#021 『 竜の刻印 』
毎日投稿 6日目!! ♪(´ε` )
一人、呟くような小さい声で岩に刻まれていた文字をそのまま読み上げると俺は次第に全身が熱くなる。
まるで全身の血が沸騰するくらいに感じられる熱さに、少し距離を置いて隣に立っていたオリヴィアさえも俺の放つ熱波に煽られて近づけずにいた。
燃えるような熱が徐々に周囲の木々までをもボッと燃やし始める。
そんな全身が燃えるような熱に俺は、次第に呼吸が取れなくなり、その場で膝を着くと声にならない声を上げた。
だが、そんな俺とはお構いなしに熱はより熱くなり始め、周囲にまで広がった。
数秒間の間、誰も何もできないでいるとついに俺は酸素不足でこときれたように倒れた。
◇・◇・◇
再び、目を覚ますとそこは以前みた自室の天井だった。
窓からは海風が優しく入り、部屋の空気を入れ替えていた。
そんな中、上半身を起こすとまるで看病した後に眠りこけたであろうオリヴィアがむにゃむにゃと寝事を呟きながら寝ていた。
オリヴィアに助けられたことでなんとか一命を取り留めた俺はそっと優しく右手を伸ばすと傍で寝ていたオリヴィアの髪をそっと撫でるように触れた。
その瞬間、俺は異変に気が付く。
オリヴィアの髪を撫でるべく伸ばした右手の甲には今まで見たこともない様な紋章が、まるでタトゥーの様に彫られていた。
謎のタトゥーの紋章はドラゴンの姿を模していた。
そのことを不思議と思っていると寝ていたはずのオリヴィアがううぅぅと唸るような声で起き始めた。
寝ていた顔をあげ、周囲をキョロキョロとするオリヴィアに俺は一瞬、天然か?とでも思っていると寝ぼけていたオリヴィアの意識がハッと目覚め、俺に飛びかかった。
「アルトス卿!! 大丈夫でしたか?」
心配そうに告げながらもやたらに抱き着いてくるオリヴィアに俺は苦笑しつつも「姫様のおかげで、大丈夫です。」と応えるとオリヴィアは自身がどれだけ心配したかを次々と話し始めた。
そんな時だった。
部屋の扉がバタンと開き、エクトル、ケイ、そしてメイドが数人入ってきて、姫様に抱きつかれた現場を見られてしまう。
「元気そうだな。アルトス。」
そう告げながら兄のケイは、口元を隠し必死に笑いを堪えていた。
隣にいたエクトルも苦笑しながら頭を抱えており、メンドたちも入っていいのかいけないのか若干戸惑っていた。
そんな状況をオリヴィアが気がつき、途端にリンゴのように顔を染めるとすぐさま俺を突き放すように離れた。
その際わずかに、頬をプクッとさせていたことは俺しか知り得ないものだろう。
さて、プイッと顔を明後日の方向へ向けたオリヴィアが俺から離れるとメイドたちはざわつくように部屋に入る。
メイドたちは慣れた手つきで効率よく洗濯服を回収し、軽い軽食をテーブルの近くに置いた。
また、幾人かのメイドは俺の下へ駆け寄ると大事ないかを確認するべく裸となっていた上半身を調べた。
幸いにも熊との戦闘で負った傷はどれも軽傷であり、大事には至ることはなかったが問題はその後に起きた謎の発火現象の方だった。
一通り仕事をこなしたメイドたちを下がらせるとエクトルと兄のケイが部屋の扉をそっと閉めた。
部屋に俺、オリヴィア、エクトル、ケイの四人が残ったのを確認するとエクトルは近くにあった椅子へと腰をかけて、俺が意識を失った後のことを話し始めた。
意識を失って数十秒後、俺から発せられていた熱波が吸収されるように俺の中へと戻るとオリヴィアは俺の安否を心配し駆け寄ってきた。
その際、領主専属の森の方向から聞こえてきた謎の咆哮と戦闘音に異常を感じた兵たちは即座にエクトルへと報告、その僅か数分後には小隊の兵を編成し森へと捜索を開始したと言う。
