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Godin Fantasy —異世界建国譚—  作者: 高峰 遼一
第一章 女神の選定と竜の刻印
30/70

#027 『 外交戦略 』

毎日投稿 11日目!! (● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾

 バルド侯の裏切りによるレクサム、ルシンの二都市陥落に盾としての機能を失いつつあった東部をアルトスはこれらの都市を取り戻すべくコンウィ城へと戻ると二人の人物を呼び出した。


 一人はボサボサとした茶髪に筋肉質でかなりの図体を持つ男、名をコルベール。もう一人はボタッとお腹が出ていて筋肉というよりも脂肪が付いていた髪のない男、名をオーレン。

 コルベールとオーレンの二人に加えてアルトスの三人がコンウィ城の謁見室で囲むように席を置いていた。


「して、今日は何用で私たちをお呼びになったのかな。アルトス殿、いや今はアルトス卿かな。」


 足元を見るような感じでオーレンが口を開く。

 そこへ同じように呼ばれたコルベールが同意するように頷くとアルトスに向かって話しかけた。


「あれほど我々のことを無視しておいて、まさか“助けろ”などいう訳ではあるまいな。」


 牽制するように睨みつけてくるコルベールに俺は澄ました笑顔を浮かべると告げた。


「なぁに、今回の戦いすでに私たちの勝ちです。それよりも折角できた有意義な時間を“友好国”の代表者である皆様に使いたいと思った次第だ。それとも他になにか?」


「勝ち……ですか。私の目にはとてもそのような風には思えませんが。」


 オーレンが尋ねるように応える。


「そうだ。今、現在アルトス卿はルシンとレクサムを奪われた状態。これではこの戦はマーシアの方が圧倒的に有利だろう。」


「そうですね。確かに、レクサムもルシンも私の手から離れた。これは事実です。だが、もし奪え返せる手があった上での放棄であれば、どうでしょう?」


 さらに笑みを浮かべ、前屈みになって告げる俺にコルベールとオーレンは少し考える。


「なるほど、ではあえて取らせたと。だが、そんな手があれば、我々を呼ぶ必要はなくとっとと奪え返せば良いのではないか?」


「確かに。奪うだけならそうでしょう。だが、問題はその後にある。」


 コルベールの質問に俺は応えると説明を始めた。


 現在、玉座をかけて戦っているのは主に三勢力。

 どれも、もとウーサー王の統治下にあったグウィネズ王国から登場した王国で現在は互いに争っている。

 その勢力は北方に存在するヨーク公が率いるヨークシャー王国、中央部にある金や銀などの貴金属の鉱脈を持つマーシア王国、王都ロンディニウムを支配下に置く南部のアルビオン王国に分かれている。


