#025 『 ブラティニオグの戦い 』
毎日投稿 9日目!! ☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆
コンウィ城を出発してから早十時間。
ほとんど止まることなく行軍してきたことで敵軍よりも速くブライティニオグへとついた俺は部下の兵たちに無理な行軍をした事への休息を与えると部下達が不思議そうな顔で一様に訴えてくる。
「恐れながらアルトス様、我々はまだ働けますッ!! 何卒、ご命令を!!」
馬上から眺める部下の顔に俺は一瞬、社畜かな?と思ったがよく見てみると皆一様に十時間程で四十二キロもの距離を行軍した割には疲れた表情を一切、見せていなかった。
そこで俺は少し考えると、即座に部下達に簡易な砦を造るように命じた。
ここ、ブラティニオグは北や南へと進軍する際に通る細い谷道の入り口付近にあり、防衛側である俺たちは入り口を塞ぐように防衛拠点を置いた。
敵軍は防衛拠点を攻略しながら進むしかないために防衛地点としては申し分なかった。
また、異常とも思える行軍速度によって、敵軍が来るまでの一日を休息にすることで士気も高くことができた。
加えて、俺はこの戦いの勝敗で敵軍に奪われていた戦争の主導権を握れるように画策していた。
敵は偵察兵によって総数三千人弱と連絡が来ていることから兵力的には不利ではあるものの敵の多くは騎馬部隊であり、比較的少数の歩兵がいるとのことから、俺は戦いとなりそうな場所に兵を送っては騎馬突撃の対策としてあちこちに穴を掘らせていた。
さらに、歩兵には容易に拠点を落とせないように足を滑らせたら一瞬だけ動きを止められる程度の低い堀を防衛拠点の前に三つを引いて、防衛拠点として作った高台から弓兵で一気に撃ち殺せるようにした。
そして、防衛拠点と穴や堀などの防衛設備が完成する頃にはすでに深夜になっていた。
防衛拠点は前世で言うところの秀吉の一夜城と古代ローマのカステラを混ぜたようなものになったが戦場の近くと言う割には結構な出来栄えだった。
材料は全て、周辺の森を伐採し簡易加工しただけであったため、少しみすぼらしいがそれがまた、戦場での張り詰めたような空気感を和らいでいた。
俺とともに戦場へと来たエドモンドによって夜には酒が振る舞われ、半ば宴会のように騒ぎまくったが近くに村もなければ都市もなく、また明日死ぬかもしれない者が少なからずいるために俺は兵達の好きなようにさせて、将軍たちと翌日の作戦を考えていた。
「敵は騎馬部隊が主力の強襲軍です。その上でですが、敵は恐らく騎馬突撃して来るでしょう。
いかに、我らが防衛拠点を恐るべき速度で築き上げたとはいえ、耐久性には今だに難があり敵もそこをすぐに見抜くと思われます。」
そう告げながら将軍は地図を指でなぞり、そのまま話を続ける。
「とはいえ、歩兵を全面に出せば、総崩れとなる危険もあることからそうやすやすと出せませんし、敵は立ち往生さえしてしまえば、我が軍を惹きつけることもできる故に盾を破壊される危険性を高めるだけになります。」
現状の状況を簡潔に終え、ある程度の敵の動きを示唆したことで周囲にいる将軍達も考え込んだ。
そうした中で俺は口を開けると一つだけ訂正した。
「敵に、待機はありえない。敵には前進しての略奪か、もしくは撤退しかない。」
そう告げると周囲にいた将軍達が一斉に視線を向けてくる。
視線が向けられるのを感じると俺は、一呼吸を置いてから話の続きを言い始めた。
「敵の主目的は、当初より強襲だ。つまり、多くの荷を持っていないとわかるだけだ。
強襲に荷は邪魔でしかないからな。その上で彼らが待機を選択すれば、補給がない彼らは弱っていく事になる。」
「なるほど。では、アルトス様は敵は攻めてくると?」
「その可能性が高い。だから、今回のこの戦いの肝はいかに敵の騎馬部隊を足止めし、殲滅できるかが鍵であり、強いてはこの戦争の勝敗も決まってしまう。」
ドンッとテーブルを叩き、まるで睨むように真剣に告げる俺に将軍達は覚悟を決める。
そして、詳細を詰めた後、各将軍は自分のテントへと帰っていった。
そんなところへ、エールを持ったエドモンドが現れる。
「勝てそうなのか? アルトス。」
そう言いながらエールを渡してくるのを俺が掴むと軽く応えた
「さぁな。勝敗は時の運という言葉があるように、勝てるかどうかは正直わからない。
だが、負けるつもりはない。」
「そうか。」
二人してエールを飲みながら、月夜を眺めていると俺はふとあることを思いつき、その場でエドモンドへと頼んだ。
「えっ、今からか? そりゃ、できるけど……。」
「頼む。この戦いに勝てば、必要になってくるから。準備だけして置いてほしい。」
頼み込む俺に、エドモンドはまたしても断りきれずに頷いてしまい、俺は即座に近くの兵に馬を取りに行かせるとエドモンドを見送った。
