#036 『 蠢く闇 』
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ポーイスに侵攻して二、三日後。
オスウィン周辺の地理を把握するついでに周辺の村々を掌握していくとオリヴィア率いる予備軍三千が到着する。
歩兵を主力としつつも弓兵と騎兵が一定数いる中、軍の最後尾には二頭の馬に牽引させている木材の山が合計で三台あった。
「待っていたよ。オリヴィア。」
そう告げると俺はオリヴィアの手をとり、馬から降りるのを手伝う。
「それにしても綺麗だね。この街は。」
まるで戦闘の跡がないことを示唆するようにオリヴィアは告げるが俺はそれをするりと交わし、話題を変える。
「それよりも持ってきてくれたんだ。例のものを。」
そう告げて、三台の木材の山を見る。
今回の戦いで最も効果を発揮するであろう新兵器にして、この世界の時代ではオーバーテクノロジーとまで呼べる究極の攻城兵器。
それを今回俺は、戦争まえに作らせていた。
幸い原理は梃子の原理を利用したものであったためにすぐに完成したのだが、問題はこれを運搬する方法とそれらを活用することができる人材が少ないことだった。
そのため、俺は事前に一定数の兵を徴収しそのまま新兵器の操作訓練を行わせた。その甲斐あって最終的には二百人程度の人材がこの新兵器を扱えるようになった。とは言え、ここは前世とは違いあらゆるものが足りないために、最低限のレベルでしか使えないというのが未だ問題となっていた。
しかし、それでも今回の戦いに導入したのには理由があった。
それはこの兵器の持つ破壊力と新兵器ゆえの新戦術があったからだった。
そして今回の作戦においてもこの兵器の活躍次第で兵力の劣る我が国が勝つことが十分に予想できたため俺は攻勢へと出たのだ。
だが、それでも不安は拭えない。
一通りこの兵器を扱える人材は揃えたがそれでも新技術にはリスクがつきまとう。この兵器も実際に鈍重かつ巨大なために本来ここまで前線に出すことはできない。
まさに博打のようなものに俺は賭けた。
正直、この戦争を勝てるかどうかというのはこの兵器とエクトルに渡した密書の二つにかかっている。
密書の方はエクトルに任せているために問題は無いがこの兵器は違う。
ぶっつけ本番で力を発揮するかどうかでこの戦争は勝利か敗北かになる。
「あなたが持ってこいと言ったからでしょ?」
そう告げるオリヴィアに俺は思考を止めて応えた。
「そうだな。まぁともかく、これからのことも含めて軍議を開く。将軍たちを集めてくれ。」
「わかったわ。リオン殿、パール殿行きますよ。」
「「はい、妃殿下」」
オリヴィアにつけたリオンが命令を忠実に実行する様を見て俺は数ヶ月前の彼を思い出す。
恩人をその手にかけてなおも正義を成したその心意気に俺は少しばかり驚いた。
並大抵の人ができないことをリオンはやってのけた。
それはまさにリオンの中に正義への絶対的な忠誠心があるのだと思い知らされると同時に彼の中にある正義へと執着とも取れる異様な感情があるのだと理解させられた。
正義というのはどれも見方によって変わってくる。
それはいつの時代、どこの世界においてもそれは変わることのないものだ。
故に、正義感の強いものは時にその問題に直面したときに悩みだす。
今まで敵だと思っていたものが実は味方であり、味方だと思っていたものが敵だった時の衝撃は人を狂わせるほどに強烈なものだ。
だからこそ、リオンの持つ正義への執着とも言える正義への忠誠心は俺から見て異様に映った。
決して、正義が悪いわけではない。
ただ、大局をを見ることなく己の持つ秤のみにで正義を決めつけるのは時にそのものを破滅に追い込むことになる。
リオンを将軍へと昇格させた時、俺はリオンにそう告げた。
その時のリオンはいつもとは違い、なんとも微妙な顔をしたが即座に“それでも自分は自分の正義を信じる”と応えた。
その言葉を聞いて、俺はもう何も言わなかった。
恐らく、リオンはこの先もそのまま自分の思う正義を貫くだろうと予想したからだ。
彼は、強い心を持っている。だが、時に強い光は強い闇を生み出してしまう。
そのことを俺は彼には伝えなかった。
この先、彼が何をしようとそれは彼が決めること。
正義に生きるもよし、闇に負け、悪人に成り下がることもまたよし。
だが、仮に彼が悪人へと変貌した場合には俺がこの手で彼を止めることになるだろう。
それが彼の上にたち導く立場の俺の責任だがら。
そうして俺とオリヴィア、ベイロン、リオン、パールの五人は到着した会議室に入る。
会議室の中にはすでに必要な羊皮紙の資料と水。
そして五つの椅子があった。
また、テーブルの上には誰が書いたのだろうかここ近辺だと思われる地図が広げられていた。
「さぁ、席についてくれ。」
そういうとオリヴィア、ベイロン、リオン、パールは着席し、俺は最も部屋の奥にある上座に座る。
「では、今回の戦争におけるこれからの戦闘行動についての軍議を始める。」
若干、噛みそうになる言葉を一呼吸の間に告げると皆一律に「はい」と応えた。
◇・◇・◇
「では、これより解散とする。」
会議室での軍議に数時間。
ようやく訪れた休息の時間に俺は軽く体を伸ばすと会議室を出る。
そして、未だ兵達から送られてくる周辺の村々からの報告書を処理しなければならないために、そのままオスウィンの政務室へと直行した。
政務室はどこも変わりないような内装で大きい机に蝋燭立て、普通の四本足の椅子があった。
