#026 『 裏切りと勝利 』
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アルトスがブラティニオグで三千の兵と戦っていた頃。
レクサムでは、エクトルが日に日に増える兵の損害を見ていた。
「援軍はまだ、来ないのかッ!!」
部下の伝令兵にテーブルを叩き、怒鳴りつけながら吼えるように叫ぶエクトルは、レクサムの領館にある会議室で一人こめかみを抑える。
かれこれ数十回と援軍要請をルシンに出してはいるが一向に連絡もなければ、援軍の姿もない。それに対してモルドは援軍要請を受けてからすぐに出発して合流してくれたため、なんとか防いでいたものの、それすらももはや限界が来ていた。
「バルドのクソが……。」
奥歯をギシギシとさせながらエクトルは愚痴を溢す。
レクサムを含んだモルド、ルシンの三都市にはエクトルに抵抗する貴族や豪族が大勢含まれており、エクトルは自分に抵抗する人たちを通して軍を動かしていた。
だが、さすがのエクトルもちょこまかと小細工を仕掛けてくる味方の貴族、豪族の妨害に苛立ちを募らせていた。
エクトルという餌を前に表立っての決起を起こせば、その場で敵軍に変わるために処刑のような重い処罰も可能にはなるが、表立って決起せずにこうちょこまかと煽って来るようでは容疑が深まるだけで処罰することができない。
まさに味方が誰かもわからない中でエクトルは孤立状態になっていた。
味方でさえ安心できない中で一人奔走するエクトルは頭を悩ませていた。
そんな時、伝令兵が会議室の扉を開き、跪くと伝令をエクトルに告げる。
「バルド侯より伝令です。“我、救援に向かう”だそうです。」
「「「おおおおぉぉぉぉ」」」
エクトルと同じように会議室に篭って様々な場所に指令を飛ばしていた将軍達が声をあげる。
ただ一人、エクトルは違っていた。
バルド侯と古くから知り合いだったエクトルはバルド侯の性格を熟知していた。
狡猾で卑劣、それでいて凄まじいまでの貪欲に独占欲と支配欲の塊。それがエクトルにとってのバルド侯だった。
そんな、バルド侯の動きが急に変わることは珍しかった。
故にエクトルは一人、安堵する会議室の中で警戒していた。
バルド侯はおそらく買収されたのではないかと––––––––。
◇・◇・◇
正午、バルド侯が大勢の軍勢を引き連れてやって来ると敵軍は一斉に散開し逃げていった。
また、援軍を見た味方の兵たちからは歓喜の声とともに迎え入れられた。
バルド侯を迎え入れるべく、レクサムの北門が開いたその時、レクサムの門には完全武装のエクトルが馬に跨りながらバルド侯を睨みつけていた。
黒い甲冑に黒い馬、そして兜の奥から覗いてくる力強くも鋭い眼光がバルド侯を震え上がらせる。
まさに戦場に現れた死神に味方の軍でさえ恐怖に包まれる。
そんなエクトルが一人馬を歩かせるようにバルド侯に近づくと剣を向け告げる。
「何しにきた? バルド。」
怒気の篭った声を発しながらバルド侯を睨むエクトルにバルド侯は、落ち着くようにゴクッと自分の唾を飲み込むと口を開き、救援の要請に応じた事を話した。
「なるほどな。だが、お前はそれを俺が信じるとでも?」
バルド侯を未だ信頼しきれないエクトルは剣を向けたまま、話続ける。
「エクトル卿、私は貴方が助けてくれと言ったから来ただけだ!! それを信じないのであれば私は兵と共にルシンへと戻る!!」
吐き捨てるようにバルド侯が告げると自分とともに援軍に来た兵達を反転させルシンへと帰るように命令した。
そんな光景を見せられれば、エクトルも迎えざるを得ない。
エクトルは、兜の中で一人「クソッが!!」と呟くと背後を見せるバルド侯に叫んだ。
「いいだろう、救援感謝する。」
短く、そう告げるエクトルは即座に反転しレクサムの北門をくぐり抜けた。
そして、入城許可をえたバルド侯は人知れず、不敵な笑みを溢し軍を再びレクサムへと入城させた。
入城の際に一悶着こそあったもののレクサムの兵達は援軍の登場で喜び、色めき立った。
日に日に増える敵の猛攻もこれでなんとか防げるそう思っていた時のことだった。
夜になり、敵の攻撃が無くなり代わりに騒音がレクサムの都市を襲う。
夜の攻撃は原則されない。それは敵も味方も分からなくなり同士討ちがあり得ることだからだ。
だが、そんな夜だからこそ出来る戦いがある。
それは睡眠妨害。昼の猛攻で肉体的にも精神的にも疲労し始めていたアルトス領軍も夜には寝て疲労を回復しなければならない。
