどこどこの戦争で負っただの、あいつと戦ってできた傷など、傷の自慢大会がよくある。
実際に女性も筋肉質かつ傷の多い男性に憧れるためかそういった傷の自慢大会の周囲にはよく女性が群がっていた。
「さて、戦後の話をしようか。ペンブルック伯爵、リチャード・クレアよ。」
その言葉にリチャードはこちらを見る。
決して怯えておらず、むしろ貴族らしい立居振る舞いをなおも続ける彼に俺は半ば決めていたことを告げる。
「デヒューバースの全域を我がウェストリー王国は併合する。
その際、今まで領主として各地を治めていた貴族や豪族たちの支配権を一度返してもらい、再度必要であればこちらから返還させていただく。
また、今回における戦争の賠償金に関しては…………。」
「俺たちから平和を奪い、都市を蹂躙し、死を撒き散らした上で、なおも金をよこせと。お前はそういうのか? ウェストリー王国の国王、アルトス王よ。」
低い声で告げるその言葉に護衛の騎士は怒鳴りつける。
「この野郎!! アルトス王を愚弄するか!!」
今にでも襲い掛かろうとする騎士を俺は「やめろ。」と静止させてるとリチャードに向かって訊ねる。
「何が言いたい?」
「この戦いは俺たちが侵略者の脅威から家族を守るために戦った戦争だ。」
「そして、お前達の家族を脅かすその侵略者が俺だと。」
「そうだ。」
「確かに、お前達から俺は侵略者に見えるな。
だが、俺たちからすれば、お前達こそ侵略者だ。
先のウェストリー王国への侵攻の際、俺は戦場でペンブルック伯がいるのを確認した。つまり、この戦争の始まりはお前達が攻めてきたからこそ生まれたわけだ。
平和を先に脅かしたのは俺ではなくお前達だ。
しかし、お前達にしてみれば攻めた本人は死んだのだから無関係だろうさ。
でも、こっちは忘れていないのだよ。
平和を脅かされ、家族を攻められそうになった。
もし、俺たちが負けていたらと考えると……兵たちの皆はそう口々にいう。」
「だが……それは私たちではない!!」
「同じだよ。俺たちからすればな。
できなかったとか関係なしに事実としてお前達はそれを止めなかった。
結果、お前達は攻めてきた!! マーシアの命令だろうがなんだろうがその決断を下したのはお前達だ!!
その責任を果たすこともなくただ被害者のように告げるお前こそ何様だ!!
勝てば奪い、負ければ被害者の顔をするのか、お前達は!!
誇りや名誉というのがお前達にないのか!!
なぁ、どうなんだよ!!!!」
声を荒げる俺に護衛の騎士は止めに入る。
しかし、すでに頭に血が上った俺を完全に止めることができようはずもなく、ただ光景を眺めていた。
「…………。」
俺の言葉に反論できないリチャードはただ沈黙を守った。
数分、ただ沈黙が支配する部屋の中で俺は口を開き、話を続けた。
「とはいえ、俺はお前達とは違う。
勝っても奪うのは精々戦争で与えた損害だけだ。
降伏した敵兵だろうと遊びで殺したりせずに捕虜として扱い、衣食住を確保している。
当然、ウェストリー王国の中には俺のこの考えを疑問視する声も少なくない。
しかし、俺はこの考えを曲げるつもりはない。
お前はどうだ? ペンブルック伯爵。」
「私は……リチャード・クレアだ。決して、伯爵の地位を好んで得たわけではない。
私には救いたい人物がいる。その人物のために俺は仕方なく伯爵位を継承しただけだ。
だから、私をペンブルック伯爵とは呼ぶな!!」
「だとしてもだ。お前はどう考える俺のこの考えに?」
「…………間違っていないと私は思う。
だが、それが必ずしも正しいとは限らない。」
「だろうな。
だとしても俺はこの道を進むことにするよ。リチャード・クレアよ。」
そう告げて俺は部屋を後にするべく立ち上がり、リチャードに背中を見せる。
そして部屋から出る瞬間に俺は思い出したように告げる。
「そうだ。お前なら聞きたいだろうから先に言っておこう。
俺たちはこの先、ペンブルックのミルフォードを目指す。」
そう告げる俺にリチャードは、立ち上がろうとするが椅子に縛られた手足を自由に動かせるわけもなく、椅子から転げ落ちた。
その際に何かを叫んだようであったが俺は気にすることなく前を進み建物を出た。
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