#015 『 試練 』
◇ お知らせ ◇
今日で毎日投稿2日目!!
昨日から始まったこの毎日投稿。来年の1月7日までに合計”20話分”を投稿するのでよろしくお願いします!!
♪( ´θ`)ノ <よろしくお願いします!!
「おはよう御座います、アルトス様。それにしても今日はやけに早いご起床で。何か、ありましたか?」
部屋を出るなり待ち構えていたのは目鼻立ちに良い顔にビシッと決まった執事服を身に纏ったフィンだった。
そんなフィンをよそに俺はそうだなと軽く返すとすぐさま書庫へ向かった。
カーナヴォン城の書庫、そこには歴代の領主や王たちがこの地にて戦ったとされる戦史の記録が数多く残されていた。
その中でも今の俺が求めていたのは戦史の資料ではなく、詳細な地図だった。
本来、詳細な地図というのは制作はされない。その理由としては外敵からの侵入を防ぐためにある。
もし、詳細な地図を作ってしまえば、その地図を間者が盗み、敵軍へと情報が渡ってしまう。そうならぬように詳細な地図は制作せず、ある程度のボカシを入れたまさに大雑把な地図を作成させることが多い。
そうして作らせた大雑把な地図は土地勘のある防衛戦を展開する際には最適である。
例え、間者に地図を盗まれても大雑把な情報では対して役に立たず、また間者も間者で盗むのに苦労するばかりで利が少ないなどのデメリットがある。
だが、それらの考え方は間違いだ。
地図は詳細であればあるほど良く、またそれは戦時にも平時にも同じ事が言える。
盗まれることを前提に考えるのは一種の予防策としては十分。しかし、それでは詳細な情報が得られない。
例えば、川の氾濫が起こり、その川付近にあった村落が川で流された場合、大雑把な地図しかないのではどの程度の範囲が実際に被害にあったのかわからない。
また、街から街まで何かを運ぼうとしたら街と街が実際にどれくらいの距離離れているのか知らなければならない。それこそ歩くのが早い人は半日と言う一方で歩くのが遅い人では一日掛かるといった矛盾が生まれる。とはいえ、それぐらい大雑把であればある程度の感覚でわかるがそれでは詳細な計画は練ることはできない。
一分、一秒に判断を求められる戦争では尚更、情報というのは強力な武器となる。
知ってさえいればどんな事であろうが対処はできる。だが、知っていなければそれはもはや何が起こるか不明というものだ。
そうして書庫を漁る事一刻がすぎるとついに俺は念願の地図を見つけることに成功した。
やや汚れており埃かぶっているものの確かに地図であるそれを俺はランプを片手に近くにあったテーブルに広げ覗き込んだ。
しかし、そこに記されていたのは俺の目を疑うものだった。
「…………ウソだろ。」
そう呟く俺は地図を何度も見返した。
その地図に描かれていたのは前世の世界でいうところのグレートブリテン及び北アイルランド連合王国ことイギリスそのものだった。
違うのは、グレートブリテン島の名称がアルビオン島、隣のアイルランド島がエール島などと名称が違う事だった。また、前世ではヨーロッパ大陸のあった方には矢印で“この先ノスタルジア大陸”と名称が変わっていた。
前世では世界中のほとんどの国境線や島の形ほか各国ごとの首都を完璧に覚えていた俺にとってこの地図というのは驚くべきものだった。
一部、海岸線が微妙だがおおよその形はイギリスそのものであったこの地図はまさに俺の疑問を深めた。
十数年前、交通事故にあった俺は死亡し転生を果たしたはずだった。
だが、目の前の現実はそれを否定するかのように下いた世界に似た島が描かれていた。
内心、偶然の一致なのかと自問するもののすぐさまそれは違うと直感が告げる。
もしかして、ここは異世界ではなく元々いた世界であり、時間軸が異なるだけでは無いだろうか。それとも元居た世界に非常によく似た異世界か。
そこまで考えると俺はため息を吐きその場にあった本の山に腰を下ろした。
「はぁ〜。まるで、わからん。ここは異世界じゃないのか? だとしたらどうして異種族が存在するんだ?
いや、そもそも異種族など目にしたことがないから存在しないのか? 仮にここが前世の世界ならどうして崩壊したんだ?
