#024 『 宣戦布告 』
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樹精紀 八百二十一年 六月中旬
アルトス領、最東のレクサム地方にて––––––––––––––––
「全軍、進め––––––––!!!」
「「「おおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」」」
ガシャガシャと鎧を鳴らしながら鈍重な攻城兵器たる攻城塔を運ぶ敵軍の姿に城壁にいたアルトス領の防衛指揮官ことエクトルが自軍の兵士を鼓舞するために叫ぶ。
「総員、敵は愚かにも我れらが領土に踏み込んで来た。
敵は、我らを殺し愛する者や富を奪うために来た。そんな愚かで賤しい奴らを地獄に送ってやれ!!!」
「「「「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」
エクトルの声に釣られて兵士たちの士気が上がり、接近してきた敵の兵力を次々と城壁の上にいる弓兵たちが射抜いていく。
だが、敵もただやられる訳にもいかず、下から敵軍の弓兵たちが城壁に登ろうとしている自軍を援護するように援護射撃を行う。
互いに牽制しながらも着々と両軍ともに死傷者を重ねる中、戦場はまるで燃え盛る炎のように徐々に白熱し、兵たちを侵食しだす。
戦争の生み出す熱に両軍の兵たちはあてられてしまい次第に熱狂的になる。
そんな、異常とも見える状態の中でエクトルは一人城壁の上から冷静に戦場を見下ろし敵軍を分析していた。
ことは、数日前に遡る––––––––。
マーシア軍の進軍の知らせを聞いたアルトスは即座に五百の兵と共にエクトルをアルトス領の最東部に位置する都市レクサムに派遣した。
レクサム地方には都市民として二千三百人、領民として九千三百六十人の総勢一万人越えの人口がおり、アルトス領の中でも都市モルドのあるシール・フリント地方と都市ルシンのあるシール・デンビー地方と同じくらいの小麦の生産量を誇る領内の食糧生産地だった。
そんな、レクサム地方は平らな地形が続くために内陸からは攻めやすく、また食糧生産地ということもあり、侵攻軍は食料の心配を気にする事なく前へと進むことができる。
このような点から、マーシア軍はここまで早急に侵攻することができた。
食料の心配をしなくても良いのであれば兵たちは最低限の武器、防具をまとって進ませればいい。足りない物資は後から十分に補うことができる。
そう考えての進軍に俺はレクサムに配置していた一千人の兵たちに籠城戦の準備をするよう厳命した。
一方で、都市レクサムと近い都市ルシンと都市モルドには、状況によって援軍を派遣し国境線を死守することのほかに可能であれば籠城側と協力して敵勢力の殲滅を言い渡した。
そして、国境線の防衛指揮官として長らくこの地を治めてきた実績を持ち、戦力としても申し分のない戦闘経験も豊富なエクトルに任せた。
そんな中で領主たる俺は本城のホーリー城からコンウィ城へと移り、コンウィ城を拠点として戦争を指揮した。
その際に領民に対しては兵への志願を求め、こちらの戦力を補った。
マーシア王国軍の戦力はおよそ八千人。内訳としてはおよそ七割方が傭兵。残り三割が貴族と豪族の私兵というごちゃ混ぜ軍だった。
対して、我がアルトス領の戦力はホーリーヘッドのあるアングルシー島の兵力を除いて、正規兵五千人、募集兵二千七百人が限度の軍。
こうして見ると戦力はこちらが多少不利ではあるが、問題はそこではなく戦争の主導権を握られているということだった。
古くから言われる戦争や戦いの法則に「攻撃三倍の法則」がある。
意味は侵略側は常に防衛側の三倍の戦力を有しないと防衛側を破ることはできない。というものであるが、実は防衛側にもデメリットがある。
それは侵略側は戦闘の場所を決めることができるということである。
つまり、防衛側は有利ではあるがいつ、どこから敵が迫ってくるかわからないために下手に軍を動かすことができず、常に受け身となってしまう。
そうなれば、戦争の主導権を握られることとなりジリ貧となる。