 そして、俺が今回問題にあげたのは第四勢力の出現だった。

 現在、この三王国で三つ巴に争っているためになんとか勢力が均衡している。


 だが、そこに第四勢力たる俺が現れマーシアを負かせた場合、勢力を落としたマーシアはひどく混乱した状態へと突入し、国政が危うくなる。

 加えてそこへ北のヨークシャー王国と南のアルビオン王国が攻めることで、マーシアは滅亡しイングランドは北のヨークシャーと南のアルビオンの二大大国に分けられる。


 または、新たに俺を主体とする第三勢力が誕生するかもしれないがそれは、それでヨークシャーとアルビオンからしたら嬉しい話だろう。

 なんせ、戦いの後に土地を得てもそうすぐには税を回収できないために、そうすぐにはまた戦争を行う体力はなくなる。


 そうなればヨークシャーはアルビオンを、アルビオンはヨークシャーだけに注目すれば良い。

 第三勢力のマーシアが崩れることで両者ともにさらに一歩、玉座へと近づく。

 だが、そのためには一番の不確定要素である俺をどうにか味方か中立にしなければならなくなる。


 その対価を決めるために今回、俺はヨークシャーの代表者であるコルベールとアルビオンの代表者であるオーレンを呼んだのだ。


 とはいえ、これはマーシアとの戦争に勝ったらの話。

 現在の戦力で言えば勝てなくもないが敵はこれ以上の進撃は難しいとした上でこちらが折れるのを待っている可能性がある。

 そこで俺はマーシアには講和のための準備をしていることを知らせた上で、この場にマーシアの敵であるヨークシャーとアルビオンを集めて会談をしている。


 敵の敵は味方理論で、俺は今回マーシアが奪った二つの都市を奪還することを計画していた。


 マーシアは確かに大国ではあるものの、前世の世界に存在する超大国ではない。

 ましてや近代国家以前の国家であるために軍隊の数も多くなく、財源も限られてくる。故に、俺の勝利方法は主に二つに分かれる。


 一つは、マーシアの財源をなくすことを目的とした長期戦。

 一番安全ではあるが俺も同じように苦しみ、後の経済にも打撃を与えることになるため今回は取れない訳ではないが取りたくはない戦術だ。


 もう一つは、背後の一突き。

 マーシアは俺と戦争している以上、ヨークシャーとアルビオンにはそう警戒をしていない。

 例えしていたとしても主力を遠方または分散している現在では、どうしても相手にし辛いだろう。

 そこで、ヨークシャーとアルビオンに軍を動かして背後を脅かされれば、マーシアは全力をあげて撤退を進めるだろう。


 当然、そこでは多少妥協しても講和を結んでくるだろうが俺はそれを受けるつもりはない。

 恐らく、ルシン程度は返すがレクサムは嫌だと言ってくることが予想されるからだ。


 故に俺はマーシアとの講和はない。少なくとも俺はそう考えている。

 ちなみに、マーシアが降伏すれば俺は容赦無くこちらが今回の侵攻で受けた被害への賠償金支払いと多少の領土割譲。数年の不可侵条約の締結を申し出るつもりでいる。


「なるほど。確かに、それは困ったことですな。」


 大袈裟に顎髭を触りながら告げるオーレンに俺は「そうでしょう。」と賛同する。

 そこへコルベールも何やら難しい顔で尋ねてくる。


「とはいえ、軍を動かせるほどではないな。貴殿に恩を売るのであれば中立を約束するくらいで十分すぎる。」


「ええ、そうでしょうね。でも、それは私が“普通の人物”であればですけど、ね。」


「ん? それはどういう事でしょうか? アルトス卿。」


 コルベール、オーレンともに顔を傾げる中、俺は一人付けていた手袋を外すと右手の甲を二人に見せた上で、脅しのように告げた。


「私は《王の刻印》を持つ者だということです。」


 その瞬間、二人は固まった。

 王の刻印を持つ者は王の資格を持ち、一人で世界を滅ぼせる程の力を持つという伝説めいた言い伝えが存在する。

 その印ともいえる刻印を見せられては、コルベールもオーレンも黙るしかなかった。


 世界を滅ぼしうる力––––––それだけ強力なカードを一度だけとはいえ借りることができる立場にある二人は即座に損得換算を脳内で弾き出す。

 誰が相手であろうとも、負けることはないそんなカードを大国相手に見せるのは一見愚策であり、自分の持つ優位性を失うようなものだ。

 本来、支配者はそうした隠し球を幾つか持ち、外敵などに備える。

 だからこそ、それをバラすという行為は愚策とされる。


 しかし、俺にはそれはどうでもよかった。

 なぜなら、この切り札は奪うことは出来ないからだ。


 それに俺にはアングルシー島に残したオリヴィアとマーリンがいる。

 オリヴィアの持つ王位継承権とマーリンの《創世の刻印》だけでも十分に隠し球になりえる。

 それらを知った上で俺は二人に見せていた。


 まさに、ゲーム理論を笠に俺は言葉を発する。


「私は自身戦争は好みません。ですが、降りかかる火の粉を払わないほど愚かでもありません。さて、その上で尋ねます。あなた達はどうするのでしょうか?」


 完全に場の主導権を得た俺は二人に選ばせる。

 軍を出し、マーシアを背後から脅かせばマーシアの土地は手に入り、俺に恩を売ることができる。

 だが、出さなかった場合は、逆に目の前のもう一人によって国家存亡の窮地に立たされる。


 自分の判断が国を左右する。そんな重責を二人は負えない。

