#017 『 創世の王 』
◇ お知らせ ◇
今日で毎日投稿 3日目!!
ついに始まってしまったこの毎日投稿。来年の1月7日までに合計”20話分”を投稿するのでよろしくお願いします!!
♪( ´θ`)ノ <よろしくお願いします!!
翌日。
朝日が顔を出すよりも早く起きた俺は上半身を起こすと周囲の草むらに細心の警戒をしながら見渡すと兵たちの装備含め何も盗まれていなかったことを確認した。
その後、俺はフィンや他の兵たちにも変化などはなく無事、朝を迎えることができていたことを知るとそのまま隣で寝ていたフィンを叩き起こす。
「はい……。」と空返事しながら未だ意識が完全に戻っていないフィンに朝日が昇るとともに出発する有無を通達するとそのまま兵たちを起こさせた。
二度の人生で初の本格的な野宿に俺の背中と腰は悲鳴をあげていた。
今までキャプのようなレジャーとしての野宿という名の外泊はあったものの、本当の意味での野宿の経験は一切無く、俺は初めての野宿に心底、呆れ果てていた。
その数分後、フィンとレオの両者を代表に兵たちが準備を終えると俺はそのまま目標となる西の城に住むとされる魔女のことを告げた。
魔女という言葉を聞いて一瞬、兵たちに響めきが走ったがすぐに命令と悟りそのまま口を閉ざした。
そんな兵たちの動揺を抑えようと俺は続けるように告げた。
「正直、生きて帰れる保証はどこにもない。よって、無理強いはしない。」
その言葉に誰よりも正義感に溢れエクトルに忠誠を誓うレオが一歩前に出ると兵たちを代表して俺に告げた。
「恐れながらアルトス様、我らは仮にも騎士です。そんな騎士が恐れるのは魔法などではなく、むしろ主人を失うことです!! それに我々の中に魔法を恐れる臆病者はいません!!」
臆病者という言葉に俺は半ば苦笑しつつもレオの背後で立っていた兵たちは一斉に覚悟を決めたように「「「はいッ!!」」」と返事した。
エクトル領において臆病者は軍役を担うものにとって最大限の侮辱とされている。
それはエクトル領のあるウェールズ地方においてその人民は皆、いい意味で血の気が多い、悪い意味では戦闘狂なのが特徴だからだ。
そうした集団で臆病と言われたものは即座に軍から左遷され、一生笑い者として生きていくことになる。
そうした社会構造が前世の記憶を持つ俺にとって悪いと思いつつも文化とはそういうものであると割り切り、そのまま受け入れていた。
「では、総員向かうぞ!!」
「「「おおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」
◇・◇・◇
歩き始めて早十数時間。
幾度かの休憩を挟みながらも道なき道を誰にも気づかれずにただひたすらに西へと進む中、ついに目標であった西の城が仄かにその姿を表した。
周囲を海に囲まれ、唯一陸地と繋がっているのは正面へと続く細い一本の橋だけ。
だが、その大きさは他の城とは比べ物にならないくらい大きく、側から眺めるだけでは城壁も見た目以上に頑丈そうにできていた。
一方で、周囲から眺めてもその城に人が生活している雰囲気などは感じられず寧ろ数年前に捨て去られた廃墟のように感じた。
「本当にここに魔女が……。」
背後から聞こえてくるその小言に俺は返事をするように命令を下した。
「さぁな。だが、それでも向かう事に変わりない。総員、覚悟を決めて抜剣の準備をせよ。これより向かうは天災の巣窟だ。何が起こるかわからない以上、なんとしても生きて帰還することを最優先とせよ!! 良いなッ!!!」
一際大きな声で兵たちを奮起させると俺はそのまま城に向かって歩み出した。
自身を隠せるようなものが何一つない一本道の橋の前に着くと俺は深呼吸してから橋を渡り始めた。
魔法を使い人々に厄災を齎すとされている魔女。
本来、人であれば使うことのできない魔法という驚異的な力に人々は恐れた。
––––––––知らない力を扱う者。
ただ、それだけで恐れられ忌み嫌われる。
そんな社会構成に俺は前世での魔女狩りを思い出した。
