#035 『 各々の考え 』
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アルトスがオスウィンを手中に収めたことでオリヴィアはようやく軍を動かすことができるようになっていた。
とはいえ、予備兵力のオリヴィア軍は主に新兵が多く、またやたら重くて大きい木材の山を運搬しなければならなかった。
そうした軍の構成にオリヴィアは多少がっかりするもののアルトスを信じてそのまま軍を指揮する。
「確か、アルトスの考えではオスウィンを手中に収め次第、侵攻を開始することでしたよね? リオン殿?」
「仰せの通りです、妃殿下。」
リオンはそう告げと同時に軽く馬上で礼をとる。
先の戦いで勇猛果敢に戦いバルド侯を捉えた功績を讃え、リオンはすでに将軍の地位を手に入れていた。
そして今回、再び起こった戦争にてオリヴィアの補佐としての人を受け持っていた。
「では、いきましょうか! 全軍、前進!! 目指すはオスウィン!!!」
◇・◇・◇
その頃一人、留守番を任されたマーリンはワインを飲むことなく、ただ空を眺めていた。
「世界を変えるところを見せてちょうだい。アルトス。」
呟くマーリンに近くには今回の作戦概要が記されていた軍の資料があった。
その作戦概要には綿密に記された幾多の軍事行動が事細かく記されていた。
その全てを、ほぼアルトスが一人で考え記したのにはマーリンは驚くことはなかった。
むしろ、その反対にマーリンはこれくらいでないとアルトスを世界の王にすることはできないと考えていた。
しかし、それでも完成して持ってこられた時には少しばかり驚いた。
何せ、できるのとやってくるのとではその差は大きい。故にマーリンはこの度、留守番を自ら引き受けた。
この作戦概要を見れば、特に戦場に出ることなく勝敗は見えてくるからだ。
とはいえ、アルトスは最後まであることを危惧していた。それはエクトルにエール島に送らせた密書のことだった。
最強の騎士の一人であるエクトルが運ぶ以上、何も問題無いはずなのにアルトスは最後までその不安要素を危惧し、作戦の変更も検討していた。
だが、結果的には作戦概要に記されたと通りに作戦を開始し、マーシアへ侵攻を開始した。
マーリン自体は密書の存在は知っていたがその内容までは掴むことなできなかった。
そんなことを考えている中、マーリンの元へ兵が現れる。兵はマーリンを見ると即座に礼をとると報告を始めた。
「マーリン様。エール島からの船が帰還いたしました。エクトル様は無事上陸したとのこと。また、その際に仕入れた情報ですが、最近エリン王国が《《騒がしい》》とのことです。」
「わかったわ。全海軍に“エリン王国を警戒せよ”と通達を。そして、報告を怠らぬように。それと各員に我々が背後を守らねば陛下が前を向くことなどできはしないことをゆめゆめ忘れぬことも通達しなさい。」
「ハッ!!」
マーリンの命令に従い兵は即座にマーリンのいたベランダを出るとそのまま駆け足で出ていく。
再度、一人残されたマーリンは持ってきた椅子に腰をかけるとそのまま、目をつぶりアルトスが帰ってくるのを静かに待った。
◇・◇・◇
一人、エール島に送られたエクトルは北方の大都市を目指し進む。
すでにエール島の北側の国、エルニア王国に入ることに成功していたエクトルであったが未だ、エルニア王国の首都とも言える聖都ベルファストへと辿り着くことができずにいた。
とはいえ、聖都ベルファストに向かい、テス猊下への謁見を叶えることが今回の任務であるエクトルにとってできるだけ早くに辿り着きたい場所であった。
すでに事前連絡でテス猊下が聖都ベルファストにいることは知らされていたため、荷馬車の後方で揺られながらエクトルもそこへ向かっていた。
◇・◇・◇
そして現在––––––––。
オスウィンで十分な休息と娯楽を得た兵達とは違い、俺は今朝に放った伝書鳩の帰還を待っていた。
この世界での伝書鳩は前世の伝書鳩とは少し違い、この世界共通の通信手段となっていた。
そのため遠方との連絡には事欠かなかった。
それでも前世の電子通信を知っている俺からすれば伝書鳩の速度というのは非常に遅かった。
