#018 『 新領主 』
毎日投稿3日目!! ♪(´ε` )
「世界の王へと育てると言ったて俺にはその力はない。無論、目標を達成するためにもその様な力を欲してはいるが……。」
苦笑しつつも応える俺にマーリンは被せるように告げた。
「それは大丈夫、なぜならすでにあなたには“道”が示されている。そして、直にその力は現れる。そうなった時に私はあなたの元へ駆けつけるわ。」
「道が示されている? どういうことだ? マーリン。」
問う俺にマーリンは笑みを見せると杖を軽く左右へと振った。
その瞬間、またあの時のように目の前の景色がぐにゃぐにゃと変化し出し、意識が遠のいた。
わずかに意識があったその数秒にマーリンは俺に囁くように告げた。
「その刻がこればわかる––––––––。」
◇・◇・◇
再び、目を覚ますと俺は船の甲板で寝そべっていた。
甲板の周囲には山のように積まれた木箱のほかに俺と同じように今起きたであろうフィンやレオ、上陸部隊そして船番を任されていた兵たちもが頭を抱えながら立ち上がっていた。
そうした状況を見て、俺は即座に立ち上がると船の外側を確認した。
上陸したはずの島はなく、ただポツンと二隻の軍艦が静かな海の真ん中で佇んでいただけだった。
空には星空が広がり、月の光がわずかに船の甲板と海上を淡く照らしていた。
帆は上陸した時と同じように帆は綺麗に畳まれ、錨も下されていた。
唯一、船に変化があったのは甲板に山のように積まれた謎の木箱だけだった。
そうした木箱を開けるように指示するとフィンとレオが周囲に危険が及ばぬよう他の兵たちを退避させながら開け始めた。
そうして開けた木箱の中身にはぎっしりと積まれた農作物のほかにジャガイモが所狭しと収納されていた。
それを見て、俺は直感的にマーリンの仕業であることを理解し、そのまま木箱をエクトル領へと運ぶことにした。
その数時間後、夜もだいぶ深まった頃に見張りに立っていた兵からの連絡で港の灯火がぼんやりと見えると兵たちは一斉に歓喜の声をあげて二、三日ぶりの故郷を遠目に眺めた始めた。
二、三日程度の軽い冒険ではあったものの兵たちにしてみれば、見たこともないような場所にいきなり乗り込んで調査するというのはだいぶ憔悴する行動だった。
それを承知しながらも俺は上陸を敢行し、手土産としてジャガイモを持って帰ってくることに成功した。
これにより食糧難が回復し領民も救えると思った矢先のことだった。
久々に帰ってきたカーナヴォン城の執務室にて、俺はエクトルから叱りを受けていた。
「お前というやつはッ!!」
そう言いながら殴りかかってくるエクトルに周囲のメイドたちは必死に押さえていた。
「軍艦が二隻、およそ三十人前後の騎士が三日間、いなくなったのだぞッ!! それも深夜にこっそりと!!! この非常時に一体何をしていたんだ、アルトスッ!!!!!」
まるで牛のように鼻息を荒くして怒鳴ってくるエクトルに俺はことの説明を始めた。
「突然、兵や船を使ったことはお詫び申し上げます。エクトル卿。しかし、私は何も遊んでいたわけではございません。軍艦を二隻、三十人程度の騎士を連れて私はアイリッシュ海にあるとされる島へ向かったのです。」
理路整然と目の前のエクトルに一切怯えることなく話す俺を見て、エクトルは一旦落ち着きを見せたが、“アイリッシュ海にある島”と告げた瞬間、エクトルの表情は怒りから真顔へと変化しそのまま頭を抱えた。
「…………まさか、上陸したのか?」
先程の怒りなどどこへ行ったのやら途端に冷静かつ大人しい声で告げるエクトルに俺は一瞬戸惑うも「はい」と返事する。
「…………お前たちは下がれ。アルトスと個別に話がある。お前もだ、フィン。」
「畏まりました。」
俺の後方で一部始終を無言のまま聞いていたフィンは一礼してそう告げるとそそくさと部屋を後にした。
そして、部屋に俺、エクトルの二人が残るとエクトルが沈黙を破るように告げた。
「まぁとりあえず、座ってくれ。」
エクトルに言われソファに腰を掛ける俺にエクトルはため息を吐くように口を開いた。
「アルトス、お前の行ったという島だが、名をグレイシー島と言ってな。元々は私の故郷だ。」
唐突の昔話に俺が困惑していると、エクトルは何も言わずにそのまま話し始めた。
グレイシー島。
アルビオン島とエール島に囲まれた小さな海、アイリッシュ海の中央に位置する島であり、その面積は約五七二平方キロメートルと前世でいうところのグアム島やシンガポール島、瀬戸内海の淡路島などと同じくらいの面積しかない。
人口もそう多くないらしく島全体でおよそ一万二千人程度であり、農業と畜産業を主として行なっているらしい。
