#034 『 オスウィン郊外の戦い 』
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オスウィン城塞都市。
人口が一千人程度の都市でありながらも、従来よりウェールズの南北交易の中心地として重宝された土地である。それ故に街は城壁が築かれていた。
ここを落とせばポーイス領への侵攻の足掛かりとなり、我が軍の補給地点として十分に使うことができる。
また、都市を囲む城壁は敵となれば厄介だが、味方であれば心強いというもの。ここさえ落とせば、ポウイス城へはすぐに行けると同時に周辺の村へ圧力を加えることができる。
陣形を整えようと慌てる兵達を横目に俺は考えた。
「それにしても敵も厄介なものです。まさかあれだけの騎馬を用意するとは……。」
「そうだな。だが、問題ない。敵が誰だろうと進む先は変わらない。」
ベイロンの言葉を軽く返すと俺は戦場に作られた簡易的な椅子に腰をおろした。不敵な笑みを浮かべながら一人小さな声でつぶやいた。
「さて、見せてもらおうか。ポーイスの騎士達よ。」
◇・◇・◇
時は少し前に戻る––––––––。
オスウィンへと向かう中に送られた密偵からの情報に俺は急遽作戦を変更せざるを得なくなった。
密偵曰く、敵はポウイス城から八百人程度だったが各地から兵を招集しながら向かっているためオスウィンに着く頃にはオスウィンの兵達も含めて総勢三千人を超える兵力になるという。
現在、我が軍は二千五百人程度。
もちろん、これは遠征軍だけの数ではあるものの我が軍の主力は依然として歩兵だ。
対するポーイス軍は侵攻具合と招集する速度から考えて、足の遅い兵よりも騎士や騎馬などの兵が主力となるだろう。
歩兵を主力とする我が軍に対して騎馬で向かい撃つのは決して間違った戦術ではない。むしろ、合理的な方だ。
しかし、騎馬には歩兵にあって騎馬にないものがいくつか存在する。
それは騎馬兵は思いの外に貴重であるということと地の利だった。
本来、地の利というのは防御側。つまり今回でいうところのポーイス側にあるはずだが、敵が騎馬を主力とした軍であればそれらは関係なくなる。
そもそも地の利というのは、戦闘地域の地形をどれくらい熟知しているかによって変わってくる。
侵攻側は見知らぬ土地や地形を初見で攻略しなければならないのに対して防御側はそこに居住するが故に熟知している土地でどのように防衛し、誘導するのかと作戦に組みことができる利点がある。
とはいえこれはあくまで一般での話。詰まるところ戦術単位での話だ。
戦争は何も戦術だけで勝敗が決まるほど優しくはない。
むしろ、それ以外の要素が複雑に絡み合い見出されるものが勝敗となるのだ。
そして、ポーイス側は今回、それらを見誤った。
なぜなら、戦争には戦術の他に兵科という要素も深く関わってくるからだ。
歩兵、騎兵、弓兵、槍兵、戦車兵、象兵などいくつか存在するが、主に歩兵、弓兵、騎兵の三つに分けられることが多い。
そして、その特徴も非常に簡単だ。
騎兵は歩兵に勝り、歩兵は弓兵に勝る。弓兵は騎兵に勝るといった具合にだ。
とはいえ、実際にこうも簡単に決まるというわけではないが、それぞれ兵科が持つ特徴を知り、使いこなすことが戦術を広げ、効果的に敵を殲滅することができる。
今回なんかは特にそうだと言える。
我が軍は歩兵を中心に弓兵と騎兵が存在する。
対して、ポーイス軍は侵攻を防ごうと急ぐあまり歩兵や弓兵を最低限に騎兵が軍の主力となっている。
歩兵がいくら騎兵に弱いとはいえ、騎兵を集めさえすれば歩兵の軍に勝てるほど世の中は甘くはない。
そこまで考えると俺は思考を一旦止めて、席を立ち陣形の整った兵に向かって告げる。
「さぁ、時間だ。我らの力とくと思い知らせてやれ!!」
「「「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」
我が軍の歩兵が叫ぶ中、一拍を置いて敵軍の方からも声が聞こえてくる。
まさに、今戦争が起きようとしている中、俺は不思議と冷静になった。
そして、開戦の笛が戦場にこだまするように響き渡ると即座に敵軍が襲いかかってくる。
やはり、騎馬による突撃か。
内心、そう思いながら俺は即座に指示を出す。
「弓兵、よーい!! …………撃て!!!」
ザッっと聞こえる風切り音とともに戦場には矢の雨が降り注ぐ。
ザッザッと降る矢の雨に敵軍は盾を掲げ、速度を上げながら突っ込むが一部の者は盾を掲げるのが遅れ、矢が突き刺さってそのまま絶命するように転げ落ちる。
そして馬もバランスを失い勢いよく倒れると後続する騎兵の足を邪魔する。
加えて、敵よりも先に戦場についたおかげで陣形の前には無数の落とし穴があり、そのさきは小学生程度の杭がいくつも地面に打ち込まれて前進する敵を妨害するようにあった。
さらにその先には柵と歩兵が存在し、その向こう側にようやくの弓兵が存在していた。
そんな中をポーイスの騎兵達は勇敢にも進むが落とし穴に足を取られたり、杭に阻まれ混乱したりとまともに歩兵のいる陣地に近づくことなく次々とやられていった。
しかし、それでも幾人かは突破するようで俺は迫る騎兵に保険として歩兵に命令を下す。
「歩兵の盾を構えて待機! 柵を越えようとする者を警戒しろ!!」
以前、弓兵は矢の雨を降り注がせながら俺は敵の騎兵がおかしいことに気がつく。
なんだ? これは何かがおかしい。
敵の将兵とて馬鹿ではないはず。何のになぜこのような無謀な突撃しかしてこないのだ?
