#023 『 戦端 』
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今日は、2話更新!!
シェフィールド商会の二代目であるエドモンドを通じて半ば強引に戦費を確保した俺は、帰ってそうそうに戦争準備によって新たに発生した羊皮紙の束を精算すべく、政務室に籠ろうと考えた。
しかし、政務室の扉を開けるとそこにはワインボトルを片手にヘラヘラと笑っているマーリンとそれに付き合わされているオリヴィアがすでにおり、オリヴィアは整然と座り、マーリンはまるで自室のようにソファーに寝転がっていた。
「えーと、どういうことでしょうか?」
作り笑いをしながら、オリヴィアに尋ねるとオリヴィアは一刻程前の出来事を話し始めた。
「実はエクトル卿に政務は資料を読むだけではわからないからとここへきて間近で学び、何かと忙しいアルトスを手伝ってくれと……頼まれまして。」
「えへへ、僕っちもそうだね〜。エクトルの野郎にアルトスを手伝え〜って。」
「な、なるほど。大体は理解したよ。それよりも、マーリンって一人称“僕”だったか?」
「本当はそうなんだけどね〜。威厳とか、見た目とか、色々あるからね。使い分けをしているだけさ。」
マーリンの言葉を軽く受け止め、俺はマーリンとオリヴィアの後ろにある政務用の豪華な椅子に腰掛けると羊皮紙の束から一枚をとり政務を始めた。
政務を始めて数分、政務室はなんとも気まずい雰囲気になった。
ことの発端は俺が政務を始めて数十秒の時にオリヴィアから手伝いたいという願いを受けたことにはじまる。
まず、オリヴィアにはエクトルから“学んでこい”と言われたように俺は一部の比較的重要性の低いものを抜粋し手渡した。
そして、オリヴィア自身も姫ということもあり、政務のやり方等の最低限はできていたことを確認した俺はこれなら安心して任せられると判断し任せた。
それから数分後の現在。
俺の手の中にはオリヴィアが追加したであろう注意書きや司令の変更、請求書の一部改ざんなどがあった。
それを見て、俺はまるで教科書に落書きをした中高生を怒るようにオリヴィアに尋ねた。
「姫様、どうしていろいろと変更されているのか、説明してくれますか?」
額に筋を張りながら尋ねる俺にオリヴィアは視線を逸らすとまるで萎縮した子供のようにペラペラと応え始めた。
「そ、それは、訂正……そう、訂正です!! 何も間違ってなど……。」
怒りに震える俺を見て、オリヴィアは怯え始めた。
「世界のどこに、孤児院の寄付として3ポンドも使いますか!! それだけの寄付があるなら孤児院の子供達は質素な生活を送っていませんよ!!
それにです。これはなんですか? なぜ、税金が必要以上に下げているんですか? それに全く、どこから持ってきたんですかこの真新しい羊皮紙とそこに書かれた下げた税金分の差額を計算して納税者へと返済する指令書などは!!」
「私は、正しいことをしたまでです!! 税金が高すぎるという民の声を市場できき、こうして下げているのです!! それのどこが間違っているのですか!!」
姫の反論を聞いて、俺ははぁ〜と一際大きいため息を吐くと俺は少し考えた。
オリヴィアはよくも悪くも理想を追い求める節がある。
それ自体は正しく、どこも間違っていない。だが、現実は理想とは異なる。
理想論はどこまで行こうと理想論だ。
例えば、税を少なくすればするほど民の負担はその分、軽くはなる。
だが、それによって国や行政は維持できるのかと言われれば、不可能だ。
税が少なくなれば、その分だけ士官や文官たちの給料が下がり、やる気をなくす事になる。
そうなれば統治も危ぶまれるばかりか、もしもの時に頼れる場所がなくなる。
それでは、本末転倒だ。
支配者は、民から税を取る一方で民は支配者に保護される。これはそういう関係なのにも関わらず、目の前にいる姫様はそうは思っていないように感じる。
民を守るのは支配者として義務であり、そこに対価を求めてはいけないと平然と言い放つ姫様の理想論主義は時に現実を見失う事になる。