森へ入り、即座に熊との戦闘後を見つけた兵たちは周囲への被害を無くすべく、熊を調べて回っていたらしい。
そうした過程で森に入った兵たちが次に聞いたのは熊の咆哮ではなく、俺の悶絶声だった。
その声を頼りに兵たちが駆け寄るとそこには左右に真っ二つと裂かれた二メートルくらいの熊の近くに汚れてはいるものの無傷のオリヴィアと激しく戦闘したと見られる意識を失った俺がいたらしい。
この際、唯一一部始終を見ていたオリヴィアが事情を簡潔に告げると兵たちは俺と安全なところに一人残されていたフィンを城へと運び入れ、治療を受けさせた。
その際、見ていた医者が言うにはフィンの負傷は相当なものであり、あと数分遅れていたら助からないほどだった。
しかし、そんなフィンでもなんとか一命を取り留めたが俺の従者に戻るには少なくとも三ヶ月ぐらいの休養が必要だと告げられた。
最後に、俺についてはエクトルとオリヴィア、ケイや医者も皆、困り果てていた。
オリヴィアの話を聞いていたエクトルやケイ、医者は激しい戦闘があったことを了解していた上で俺の意識がないのは重症を負ったからと当初は思っていたものの、俺の体には重症らしい重症は見当たらなく、唯一あった不思議なことといえば右手の甲に突如として現れたドラゴンの紋章だった。
一部始終を見ていたオリヴィアでさえもいつからあったのかを知ってはおらず、謎は深まるばかりだった。そこでエクトルやケイはこの件について箝口令を敷き、情報の漏洩を防いだ上で俺の回復を待って真相を突き止めることになった。
「さて、これでお前が気を失った後のことは一部、省略したところもあったが大体は説明し終えた。」
そう告げるとエクトルは再度真剣な眼差しで俺を見つめると鬼気迫る表情で尋ねた。
「その紋章はいつからある?」
尋ねられている以上何かを返さなければいけないと思っていた俺は真実を話そうとした。
口を開き、言葉が喉のところまで上がってくると瞬間的にそれが正しいのかを考えた。
前世の記憶を持つ俺は石に刺さった剣の伝説くらいは知っていた。
故に、俺は言葉に詰まった。
今ここで、真実を告げたらどうなるのだろうかと。
自分は何も知らず、ただ熊を倒すために岩に刺さった剣を抜き熊を討伐。
その後、なぜか身体が発熱し呼吸困難になった俺は意識を失った。
そう告げた瞬間、彼らはどう思うのだろうか。
「……うん?」
エクトルの側で壁に寄りかかる兄のケイが不思議と声を漏らすように見つめてくる。
そんな状態で俺は考えをまとめ、脳内をフル活動していた。
恐らく、彼らはそれを信じるだろう。
だが、岩に刺さった剣については確実に疑問になる。
『この岩から剣を抜いた者こそ、未来の王にして永遠なる王であり、全アルビオンを統治する者である』そう記された岩の謎をどのように弁明すれば良いのだろうか。
岩や石に刺さった剣といい、マーリンと言う魔術師の件といい俺は次第に、アーサー王伝説を連想させられていた。
マーリンの言っていた“行かざるを得ない道”と言うのがアーサー王伝説の様なものだった場合、岩に刺さっていた剣を抜いた俺の未来は各自にバッドエンドだ。
叛逆者モードレッドに重傷を負わせられたアーサー王は岩に刺さった剣を抜くことで初めて王として認められ、イングランド、フランスなどを統一した。
もし仮に、これが俺の未来であれば俺はやがて叛逆にあって死ぬことになる。
例え、未来がそうならなかったとしても剣を抜いた以上、俺は王になる定めを背負ってしまった。
領主になって早一ヶ月と少しで、俺は王の使命を託されたら他の貴族や豪族たちは一斉に反発する。
そうなれば、この世は再び戦乱に巻き込まれ、多くの人が俺の命令によって死ぬ事になる。