人々が互いに疑心暗鬼となり、ありもしない魔女という悪者を引き摺り出そうとあの手この手を使っては無実の人々を処刑する。
真に無実であれば火傷をすることはないとして油の煮えた釜にか弱い幼女の手を入れ、火傷をさせる。
それらを証拠に悪事を働くからと断罪しては女性であろうが、幼女であろうが、男だろうが、お年寄りだろうが何だろうが関係なしに一概に有罪として祭り上げられ処刑される。
人の持つ歴史の中でも悲劇の歴史の一つとされるこの魔女狩り。
前世では存在しなかった魔法が存在するこの世界にて初めてその恐怖を味わらされた。
ゴクッと固唾を飲み、額に冷や汗を感じながら進む俺と兵たちに城は不気味なほど静まり返っていた。
海風が頬を撫で髪を靡かせる。
しかし、何一つとして起きることがない中で兵の一人が冗談混じりに話し始めると俺は即座に注意した。
「気を抜くなッ!! 死にたいのかッ!!」
「じょ、冗談です……。はは…は…はは。」
強引に笑みを浮かべながらも進み続ける俺たちはついに城の玄関たる門へと着く。
分厚い木の扉に鉄の金具が貼り付けられていた門に俺が手をかけるとその門はギイィという音を発しながらもまるで歓迎するかのように開き始めた。
その光景に兵たちは顔が強ばり、皆一斉に抜剣した。
すでに既に空には燦然と輝く太陽が傾き始めており、ものの数時間で夕方となるそんな時間に俺たちは城へゆっくりと歩み出す。するとどこからか風がヒューと音を立てて入り込む。
その僅かな音にも過敏に反応するかのうように兵たちが狼狽えていると俺は手信号で兵たちに命令を出すと即座に三つのグループに分かれ、そのまま城の内部へと侵入した。
右に、左に、廊下を進みながら階段を昇ると他の道を辿ってきたであろうレオのグループと合流する。
「なにかあったか?」
そう尋ねる俺にレオは不思議と首を傾げながら返事をした。
「それが不気味な程、全くありません。まさに人の気配がない、そんな感じがします。」
レオの報告に俺は一瞬、つかまされた情報事態が偽物だったという可能性を考えたがそれならばもっと別の場所を用意するはず。
それこそ衛兵がいる詰所であったり、包囲殲滅のしやすそうな平原だったりとわざわざ空の城を伝えないはず、それなのにここを告げたのはここがその場所だからである。
少なくとも、情報を吐き出させた者はそう思っていた。
いつものように考えに耽り始めるとフィン達がまた別の道を辿って合流した。
「こっちには何もありませんでした。おそらく、ここは現在は使われていないただの廃城かと。」
そう告げるフィンに俺は違和感を感じる。
人がいないのはともかく、廃城であればここまで状態が良いはずがない。
この城は周囲を海で囲まれておりそのため塩分を多く含んだ風が石壁を脆くさせる。
フィンの報告がもし真であるならばこの城の城壁は崩れていてもおかしくない。
だが、実際には崩れてはおらず、むしろ古く見せているだけで実際には改修したばかりの城壁のように思えた。
そう考えた瞬間、俺たちの前に彼女が現れた。
白いローブを羽織るように深々と被り、杖を持つその姿に俺は夢に見た女性を重ねた。
唯一違うのは深く被ったローブの向こう側から微かに見える瞳の光だけ。
まるで虫眼鏡を連想させるような模様を瞳に浮かべながら静かに近づいてくる女性にレオとフィンが俺の前に壁になって立つ。
しかし、それを無視するように女性は俺に向かって指を指すとただ一言発した。
「……合格。」
その言葉に一瞬、兵たちが互いに視線を送り合ったがその言葉の意味を知っていた俺は即座に剣を向けるのをやめ、他のものにも同じように剣を下げしまうように命令した。
剣を完全にしまったことを確認した女性は深呼吸し、落ち着いた口調で告げた。
その際につい数秒前まで瞳に浮かんでいた虫眼鏡のような模様が跡形もなく消えていたことにどうやら俺だけが気がついていた。
「では、行きますか。」
一人一方的に告げる女性に俺は慌てて「どこへ?」と声を発したが、それに答えることなく女性は歩み出した。
