#038 『 変わりゆく時代 』
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ポウイス城を攻め落とすと俺は最低限の兵力を残したまま、オリヴィアに向かわせていたマーシアの首都シュルーズへと進路を決めると軍を動かした。
マーシアの首都もとい王都はシュルーズという街は、ミッドランド一のマーケットタウンであり、中心部の広場には古くからある歴史的な商店街がずらりの並んでいる。
ここでは毎年、五白金貨ほどの小売高が存在し、南部アルビオンにおける最大市場となっていた。
実際に経済の中心地として長らくウーサー王の恩恵を受け、王国を発展させてきた地でもある。
ただ、現在はマーシアの国の王都として変貌しており、以前ほどの活気はないと訊く。
そして、マーシアの王都シュルーズは俺が是非とも欲しい都市でもあった。
それは、経済的に小売市場が古くからある他に、この都市はミッドランドのほぼ中央に位置するばかりかウェールズに近く、それでいてミッドランドへ侵攻する際の重要な足掛かりになることがあるからだった。
それ故に俺は、このシュルーズという都市が欲しいが、それを狙うものが多いがために一歩引いた状態にならざるを得なかった。
もし仮にこの戦争に勝利しマーシアを下すことができたとしても俺はこの都市を占領することは叶わない。
何せ、もし仮に占領した際には北の大国ヨークと南の大国アルビオンが大軍を率いてくるのは時間の問題だからだ。
とはいえ、みすみす第三者に渡すのは癪に障る。
そこで俺はみすみす渡しても問題ないまたは次の戦争の布石としてなりうる案をふと浮かぶと不敵な笑みを浮かべた。
ポウイス城からシュルーズへは先代ポウイス侯が残した街道を歩いていけば比較的簡単に行ける。
これは経済を最も重要した結果だったが、この道のおかげもありマーシアは王国へ反旗を覆した上で早急に南部ウェールズを支配できた要因でもある。
真っ直ぐと資源が豊富な南部ウェールズを支配したマーシアはその力とそこから得られる経済力を笠にヨーク、アルビオンと並ぶ大国までにのし上がった。
しかし、現状のマーシアは弱体化していた。
本来であれば、俺たちがポーイス領へ侵攻した際に討伐軍が派遣されるはずが一向にこなかった。
無論、それはポーイスの討伐軍ではなくマーシア本国の正規軍が来なかったのだ。
ケイからの報告ではレクサムの都市を攻めているのは多くは正規兵ではあるものの傭兵の数もちらほら確認できる程度に存在していることが判明していた。
そのことからも何かが起きていると感じてはいたもののその何かが何なのかはわからなかった。
そんな時、行軍する中に一匹の伝書鳩が飛んでくる。
白く美しい色合いをしたこの世界特有の伝書鳩だが、そもそもこの鳥が鳩という類の鳥であるかはわからない。ただ、伝書鳩のような活動を行うために俺は通称としてこの鳥を伝書鳩と呼んでいた。
「どういうことだ?」
首を傾げながら俺は状況の把握に努めた。
まず、伝書鳩の送り主はイザベルだった。
内容はヨークとアルビオンの軍事活動についてとあるが、そもそも、ヨークもアルビオンも大規模な軍事活動を行えるほどの体力はなかったはずだった。
実際に、先のマーシア戦争においても軍を移動し国境周辺で小競り合いする程度で両者ともに限界だった。
とはいえ、イザベルのことだ。両国とも何かしら手を打って国力を回復させ大規模軍事行動に出たのではないのだろうか。
実際に俺であれば、急速的な参戦要請よって、準備不足のまま国境周辺に持ちうる兵力を集めて先の戦いを戦った。その上で勝利し多少の旨みを得たが、今回新たにウェストリー王国がマーシアに侵攻したことでマーシアはウェストリー王国に目を向けざるをえなかった。
そこで、先の戦いの旨みを思い出し、今度は準備万端で向かう方がよりいいと考えて今回の行動に出た。
そう考えて俺はチッと舌打ちする。
こうなれば問題はマーシアではなくヨークやアルビオンになってくる。
そうなれば、我が軍や我が国は終わってしまう。