しかし、そんな伝書鳩にもこの世界特有のメリットがあった。
それは鳩は空を飛ぶために、よほどで無い限り傍受されることはないということだった。
例え、鷹狩のように伝書鳩を鷹などの猛禽類に襲わせてもその成功例は少ない。故に、暗号を使わずとも敵の上空を飛んで後方に何かを知らせるなんてこともできなくはない。
そんなくだらないことを考えているとベディヴィアが部屋の扉を開けて入ってくる。
「眠れないのですか?」
「ああ」
短く応える俺にベディヴィアは「お水を持ってきましょうか?」と訊ねるが即座に否定する俺に口を閉ざした。
「今日、多くの人を殺した。でも、不思議と何も感じないんだ。あの死体の転がる戦場を見て回っても、俺は何も感じなかった。恐怖も怒りも、悲しみも。」
そう告げるもののベディヴィアは何も応えてはくれなかった。
恐らく、彼女自身もどう言葉をかけていいのかわからないのだろう。
しかし、俺はそれでも続ける。
「戦争や戦いで死者が出ることは理解できる。王である以上、民を守るべき責務を背負っている。そんなことは理解できる。だが、それを差し引いてもなぜ俺は何も感じないんだ。」
己の手を覗き込むように眺めると俺は不意に手が血で汚れているところを想像する。
人を殺してはならないという前世の常識が未だ自分を縛り上げている。
本当は殺したくはない。本当は争いなんてしたくはない。
だが、この世界ではそんな常識は通じない。
愛するものを守るには殺すしかなく、希望を見出すには手を汚さなければならない。
例えそれが自分によって嫌なことだっとしても、前に進むためにはしなければならない。
特に、王という権力者になったからにはその責任がより一層増す。
他よりも多くのことを考え、多くのことをなす。
それが民を従える王の責務だ。
「私には、少しわかりかねますが……。アルトス様は人を殺したくはないのですか?」
ベディヴィアの質問に俺は静かに応える。
「当たり前だ。人を殺して正義を掲げるなど間違ってるように思えるからな。」
「正義でしょうか。私は正義のためならば人を殺しても良いと思います。」
その言葉に俺は驚く。
「正義の女神様は、両目には眼帯を、右手には天秤を、左手には剣を携えています。その意味というのは“正義とは盲目であり、剣なき秤は無力、秤なき剣は暴力”とされるからです。アルトス様は、人を殺したくないと言いました。
それはまさに剣を力を放棄することと同義です。
つまり、テミス様に言わせればアルトス様の行おうと考えるものはただの理想論です。」
強い言葉で理想論と決めつけられる自身の考えに俺は一瞬、ムカッと怒りを覚えるが、即座に深呼吸するとベディヴィアの考えを理解する。
戦争が長らく存在しなかった平和な世界で生まれて生きてきた俺に対して目の前の女性はこの過酷な世界しか知らない。
彼女にとっての正義とは力によってのみなされるのだろう。
そして、世界の大半がそれを信じている。
確かにそうだ。力なき正義は無力だ。
意見があるなら言えばいい。考えがあるなら押し通せばいい。
そうでなければこの過酷な世界では生きていくなどできない。
それほどまでにこの世界は過酷で残酷だ。
死が隣にありすぎる。だから彼女のような人には死を見てもどうも感じないのだろう。
むしろ、俺のように他人の死すら悲劇と捉えてしまうのは前世の倫理観に未だ侵食されているからだろう。
「すまない。ベディヴィア、今の話はなかったことにしてくれ。
全て、君の言う通りだ。力なき正義は無力だ。だが、俺は諦めたくない。
いつか必ず力の必要ない正義を振りかざせる世界を作ろうと思う。」
優しい笑顔をベディヴィアに見せ俺は告げた。
その様子にベディヴィアは、驚きながらも笑って言葉を返した。
「はい。我らが陛下。私はどこまでも例え地獄の果てに向かうことになろうとも陛下と共にいます。」
膝をつき、忠誠の証たる礼を取るベディヴィアに俺は蝋燭を消すように告げるとそのままベットに横たわり目を閉じた。
ベディヴィアはベットに入る俺を横目に、静かに部屋を出た。
◇・◇・◇
