#022 『 迫り来る戦火 』
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今日は2話更新!!
マーリンによる領主館の破壊によって自室を失った俺は政務室で一人寝ては毎日のように運び込まれる羊皮紙の報告書と対峙していた。
先日の熊との戦闘による怪我もすでに癒え、完全復活を遂げた俺は午前中にほぼ全ての書類仕事を終わらせた後、一時間くらいの昼食兼休憩を挟んで午後からはエクトル、ケイ、マーリンの三人による稽古が新たに設けられた。
エクトルによる一撃必殺の剣を受け流しながら、ヒットアンドアウェイのケイの攻撃を躱すのは非常に骨の折れる訓練ではあるものの日々成長していて楽しくさえ思た。
一方でマーリンからは前世ではなかった魔法について多くのことを教わった。
まず、この世界でいう魔法というのは前世の四大元素こと“火、水、土、風”に特殊二属性と呼ばれる“光、闇”を加えた六大元素と言う形で発展していることがわかった。
この六大元素はこの世界中のあらゆる場所に溢れているとされており種族に関係なく、呼吸するだけで魔法の源たる魔素を体内に含んでいるとされている。
そうした中で唯一、人類種と言うのはその魔素を体内に貯めることは出来ても放つことなどできないために魔法を使えないとされている。
しかし、他種族は容易に魔法を使うことが可能であるために魔法を使った文明国家を発展させ魔法立国を起こした。また、世界には人類のように種族立国と呼ばれる形で成した国があるとされている。
「故に、アルトスがアルビオンを統一すれば、人類国家初の統一がなされ、名実ともに種族立国ができるという訳。」
マーリンの一時間に渡る授業を聞き、俺はメモ用のペンを置くと小さめの声で尋ねた。
「マーリン、この世界に“科学”はないのか?」
「かーく?」
何を聞かれたのかわからなかったマーリンはキョトンと頭を傾げる。
それを見て半ば質問の答えを悟った上で、諦め気味に俺は科学の概要について話した。
「なるほど! 物事の起こる原因を観察し解明するかがく、ですか。
うーん、無いとは言えないがほぼ無いに等しい、としか応えられないかな。」
「それは、どう言うことだ?」
「かがくが、物事の起こる原因を観察し解明するのであれば、物事に関しては確かに効果を発揮すると思う。でも、魔法そのものを説明することは難しい、だからかがくというものはほぼ無いよ。
とはいえ、完全にない訳ではない。例えば、鍛冶屋の娘さんがお父さんの後ろ姿を見て鍛治の仕事を覚えたりするのはよくあるから、恐らく体系化出来ていないのではないかと思うけど……。」
いつもの雰囲気とはだいぶ違うマーリンに苦笑しつつも俺は一人考えた。
魔法––––––––と言う未知の脅威を科学的に説明できれば、人類は魔法を必要以上に恐れる必要はなくなる。
そうなれば他種族と出会った際に絶滅戦争をせずに済むし、むしろ、それを逆手に経済的に協力できるかも知れない。
ただ、問題はどのように魔法という未知を科学というメスで既知に変えるかと言うところだ。
前世の世界では教会の権力が強かった時代において科学は魔法の一種として恐れられていた。
ん? 待てよ。科学が魔法の一種としてされていた時代があれば、その逆もあり得るのではないか?
魔法を科学的に解明するのではなく、魔法を科学で再現する。それができれば、魔法を解明したと言えるのではないか?
となれば、模倣する魔法はシンプルでそれでいて迫力のあるものでないといけない。
そうでなければ学問の無い人々が納得できない。
そもそも中世前期から中世全盛期のヨーロッパ的価値観が広がるこの世界において、学問は王侯貴族の特権であり教育は絶対的なステータスだ。
となれば、学のない人々がこの世の中には大勢いる。
そうした人々の手を借りることができれば科学は発展する。
「なぁ、マーリン。簡単なもので魔法はどのようなものがある?」
「そうね。魔法の種類は星の数こそあるけど、一番最初に教えられるのは魔法の放出ね。」
そう告げてマーリンは指を鳴らすと、指先から一センチくらいのところにまるでライターのように火がつく。
「このように魔法を扱える種族は魔法の放出を習ってから、自身の特性を探し、習得していくことになる。」
うっすらとある胸をここぞとばかりに自慢げに突き出す。
なるほど、火はライターのような感じで出すのか。
まるでゲームのような物だな。
うん? ってことは、あれができるのではないか?