そもそも今回の作戦は電撃戦を想定していた。前世における大戦にて行われた電撃戦。機動力を生かし、敵が準備不足のまま敵陣深くに入り込み後方を制圧する。
この戦術のメリットは少ない兵でより多くのものを得られるという点が魅力的だが、デメリットとしては機動力をそこなえば逆に窮地に立たされるのはこちらの方ということになる。
これを覚悟して俺は今回の作戦を考えた。
当初、俺はポーイス領へ侵攻し、ポウイス城を占拠。そのままの足でシュルーズへと攻め込みマーシアに早期講和を持ち込ませ、マーシアにウェールズの支配権を放棄させる計画だった。
当然、その際には限りない幾多の壁が存在するものの俺は事前に考えられる問題をクリアできるだけの打開策を考え出した。
その一つがオリヴィアに渡した三台の新兵器だったのだ。
しかし、ヨークやアルビオンの軍事活動が活発になってくると話は変わってくる。もちろん、マーシアが降伏する速度は加速度的に増えるがその分取り分がなくなり一方で、ヨークとアルビオンの顔を立てさせなければいけなくなる。
それこそ、両国ともマーシアをウェストリー王国、アルビオン王国、ヨークシャー王国の三国の緩衝地帯として生かす殺さずに管理する。
もし三国の中で抜け駆けしようとしたものがいたら他の二国でそれを抑えるといった具合になれば、俺は行動を抑制されてしまう。
仮に俺が力を発揮して二国を押し留めたとしてもいくら、強力な力を個人で有してはいるものの所詮は人間。
喉も乾くしお腹も空く。当然、生理的な願望である睡眠も必要だ。
長期戦はこっちが不利になり、国力は衰える。
故に俺ができるのはヨークやアルビオンが目に見える成果を出す前にマーシアを降伏させる他ないのだ。
しかしながら、ヨークとアルビオンの参戦は俺が危惧していた最悪の事態を引き起こす可能性がある。
「父上。どうか、頼みますよ。」
一人小さな声で呟く俺は遠く離れた場所にいたエクトルに告げる。
◇・◇・◇
「何ッ!! できないというのはどういうことでしょうか!!」
正装を身に纏った美しい女性の前で跪くエクトルは告げられた内容に驚き、叫ぶ。
「ですから、私どもも精一杯なのです。毎年の様に攻めてくるエリン王国の軍を上手い事受け流すくらいしか私たちにはできないのです。ですから、あなた方が送って下さったこの“同盟書”には同意できかねるのです。」
「し、しかし! アルトスは強い!! 一人で国を攻め落とすほどの戦力を個人で有しています!! なのになぜ……?」
「個人で一国を滅ぼせるのであれば尚更私には同意できかねます。何せ、こちらを攻める口実にもなりますからね。それにその言葉が正しければ、我が国のような小さな国と同盟を結ぶ必要性はありませんよね? 仮に結べたとしても大国の方がより利はある。なのに我が国に求めるその理由がわからないのです。」
目の前の女性に正論を言われエクトルは奥歯を噛み締める。
自分は頭より体を動かしてきた。
だからこそ、こういう外交の場では敵を威圧するために呼ばれることはあっても交渉するために呼ばれたことは一度もない。
それが今こうした問題を引き起こしていた。
わからない。何をどういえば相手を説得できるのか。
そんな言葉が脳裏を巡る。
だが、同時に諦める分には行かないと自分を奮い立たせ、目の前の女性に告げる。
「あなた方に同盟を求めたのには理由があります。」
そう言葉を告げて、真剣な眼差しを女性に向ける。
「その理由というのは、アルトス陛下が将来アルビオンを統一する際に求められる威光を得るためです!!」
力強く告げる言葉に女性は一瞬俯くと静かに応えた。
「今の時代、誰もがアルビオンという大きな国の玉座を得ようとしている。そんな中で誰もが自分こそその玉座に相応しいと言う。でも誰もその玉座に触れることさえできなかった。もっともその玉座に近づいた先代王ウーサーですら、その玉座に触れられなかったのです。
それを聞いてもあなた方はなおも、ウェストリー王国初代国王アルトス王こそが相応しいと思うのですか?
