#020 『 選定の剣 』
毎日投稿5日目!! ♪(´ε` )
––––––––当初、このような事態になるとは思ってもいなかった。
黄金に輝く長い髪を後頭部で綺麗に纏めているオリヴィアは訓練用の剣を身体の正中線に構えながら軽く考えた。
ほんの数メートルほどの先の場所には、自分と同じように訓練用の剣を構える青年が静かに佇んでいた。青年の構える剣は刃こそ潰れているものの青年から溢れ出る空気というのは異様のようだった。
そんな異様な空気を一言で表すのであれば、まさにどこまでも暗く冷たい空気だった。
その状況の中で二人は相対した。訓練とはいえ、本気で撃ち合うことを手合わせ前にお互いに確認したこともあり、両者とも本気で戦っていた。
されど、先ほどからどれだけ撃ち合っても自分は青年に手合わせ前に加えた一撃を除いて一撃も叩き込むことができないでいた。
まさに、一方的すぎる対決にオリヴィアはまだ諦めていなかった。
はぁ〜と勢い良く肺に溜めた空気を吐き出し覚悟を決める。
刹那、狙い澄ました一撃を加えるべく、地面を蹴り上げて間合いを一気に詰める。
空中高くで上半身を捻りながら逆袈裟に剣を振るう。
だが、それを見越していた青年は顔色一つ変えずに冷静に斬撃を逸らし、互いの目の前で火花が一瞬、迸る。
攻撃を受け流されたことで一瞬、体勢を崩したオリヴィアはそのまま青年の背後へと前屈みとなって倒れ込みそうになるが、グッと足に力を入れてなんとか勢いを完全に殺すと青年に向き直した。
だが、時はすでに遅く、攻撃をいなされたことで攻守が交代した今ではオリヴィアに攻撃のチャンスはなくなっていた。
それをまるで知っていたかのようにアルトスは剣を強く握るとゆっくりとオリヴィアに迫る。
その姿はまるで着実に迫る死のようにさえ思えたオリヴィアは萎縮してしまう。
しかし、アルトスはそのことに気にも止めず、剣を振り上げると次々とオリヴィアに対して鋭くも正確な重たい一撃を浴びせるように叩き込む。
時間にしてはほんの数十秒だが、オリヴィアにとっては一時間とさえ思えた。
そのようなアルトスの容赦のない剣戟技を幸いにも受け流し続けたことで、体力が切れたオリヴィアはアルトスの攻撃の隙をみて訓練用の剣をそのまま地面に投げると両手を上げて降伏した。
「さすが、強いんですね。」
オリヴィアからの評価を受け、アルトスは剣を持ち替えると深呼吸してから短く応えた。
「…………ええ、まぁ。ある程度はですけど。」
どうにもはっきりしないアルトスにオリヴィアは尋ねる。
「どのようにすれば、その強さを手に入れられるのでしょう?」
ただの興味本位というよりも今まで勉学に励むようなタイプだったオリヴィアはできないことがあるとすぐにできないことをできるようになるまで努力してきた。
そのため、オリヴィアの剣というのは努力によって培われていた。
誰よりも剣を握っては振り続ける毎日にオリヴィアはいつの日からか姫に似つかわしくないほどに手が荒れマメができるようになっていた。
しかし、それでもオリヴィアは剣を振るうことをやめるようなことはなく、ついには並の兵が相手であれば、最大で五人までを同時に相手をして破ることができるようになっていた。
それほどの力を手に入れても未だ届かぬ強さを持つアルトスにオリヴィアは尋ねた。
だが、その答えはオリヴィア自身でも想像していなかった答えだった。
「姫は、“人を殺した経験”はありますか?」
つい先ほどまで鳴いていた小鳥たちがまるでポツンといなくなったかのように聞こえなくなくなり、木々の擦れる音さえも聞こえないくらいの静寂の中、聞こえた“人を殺した経験”という言葉に一瞬、自身の血の気が引くのを感じた。
されど、続けるようにアルトスはオリヴィアに背中を見せながら話し続ける。
「人の血が当たり一面に撒き散らすその瞬間を見たことはありますか。人を殺した後に周囲に残る匂いを嗅いだことはありますか。––––––––私はあります。」