しかし、それを妨害すれば徐々に判断が鈍くなり、苛立ちを募らせる事になる。
それが仲間内の揉め事へと発展し、城内に籠る兵達を追い詰めていく。
夜に鳴り響く太鼓の音に、レクサムに籠る兵達は苛立つ。
そのことを感じ取っていた将軍達は領館にて夜襲の決行について話し込んでいた。
「兵達のためにも、夜襲を決行し敵の妨害を防ぐべきです。」
「とはいえ、夜襲はそう簡単に決まりはせんでしょう。ここは辛抱するべきかと。」
「エクトル卿、貴公の意見も聞いてみたい。」
そう尋ねられてエクトルは口を開く。
「夜襲を決行する必要性は理解できる。だが、まだだ。夜襲は先ほども言っていてようにそう簡単に決まるようなものではない。そもそも夜襲ができるほど元気な兵は少ない。故に俺は反対だ。」
自身の意見を述べつつもバルド侯の目的を探るエクトルに当のバルド侯は笑みを溢し、発言する。
「エクトル卿の意見はもっともですが、どうにも私には臆病風に吹かれたとしか思えません。」
臆病という言葉に反応するようにエクトルが立ちがり、なみならぬ形相でバルド侯を牽制する。
「元気な兵ならば、我が部隊から出せますし、それに夜襲は私の十八番であることを皆様はお忘れですかな? 夜襲部隊は私が直々に指揮した上で完璧にやってやりましょう。」
エクトル以外の将軍達の賛成を自分に集めながらバルド侯はエクトルを煽るようにして笑みを溢す。
その態度にエクトルは一人会議室を黙って出た。
結果として夜襲は決行されることとなり、数十分後には見事敵の妨害を止めることに成功したバルド侯はその発言力をましていき、エクトルを苦しませることになった。
翌日、太陽もだいぶ上った頃に、敵は再度レクサムへと侵攻した。
もうすでに三日目になりつつあったがすでに兵達の中には、何人か終わりの見えないこの戦争に辟易していた。
それでもと体に鞭を打ち攻めて来る敵兵を殺してはいたが、日に日に増える損害と疲労に肉体よりも先に精神的に追い込まれ、味方同士の連携も疎かになっていた。
「死ね〜」「このクソがッ」という声が城壁上に響き渡る。
殺せども向かってくる敵兵士に次第に、兵達は恐れを抱いていた。
そんな時だった。
東門が突如、開き始め敵が城ないへとごった返すように雪崩れ込んでくる。
そして、同時に反エクトルを掲げる貴族や豪族達が牙を剥いて味方へと襲いかかる。
その光景を見て兵達が驚愕する。
何がどうなっているのか分からず、兵達は立ち往生する。
指揮官が次々とやられ指揮を失う。それと共に城壁を登ってくる敵兵に味方が殺されて死んでいく。
混沌とした状況の中でエクトルは一人、全身装備の中で敵の大軍へと突っ込みそのまま、遇あしらうように一人二人と殺しまわる。
まさに鬼神の戦いぶりに敵は一瞬怖気付くが、すぐに数でエクトルを包囲する。そしてそのまま牽制するように槍を向け、馬に跨るエクトルを引きずり下そうとする。
他勢に無勢では勝ち目がないと悟ったエクトルは覚悟を決めて、一心不乱に北門を目指す。
迫り来る敵兵を薙ぎ払っては進むその姿に、寝返ったバルド侯は歯軋りする。
その背中を見て、部下から弓を奪うと弦を引きエクトルの後頭部を狙って矢を放つ。
しかし、バルド侯が放った矢がエクトルの後頭部を捉えることはなく、矢はエクトルの右肩に、甲冑を貫いて深く突き刺さった。
こうして、なんとか九死に一生をえたエクトルはモルドへと僅かな兵力とともに逃げ延び、レクサムの都市は陥落した。
モルドへと逃げ延びたエクトルは、射抜かれた右肩を包帯で巻かれていた。
利き腕の肩を射抜かれたこともあり、剣をまともに震える状態ではなくなったエクトルは、バルドの裏切りに腹を立てていた。
昔から何かとつけて敵視してきたバルド侯は、エクトルにとって目の上のたんこぶだった。
実力も何もかも上なエクトルにバルドは幾度となく挑んでは敗北を重ねていた。
だが、ただの一度も諦めることなく挑んでくるバルドにエクトルはバルドの実力を認めていた。
狡猾は裏を返せば賢さを示し、卑劣さは彼の場合、昔は演技であることが多かった。
それでも昔の彼は彼の理想だった正しい騎士を目指していた。
しかし、バルドの夢をエクトルが潰したことでバルドは貪欲になり、人々を支配するようになった。
与えられないのであれば、強引にでも得る。そういった考えがバルドを支配し、彼を変貌させた。
手柄を得るためならば、味方であっても容赦無く殺す。
欲しいと思ったら、何かと理由をつけては奪う。