女性を追うように城の中を歩くと一際大きい部屋へと通される。
その部屋は海辺にある城としては非常に暖かく、テーブルには豪勢な食事と冷えたばかりであろう果実酒のエールがあった。
そして、そのテーブルを囲うように人数分の椅子が整然としており、今か今かと座るものを待っているようだった。
その光景に俺たち一行は驚きながらも先ほどまでなかったであろう食事がそこにはあるという現実を突きつけられ困惑していた。
だが、肉体的精神的の両者で既に疲労していた俺たちは目の前のことを見逃せることなどできず、そのまま椅子に座り目の前の食事に食らいついた。
フワフワの白パンに、喉越しの良い冷えたエール、チキンの丸焼きなどの数日ぶりのまともな食事に兵たちは安堵し警戒心を解き始めた。
こうした状況で歓迎されるレオやフィン、兵たちの中で唯一俺だけは疑問に思っていた。
どうして、こうするのだろうかと……。
睨みをきかせながらエールをジュルジュルとゆっくり飲む俺に警戒したのか女性はニカッと僅かに広角を上げると食事を胃に流し込むフィンやレオ、兵たちを差し置いて、俺の目を見つめながら話し始めた。
「どうしたの? アルトス。私に何か言いたいのかしら?」
「そうだな。正直、色々と尋ねたいことがある。」
未だ警戒心を解けきれずに若干、脅しのきいた声で返すと互いに視線を切らずに見つめ合う俺と女性を見て、何かを悟ったのかフィンやレオ、兵たちの視線が俺たち二人に集中した。
その結果、数秒前まで騒がしく食事をとっていたテーブルは静まり返った。
静まり返ったテーブルの両端に座る俺と女性は互いを牽制しつつも会話を始めた。
「まず、先に例の件について。その後はこの島について、そして最後に君について。」
「わかったわ。」
女性が観念したかのような顔つきを見せる立ち上がるとそばに置いていた杖を掴み取る。
その光景に違和感を覚えた兵たちが警戒のために腰にかけた剣に手を置くと女性は無害であることを主張するように優しい笑みを浮かべた。
その姿に警戒心を再度解いた兵たちは剣の柄からそっと手を離す。
そして、女性が杖を掲げるとふいっと何もない空気を払った。
刹那、音もなんの前触れもなくフィンたちは意識を失い、椅子に座ったまま眠りについた。
まさに一瞬の出来事に俺は驚きながらも即座に剣を抜刀し女性に向かって構えた。刹那、女性は再度その瞳に謎の模様を浮かばせた。
「ごめんなさい。でも、これから話す内容はアルトス、あなた自身にしか話せない。」
そう告げる女性に俺は警戒心を深めながらも「そうか…。」と流すとそのまま彼女は話始めた。
「アルトス、あなたが進むべき“運命”というのは““未来””そのものよ。そして、それはあなたも既に知っているはず。」
「どういうことだ?」
「あなたたちの土地に住む人々は今現在、飢えに苦しんでいる。そうでしょ?」
「……そうだな。だが、その解決策はもう既にある。」
「そうね。でも、それはあなたたちが帰ればの話。この島は私の魔法によって干渉できないようになっているの。つまり、私が出したい、入れたいと思わなければ出ることも入ることもできない。まさに完全無欠の不可侵領域。」
「––––––––なるほどな……それでどうしたいんだ。俺に何をさせたいんだ。」
「実はその……私は……私をあなたの側に置いて欲しいの。」
小さな声でそう告げながらその場でたじろぐ女性に俺はポカンと拍子抜けした。
「つまり……どういうことだ?」
戸惑いながらも問いただす俺に女性はグッと近づくと剣を持った俺の手を掴みながら上目使いで応えた。
「私をあなたの側にいさせて欲しいの。かつて、夢の中で話し合った時にあなたが私に告げたあなたの理想の世界。その世界を私も見てみたい。」
目を輝かせながら告げる女性に俺は途端に冷静になった。
かつて、夢の中で話し合った女性が目の前にいる女性と同一人物であることが確定した今、俺の理想とする世界のあり方が彼女の中で変化していたからだった。