そう告げるアルトスの顔はまるで何かに取り憑かれたようだった。
「姫のいうこれが強さであるならば、この強さを手に入れるには実際に自分の手で人を殺すのがいいでしょう。
ですが、おすすめはしません。なぜなら、“人を殺すということはある意味、人であることをやめる”ということですから。」
アルトスの言葉と表情を受け、オリヴィアはその場で腰を抜かした。
足腰が立たず、ただわずかに自身が震えていることがわかる。
よくいえば強者、だが悪くいえば人殺しの姿であったアルトスにオリヴィアは怯えた。
◇・◇・◇
日頃の日課だった訓練をオリヴィアに横槍をされたことで満足にできなかった俺は若干不満に思いながらも、着替えをするべくホーリー城の中にある領主館の自室へと戻った。
自室へと戻り着替え終わると溜まった不満を発散しようとそのまま自室にかけてある俺専属のクロスボウを手に握り、近くの森に狩りをするべく、出かけた。
馬に跨り、森を目指して疾走するその心地よさは前世でいうところのドライブ感覚なのだろう。
まぁ、俺自身免許こそあったが運転自体は免許取ってからはしてなかったため自分でもよくわかっていないのだが……。
森に着くや否や馬を落ち着かせて速度を落とすと同じように馬に跨って近寄ってくる二つの影が視界に映る。
一人は整然とした壮年の男性で執事としての服装を着こなしており、もう一人は黄金に輝く長い髪を靡かせながら紅い瞳のした美少女だった。
「ついてこいと命令したわけではないぞ。フィン。」
「そうですね。ですが、領主様に何かあっては困りますので勝手ながらついて参りました。」
「領主様って、お前な。ここは正式な場ではないんだ。だからいつものようのにしてくれよ。たくッ……。」
そう言いながら俺は頭をガシガシと掻くと本題のオリヴィアに目線を移し、真顔で尋ねた。
「それで、どうしてこのような場所に来られたので? オリヴィア姫。」
尋ねる俺にオリヴィア姫は下唇を噛みながら何か言いたそうにしていたものの言えず、隣にいたフィンがはぁ〜とため息をついて代わりに話し始めた。
「姫様もアルトス様が狩りに出かけたのを知って、同じように狩りがしたいようだったので連れてきました。」
フィンの言葉を聞いて一瞬、フィンに視線を移し嘘をついてないかを確認する。
嘘はついていないと確認すると俺は納得したように「理解した」と短く応えて、馬を森の中へと進ませた。
俺とオリヴィア、フィンの三人で領主の森を進む。
この領主の森は領主専属の狩り場であるために、領内にある他の森とは違って多くの動物が存在している。
中でも、今回の獲物は兎だった。
兎は鶏肉に似たような味わいや食感がある一方で調理方法によっては牛肉のような食感もある。しかし、狩りなどで捕まえてくる野兎などは多少ながらも癖の強い臭いがあり、なれていない者にとっては食欲を低下させる。
実際に俺自身も野兎を食べれるようになるまでに凡そ半年間かかった。
それでも好んで食べるというよりも仕方なく食べるという側面が大きい。
今回も狩りの対象を兎にしたのは、兎は小柄で俊敏性に優れ、その大きな耳で周囲の状況をいち早く理解できるからであるためだった。
加えて森に生息しているために隠密にも優れている。
そのような条件をハンデにいかにして捕まえるのかが今回の狩りの目標及び訓練である。
障害物の多いこの地形に加えて目標は隠密及び索敵に優れており、機動性も抜群。
それに加えて、以前にお食事処クロネコの時に遭遇した謎の襲撃者を想定した訓練だった。
とはいえ、兎が殺してくることはないために危険はないのだが、そもそも見つかってしまう時点で相手に襲撃され戦うことになるのでそこは日頃の訓練で対処可能であるために問題ではない。
そうやって数十分森を歩いていると二、三匹の野兎が近くの茂みからヒョイっと現れる。
それを見た俺はすぐさまクロスボウを構え矢を撃つが小柄で機動性の優れている兎はその矢を軽く躱すとそのまま森の奥の方へと逃げて行ってしまう。