中でも、グレイシー島の特産であるラクタンシープと呼ばれる羊の人気は凄まじく、ラクタンシープから採れる羊毛は他のと比べて柔らかく良質であり、その肉は美味で一部の貴族や豪族の間では珍重されるほどどという。
そうした面がある一方で島は十数年前に突如として姿が見えなくなったことで現在ではグレイシー島の存在を知るものは少ないらしい。
島の突然の消滅に最初は戸惑ったものの、そこそこ大きい島が忽然と消えるなんて常識的にありえないものであり、そもそも皆の持つ記憶が違うのではないかという見方から島のことは徐々に伝説化、伝承化されたらしい。
「故に俺は十数年もの間、島を見たことがない。」
そう告げるエクトルの顔はどこか悲しげで寂しげだった。
誰よりも故郷を愛する傾向の強いエクトルにとって故郷を失うのは酷なもの。
そのため今回、俺が上陸したことがわかってエクトル自身まだ島があることに気がつけたのは朗報だろう。
「島の概要は理解できました。それで、なぜ人払いを?」
そう尋ねるとエクトルは一呼吸を置いて、ゆっくりと口を開いた。
「《創世の王》…………いや、世間では“魔女”と呼ばれている女性をお前は知っているか?」
前屈みになりながら真剣な眼差しで尋ねてくるエクトルに俺は反射的にのけぞった。
だが、すぐにエクトルの言わんとすることを悟った俺は言葉を返すように尋ねた。
「どうして、その名を……。」
「やはり、そうか。出会ってしまったのだな……。」
頭を垂れながらため息を吐くエクトルに追求すべく、説明を求めた。
それを聞いたエクトルは何も言わずに立ち上がると近くにあったワインボトルを開け、グラスへと注ぎ込んだ。そして、ワインを注いだグラスをグイッと飲み干すとエクトルは質問に応えた。
「説明も何もありはしない。ただ、一つ言えるのはこれから先、お前は自分のしたいようにしろ。俺含め、誰にもケイにも何も言わせない。これから先はお前が全てを決めろ。」
その言葉を聞いて俺は驚きのあまり、その場で立ち上がった。
“––––––––お前が全て決めろ”
その言葉の意味はまさに領内の全て、民も施設も、何もかもを自由に変えられることを意味する。
中でも、その言葉の中に含まれる意味というのが最も重要である“領主の座を受け継ぐこと”を意味していたことだった。
若干、十五歳でエクトル領に住む数万人の財産、生命、権利を握ることの意味がとてつもないほどの重圧となって俺の肩へ重くのしかかる。
刹那、ドッと背中が重くなり、額には冷や汗がベットリと滲み出ると呼吸が徐々に荒くなる。
次第に目の前がグラグラと揺れはじめ、胃に穴が開きそうなぐらい痛くなる。
その様子にエクトルはただ黙ってワインを飲みながら一人悠長に眺めていた。
「ふざけないでください!! 成人になったばかりの俺に一体何ができるというのですかッ!! 一体誰が、こんな若造についてくるというのですか!! 俺にはまだ……。」
声を荒げながら叫ぶ俺にエクトルは冷淡にただ一言告げる。
「“覚悟がない”…………からか?」
図星を突かれ、苦虫を噛み潰したような表情をするとエクトルはそっと近づきポンと俺の肩に手をかけるとそのまま優しい微笑みを浮かべながら静かに俺に囁いた。
「何ができるか、誰がついてくるのかは私は知らない。ただ、お前は一人ではない。お前が皆を助けるように、皆がお前を助ける。そうやって前へと進むがいい。お前の実力はお前が思っている以上に凄まじいものだ。」
そう告げるエクトルは俺の顔を見ながら手を離すと執務室にある羊皮紙の山を指差しながら続けるように話し出す。
「見てみろ、お前さんの実力を。お前さんは俺がいない間の政務をきっちりとこなして見せた。しかもそれだけではない。今回、お前は兵たちに勇気を、民には慈悲を見せた。
いいか、アルトス。できるかどうかではない、やるかやらぬかの二択だ。お前には実力も知識もある、そのお前に足りないのは“人を導く覚悟”だ。」
何が、どうして、こうなったのか。誰もその答えを言おうとしないまま、ただ曖昧に物事が進む。
それはまるで、何か見えないものに沿って動くもののように全てが俺の元へ集まってくる。
“運命––––––––一言で言えば、あなたを導く道。いや、正確には進まざるを得ない道とでも言いましょうか。”
ふと、マーリンの言葉を思い出し、俺は何もかも止められないことを悟り始めた。
できるかできないかではなく、やるかやらぬか。
運命を受け入れるか、受け入れないのか。
そう考えながら俺は優しく見つめてくるエクトルに向かって吐き出すように告げた。