いや、待て。あれの作り方なぞ…………知ってたわ。
前世の日本では違法だから実際に造った経験こそないが、作り方は単純だし、下手をすれば中学くらいの理科で習う内容だ。
恐らく造ることが出来る。問題は材料の確保と実験場の確保、それと信頼のおける人材だな。
下手をすればこの世界の文明水準を大きく上げてしまうが他種族には魔法というチートがある以上こちらもチートを使わなければ勝てない。
笑みを浮かべながらそう考えると俺はまるで天狗にまでなった感じで誇らしげに胸を張るマーリンを他所に部屋を後にした。
後日、勝手に抜けたことを怒られたが魔法を褒めると即座に機嫌を直した。
その時が初めてだったかも知れない。俺がマーリンをちょろい奴と認識したのは。
◇・◇・◇
後日、なんとか材料を集めた俺はまたもや実験場を造るべく視察へと向かっていた。
とは言え、実験場は基本的に平らなグランドが大きく広がり、一部頑丈に石で作らせていた。
地下も二階まであるが薄暗く、下に行くにつれて冷たく湿っており酸素も少ないために殆ど保管庫としてしか使えなかった。
そんな新たな実験場作りには膨大なお金がかかり、再度、財政担当のロタールから幾度か小言を言われた。
とりあえず、俺はそのまま実験場作りを大工や石工に行わせたが敷地の広さもさることながら警備網も必要であるとのことで実験場は簡易砦に囲まれてた大規模実験施設になり、建設には凡そ一年半と莫大な資金が必要とされた。
そのことをロタールに告げると、ロタールはその場で倒れてしまい三日間も寝込んでしまった。
そして、何もかも順調に進んでいると思った矢先だった。
俺はある問題にぶつかることになる。
「アルトス様、これを。」
そう告げられ、久々に帰宅した領主館にメイドから報告書を受け取った。
その報告書には、王国は完全に瓦解したことと戦乱が一応の落ち着きを取り戻したことが記されていた。
王都の陥落以降、各地で不満不平を溜め込んでいた一部の貴族や豪族たちは、こぞって王国に反旗を翻し、あちこちで王を名乗る様になった。
だが、それらが戦で討伐されたり、処刑されたり、暗殺されたりして、数を減らしていき、現代では三つの王国が誕生していた。
一つは旧イングランド王国の南部北方を支配するヨークシャー王国。
もう一つは、旧イングランド王国の南部中腹を支配するマーシア王国。
最後の一つは、旧イングランド王国の最南部から東の海岸線に沿って支配するアルビオン王国の三王国と従来あったグリムの壁より北側にある北部と呼ばれる場所にあるストラスクライド王国。
アルビオン島の隣にあるエール島の南部および大部分を占めるエリン王国、そしてその北部を支配するエルニア王国。
が合わさって六つの王国が存在していた。
そんな状態の中で唯一中立を守りきったのはエクトル領だけだった。
その理由もエクトルが睨みを効かせていたことの他に、そもそも戦火に参加しなかったことが大きかった。
戦火に参加していれば、すぐにでも敵軍に責められたが内政を行い、地盤を固めていたことが幸いし、他領からは臆病者や弱者として見られることで攻められることはなかった。
とはいえ、戦乱がある程度の落ち着きを取り戻し、王国の玉座をめぐって争うことになると話は変わってくる。
王国の玉座を得るには王を名乗る者たちを皆、処刑して唯一の王であることを証明しなければならない。
故に、これから先、王国の運命はより血みどろになることが予想された。
そして、今回の報告にも最後の方に陸続きの東側にあるマーシアが武器を集めているとの情報があった。
恐らく、マーシアの目的は食糧難の回復と俺は予想している。
なぜなら、我がアルトス領の食糧生産は徐々に回復し食料問題もある程度緩和していることが原因だ。
これも全てマーリンを仲間に迎えたことで新たに増えたグレイシー島とその食糧庫を開放したことで得られた備蓄のおかげであるためにすぎない。
しかし、マーシアからは関係ない。
食料がなければ奪えばいい。そういう単略的な考えから恐らく、マーシアは我が領に目を付けたのだろう。
であれば、戦は避けられない。
そういう結論に辿り着くと俺はフィンの代わりとして雇ったフィンの娘こと、ベディヴィア・マックールに戦争の準備を行うように告げる司令書を持たせるとそのまま、カーナヴォンへと送った。
また、領内の財政担当官であるロタールにも戦争の可能性を受け、装備品の買い出しや戦争時の食費などを含めた戦費の調達を任せようとしたら、ロタールは俺に対して怒りの鬼気迫る表情で「幾ら何でも、お金がありません!!」と逆に怒られてしまった。
そこで俺は戦費調達のために仲の良いかったシェフィールド商会の二代目であるエドモンドシェフィールドのいる屋敷に向かい、頼み込んだ。