小国の王がこのアルビオンを統治するに相応しいお方だとお考えですか?」
「はい。そうです。アルトス陛下こそ、このアルビオンを統治し、我々が歩んできた暗き時代に終わりを告げさせ光の時代を切り開くお方なのです!!」
エクトルの真剣で真っ直ぐな視線をその身で受けた女性は、一瞬驚くも即座に笑みを浮かべて、静かに告げる。
「では、最後にお訊ねします。
彼がこのアルビオンを統治するには相応しくないとした時、あなた方はどうするのでしょうか?」
「その時は……。」
言葉に詰まり、エクトルは考えた。
手塩にかけて育てた息子がいつしか自分を超えて王になった。
そんな子供を支えたいと思い、自分にできることを探した。
その結果、鎧を見に纏い、再び戦場に赴いた。
戦場は悲惨だ。止めどない絶望を何回も目の当たりにする。
敵が死ぬ最後の瞬間に見せる表情や臓器を抉られる同郷の兵。足元を埋め尽くさんばかりに倒れている無数の屍に血と鉄の匂いに満ちた空気。
そんな、光景を見てなおも正常でいられるのはおそらくなれてしまったからだろう。しかし、同じ道をこれから先、歩むことになるだろうアルトスにエクトルは何もいえなかった。
同じ光景を見ることになる。いや、それよりもひどい光景をアルトスは見るだろう。そうして見た上でアルトスが平気でいられるのか。
己の中にある光を見失わないのだろうか。
そんなことを考えてエクトルは俯いた。
「やはり、あなたがたは他の方々と同じです。アルビオン統一は人類の悲願ではありますが、その悲願は幾度となく挑戦するものを蝕んでいきました。
もはや、誰もアルビオン統一はできないのです。」
悲しく告げる女性にエクトルは言葉を返す。
「アルビオンはアルトスの手で統一する!
彼は、この長き闇を振り払い、全ての人たちに希望の光を与える!!
彼は、必ず達成する!!!
このアルビオンを必ず、彼は統一する!!!!
アルトスこそが、人類を救い出す救世主だ!!!!!」
聖都の中心に位置する大聖堂の謁見室。左右を無数の聖騎士がいる中でエクトルはアルトスを“救世主”と叫ぶ。
それはまさに、タブーを犯した行為であった。
「「小国の王が救世主とは!!! 何を言う、この無礼者が!!!!!」」
一斉に抜かれる聖騎士の剣にエクトルは即座に殺意を向ける。
ドンと一気に周囲の空気の温度が下がりだす。
冥府の殺意。
それがエクトルが放つ殺意だった。人を即座に振るい上がらせ本能に訴いかけるこの殺意に聖騎士たちは一瞬躊躇する。
だが、即座にエクトルに向かって突進するとエクトルは腰にかけた剣を抜き応戦の構えをとる。
その様子を見ていた美しい女性ことテス猊下は右手をあげ、聖騎士たちを止める。
「わかりました。あなたがそこまで言うのであれば結びましょう。
この同盟を。しかしながら、忘れないでください。
万が一にでもアルトスがアルビオンを統治できなかった場合には、私どもは反旗を翻すと。」
臨戦態勢を解き、再びテス猊下に跪くとエクトルは静かに応える。
「わかりました。」
後に聖王同盟と呼ばれるこの同盟はテス猊下とエクトルを介したアルトスの両者によって結ばれた。
これは歴史上、初めてのことだった。
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( ✌︎'ω')✌︎<オネシャス!