前世の記憶を持つ俺は前世の世界をある意味、窮屈に感じていた。
常に宿題や行事、仕事といった何かに追われる日々に加えて、もはや一人では処理できないほどの情報が右へ左へとあちこちを飛び交う。
そんな世界を俺はいつの日からか冷めた目で眺めていた。
どこにいても安まらず、常に周囲には人が溢れかえっている。それを当たり前だとして承認し、生きていくことに俺は嫌気が差した。
それは決してその世界が嫌であったわけではない。
むしろ、当然の結果と受け止めいていた。だが、夢も希望もない「今」という現実を生きる人々に俺はいつからか何も思わなくなっていた。
夢を馬鹿げているとして一笑し切り捨てる。そんな世界に俺は何を思えばよかったのだろう。
夢を語るのは子供の権利。だが、その夢を叶えるのは大人の権利だ。
なのに、世界や社会、周囲の大人たちや友達は一斉に「夢は夢」と不敵な笑みを浮かべて突きつけてくる。
こうして俺の見る世界は色を失った。
ただ国家の労働力という歯車になるために生まれてきては動き続けるために食事を食す。そして管理されたモノのように休みという名の飴を与えられる。
まるで機械の一部のように思えてくる社会構造に俺は徐々に生きるための生きがいを見失った。
生があれば死があるように。始まりがあれば終わりがあるように。
当たり前のことを常識と捉えたまま俺は感情を失った。
それはまさに当然というものだった。なぜなら、既に俺は生きる意味を失ったのだから。
楽しいと思えることはなく、やれと言われればやるが積極的には何もしない。
そんな世界を俺は理想とは呼べなかった。
確かに豊かになった。平和になった。自由にどこへでも行けるようになった。
それは真実だ。
––––––––だが、ただそれだけだった。
豊かになって何をするのだろうか。車を高級車にしたところで別に死にはしない。
家を豪邸にしたところで別に豪邸でなければ生きていけないわけではない。
では、どうせ最後に全て失うのならば得ることの意義はあるのだろうか。
「選択肢が増える」「やれることが増える」と人はそういうだろう。だが、選択肢ややれることが増えたところで何だろうか。
夢を語れば、夢見る者として笑われては馬鹿にされる。
何かを為そうとすれば周囲に疎まれる。
そんな、まるで見えない何かに縛られるような世界で俺は一人、自由を求めた。
そうした状態で俺は死に––––––––転生をした。
既に何かを為そうという気はとうに失っていた俺だがこの世界に転生して俺は思い知らされた。
俺が窮屈だと考えていた世界というのは全て、先人たちの積み上げてきた功績でできていた。
当たり前のものがない世界にきて、常識が通じない世の中で生き抜いてくしか方法がない中で、俺はあの日、目の前の女性に夢の中で伝えたのだ。
「俺は、平和かつ自由で平等な世界を作り上げたいッ!!!」と––––––––。
「それで、どう?」
そう告げてくる女性に俺は笑みを溢した。
キラキラと光る純粋な目を向けられ、希望を寄せる女性に俺は前世で経験してきたものを心の奥に閉じ込め、新たにアルトスとして生きることにした。
以前、囚われていた感情を脱ぎ捨て俺は新たに一歩を歩み出した。
「俺の運命というのは?」
尋ねる俺に女性は深々と被っていたフードを取ると数秒間、目を瞑る。
再度、その目が開かれるとその目には瞳を中心に虹彩の場所に虫眼鏡のような模様が浮かび上がっており、女性は答えるように続けた。
「これは私の刻印––––––––別名創世の刻印。世界を“次へと導く指導者”を育てる者の証。
そして私は《創世の王》にして名をアンブローズ・マーリン。
これからアルトス、あなたを世界の王へと育てるわ。」
満面の笑顔を浮かべながら告げてくる女性に俺は自身の運命を悟った。
読んでくださってありがとうございます!! ( ^ω^ )V
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