「いいですか。オリヴィア姫、我が領の税金が高いというのはごく一部の商人たちであり、我が領の民の多くは他の領の民と比べても民への負担は非常に低いものになっています。
故に、税は下げるべきではありません。下手に下げると統治が危ぶまれるのでやめてください。
そして、どこから持ってきたんですか? この真新しい羊皮紙は。」
「税金のことは、わかりました。それはマーリンに頼んで……。」
隣を見るとそこには空になったワインボトルを片手に一人でお楽しみ中のマーリンがニヤニヤと笑いながらソファーに横たわっていた。
「弁解を聞こうか。」
優しい笑みを浮かべながらも目だけは真剣にマーリンを睨むと短く告げる。
「僕っちは頼まれたことをやっただけ。ほら、こうやって。」
そう言いながら平然と政務室内で魔法を使って俺のいた政務用の机の下のタンスにあった新しい羊皮紙の置き場からそっと一枚取り出した。
それを見た俺は脳内で何かがブチッと切れるとそのまま、マーリンとオリヴィアを政務室から追い出し、立ち入り禁止を告げた。
◇・◇・◇
翌日––––––––。
朝食を持ってきたメイドが政務室のソファーで寝落ちしている俺を起こしてくれると俺は軽く礼を告げた。
そして、そのまま上体を起こすと徹夜してやっとのことで精査し終えた羊皮紙の山を整理し始めた。
羊皮紙の束をまとめ終え、控えていたメイドに説明しながら誰に届けるのかを簡潔に告げるとそのまま部屋を後にさせた。
その後、一人政務室に残った俺はメイドの持ってきた朝食のサンドイッチを頬張りながら今までのことを思い出す。
かれこれすでに二ヶ月くらい政務と公務の両方を行っている中で俺は自分の時間といえば日頃の訓練時間と食後の本の数十分程度の短い休息しかなかった。
そうした中で、得られた成果というのは微々たるもの。
財政はロタールの手腕もあり一時、好転化するものの俺の無茶振りですぐに火の車状態になってしまう。そのため、これと言った解決にはならず、常に黒字と赤字を行き来していた。
軍事力的にも目まぐるしい変化はなく、唯一あったのは俺の指令で新たに作らせた統一武器、防具だけだった。
それまでも防具や武器というのはあったが軍としてある程度の統一しかなくパッと見、上官なのか下官なのかわかりずらいのがあった。
そこで俺は陸軍と海軍の両者に新たに軍の武具を整備し、統一感を持たせた。
また、上官にはそれ相応の武具をその都度、進呈し外見だけで上官であることを理解できるようにした。
また、領内の経済は一早い食糧難からの脱出によって隣接する領からの食料買い付けによる食糧特需のおかげもあり、上昇傾向ではあるものの商人同士の中抜きが酷い。
加えて、若い領主の就任による不信感からか、領内に住む一部の豪族は何かと理由を付けては税を支払わなかったり、収入を必要以上に詐称したりして税逃れを整然と行なっていた。
当初、俺はこういう反乱分子や不穏分子を削ぎ落とそうと考えたが、彼らの多くは地方の担当官と癒着していることもあり、文官や担当官などの行政官が依然として足りない今に、削ぎ落とせば困るということで、とりあえずは見放していた。
また、俺自身も悪いもので、こうした反乱分子や不穏分子はもっと太らせてから一度に一網打尽にすることで利益を得ることを考えていたこともあり、積極的に太らせていた。
そこに現れた戦争の気配に俺は頭を抱えた。前世で戦争といえば、いつも先の大戦を思い出す。
そこでわかるのはどうして戦争が起こり、人々がその道を選んだのか。
そして、その犠牲者の数とどうすれば戦争を防げるかぐらいだった。
本当の意味での戦争を知らない世代だった俺からすれば、どうも実感が持てないことだらけだった。
それなのにも関わらず、転生を果たしてから俺は恐らく戦争を始めて知ることになる。
人々が殺し合う戦場を俺はどう見るのだろうか。
悲劇として見るのだろうか。それとも仕方なかったとして、受け止めるのだろうか。
