#028 『 決戦と英雄の誕生 』
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決戦場となるデンビー村へ出発すると隣からリオン将軍が気難しい感じで話しかけてくる。
「アルトス様、あの……非常に申し上げにくいのですが……。」
「なんだ? はっきり言わないと俺でもわからんぞ。」
「は、はい。その、バルド侯はどうするのかをお聞きしたくて……。」
リオンからバルドという名を聞いて俺は悟った。
リオン将軍。本名をリオン・カール騎士爵。カール家の次男で美容淡麗で賢く、剣の腕前も良い。
ただ、本人は奥手なこともあり、積極的になれないことで家を追い出された。
追い出されたとはいえ、修行のために送り出されたというのが正しいが彼には同じことのように思えた。
そして、家を追い出された彼は一人国内をのらりくらりしてやっとの事で腰を落ち着かせたのがバルド侯のところだった。
自分を救ってくれた恩人が今度は敵となって現れる。
まさに、本の中の出来事が目の前にある中で彼は迷っていた。
「今更言うことではないかも知れないがお前も知っている通り領主へと反抗は反乱の芽を摘むと言うことで一族諸共極刑だ。」
「ええ、承知しています。」
「安心しろ。お前には危害は及ばない。それに、バルド侯のやっていた悪事を暴いたお前の存在は大きい。」
「はい……。」
バルド侯が行っていた悪事の大半は主に統治問題が多かった。
とは言え、何かと口が達者だったバルド侯はのらりくらりとかわしては、悪事を繰り返していた。
そこで俺自身も目を付けてはいたが、後にリオンがバルド侯の行っている税の中抜けや違法貿易、盗賊を使った商人への巻き上げなどを教えられことの大きさを見誤っていたことを思い知る。
とは言え、またかわされると予想した俺は今回の侵攻時に決定打となる謀反を起こさせようと動いた。
バルド侯が以前より憎んでいたエクトルの下につかせて苛立たせ、マーシアの間者と接触させることで餌を与える。こうして、今回のバルド侯は言い逃れのできない状況へと誘い込まれ、俺はそれを口実にバルド侯を失脚し今までの悪事を含めて後に裁判を行うようにした。
その案を最初にエクトルに言った時には若干、引かれたものの遅かれ早かれ謀反しようとする人物をこのまま領内に止めるわけにもいかないとのことで渋々了承した上で今回のエクトルへの支援部隊として彼の拠点でもあったルシンの防衛を任せた。
そして、現在。そんな人物に救われたことのあるリオンは複雑な表情を浮かべていた。
「リオン、お前は優秀だ。ただ、道を見失うな。」
短く、励ますように俺が告げるとリオンは先ほととは打って変わった表情を浮かべて「ハイッ」と元気な声で応えた。
◇・◇・◇
アルトスがデンビーへと向かっている頃。
バルドは突如呼び出されたレクサム領館の会議室へと入る。
会議室の中はだいぶ整理されてはいるものの未だ所々壊れてはいた。
しかし、それらをまるで気にすることなどないという空気感に圧倒され、バルドは何も言わずに会議室に用意された自分の席へと移動すると腰を下ろした。
「では、これより作戦会議を始める。」
そう告げるのはマーシアの将軍であり、今回の侵攻の全てを任されたマーシア王の側近、ウォリック・ネヴィルだった。
鋭い眼光に白髪混じりの黒髪から付いたあだ名は《黒狼騎士:ナイトウルフ》。
かの《斬首騎士》と同じ、一流と謳われた二十一人の最強騎士の一人であり、その序列も第九位に位置するほどの男。
そんな彼は個人戦闘力は特段高くないがその分、素早い動きで敵を殺す。
また、一度狙った人物は必ず殺すと言うある種の異常性からその名を冠されている。
「先程、この地を統治する領主アルトスから届いた手紙の内容を説明する。
“我、アルトス領領主アルトスはマーシアとの紛争における講和を望む。”とある。さて、諸君らはこれをどう受け止める。」
「今更講和など……。」という小言が会議室で囁かれる中、バルドは一人考えていた。