逃げる兎を見て俺は馬から降りるとクロスボウを装填し直し、必要最低限の物を持つと馬をフィンに任せて先行した。
その様子を見てオリヴィアも同じように必要最低限の物を持つと俺の後に続くように野兎を追いかけた。
馬を降りてから凡そ半刻ほど森を彷徨っていると小川に水を飲みにやってきたであろう兎をやっとのことで見つける。
それを足音を立てないようにそっと静かに近くの茂みに隠れてクロスボウを構えると後ろからバタバタとした様子でフィンが迫る。
それによって音を感知した兎はすぐさま顔をあげるとそのまま茂みの方へと逃げ込みまたもや兎をとり損なった。
「フィン!! 今いい所だったんだぞ!!」
狩りを邪魔されて、俺は一瞬この野郎と頭に血が上ったがフィンの姿を見ると途端に何かに襲われたことを悟った。
執事服の至る所にはまるで引き裂かれたかのような穴と傷、そして躓いたのか倒されたのか服装が全体的に汚れていた。来た時とはまるで違うその様子に俺は驚きながらも今にでも倒れそうなフィンの話を聞いた。
ことの発端は、俺やオリヴィアがいなくなってからすぐのことだった。
馬を任されたフィンは一人、木に馬を止めると何やら視線を感じ、抜刀した。
その瞬間、どこからともなく現れた三メートルくらいの大きさを誇る熊に襲われ、馬を守るべく逃げなら応戦するとそのまま追い込まれ、高さ二メートルくらいの崖を落ちて行ったという。
幸いにも、大事には至らなかったが熊に追いつかれたこともあり、覚悟を決め熊に剣をお見舞いするとまるで鉄かのように弾き返されたばかりか、そのまま剣が根元から折れたらしい。
そして、武器を失った隙を熊は逃すことなく正確な一撃を浴びせた。
その衝撃で、腕の骨を折られ足を挫いたことで、死を覚悟したが木々がざわめていたこともあり熊が一瞬気を取られた隙に逃げ出したという。
そこで、たまたま見つけた俺に助けを求めたらしい。
話を聞き終わると俺は装填したばかりのクロスボウをフィンに渡すとフィンのことをオリヴィアに任せ、剣を抜いた。
フィンを傷つけ、狩りを邪魔した大型の熊に新たに怒りを覚えながらも俺はフィンの来たという方向へと走っていった。
数分ほど走ると視線の先には熊がムシャムシャという音をたてながら捉えたであろう鹿を貪っていた。
図体が非常に大きく凶暴のように見えることから俺は即座に討伐を覚悟する。
もし、このまま逃げることに成功しても遅かれ早かれ食料が尽きた熊はその縄張りを広げる。
そこでもし、人里に現れた場合には大惨事になりかねない。
そう考えると俺はゴクッと唾を飲み込み覚悟を決めると熊の前に颯爽と現れ、剣を叩き込む。
幸いにも剣先が熊の眼を捉えたことで剣は折れずに済んだものの余計に怒らせた事で熊は二足で立ち上がるとまるで化け物のようにガォォォォと叫んだ。
熊の生臭い息を全身に受けながら俺は剣をギュっと握ると二足になった事で初めて見えた、外皮の中でも比較的に柔らかい部分であるお腹周りを標的に袈裟斬りした。
ズサッという感触の元に鮮血が飛び交う中、熊はその図体を動かし、右手で俺を払い除けようとした。
だが、それを読んでいた俺はすぐに剣を熊の肉球に向けるとそのまま重心を落とし吹き飛ばされないように身構えた。
しかし、熊はそれをお構いなしに右手を振りかざし、剣は肉球を捉え深く刺さった。
眼をやられ、腹も切られ、肉球すらやられた熊の怒りは最高潮に達し、熊は死を覚悟でそのまま突撃してきた。
その状況に俺は一瞬、やばいと思ったものの即座に避けたことでなんとか危機を脱したが代わりに熊と正面衝突した木がバコンと倒れた。
「軽戦車かよ……。」
まるで嘆くのように呟く俺に熊は、振り返ると再度突撃を敢行した。
熊に勝ち目がないと悟った俺は剣を掴むと地の利を生かした戦いをすべく、場所を変えた。
場所を変えるべく、逃げる俺に熊は吠えながらただ真っ直ぐに進む。