「と言う訳で、戦費の確保を助けて欲しい。」
そう頼み込む俺にエドモンドは苦笑しながらも考え始めた。
「うーん。どうかなぁ? 生産性の取れる事業であったら貸せるかもだけど、今回は戦争のための費用だろう? 流石に、厳しいというか……。」
どうにもはっきりしないエドモンドに俺は内心笑みを浮かべた。
エドモンドは昔からとは言え数年前に知りあった中ではあるがその時からすでに、頼めばなかなか断れないと言う性格をしていた。
とはいえ、エドモンドは父親とは違って騙されやすい訳ではなく、非常に優しいのでゴリゴリと頼み込めば、必ずやってくれる。
ただ、俺自身そのような方法はあまり好きではない上に、エドモンドにも悪いと思っている節があるのでゴリゴリと頼み込んだ後にヒョイっと餌を投げると言う方法をとっていた。
そして今回もそのように、餌として用意したものをそれとなく告げた。
「そうか、それは仕方ない。今回、貸してもらえたら俺は“銀行”をシェフィールド商会に任せようと思ったのだがなぁ。仕方ない。仕方ない。」
「うん!? ぎんこう? まっ待ってくれ!! 銀行ってなんだ!? なぁ!! アルトス!!!」
「おや、エドモンド君は銀行をご存知でない?」
まるで商売心を煽るように告げる俺にエドモンドは顔を縦にふり、説明を求めた。
だが、俺は焦らすように「どうしようかなぁ〜」と言っていると、エドモンドが痺れを切らして大きな声で告げた。
「わかったよ!! 戦費を確保すればいいんだろッ!! それでいくらなんだ、戦費ってのは?」
ヒョイっと懐から出した羊皮紙にエドモンドの顔面がみるみるうちに青ざめていった。
「アルトス、この額は無理だよ!! 元王国の予算並みにあるんだぞ!! 無理だ!!」
そう告げて、羊皮紙を返すエドモンドに俺は肩掴むと明後日の方向を向かせて、悪魔のようにささやく。
「いいかい、エドモンド君。君のこの苦労はね、将来の成功のためにあるんだよ。
つまりね、この戦費を確保してくれないと君も僕もどうなるかわからない。
そこんとこ、わかるかい?
でも、もし確保してくれたら……。銀行の件は君の一族に任せようと思うんだ。」
「だから……なんだよ、銀行ってさっきから……。」
ふてくされるように告げるエドモンドに俺は銀行とはなんたるかを説明した。
「うん、そうだよね。銀行を知らないとやる気が出ないよね。よし、そんなエドモンド君のために簡単に説明してやろう。
銀行というのはね。一言で言えば、みんながお金を預けてくれる場所であり、誰でもお金の貸し借りを行える場所なの。
つまり、他人のお金を受け取って代わりに運用してお金をさらに他人に貸しては利子を得る。
得た利子の一部はお金を預けた人に還元してやるの。
そうすれば、人々は楽にお金を増やそうと銀行にお金を預ける。そして預かったお金をお金を借りたい人に利子と手数料を付けて貸し付けて、利益を得る。
わかるかい?」
「つまり、両替商人のように手数料だけで儲ける商売のことかい? それはいいかも知れないけど、信頼されないとできないよ。そんな商売。」
そうやって反論するエドモンドに俺は優しく聞くとまるで詐欺師のように再び語りかける。
「うん、うん、わかるよ〜その気持ち。でもね、両替商人とは違うことが一つある。」
エドモンドの中にある不安を取り除くように以上とも言えるオーバーリアクションをあえてやりながら、注意を逸らすように人差し指を立てて説明する。
「どういうこと?」
「両替商人は自己でやるから信頼が必要だ。でも、銀行は最初っから信頼がある。
それはなぜか! それはズバリッ!! 支配者たる人物の承諾を得ているからだ。
わかるかい? 俺が今回の戦争に勝てば民意を得られる。
その状態で君の銀行を承認すれば、人々はお金がなくなることはないと考えるわけだ。なんせ、俺がお金を持っているんだから。
また、君の銀行が危なくなった時に俺がお金を入れてやれば、君の銀行は潰れることはない。
ましてや、手数料を上げたりして利益を出すなんてことを支配者の承諾を得て行えるのはまさに、理想だと思わないかい?」
身振り手振りを交えて大袈裟に説明する俺に次第にエドモンドは賛同し始める。
そしてついにエドモンドは俺の聞きたかった言葉をポツリとこぼす。
「うーん、そうかも……。」
「よし、来た!! これで晴れて契約成立だな。では、戦費よろしく。」
捲し立てるようにそう告げると俺は即座にエドモンドの手を握り握手すると、そそくさと屋敷をさった。
屋敷を出る際にエドモンドが「ちょ、ちょっと待てって、まだ、契約するって言ってないだろ〜!!! アルトス〜!!」と叫んでいたが俺の耳には何も聞こえなかった。
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