窓もあるにはあるものの小さく日の光がようやく入るくらいの大きさしかなかった。
そんな政務室に肩を落としながら入ると椅子に座り机の上にある高さ十センチ程の羊皮紙の山を見る。
「はぁ。こればっかりはなれないな。」
一人呟きながら俺は羽ペンを取るとペン先をチョンとインクに浸す。
そしてそのままの勢いで羊皮紙を手に取るとスラスラと文字を綴り、仕事を始めた。
送られてくる資料に目を通し、それを脳で高速に処理する。
そして、処理した内容をそのまま新しい羊皮紙に司令書として書き綴っていく。
一つ一つを丁寧かつ素早く行いながら俺は、ポーイス領についての情報を脳内で構築する。
ポーイス領。
従来はポーイス公国という小さな国だったが先代の王ウーサー王により侵攻を受け、一領土へと転落した。
とはいえ、当時の公爵はその後もウーサー王の一家臣として使えることを条件にポーイスをそのまま領土とした。
自然豊かでウェールズの中でも比較的平坦な土地が南北に広がるポーイスは歴史的に畜産業によって成り立ってきた。特に馬の生産においてはウェールズ一とされ、ウェールズの国々は皆馬を求めてポーイスと交易を行なっていた。
しかし、ウーサー王がアルビオン南部をほとんど支配する頃にはポーイスの馬は価値が下がり、一時期はポーイス領を賄うことすらできた馬の生産を下げざるを得なくなっていた。
お金を得る手段を失ったポーイスは畜産業の他に行なっていた農業を行おうとしたものの隣接する大穀倉地帯のミッドランドで生産される小麦との価格競争に負けてしまい、余計に財政が悪化していった。
そうして領内の治安は悪化し、騎士や軍を維持できなくなっていった領主達はその力を失っていった。
だが、そこへ先代ポウイス侯が現れるとウェールズ南部で取れる貴金属をミッドランドの大都市のシュルーズへ運ぶ一大交易路を気づくとポーイスは再び活気を取り戻していった。
交易路とは言っても、輸送の際には多額なお金がかかる。
商人達の安全を保障する傭兵やその旅で消費する消耗品などをポウイス侯自ら税率を下げることで経済を回し、旅人達の浪費を誘導させた。
こうして再び活力を得たポーイス領だったが、問題はまだあった。
ポーイスは南北に長く存在する領土であるという点であった。
ポーイス領南部は交易路による経済発展によって活気を取り戻しつつあったがこのままではポーイス領北部との衝突は必須となっていた故に、ポーイス領北部に関しても早急に対策を講じなければならなかった。
そこで生まれたのがこのオスウィンという都市だった。
南北ポーイスの大体中央に位置するこの都市はウェールズ北部と南部を結ぶ新たな陸の交易路として発展した。
当初、南北ウェールズは海での交易を行なってはいたものの海の交易は、一回あたりの量が多い反面、危険も大きく特にエール島からの海賊被害が多かった当時では非常にリスクの高い博打のような輸送法だった。
しかし、オスウィンが完成すると少し遠回りにはなるものの比較的安全な陸路を選ぶ商人が増え、交易が盛になっていった。
こうした中継ぎ交易がポーイスを押し上げ再び繁栄をしていた時に呪いが降りかかり、食糧生産が著しく低下。また重なるように先王のウーサーが病死。
そして、噂ではあるものの尊敬の念を向けられていた先代ポウイスが自らの息子に殺されたことで再び領内は悪化。
次の統治者は誰がなるのか、どうな政策を行うのかという不安が人々の脳裏によぎった。
そして、父親を殺したギルバルドが統治者になると各都市に軍を派遣し恐怖政治を執り行った。
力で支配するというギルバルドの方針に、一部の商人達は抵抗したものの豊富な財力に支えられた軍に敵うことなどできようはずもなく、商人達は少しずつその数を減らしていった。
ただ、その中で利を得ようとギルバルドに接近し、さまざまな贈り物をして媚びへつらった商人は各都市の通行にかかる税免除に加えて、物品の独占権を持つようになった。
その結果、領内の物価は不法に高騰し領民は食料を買えず、飢えと戦わなければならなかった。
また、それだけでなくそうした飢えに苦しんでいる領民をうまいこと手懐けて、敵対する商人に襲わせるなどの卑劣な方法を行なっているなどの噂も囁かれていた。
もはや栄光は過去の物とでも言わんばかりの惨状が綴られた羊皮紙を見て一瞬、ペンを止めるものの即座に疑念を振り払いそのままペンを走らせた。
そして、全ての羊皮紙に目を通しまとめた後、俺はようやく一息ついた。
窓の外からはすでに月の明かりがほんわりと部屋にさしていた。
「結構、長くやっていたな。」
誰もいない政務室の中で呟く俺は次第にこの世界にきて、だいぶ独り言が増えたような感じがした。
部屋には誰もいないのに話すことが多いこの癖はいったいどこからきたのだろうか。そんなくだらないことを考えて俺は政務室のソファに座り直すとそのまま意識を手放した。
◇・◇・◇
満月の夜。一人、城の屋根に静かに佇む女性は艶かしい声で告げる。
「報告を。」
短く告げる女性の声に《《影》》はザッと震えると女性の言葉に反応するように応え始めた。
““やはり、彼の者は王の器で間違いないかと……””
「なるほど! これで全員ですね。では、陛下にお喜びの連絡をしましょう。」
““仰せのままに””
「ウフフ。さぁ、見せてちょうだい。あなたのその力を––––––アルトス。」
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