途中、何回か木の幹に当たったものの木々は倒れ、熊も数秒止まる程度で済んだものの俺を追いかけることをやめる気配はなかった。
そんなとき、ついに熊に追いつかれた俺は剣を構えると突撃してくる熊との距離を見計らってカウンターを食らわせる。
しかし、フィンの話でもあったようにカウンターを与えた直後、剣が根本から折れて使い物にならなくなり、熊は再度二足になって覆い被さるように迫ってきた。
そこへヒュウゥゥという風を切る音とともに矢が一発、飛んでくると矢は熊の残りの右目を捉えた。
ドサッと刺さる矢によって視力を完全に失った熊は途端に理性を失った攻撃を始め、あたり構わず、暴れ回った。
敵が見えないが故の攻撃方法に俺が驚いているとひょこりとクロスボウを片手に現れたオリヴィアが高さ三メートルほどの崖の先から手を差し伸べてくる。
「早く、手を!!」
オリヴィアの意図を汲み取り、即座に崖の下から手を掴むとそのまま崖を上り切る。
しかし、そんなことも束の間に短く要件を伝えたオリヴィアだったが、その声に当てられ熊は敵の方向をオリヴィアのいる方向に定めるとそのまま突撃していった。
再度、追われる立場になった俺とオリヴィアは必死に逃げていると崖を強引に上り切った熊が徐々にその速度を上げながら迫る。
その緊迫した状況にオリヴィアはバタッと木の根に足を取られて倒れこむ。
絶体絶命という状況で俺は周囲を見渡す。
するとそこには森にしてはあまりに不自然なまでに岩に刺された剣が太陽の日の光によって燦然と輝いていた。
しかし、姫を助けるべく俺は何も考えずその剣を抜くと迫る熊と対峙した。
まるで軽戦車のような熊に俺は通り過ぎる隙に攻撃を浴びせる。
だが、体格が桁違いに違うために対して熊にダメージを与えることができず、そのまま熊との距離を一定に保ちながら茂みに隠れた。
オリヴィアは俺が熊に攻撃を浴びせている隙に隠れていたこともあり被害に遭うことなく、なんとかなっていた。
だが、依然として熊は興奮状態にあったために二足歩行であたりの木々を敵と勘違いして粉砕していた。
その様子を眺めながら俺は手に取った剣を握ると茂みから出て背中を見せた熊に襲いかかった。
刹那、先ほどは剣の方が折れるくらい硬かった外皮が今度はまるでバターを切る様に滑らかに剣が刺さるとそのまま綺麗に右薙に切り裂いた。
その攻撃に慌てふためいた熊が振り返ると俺は続け様に、左切り上げると熊は後退りするように後退する。
だがそれで終わらず、俺はとどめを決めるべく前進し唐竹に真っ二つに熊を切り裂いた。
ズザッという音とともに血飛沫が舞う中で俺は全身に熊の血を浴びると熊はドスンという重低音を響かせ倒れた。
熊が討伐されたことで茂みに隠れていたオリヴィアが心配そうな表情で俺もとへと駆け寄ると俺はその場に腰をおろした。
折角の狩りに熊が現れ、命の危機に晒される。
そんな非日常を経験しながら俺は前世の平和ボケとも言える世界をふと思い出し、自虐的に笑みを浮かべていた。
「大丈夫ですか? アルトス卿。」
俺の隣で心配そうに告げるオリヴィアに俺は「大丈夫」と告げるとその場で休んだ。
早急に城へと帰り熊の血を洗い流したかったものの、俺は手に握った剣を見て思い出す。
先ほどは状況が状況と言うこともあり、俺はそのまま岩から抜いた。
しかし、なぜ森の中に剣があったのかと言う疑問の中で俺はまさかとは思いながらも確認のために剣の刺さっていた岩を探す。
上体を起こし、そのまま剣を見つけた場所へと戻った。
剣のあった場所は熊を討伐した場所からそう離れてなく、むしろ目と鼻の先にあるくらい近かった。
剣が刺されていた岩にはただひっそりと人類語で『この岩から剣を抜いた者こそ、未来の王にして永遠なる王であり、全アルビオンを統治する者である』が刻まれていた。
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