「俺は人を導くことはできないかも知れない。だが、俺には目指すべき目標がある。
そのために俺は領主になる。」
領主になると告げた瞬間、先ほどまで俺の肩にのしかかっていた重圧が忽然と消え、汗も動悸も呼吸も何事もなかったかのように落ち着きを取り戻していた。
そして、その言葉を聞いたエクトルはフンと鼻で笑うと俺を政務の椅子へと力ずくで移動させて座らせた。
「これから先はお前さんがやれ。」
短く告げるエクトルに、俺は諦めたかのように笑い返した。
後日、正式にエクトルの口から領主交代が宣言され、俺は名実ともにエクトル領の領主になり、領内の名称もエクトル領からアルトス領へと正式に変更された。
また、俺が新しく領主になったことで都市のあちこちで祝いがなされ、人々は日々の窮屈な生活を忘れ酒や食糧を持ち寄っては盛大に祝った。
そして、俺は任命式の夜にカーナヴォン城の広間を使って開催された新領主誕生のパーティーを抜け出し、ベランダへと避難しているとゆっくりと背後からグラスを二つ持った同い年ぐらいの女性が歩み寄ってきた。
「浮かない顔してどうしたの?」
そう告げる女性に俺は驚いた。
目の前には、青色のドレスを纏いながら、ぎこちなく微笑むエレナが立っていた。
「えッ、エレナ!? どうしてここに。」
一瞬ドレス姿のエレナを見てドキッとしながらも突然の訪問を尋ねた俺にエレナは月夜に輝く月を眺めて応えた。
「ここら辺で武器の納品があってね。それで来たの。そしたら領主になるっていうじゃない。だから、久々に会いに来たの。それで、どうして浮かない顔を?」
「浮かない顔か……。そんな顔にもなるよ。俺自身、領主になるなんて夢にも思わなかったから。」
寂しげに応える俺にエレナは、手に持ったグラスを俺に渡すと微笑みながら話し始めた。
「これは私の自分勝手な願いだけど私自身、アルトスには領主でいて欲しい。」
「どうして?」
「だって、アルトスは誰よりも多くのことを考えて行動している。エクトル卿や一部の貴族、豪族は違うけど、ほとんどの貴族や豪族は民を無碍に、まるで動物や道具のように扱っている。
アルトスは被害にあった人が何人いるか考えたことある?
強姦された人、親を殺された人、愛する人を奪われた人だっている。
それなのに誰もそういう人たちを止められない。
王族も貴族も豪族も……他の民とさして変わらないのにね。
だから私は、アルトスには領主でいて欲しい。誰よりも優しいアルトスが領主だと民が安心する。」
優しげに告げてくるエレナに俺は頭を垂れていると再び背後から一人の女性が歩み寄る音が聞こえてくる。
黄金に煌めく長い髪に黄金比のような整った顔立ち、そして燃え上がるような紅い瞳に加えて、真っ赤なドレスが特徴的なオリヴィアがグラスを片手に歩み寄ってきていた。
「アルトス卿は領主になりたくはないですか?」
歩み寄って早々、訊ねてくるオリヴィアに俺は顔をあげるとそのまま応えた。
「俺にはどうしたらいいのかわからない。目指すべき未来はありますけど、どうやってそこへ皆を導いていけばいいのかわからない。」
「目指すべき未来……ですか。それでは、私には理解できませんね。
目指すべき未来が見えているのであれば、そこへどう進むかは統治者の意思です。
真っ直ぐに進むも回り道をして進むも全て同じ未来へと進み辿り着くのであればどう進むかは統治者に与えられた権利だと思います。
ですから、私にはわからないのです。なぜ、あの時、私を止めたあなたがここまで悩むのか。」
そう告げられて俺は初めて思った。
あの時、初めてオリヴィアと会った時、俺は彼女の提案を人の死が多いからと拒絶した。
だが、実際にはそうではなかった。
俺はただ、自分の命令で人が死んでいくのをただ黙って見ていることなどできなかった。
だから、俺はオリヴィアの王都奪還を拒絶した。
そして、今回も無駄に悩んでいる。
あれこれと理由を探して、失敗した時の責任を逃れようとしている。
そんな臆病な自分に俺は鼻で笑うと覚悟を決めて、オリヴィアに告げた。
「ありがとうございます。オリヴィア様のおかげで悩みが晴れました。」
「いいえ、こちらこそ申し訳ありませんでした。勝手にお二人の間に入って……。」
そう言いながら、微笑みを向けてくるオリヴィアに俺の隣で一人、頭の先から煙を出しながら顔を真っ赤に染めているエレナが「ふっ、ふっ二人って!! 二人って!!」と慌てふためいていた。
読んでくださってありがとうございます!! ( ^ω^ )V
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( ✌︎'ω')✌︎<オネシャス!