その行いはまさに手段を選んでいなかった。しかし、その行いが広く知られるようになるとエクトル領へと転付されることになった。
そしてまたしても同じような行いを続けるバルドにエクトルは幾度となく警告を飛ばし、時にはやめなければ賊と見做して討伐を行うなど強気に告げられたことあった。
しかし、それが災いしてバルドはエクトルに向けていた復讐心を思い出し、いつのひかエクトルに復讐しようと心に誓った。
そして今日、あの時の復讐を多少は晴らしたバルドにエクトルは怒りを募らせていた。
「おいッ、そこの伝令兵。アルトスに伝えろ。レクサム陥落とバルド侯の裏切り、そしてモルドにて防衛しているがそう長くは持たないこともな。」
「ハッ、了解しました。」
「それと、そこのお前。モルドの指揮は今現在誰だ? そいつと話しがしたい。」
「かしこまりました。」
エクトルが命令し、兵達は慌てて動き出す。
状況が徐々に悪くなる中、エクトルは束の間の休息を得た。
そして、その日の夜。
エクトルはモルドを任されていたビリー侯と話す。
「久方ぶりだな、ビリー侯。」
そう告げながら笑みを浮かべるエクトルにビリーは手を差し伸べる。
「こちらこそだ、エクトル卿。久々にお前と一緒に戦えるからな。して、お前さんほどの奴が誰にここまでしてやられた?」
「ああ、相手はバルドの野郎だ。」
「バルドッ!! まさか、あいつ裏切ったのかッ!?」
「そうらしいな。まったく、あいつらしい。」
「だが、しまったな。バルドが裏切った以上、どうすることもできないように見えるが……。」
「大丈夫だ、敵は補給を終えてから攻めてくるだろうからな、多少の時間は問題ない。とはいえ、安心はできないがな。それに、民の多くが犠牲になった。」
「そうだな。アルトスには連絡を出したそうだな。これで援軍はくると思うが援軍が来てもルシン、レクサムを両方奪い返すことなど可能だろうか?」
「そうだな。俺だったら最悪、レクサムは切り捨てるしかないと思うがな。ただ、アルトスは違う。あいつは、おそらく思いつくだろうさ。この敗北じみた状況をひっくり返す一手をな。」
笑みを浮かべ、アルトスへと期待をするエクトルにビリーはどこか、エクトルが父親として変わったことを知った。
かつてのエクトルであれば、ただ真っ直ぐに進み、どんな邪魔が入ろうとただ一人で進み邪魔するものは全て薙ぎ払っていたが今の彼は、どこか息子に頼っては期待していた。
◇・◇・◇
眼下に広がる地獄を見てバルドは呟く。
「それにしてもマーシアの野郎どもは反吐が出る。エクトルを討ち取るためとはいえ、一時的に手を組んだが、そんなこいつらと同類にされたくはないな。」
「そうですね。バルド侯」
レクサムに残った兵達の多くは面白半分に殺され、子供や老人も同じようにされた。
だが、女性達は身ぐるみを剥がされ、マーシアの兵達に弄ばれていた。
食料庫から酒と食料を引っ張り出しては、それを頬張って束の間の休息を楽しむ。
そして、女性には問答無用で奉仕させる。
まさに無法地帯にバルドは、嫌気をさしていた。
今まで彼が卑劣になっていたのはまさに、他人に彼本来の目的を探らせないためだった。
その彼の目的は、ただ一つ。玉座だけだった。
玉座につけば、女も財宝も、全てが手に入る。
そして、それを邪魔してきたウーサーは死に、エクトルもじきに自らの手で殺すことができる。
そうすれば、もはや誰も自分を止められうことはない。
マーシアに寝返り、エクトルを殺せば後は新たに領主となったアルトスを殺し、正当な王位継承権を持つ見目麗しいオリヴィアを手籠にすれば、自分は正当な王であることを公表し、マーシア王を暗殺。
マーシアの権益を得て、王都ロンディニウムへと凱旋することができる。
そう思い、バルドはニヤける。
長かった復讐もこれでようやく終わり、自分は新たに王として即位する。
その状況を想像するとバルドは興奮した。
しかし、そんな時に扉がバンと開き、一人の兵が入ってくると伝達が告げられる。
「グレイザー様より通達です。“急ぎ、会議室へと集合せよ”とのことです。」
バルドはその通達を聞き何やら不穏な空気を感じ取った。
読んでくださってありがとうございます!! ( ^ω^ )V
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また、少しでもこの物語を『面白い』、『続きが気になる』と思っていただけたら、
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