そして、それは今回のこのマーシアの侵攻にも言えることであった。
他よりも豊富な食料がある我が領では、マーシアは食料の補給を現地で調達することで今回の侵攻の速さを実現させた。これによって我々は後手へと回され、戦争の主導権を握られていた。
当初、俺の作戦はレクサム、ルシン、モルドの三都市を盾として扱い、敵軍を領内の深くに侵攻させずに引きつけることで浮いた戦力を使って逆に侵攻。食料や近隣の村々を破壊して進むことで敵軍を撤退させることを考えていた。
だが、レクサムで戦闘が始まると問題が起こり始めた。
レクサムには敵軍の主戦力と思われる五千人はいるものの残りの三千人がどこにいるのかわからないでいたのだ。
エクトルの話では、三千人は後方に配置し五千人でレクサムを陥落。その後、後方においた三千人と入れ替える形で戦力を補給して、モルドまたはルシンへと侵攻し、盾を破るのではないか、というものだったが俺の中でそれは無いと考えていた。
なぜなら、モルドとルシンはなぜそんなに近くに建てたと言えるくらいに近く、例えレクサムを攻略しても、次をモルドなりルシンなりを攻めるとした場合には即座にもう一方の都市から軍が出て挟み撃ちにあう危険性があるからだ。
逆に、それらの危険性を犯すのであればわざわざ予備兵力を作って戦力を分散するよりも一箇所に固めてからレクサム、モルド、ルシンを順番に攻略すれば早いし、効率的だ。
それにも拘らず、戦力を分散したのは遊撃の可能性あることを意味しているのだと思った。
故に俺は二千五百人の兵力を残して、コンウィ城にこもると敵の残りの三千人を探すべく、偵察を放った。
アルトス領は北と西は海に囲まれ、陸続きなのは東と南側だけだ。
中でも東側は比較的農地に適した土地が広がっているために大軍が押し寄せることは可能だが、そこには盾と呼ばれる三都市がある。故に、防御においては問題はない。
また、南側は山に阻まれており、天然の要塞になっているために攻めることは不可能ではないが骨が折れる。また、南側には大軍を移動できるほどの幅広い道がない為に戦力がどうしても分散してしまうというデメリットもある。
そうしたことから俺は敵軍は戦力を分散することで南側から侵攻してくるのではないかと考えた。
そもそも天然の要塞と言葉はいいが要は山や谷、森がただ生い茂っているだけの自然だ。
人が訪れることもなければ、人と出会うことも珍しい。そんな場所は戦争において自軍の行軍を隠すための絶好の隠れ蓑になる。
そのため俺は一人南側からの進軍を警戒していた。
東側の侵攻軍にエクトルを推したのはその理由があるためだ。
エクトルを控えさせていると相手に知られれば、敵は戦術を変えてくる可能性がある。
そうなればアルトス領の盾は意味を成すことなく破られ、侵略に会う。
だからこそ、エクトルを全面に出すことで敵の注意を引きつける一方で、あわよくばエクトルの指揮の下、殲滅を狙う。
そして、後方にて待機していた俺が率いる軍で敵に逆侵攻し荒らし回り、敵は手痛い反撃をくらう事になる。そして、主に我が軍有利なままの状態でマーシアは両軍痛みわけとして講和を結ぼうといってくるはず。
だが、事態は思うように動いてくれるわけではなかった。
「アルトス様、偵察兵からの伝令です。」
そう告げながら、コンウィ城の作戦室へと雪崩れ込む兵士に俺は短く「伝えよ。」と応える。
「ハッ、“我、敵影視認。総数一千以上と予想。現在、スノードン山を目指し、北上中”とのことです。」
頭を垂れ、正確に伝える伝令兵に俺はしばし考え込んだ。
スノードン山はカーナヴォン城の近くにある山ということは敵の遊撃軍はカーナヴォン城を落とし、メナイ海峡を塞ぐことのように見えるが、海上戦力を投入していない現在では完全なる封鎖は不可能。
となれば、これは陽動という線もある。だが、陽動であっても未だ堅牢な盾を破るにはまだ時間がかかるはず。
であれば、何が目的なのか––––––––。
思考を張り巡らせながら考え込む俺に、将軍の一人が告げる。
「アルトス様、これは好機です。敵は南部の山を越えての長距離を移動しています。恐らくですが、だいぶ疲弊しているはずです。そこへ、我が軍が攻めれば、一気にかたが着くかと。」