現在、俺がとっている陣形は弓兵の威力を最大限に生かすことができる“モード・アングレ”通称ダプリン戦術だった。
ジグザクとした形の戦術であり、弓兵の力を最大限引き出せる強力な陣形ではあるものの敵に攻められてこなければ意味のない戦術でもある。
無論、これは先ほどの騎兵突撃を見れば敵とて容易に想像できる筈にも関わらず、敵はなおも中央突破せんと騎兵をどんどこと送りつけてくる。
そんな状態の中で隣にいたベイロンが口を開く。
「それにしても凄い。まさかこうまで簡単に敵を薙ぎ払えるとは、流石陛下の考えた戦術というところでしょうか?」
その言葉を聞いて、俺はあることに気がついた。
そうか、敵はこの《《戦術を知らない》》!!
であれば、対策のうち用がない。当然だ。初見の戦術に対策などできるはずもない。もしできるのであれば余程の戦略家しかいない。
「当然です。陛下は我らの王。負けるはずなど万に一つもありません。」
ベイロンの言葉にベディヴィアが落ち着いた声で応える。
「いや、俺も時には負けることがある。」
そう告げる俺にベイロンは「ほぉー」と興味を抱き、ベディヴィアは「そ、そんなはずはございません!!」と慌てて応える。
「本当のことだ。俺だってお前達同様、人間だ。間違いを犯すこともあれば勝負に負けることもある。ただ––––––––」
席をたち剣を抜くと俺は話を続けた。
「今回は負けない。」
一際豪華な鎧を見に纏い、簡易的な王冠を被る俺に二人は静かに頷くと期待の眼差しを向けてくる。
そして俺はそのままの勢いで命令を下す。
「時は来た。騎兵隊!! 敵の両側面を抑え、締め上げろ!!」
「「「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」
命令を聞き、叫びながら両翼の騎兵隊は勢いよく飛び出す。
敵の騎兵の半数以上をすでに仕留めた我が軍はかなり消耗している敵軍に一気に攻勢をかける。
弓兵には戦場に放った矢を回収させ歩兵には倒れた敵兵にとどめを刺すように命令を下した。
そして騎兵を送りつけてから四十分くらいで敵軍は壊滅。
そのまま無惨にも敗走した。
ポーイス軍三千の内二千人が亡くなり、そのうち六百人は捕虜として確保。
残りは敗残兵として騎兵に始末するべく向かわせた。
今回の戦いで我が軍の損害は軽微であり、このまま休息を取ったのちオスウィンに攻城戦を仕掛ける予定だったのだが、本陣の天幕に入るとそこには鎧を身に纏った老兵ともいうべき男の他に冷や汗をかきながら膝をつくぽっちゃりな男性がいた。
両者とも、手を縛られ、武装なども外されていた。
そんな両者を前に俺は用意された椅子に腰を下ろすと高圧的な態度で見る。
そこへ、ベディヴィアが耳打ちするように俺に話す。
「鎧の方は此度の敵将です。名をコルトと言います。また、もう一人の方はオスウィンから来たという使節の代表です。」
ベディヴィアの話を聞い終わり俺は、少し考え込むと膝を着く二人に対して高圧的な感じで話しかけた。
「コルト殿はともかく、使者よ。何しにきた?」
「わ、私どもは此度の戦が負けたことを考え、今すぐにでもアルトス様に対してオスウィンを明け渡す用意があることを伝えるとともにアルトス様の慈悲に縋りたいと思う次第でございまして……。」
震えた声で慌てふためきながら応える使者に俺は右手をそっとあげる。
その様子を見たベイロンは軽く頷くと剣を抜き使者の縄を切って解く。
その際、一瞬使者は驚いていたが、俺は先程の態度とは打って変わって笑みを浮かべて使者に告げる。
「使者の言葉、確かに承った。我々とてオスウィンで無駄な血を流したくはない。無血開城するというのであれば、都市民にはては出すまい。」
その言葉に安心したように使者はほっとするが俺は言葉を続けた。