そういうことを考えていると政務室の扉がそっと開き、中を覗き込むようにヒョイっと顔を覗かせる人物がいた。
顔をあげ、覗き込む人物に視線を送ると当の本人は見られまいとすぐさま覗き込むのをやめて扉を閉める。
まるで、怒られた直後の子供のようにどうすればいいのかわからず、そのままウジウジとする感じに俺はなんとなく誰であるかを察すると、ソファーから起きて政務室の扉を開く。
すると、扉の向こう側には驚きのあまりに腰を抜かしたオリヴィアが若干涙目になりながらも座り込んでいた。
「どうしました? 姫様。」
優しく告げる俺にオリヴィアはもう怒っていないと判断すると、パァッと顔を明るい表情に切り替えて、応え始めた。
「き、昨日のことを謝罪にきました。」
「左様ですか。ですが、もう大丈夫ですよ。私も私でどうにも言い過ぎていたので。」
そう言いながら手を差し伸べる俺に、オリヴィアは「ありがとうございます。」と礼を言いながら俺の手を掴むと、そのまま立ち上がると政務室へと入った。
二人して、手をつなぎながら政務室へ入った
その光景を廊下側からひっそりと観察するように見ていたエクトルとマーリン、そしてケイの三人は静かにその場を後にした。
政務室に入った俺とオリヴィアは互いが向かい合うように腰を下ろす。
すると、気まずくなったのかオリヴィアの方から途端に戦争のことについて尋ねてきた。
「アルトス卿……此度の戦争をどうするのでしょうか。」
オリヴィアの質問に俺は少しの間考えた。
隣国のマーシアとの戦争可能性については密偵や商人の小話として聞いてはいたものの、心配させまいとオリヴィアには直々に伝えてはいなかった。
とはいえ、昨日の政務仕事において一部、任せていた時にふと彼女自身が覗き見したと考えると下手に隠すことはできないと思った。
そこで俺はワインを一口飲むとはっきりとオリヴィアの目をみて告げた。
「どうもしません。降りかかる火の粉を払うだけです。それ以上に何かありますでしょうか?」
包み隠さず告げる俺にオリヴィアは一瞬困惑したが、即座に重ねるように尋ねた。
「そういうわけではありません。どのように戦争をするのかを知りたいのです!!」
「それまた、どうしてでございましょう?」
「私は、姫として生まれました。それはつまり、いつの日か自分で軍を従えて、戦争をするということです。
ですから、戦争が起こる以上、私は学びたいのです。
誰かを傷つける戦いではなく、誰かを守る戦いをするために。
アルトス卿も恐らく、同じ気持ちだと思います。だから、私はアルトス卿から直接聞きたいのです!! どうのようにこの戦争を導くのかを……。」
真っ直ぐと見つめるオリヴィアに俺は「わかりました」と告げると政務用に使う机から一つの地図を手に取り、オリヴィアに見せる。
そこには敵が行軍してくるであろう進路や自軍の補給または援助のための行軍進路を詳細に記していた。
「これを見てください。これが今現在の我が領内の防衛時に置ける基本マニュアルです。」
「まにゅある?」
聞き覚えのない単語に一人、キョトンとするオリヴィアに俺は軽く説明しながら話を続けた。
「まあ、指針とでも言いましょうか。つまり、敵がこう動いたらこう動いてくれという予め定めた軍事行動です。」
「なるほど、それでどうするのでしょうか?」
「まず、これは東側つまり陸から攻めて来られた際のものですが……。」
こうして、俺がオリヴィアに丁寧に今回の戦争について説明しているといつの間にかよも更けていった。
そして、その夜。
軍備の整ったマーシア王国は募集した大量の傭兵と傘下に加わった貴族の私兵を集めて編成した総勢八千人の大軍を引き連れて、中立を宣言し未だどこにも所属していなかったアルトス領へと侵攻を開始した。
こうして、アルトス率いるアルトス領軍と新興国マーシア王国の軍勢が戦う戦争の戦端が切って落とされた。
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