「なるほどな。一理ある。だが、敵は森の中。どのように戦うつもりだ? 我が軍は森での戦闘などできんぞ。」
「恐れながらスノードニア森林には、一箇所だけ拓けた場所があります。ここブラティニオグです。元は小規模な村があったそうですが、あまりの不便さに現在はありません。故に領民を傷つけることなく、戦えます。」
そう告げながら作戦室のテーブルに広げた地図を指でなぞる様に指し示す。
地図を見るとここから僅か二十六マイルつまり、メートル法では四十二キロの距離。
「そうだな。よし、全軍に通達。これよりブラティニオグへと向かう。」
「「「ハッ、仰せのままに!!」」」
早急に軍を整え、コンウィ城を出ると俺は南部四十二キロ先にある戦場に思いを馳せた。
ついに、自分の手で人を殺し人を死なせる事になる戦場に。
◇・◇・◇
一方、アルトスがコンウィ城にて待機し、作戦を練っている頃。
ルシンにて兵の指揮を任されていたバルド侯とジェイコブは指揮を下士官に任せながら幾度となく送られて来るレクサムからの援軍要請を無視し、自分達はワインを片手に城に篭っていた。
そんな時、突如城の内部に現れたマーシアからの密偵が彼らの元にたどり着くと、顔を隠しながらバルドとジェイコブの両方に頭を下げる。
「お初にお目に掛かります、バルド侯そしてジェイコブ殿。私はマーシア王グライオニル陛下より使わされました暗殺者でございます。
ですが、どうぞご安心を。私は貴公達を殺しにきたのではありません。
むしろ、我が陛下は誇り高き貴公たちを是が非にも配下に加わって欲しいとのこと。
故に、私めがこうして貴殿達の説得にきた次第でございます。」
闇のような黒いローブを纏い、白い仮面を付けた不気味な暗殺者がそう告げる。
突如現れた暗殺者を前に剣を抜いて構えていたバルド侯やジャイコブは数秒の後、何もしてこないことを確認すると安心したかのように暗殺者を迎え入れ、話し始めた。
「我らを配下にとご所望ではあるが我らには我らの誇りがございます。暗殺者殿、そう簡単に主君を裏切れまい。」
白髪混じりの顎髭を撫でながら告げるバルド侯に隣にいたジャイコブは下卑た笑みを受けべながら賛同する。
だが、すでに暗殺者を歓迎している時点でバルド侯とジャイコブは寝返るのもやぶさかではないという考えを持っていた。
「当然、貴殿たちならそう言うと思いまして、我が陛下も十分な褒美を用意しています。
バルド侯には、現在治めているルシン地方の他にレクサム、シール・フロント、コンウィを、ジェイコブ殿にはアングルシー島とグウィネズ地方を治めていただきたく存じます。」
「なるほどな。確かに褒美としては申し分ない。して、何をすれば宜しいと?」
想像以上の対価にバルド侯は食い入るように暗殺者に告げる。
「何、簡単なことです。軍をレクサムに出して欲しいのです。」
「レクサムにだと?」
驚くバルド侯をよそに暗殺者は続ける。
「ええ、レクサムに援軍と称して進軍して欲しいのです。そして……」
「中から開けろと。ガハハハ、こりゃいいな!! さすがはマーシアだ。我が臆病な主君とは天と地ほど違う!! いいでしょう、いいでしょう!! 夜明けとともに軍を出し、レクサムへと侵攻しましょうぞ。」
手を叩き、陽気に笑うバルド侯に合わせるようにジャイコブも笑い出す。お酒も入り陽気に応えるバルド侯をみて暗殺者は、一人席を立つ。
「では、そのように。」
そう告げるながら暗殺者は頭を下げると任務を完了したように近くにあった窓から飛び降りた。
その光景にバルド侯とジェイコブが驚いて窓に近づくとその姿はすでに夜の闇に消えていた。
まさに、暗殺者らしい出現と消失にバルド侯とジェイコブは目を輝かせる。
その後、部屋に残ったバルド侯とジェイコブの二人は酒を飲み干すと下士官の伝令兵にレクサムへの援軍を受けると短く告げてから明朝早くに出発できるように全軍へと命令した。
そして、バルド侯はエクトルに対するライバル心を燃やしながら寝についた。
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