また、俺自身も多くの人をこの手で殺めなければならない。
果たして、俺にそれを耐えることができるのだろうか。
平和ボケした前世の記憶を持つ俺に正義のために人を殺すことはできるのだろうか。平和のために人に死ねと告げることができるだろうか。
そう考えると俺はエクトルの質問に答えられなかった。
言葉が出ず、考えがまとまらない状態の中でそれは起こった。
ドカンと言う盛大な音と共に自室の壁が崩落し、部屋に視界を閉ざすように大量の砂塵が舞う。
即座にエクトル、ケイが抜剣し、崩落した壁の方へ警戒を向ける。
城の外では、兵たちが慌ただしく動き、城の鐘を鳴らし襲撃を都市中に知らせる。
壁の崩落を受け徐々に砂塵が払われて元凶である人影が現れると部屋の扉から重装備の兵たちが十名ほど雪崩れ込むように入り、ベッドにいる俺の前に立ち塞がるように陣形を組み始めた。
砂塵は晴れ、青空が見え始めるとそこには白色のローブを纏い、同じく白の三角帽子を深々と被った女性が空に浮かんでいた。
その様子に兵たちの誰もが息を呑むと同時に死を覚悟した。
空に浮かぶことは通常の人間にはできない。唯一それが可能と思われるのは魔法を使う異種族だけ。
そういった先入観から兵たちは怯えた表情で空に浮かぶ女性に槍や弓を向ける。
だが、兵たちは最初から眼中にないかの様に女性は部屋へとまるで空中を華麗に滑るように入ると深々と被った三角帽子のつばを持ち上げ、顔を晒す。
その顔を見て、エクトルは剣をしまうと同じようにケイもしまい、警戒心を解く。
その後、エクトルは即座に兵たちに下がるように命令し、鐘の合図を止めるように言明した。
数分後、部屋を出た兵たちを確認したエクトルは早々に口を開き、古き友を歓迎した。
「久しぶりだな。マーリン。」
「あなたもね。エクトル。」
艶めかしい魅力的な声で軽く答えるマーリンは三角帽子を脱ぐと俺に近づくと早々に右手の甲を確認した。
「やっぱりね。」
そう呟くマーリンに俺がどう言うことか説明を求める視線を送るとマーリンはやれやれと言わんばかりに頭を軽く左右に振りながら軽く鼻で笑う。
そして、俺からある程度の距離を取り説明を始めた。
「アルトス。あなたのその紋章は私と同じ類のもので、名を《王の刻印》と言うの。」
軽く告げるマーリンに、エクトルもケイもオリヴィアさえも驚きの事実に目を見開いた。
理解が追いつかず、ただ驚愕するエクトル、ケイ、オリヴィアを他所にマーリンは続ける。
「加えて、それは最強の《王の刻印》であり名を《竜の王ペン・ドラゴン》と言われる。」
優しく微笑みながら俺を見つめるマーリンに俺は視線を自身の右手の甲に移すと紋章を確認するように撫でた。
だが、紋章が消えるようなことなく、肌触りも今までと同じように自身の肌の感覚しかなかった。右手も特に違和感などはなく、むしろ紋章は生まれた時からある様に体の一部としてすでに馴染んでいた。
「マーリン。《王の刻印》と言うのは本当なのか?」
慌てふためきながらも、なんとか理解をして状況を飲み込もうとするエクトルにマーリンは「本物よ。」とだけ応えた。
「マジかよッ!!」
エクトルとマーリンの会話を聞いたケイは驚愕の笑みを浮かべながら一人でに呟く。
だが、俺の今までの疑問は払拭されていなかった。
「マーリン。すまないが、全てを説明してくれ。今度は言葉を濁さずにな。」
凝視し告げる俺にマーリンは、「わかった」と言うと全てを話し始めた。
◇◇◇
その遙か昔、未だ歴史というものが存在しなかった原初の時代。
この地上は“根源なる意思”によって生命に溢れた楽園だった。
だが、その楽園には誰もいなかった。