新領主のアルトスはエクトルに比べて弱々しく、強気に出るようなタイプではなかった。
それ故にバルドはアルトスを無視して様々な悪事をあたらき、私腹を肥してきた。
そして、今回。バルドはアルトスに踊らされるように動いていた。
だが、当の本人は知らず、勝利の余韻に浸りながら講和の内容についてペラペラと話していた。
そんな時、兵の一人が扉から入ってくると早々にウォリックの耳元に囁くように伝えた。
「なるほど、わかった」と告げながら兵を下がらせると一息ついてから情報を共有した。
「密偵の情報によるとどうやらアルトスは我々を騙そうとしているらしい。デンビー村の目指して現在、行軍中だ。」
その言葉を聞いてバルドはゾクっと背筋が凍るような思いをする。
すぐそこまで自分の首を狙ってるもの達が迫ってきたのだから無理もない。
しかし、バルドは自分にはマーシアの軍隊がいるから大丈夫だと自分自身に言い聞かせると精一杯の作り笑いで会議を続ける。
そして数時間後、会議が終わる頃には額に汗が流れ、背中に冷や汗をかく。
まるで、徐々に逃げ道を封鎖され、追い詰められていくかのような息苦しさを肌で感じながらバルドは自身の部屋へと戻る。
部屋には、マーシア軍からお楽しみ用に当てられたレクサムの住人だったであろう二人の女性の他には自分しかいなかった。
だが、バルドは怯える女性を無視して椅子に座って、一人考え事を始めた。
迫るアルトスから逃れるには戦うしかない。
当然、勝てる気はするが自分の本能が全力で逃げろと叫んでくるかのように身体が震え、恐怖が脳内を埋め尽くす。
そんな状態のバルドにウォリックから手紙を通じて密かに命令が下される。
その手紙の内容を見て、バルドは手紙を歯軋りしながら握り潰すと、呟くようにこぼした。
「クソがッ!!」
◇・◇・◇
翌日––––––––。
アルトス一行がデンビー村近くに着いて布陣を敷き始める頃、数百メートル先には早めに着いて構えていたマーシア軍がその姿を表す。
マーシア軍凡そ三千五百人対するアルトス軍は二千人、エクトルの別部隊をも含めても二千七百五十人と数では不安が残る。
アルトス軍は先の戦いにおいて予想よりも被害が大きく出てしまったと言うのと募集兵の多くが戦闘と行軍でバテてしまったのが大きい。
しかし、それでも二千人の兵がいるのは奇跡としか言いようがなく、アルトスはそんな着いてきてくれた兵達にできるだけの休息を取らせていた。
そして、両軍ともに決戦前に例に則って降伏勧告を互いに宣誓する。
だが、これも当然のように棄却し合い、残すところは戦闘による決戦だけだった。
そして、太陽が一番高いところまで登ると両軍覚悟を決めたように戦場に出て陣形を整え始める。
陣形を整えながら、広い穀倉地帯を足で踏み潰し、両軍とも睨み合うように向かい合う。
そんな中、アルトスは兵を凸のように中央を出っ張らせた陣形を組ませるとその両脇に騎兵をおく。
特にモルド方面の東側には少なく配置し、森のある西側に重点的に配置した。
対するマーシア軍は戦場が丘と丘の合間にあり、西を森、東を別の小高い丘がある場所だったため、陣形を密集させ三段の陣形を組んだ。
そして、その両脇には騎兵を配置し、アルトスとは違って東側に重点的に配置した。
一際小高い丘の上に陣形を組んでいたアルトスはそんなマーシア軍を見下ろしながら一人呟く。
「賽は投げられた––––––––。」
双方の伝令兵が開戦の合図であるトランペットを吹くと両軍とも戦闘を開始した。
初めに動いたのは両脇の騎馬だった。
互いに勢いよく駆け寄り、正面衝突する。
だが、開始して数分でアルトス右翼の騎馬軍が敵の騎馬軍を撃破する電撃戦を決める。
これに慌てたマーシア軍は槍を主武装とした部隊に騎馬の突撃を防ぐように配置転換しながら対応するとそのまま第一陣の歩兵を前進させた。
それから中央の歩兵が互いにぶつかり合った瞬間、両者は本当の意味での戦争を行う事になる。
左翼を歩兵によってなんとか食い止めながらアルトスへと迫るマーシア軍は第二、第三陣の兵達を前に突き出してはアルトス軍へと圧力をかける。