 だからと言って、返答を先延ばしにすればアルトスは自分ではないもう一人と即座に手を結ぶ。


 であれば…………。


 そう考え二人して、同時に叫ぶ。


「「軍を出そう!!!」」


 二人の言葉を聞いて俺は一人席を立ち、勝者の笑みを浮かべる。

 そして、後のことを外交のプロに任せて謁見室を後にした。


 謁見室を後にして俺は、即座に兵と将軍にレクサム、ルシンの二都市奪還を告げると兵達は歓喜の声で喜び、将軍達は作戦を練るべく俺の元へと集まった。


 謁見室にいるコルベールとオーレンに聞かれないように場所を変えると俺はメイド達に飲み物と軽い食べ物を頼んだ。


 新たに作戦を練るベく集まった将軍たちに先ほど俺がコルベールとオーレンに告げた援軍の内容を伝えると将軍達は驚きの声をあげた。


「ヨークシャーとアルビオンが味方につけばマーシアなど恐るるに足りず。さすが、アルトス様!!」


 将軍の一人がそう告げる中、俺は冷静に応える。


「そうでもないさ。むしろこれで我々も王位争奪戦争に巻き込まれる事になったからな。」


「確かに、王位争奪戦争を勝ち残れるかと言われれば、現状の戦力では到底不可能でしょう。」


「そのためにだ。今回を早期決着をつけ、できるだけ体力を温存しておきたい。誰か、案はあるか?」


 尋ねる俺に将軍達は皆一様に黙った。


「まさか、誰もないのか……。」


 そう告げる俺に、一人の将軍が口を開く。


「恐れながら、アルトス様。我々はどうすればいいのでしょうか? ヨークシャーとアルビオンに協力するように動くべきなのか。それとも直接、レクサム、ルシンの二都市を奪還するように動くべきなのか。」


「それもそうだな。レクサム、ルシンの奪還を主に考えてくれ。今回はヨークシャーとアルビオンに協力してもらう事にはなるが直接的な協力はないだろう。

 恐らく、両者とも国境付近でいざこざを起こす程度に止めるはずだ。彼らも彼らで食料が乏しいからな。」


「わかりました。では、発言させていただきます。

 まず、レクサム、ルシンの奪還ですが、攻城戦ではなく野戦になるかと思います。」


「ほほう、なぜそう言える?」


「それはルシンはともかくレクサムはエクトル卿によって籠城をしていたので城壁の消耗が激しいと予想しております。

 その上、レクサムでの戦闘はルシンを奪えないとまず不可能だからです。

 とはいえ、ルシンは彼らにとって前線基地も同然。故にできるだけ被害を抑えたいと考えるはず。

 その考えがルシンでの戦闘を避け、野戦による決戦を挑むと思われます。

 なんせ奴らからすると我らを下せば、あとはモルドに残る残存兵力を叩くか包囲してじっくりと攻めるかすれば、領の全てを得られるのですからです。」


 比較的若い将軍の説明に俺は少し考えてから応える。


「確かにその通りだろう。だが、問題は兵の質だ。敵は傭兵とはいえ殺しを経験している。対するこちらは正規兵は少なく募集兵で傘増ししている。戦闘経験が乏しい募集兵では傭兵との戦いにおいて不安がある。その上での決戦は難しいのではないか?」


「それはないかと。アルトス様は仮にも先の戦いに勝利しました。今兵達は士気が高くアルトス様に期待しています。アルトス様が前線で皆を率いれば敵に食いかかれると考えます。

 しかし、アルトス様が言うように実際は少し難しいかもしれません。それで私が提案したいのは“挟撃”です。モルドにいるエクトル様には兵を連れて決戦場まで来てもらい、アルトス様とエクトル様の二人で敵を挟撃する。」


 若い将軍の言葉に反応するようにすぐさま、反対意見が飛び出る。


「挟撃など不可能だ。一度、我々と敵がぶつかれば、何がどうなっているのかわからない。

 戦場はそう生やさしいものではない。その上でこんな賭けのような案など、無理だ。」


「私も無理かと……。あまりにも現実的ではない。」


 次々と挙げられる反対意見に俺は、手をあげて場を鎮めると自分の意見を述べた。


「私としては挟撃という案には賛成だが、問題は父上だ。モルドから兵を連れて来れるかどうか。そこに掛かっていると思う。」


「確かに敵が挟撃を予想して、モルド近郊に兵を置く可能性はあります。ですが、ここは危険を承知で挑まなくてはとても勝てないかと思います。」


 若い将軍の意見に、他の将軍達もにわかに賛同する。

 危険を冒さずして、前進はない––––––––かつて、エクトルが告げたその言葉に将軍達は黙った。


「そうだな。リオン殿、お前の言う通りだ。では、リオン殿の作戦で行く。何か意見のあるものは告げよ。」


 誰も反対意見を言えなくなったところで俺が改めて賛同すると、比較的若かったリオン将軍の案が作戦として練り上げらるようになる。

 当のリオン将軍にも案を出した責任として、決戦時の左翼の指揮を任される事になり、出世のチャンスを掴んだ。


 その後、早馬を出してエクトルに作戦の一部を伝えると俺は決戦の地となるデンビー村へと駒を進めた。

読んでくださってありがとうございます!! ( ^ω^ )V


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また、少しでもこの物語を『面白い』、『続きが気になる』と思っていただけたら、

レビューや感想等の方もお願いします!!


( ✌︎'ω')✌︎<オネシャス!

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