エドモンドを見送った後は、自分のテントに戻りベットへと横たわるとそのまま意識を手放した。
翌日、敵軍が今だ来ていないとのことで、兵達には休息を与えた俺は、一人戦場を見下ろせる山に登っていた。
戦場を見下ろせる山は険しいよりも角度が急であるために登りずらかった。
しかし、なんとか登り切ると自分の中で明日の戦争イメージとを固めた。
明日、人が死ぬ場所を眺めながら俺は、剣を抜くと日頃の訓練を始めた。
朝日に照らされながら剣を振るう。ふと考えてしまえば、込み上げて来るさまざまな感情を押さえつけて、俺はただ勝利のために剣を振るった。
自分が迷えば、部隊が軍が、より多くの人間が犠牲になる。
だからこそ、俺は誰もいないここへきて自分の意識にだけ集中した。
集中し、ただ剣を振るうその姿は一見すれば何をしているのかわからないが、俺は精神を統一し心を落ち着かせていた。
邪念を振り払い、ただ目の前のことに集中する。
そうやって時々、深呼吸し落ち着かせていると––––––––刹那、どこからともなく響くような低い声で“……殺せ!!”と脳内で響く。
その声に、驚き目を見開くと周囲には誰もおらず、聞こえて来るのは小鳥の囀りと、木々の擦れる自然音だけだった。
「今のは、何なんだ……?」
一人、呟く俺は空を見上げるとすでに太陽は地平線へと沈みかけていた。
先程のことで呼吸が荒く、肩で息をしていた俺は引に息を整えると今あった出来事を脳の片隅におきながら、とりあえずそのまま山を降りて自分のテントへと戻った。
翌日––––––––。
早朝早く、敵軍の到着の知らせを受け飛び起きた俺は、早急に身支度を整えると将軍達のいる前線へと向かった。
「状況は?」
そう告げる俺に、将軍達は一斉に一礼をするとその中の一人が話し始めた。
「現在、陣形を展開しているようです。」
短く応える将軍に俺は、「わかった。では始めるか。」と返すと同じように前線へと配置された歩兵の顔を一人一人見てから叫ぶ。
「今!! この一戦に我々の全てが掛かっていると断言してもいい!! 敵は多く、そして強い。だが、彼らには諸君らにある一つのものがない。
それは故郷や愛する者のために戦うと決めた心だ。
敵は、冷酷にもそれらを奪わんとするだろう。今ここで我らが敗北すれば、我々の背後にいる愛する者が彼らの手によってある者は面白半分に殺され、ある者は強姦されるだろう。
それを果たして許していいものだろうか? 否!! 良いわけでがない。
我らには、我らの権利がある!! そしてそれは、誰にも侵されるべきでは無い!!
そうだろう!! 我らが兄弟達よ!!!!」
「「「「「そうだ!!!! そうだ!!!!!! そうだ!!!!!」」」」」
俺の演説で士気を高めた兵達は槍を地面に叩きつけ、足踏みする。
ドンドンと音をならせる歩兵に釣られてその光景は徐々に陣形全体に広がっていく。
そして音は次第に兵達の呼吸や鼓動と重なり合い、空気を、大地を震わせ敵を威嚇する。
準備は整った。さぁ、いつでも来い。
まるでそう告げるように俺は、遙か数百メートル先で陣形を整えた敵軍に睨みながら笑みを浮かべている。
すると、敵軍ももはや後はないかのように、馬を走らせて戦場を駆け抜けてくる。
その光景はまさに勇猛で、士気の高めた兵達にもわずかに動揺が走った。
だが、それを落ち着かせるように俺は剣を空へと掲げると神に向かって告げる。
「我に、勝利を!!」
短くも明快な言葉に兵達は再度、気を引き締める。
刹那、一番前に迫り来ていた騎馬が突如戦場からシュッと消えていく。
それを確認した俺は掲げていた剣を敵に向けると戦場に響く声で叫ぶ。
「撃てええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」
撃てという命令を聞いた弓兵は、まるで水を得た魚のように即座に構えていた矢を放ち始める。
雨のように一斉に降り出す矢に、敵軍は盾を構えてやり過ごそうとするが、それも束の間。
戦場に施していた落とし穴や堀が効果を発揮し、足元がおぼつかない騎馬は次々と射抜かれて死んでしまう。
だが、それでもなんとか乗り越えて、攻めてきた騎馬に俺は一人、前進して迎え撃つ。
剣と剣がバンッとぶつかり合い、火花が散る。
しかし、あまり時間をかけてられなかった俺は、即座に敵の剣を受け流すと距離を取ろうとする敵の背中を狙って二撃目を繰り出し、敵を屠る。
敵の血を顔に浴びながらも一人殺すことに成功した俺が再び剣を掲げると、それを見ていた味方の兵が「おおおおぉぉぉぉぉ」と叫び、士気を高める。
普段であれば、後方にいる貴族や豪族などが一番危険な前線へ出て戦うのは珍しい。
それ故に、俺が誰よりも先に前に出て敵を薙ぎ倒したのは、兵にとってみれば脅威を排除する英雄のように映る。そうなれば後は当然自分もという感じで前へと進む。