だが、その動きを読んでいたアルトスは、徐々に突き出した中央部分を下げながらじわりじわりと後退を始める。
その動きにマーシア軍は徐々に丘を登り始める。そして、微妙なところでマーシア軍を惹きつけると丘の上から矢を射かける。
突如、矢が雨のように降ってくる中でマーシア軍は即座に盾を前に出すが、すでに後方から第二、第三陣が来ていた。
そんな状態の中で、押し込まれていたマーシア軍は気がつかずに密集していた。加えて、中央だけをアルトスが後退させていた事もあり、自分たちは密かに包囲をされつつあった。
そして、再びアルトス軍の伝令がトランペットを吹くと東側の丘から七百五十人の騎馬部隊が現れ、戦場に残っていたマーシア軍の騎馬軍を奇襲し、たちまち撃破。
加えてそのまま戦場を駆け抜けるように西側へ向かうとマーシアの右翼歩兵を瓦解させ、戦場から撤退させた。
エクトルの指揮の下に迅速な撃破を繰り出すアルトス軍に気がついたマーシア軍はそのまま最後尾の第三陣の歩兵たちを反転させて後方を防衛させるが、時はすでに遅く、エクトルは勢いの乗った騎兵と共に、マーシアの後方を襲い始める。
こうして、カンナエの戦いのような包囲線ができるとあとは捉えたマーシア兵に全方位から圧力を加えて殺していく。
次々と死んでいく味方に、マーシア軍は一気に瓦解し烏合の衆と化してしまう。
だが、アルトスはそれを見てもなお徹底的にマーシア軍を包囲殲滅する。
そんな時、アルトスの包囲網の一箇所に隙を見て突撃し、突破を果たした凡そ数十人程度の敵兵が現れ、ちりじりになって戦場を離脱していく。それに対して、不機嫌そうに顔を歪めながらアルトスは眺める。
凡そ数時間後、一部の兵が包囲網を抜けて戦場を離脱したその後も圧力を加え続けたアルトス軍は戦闘に参加したマーシア軍総勢、三千五百人の内残った八百五十人程度を捕虜として確保した。
こうして、マーシア軍との決戦にも勝利したわけではあったがアルトス軍も約一千人程度の死傷者を出すなど相応の痛手を受けた。
デンビーでの戦いでマーシア軍に勝つと兵の限界もあり、ルシン、レクサムの奪還は持ち越される事になったが、戦いから三日後にはマーシアの東部にて争いが始まったため、マーシアは侵攻していた軍を引き返さざるを得ず、撤退した。
また、マーシア軍はその際にルシン、レクサムを放棄して撤退したため、アルトスはデンビーでの決戦以降、被害を被る事なくルシン、レクサムの奪還を果たした。
しかし、ルシンはともかく、レクサムは今回の侵攻で甚大な被害を受け、城壁の一部が崩落しレクサムの都市の内、半分が崩壊するほどだった。
そのために戦争後の復旧活動が急がれたが、それにはお金がかかることになりホーリー城にいるロタールの仕事がまたしても増えることになった。
肝心のマーシアとは賠償金の支払いはほぼないに等しい額しか得られず、事実上の白紙講和となったことでアルトス領東部を受け持つ貴族からは不満が出たが、復旧金を幾らかアルトスが出すことでなんとか収まった。
ただ、貴族や豪族と違って領民からの反応は最初から良く、アルトスは侵攻してきたマーシア軍を撃破し領を守ったことで支持が上がり、一部ではマーシアやヨークシャー、アルビオンといった新王国の誕生にあやかって建国などの話も出たが、まだ領内のすべてを掌握することができていないとの理由で、流されることとになった。
しかし、エクトルやケイ、オリヴィア、マーリンなどからは玉座についてほしいとの願望から建国の準備が急がれることになった。
英雄の誕生に建国となれば、余計ますます隣国などに目をつけられるかもしれなかったが、アルトスは自身の目標を達成するためにも自分が自由に動かせる王国の成立は必要だった事もあり、建国を容認しその新王国の国王になることをエクトル、ケイ、マーリン、オリヴィアに約束した。
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