そこで“根源なる意思”は七人の乙女をそれぞれ別のものから創ると生命を吹き込みこの地上を管理させた。
こうして七人の乙女––––––––《光玉の女神》たちが生まれた。
やがて、地上を管理していた《光玉の女神》たちはこの楽園にそれぞれが良しとする種族を誕生させ、自身たちを崇拝させた。
だが、そんなある日、突如として天より現れた“原初なる意思”が地上に死を降り注いだ。
こうして、楽園は終焉をとげ《光玉の女神》と“原初なる意思”の戦いが生まれ、後の世に『光と闇の戦い』と呼ばれる長い戦いの時代が始まった。
遙か悠久の時を争ったことで地上は変化し、ある所では氷と雪に閉ざされ、またあるところは炎と砂に閉ざされた。
そして、恵みであった日の光さえも“原初なる意思”が奪い、世界を暗黒に包んだことで《光玉の女神》たちは追い詰められることとなった。
もはや、“原初なる意思”を止めることは不可能とされた時、ある少年が女神たちに祈りを捧げた。
少年の小さな祈りではあったもののもはや多くの種族が“原初なる意思”に従い始めていたこともあり《光玉の女神》たちは少年に感謝し、最後の力を使って少年に恩恵を与えた。
こうして、女神たちの恩恵を受けた少年は徐々に迫りくる“原初なる意思”の軍勢を己だけで振り払うと女神達は力を取り戻し、少年の他にいた自分たちが創造した六つの種族にそれぞれ恩恵を与えた。
こうして生まれたのが《王の刻印》と呼ばれるものだった。
その後、壮絶な戦いの末王の刻印を所有した者たちと女神の助力もあり、“原初なる意思”は暗き海に封印された。
しかし、封印の際に力の大半を失った女神たちは長い眠りにつき、地上の管理を恩恵を受けた《王の刻印》を所有する者たちに託した。
そこで、地上を託された《王の刻印》の所有者たちは各々で国を作り、かつての楽園を取り戻すべく地上を復興させた。
◇◇◇
「と、このように《王の刻印》は生まれたことになった訳だけれども、この話には続きがあるの。」
先程のどこか懐かしむ雰囲気とは裏腹に今度は真剣な表情になるとマーリンは続ける。
「伝説では《王の刻印》が現れるのは一千年に一度。それも“原初なる意思”を止めるために。」
「なるほどな、ある程度は理解した。そこでだ、いくつか質問がある。“根源なる意思”とか“原初なる意思”、《光玉の女神》と言うのはなんだ?」
「残念だけど、それはどんなに古い文献にもそこだけは記されていない。
唯一わかっているのは、《光玉の女神》たちの創造した六つの種族がいることと、《光玉の女神》たちが《王の刻印》を造ったことぐらい。その他のことは以前不明なまま。」
「結局、わからずじまいか。」
肩を落としながら俺は、頭の中で物事を整理した。
《王の刻印》、《光玉の女神》、“根源なる意思”、“原初なる意思”……。
どれも、アーサー王伝説には無かった言葉に俺は考え込んだ。
未だ混乱が部屋を支配する中で、エクトルは口を開く。
「とりあえず、目の前のことに集中するべきだろう。
アルトスが《王の刻印》を手に入れた以上、強くならねばなるまい。」
そう告げるエクトルに俺は反論しようとするが、即座にケイとマーリンがエクトルに賛同したことで俺の反論は無視されることとなり、俺はこれまで以上に忙しくなることが決まった。
読んでくださってありがとうございます!! ( ^ω^ )V
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また、少しでもこの物語を『面白い』、『続きが気になる』と思っていただけたら、
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