英雄というのは味方の兵達から憧れる一方で敵には恐れられることが多い。
そのため、英雄は戦場では特に狙われやすい。
ヒューという風切り音とともに、矢が俺の頬を掠める。
残りわずか数センチほど右にズレていたら俺は命を失っていた。だが、俺はそれを気にもせずに兵達に叫ぶ。
「奴らを地獄へと叩き込んでやれッ!!!!」
その声に呼応するように味方の兵達は盾を構えて、槍を突き出す。
騎兵の突撃を防ぐ陣形を弓のように半月型に突き出すと、俺は後方へと下がった。
そして、同じく前線にて俺を守っていた将軍達に配置につくように告げると、俺は次の策を相手に食らわせるべく、兵を動かした。
突撃してくる騎馬が徐々にいなくなって来ると次第に敵の歩兵が現れる。
動きやすさを追求したからか比較的軽装な防具を纏う歩兵に、俺は矢の雨を降らせ続ける。
敵は凹の字に防衛している俺たちにバカにも正面から突っかかっていては死傷者を重ねていた。
そして、俺が頃合いを見て伝令兵に角笛を吹かせると途端に凹の字の先から回り込むように騎兵が現れ、敵を中へと押し込んでいく。
突然、現れた騎馬部隊に背後からも狙われた敵は一気に前へと逃げるように走り出す。
それを一人高台から眺めながら俺は笑みを浮かべ、一人内心で呟く
勝敗は決したと––––––––。
包囲殲滅。
今回、俺が取ったのはその戦術だった。
とは言え、そう簡単に決まるような戦術ではなく、俺は出来たら程度に考えていた。
当初俺は、山にそうように凹のように防衛陣を引くと、凹の前に三重の小さい堀を置いた。そして、堀と堀の間にはある程度の距離で落とし穴を作っていた。
そのため、騎兵の機動力は大きく下がり、例え戦場を駆け抜けても最後にあるのは急拵えの簡易砦。とても、騎馬だけで攻めることはできなかった。
だが、それでも敵が真正面へと攻めたのは一つは俺が前線にいたから。もう一つは、撤退ができなかったからだった。
撤退できない理由は現状ではわからないが、それでも前進を選んだのは何かしらの理由があったからだろう。
そして、敵は罠とわかっていながらも、攻めるしか手がなく、突っ込み自滅していくように徐々に死者を重ねていた。
そして、それを俺は高台から眺めている。
人が目の前で何人も死んでいるのに、どうしてか俺は冷静だった。
会ったことも話したこともない人が死んでいくのがどうでも良いのかと最初は思ったが最初に俺が屠った敵は、違う。
会ったこともあの時が初めてではあり、話したこともなかったがそれでも厳つい顔をして向かってきた際に、俺はふと心の底から思ってしまった……殺してやると。
戦場の熱に充てられたとでも思ったがそうではなく、俺はどこか自分が自分ではないかのようにあの時動いていたのだと感じた。
まるで、ゲームの向こう側にいるキャラクターを殺すように。
俺は、何も感じずただ殺したのだ。
人を殺すことはいけないことという理性はどこへやら、俺はこの手を血で汚した罪人。
とえいえあの時、この手を血で染めなければ救えなかった命もある。
そう自分に言い聞かせて、戦場に屯する敵兵と味方の兵を静かに眺めた。
戦闘が始まってから三時間。
すでに、敵の大部分が亡くなったことで戦いは終了した。
三千もいた敵は二千七百人の死者と三百人の重軽傷者を出して降伏した。
武器を捨て「命だけは」と慈悲を求めるその哀れな姿に俺は、前世の捕虜の待遇について思い出す。
そして数秒考えた後、捉えた捕虜たちを見て俺は誰にでも聞こえる声で告げる。
「武器を取り上げ、彼らに食料と寝床を用意せよ。無用な殺傷は不要である。」
その判断に隣にいた将軍は異議を唱えたが、即座に俺が言葉を返すように言い放つ。
「我々は、獣ではなく文明人だ。獣であるならば、弱った獲物を殺すかもしれないが我々は違う。例え殺し合った敵であっても慈悲を見せる。それが我々、人類だ。」
そう言うと、兵や将軍、捕虜さえも驚きのあまり思考停止状態になるが即座に俺が「何をやっている! 急げ!!」と言ったことで、慌てて兵達が動き出した。
そうして、捕虜達から武器を取り上げ、食料と水を与えると一人一人を縄で縛り拘束した。
それでも捕虜達は食料と水を得られると知って笑みを浮かべていた。
昨日の敵は今日の友。
そう言うように俺は、敵を捕虜として迎え入れた。
敵を殺せと戦場で叫んでいた俺が今度はその敵を救う。まさに、矛盾した動きに俺は自分というものがなんなのかわからなくなっていた。
読んでくださってありがとうございます!! ( ^ω^ )V
広告の下にある星をタッチすると私を応援できるのでよろしくお願いします!!
また、少しでもこの物語を『面白い』、『続きが気になる』と思っていただけたら、
レビューや感想等の方もお願いします!!
( ✌︎'ω')✌︎<オネシャス!