「ただ、もし裏切るようであれば……。わかるな? 使者殿。」
睨むつける俺に使者は一瞬ビクッと体を跳ねさせると地面に頭をつけ土下座するように「かしこまりました!!!」と告げる。
「さて、使者との話は以上だ。使者に馬の用意を。」
「はい!」
こうして使者を早々に追い出すと鎧を身に纏った老兵に向き直した。
「さて、色々と話を聞こうか。」
そう告げて俺はコルトを睨みつけた。
◇・◇・◇
そして、空が再び夕焼け色に染まると俺は兵達を従えオスウィンへと入城した。
予め、兵達には都市民には手を出さないことを厳命した上で、もし破るのであれば即座に処刑することを通達したため、兵達は整然とした態度でオスウィンに入城した。
俺は即座にオスウィンの居城に入ると都市内に残った敵兵力を拘束し城の地下に設けられた牢屋に捕虜として捕らえた。
そして、持ってきた伝書鳩に此度の戦のことを綴った上で現在の戦況を報告するように仕向ける内容を本国に送った。
また、兵達には息抜きとして酒と都市の隅にあった娼館を貸し切り、交代制で娯楽を与えた。
そして、俺はオスウィン城に残ったオスウィンについての資料を読み漁り、現在の問題点を洗い出した。
加えて、領主の動きに関しても逐一報告するように命令した上で密偵を送り込み敵の出方をまった。
◇・◇・◇
一方、アルトス領のレクサムでは、再度侵攻してきたマーシア軍と防衛軍が日夜戦っていた。
「ったく、アルトス。こりゃあないよ。」
一人城壁の上であきれるように笑うケイに隣にいた馴染みの騎士に肩を叩かれながら告げられる。
「仕方ないさ。あっちは王様、こっちはせいぜい貴族だ。格が違いすぎる。」
慰めの言葉を言われながら戦場で二人は高笑いする。
敵は止まることなく終始攻めてくる。
矢に兵にと止まることなく迫られる脅威にケイは声をあげる。
「お前ら!! 耐えろ!!! もうすぐでこの戦いに終止符が打たれる!!
もう時期、陛下が勝利を持ってきてくれる!! それまで持ち堪えろ!!!」
疲労と絶望に打ちひしがれた兵達は、ケイの言葉を聞いてつい数日前にアルトスがした演説を思い出す。
“国とためでなく、己の家族と己の名誉のために”
その言葉が再び兵達に希望を与える。愛する家族は自分たちの背後にいる。
今日も一日平和な時間を過ごしている。
そんな光景を兵達の一人一人が想像する。そして同時にそんな平和な一日を目の前の敵が奪わんとしていることに怒りを覚える。
剣を握る握力が無意識のうちに強くなり、すでに疲労困憊となった体に胸のあたりから火が灯る感覚に襲われる。
そして目が据わり口を開けて吼えるように叫ぶ。
「「「おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」
決して誰にも奪わせない。
ただそれだけを胸に兵達は再び剣を振るう。
◇・◇・◇
吼えながら攻めてくる敵にマーシア兵は怯えるように剣や盾を掲げて防ぐ。
まさに竜の如く攻める防衛軍にマーシア軍は動揺する。
すでに数日間は攻めている。兵力も十分なはずなのにレクサムを守る兵はいくら傷つこうとも絶命するまで向かってくる。
その異様とも思える戦い方にマーシア軍は怯み出す。
そしてそれを一人で率いながらも倒れることなく幾人ものマーシア兵も屠ってきた男が城壁の上で高笑いしている。
その異様な光景にマーシア兵は恐怖が伝播しマーシア軍は敗走した。
後にマーシアの間でケイは“黒き竜”と呼ばれることになり、絶望の象徴として戦場伝説の一つとして語られるようになる。
ただ、このことを当の本人が知ることになるのはまだ先の話。
読んでくださってありがとうございます!! ( ^ω^ )V
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( ✌︎'ω')✌︎<オネシャス!