アルトスの部屋をでたベディヴィアは部屋の前の廊下でふとアルトスの言っていた力なき正義について考える。
未だ十五歳ばかりのアルトスをベディヴィアは時に子供ではなく大人のような風格を感じていた。
どこか子供らしくなく、むしろ大人びているアルトスを父のフィンから話はきていた。
初めはただのお世辞だと思った。
しかし、父が怪我をして休養する間、代役の執事という仕事を通してアルトスという人物を誰よりも近くで眺めていると、とてもでは無いが子供とは思えなかった。
自分より三歳下の子供が自分よりも大きな責務を背負っている。
そんな不思議な光景を見て、父親フィンの言葉が間違いないことがすぐにわかった。
ただの子供として呼ぶのではなくもはや、大人に負けないくらいの頭脳に精神力を持つアルトスは誰よりも王としての器があった。
だが、そんな彼でも一人の人間のように悩み、苦しむことがある。
自分は今さっきその片鱗を見たような気がした。
王という権力者だけが背負うその責任の重さに潰されないようにアルトスは生きている。
その様子を間近で見ていた自分は何ができたのだろうか。
アルトスの肩に背負っているその責務を少しでも自分は軽減できているのだろうか。
そんな不安が少し心の中にある。しかし、そんな言葉を口にすることはまずない。
何せ、自分は王の執事であり、王の命令に従うことこそ正しいのだから。故に不安があっても口や態度に表したりしない。
自分は自分でアルトス様を支えるそれこそがアルトス様を助けることにつながるのだと信じて。
◇・◇・◇
「さて、かんぱ〜い!!」
そう告げるケイに兵たちも釣られて乾杯をする。
木製のコップにはエールのような酒ではなく、水だけだったが久方ぶりの豪華な食事を前にはどうでもいいことだった。
レクサムの城壁内でどんちゃん騒ぎをする防衛軍兵を傍目にケイは水を一気に飲み干す。
「ぷはぁー、うまいよな!! この冷えた水ってのはよー。」
今までの性格とは違うその光景に兵たちは笑うもののケイは気にすることなく食事にありついた。
パンにチキンと戦場には不釣り合いな食事に兵たちの指揮は上がっていく。
「それにしても良かったので? こんな豪勢な食事を作らせてしまい?」
「ああ、問題ない。どうせ、今日明日の命がほとんどだ。なら、最後まで楽しみたいだろ?」
笑顔で告げるケイに「はぁ」と顔馴染みの兵が応える。
「とはいえだ、敵さんも諦めていない。ここらで痺れを切らして何か仕掛けてくるかもしれない。
すでにこちらの兵たちは疲労困憊に加えて、十分な休息もなければ、十分な食事もでない。
いつまで続くかもしれないこの籠城戦に兵たちも不安がっていた。
だからいっちょここらでパーっと賑わい、兵たちの士気を維持するんだ。
さもなければ、敵の襲撃に備えることもままなら無いからな。」
話を続けたケイに顔馴染みの兵は驚く。
普段からおちゃらけているケイだがこういったところは非常に細かく、良く気がつく。一見やっていることは無茶苦茶だが全ての行動に意味があり、計算され尽くされている。
そんなケイだからこそ兵たちも信頼を寄せて命を預けるのだとつくづく思い知らされる。
「さて、俺はそろそろ戻るよ。他の兵たちにも食わせなきゃならないしな。」
そう告げて、ケイは城壁の上へと戻り、他の兵たちと交代する。
それを見て顔馴染みの兵はボソッと呟く。
「素直じゃないな。」
そして、城壁に登ったケイは先程の雰囲気とは異なり数百メートル先にいる敵軍の本陣を眺めて呟く。
「今日、いや明日がいいのか? まぁ、どちらにせよ。俺は攻められるのは好きじゃなくてな。いつもは攻める派なんだ。
だから、待っておれよ。マーシア兵たちよ、たっぷりと歓迎してやろう。
フハハハハハ。」
読んでくださってありがとうございます!! ( ^ω^ )V
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また、少しでもこの物語を『面白い』、『続きが気になる』と思っていただけたら、
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( ✌︎'ω')✌︎<オネシャス!