文明水準的にみて古代末期から中世全盛期のこの世界にもう少し科学があってもいいはず。なのに、科学のかの字も感じられない。」
まるで回答のない質問をされてるように感じる俺はついに根を上げるとそのままテーブルにうずくまった。
ひらひらと揺れるランプの炎を見て、俺は働かせすぎた頭を空っぽにした。
数秒、数分と時が流れるのを感じながら俺は、ふと地図を見ると違和感に気がつく。
前世では確かにあったその島が目の前の地図には記されておらず、俺は疑問に思った。
仮に前世と非常によく似た異世界であれば、その島はあってもいいはずなのに、地図には記されていない。
そのことを念頭に俺はあることを不意に思い出す。
数年前に消えたとされる島の伝承。昔、ホーリーヘッドの街で漁師たちから聞いた話。
その瞬間俺は、脳内で全てが結びついていく。
消えた島の伝承…………前世の地形に酷似した地図…………あるはずの場所にない島………。
そして、夢によく現れる彼女のいる海の見える大地。
その全てがまるで電流の様に流れ、点だったものが次々と結びついていく。
その感覚に俺は笑みを浮かべると誰もいない書庫で呟いた。
「––––––––見つけた。」
◇・◇・◇
月夜が青白く世界を照らす中、帆に風を孕めさせ海を割って進むのは赤地に金のライオンが描かれた旗を掲げる二隻の軍艦。
そのうち一隻の船首には甲冑を着こなし、腰に使い慣れた長剣を携えた青年が黄金に輝く髪を海風に靡かせ、遥か向こうに側にあると信じる島を探す。
「アルトス様、本当にあるとお思いで?」
「ああ、あると信じてる。実際に伝承があるしな。」
「ですが、それは伝承であって、なんの確証もないのではありませんか?」
船に揺られながらそう告げるフィンに俺は、顔を向け笑みを見せて応えた。
「フィン。火の無い所に煙は立たぬって諺を知らないのか?」
「それは知っていますが……。」
「なら話は早い、伝承がある。それだけで十分、煙臭くないか?」
妙な言い回しを使いつつも俺は内心では未だ疑念が多くあった。
だが、それらを悟られまいと俺は腰に携えた剣をギュッと握りしめた。
雲一つない夜空に俺はフィンとともに海の向こう側を眺めた。
進めど進めど、変わらぬ景色にフィンは不安げに、俺は焦りを感じ始めていた。
カーナヴォン城を深夜にもかかわらず抜け出し、軍艦を二隻勝手に出港させたのは単に夢で出てきた女性を探すためであり、その女性なら何か、自分の知らないことさえ知っているかもしれないという希望があったためだった。
また、それとともに現状あったエクトル領の食料問題についての憂さ晴らしということも内心では思っていた。
エクトル領の食料問題を解決するのは簡単だ。誰を生かし、誰を殺すのかを選択すれば良いのだから。
だが、それで殺された民はどう思うのか。そんな解決策で救われた民はどう思うのだろうか。
無下に殺されたものは失望し、救われたものは明日は自分ではと怯えて暮らすことになるだろう。
そんな統治ではやがて限界が来てしまい全てを失うこととなる。
それだけはあってはならない。だが現実はかくも冷酷に牙を剥いてくる。それはまさに問題を解決する手段を躊躇なく奪い、頭を悩ませる。
数世紀先の知識があろうが変えられない現実に俺は無力さを感じた。
全てが己の命令一つで変えられる社会に俺は未来が無いのは知っている。それはまさに歴史が証明している。
歴代皇帝、君主、独裁者は無惨な最後と共に滅んだ。
だが、俺はそれでも考え、知恵を振り絞る。
食料は増やせないなら何処かから買うか奪うかの二択になある。奪えば一時的に窮地を脱するが長い目で見た時に自身の首を絞めることに繋がる。
また、買うにしてもどこから買うのかという問題が浮上する。
地図で見た王国の全土は大きく分けて三つのエリアが存在する。
西側にある広大で肥沃な大地が続くエール島と東側にあり王国の本島でもあるアルビオン島、そのうち“グリムの壁”を境に北と南で別れていた。
北側では、主に山々が連なり常に雪と氷で覆われている。その反面鉄鉱石などの鉱物の採取が多く、中でも石炭なども一部採取されていた。
南側では、主に肥沃な大地がが広がり、鉱物類も取れる一方で人口が多く、常に争いの火種がどこかで燻っているなどの問題があった。また南側は、大陸に近いために常に外敵の侵攻による背後の安全が脅かされるなどの地政学的な問題点もあった。
そうした中で食料が購入できるのはエール島か今現在エクトル領のあるアルビオン島南部のミッドランドしかなかった。
中でも海を挟んで存在するエール島では、近年再び起きた戦争によってエール島の北側を支配するエルニア王国と南側を支配するエリン王国の両国では食糧生産能力が低下しており、なんとか自国の食料を賄うほか一部、戦費を確保するために主食となる小麦の輸出を行なっていた。
実際にエクトルの所にも数ヶ月前にエルニアの商人が食料の輸入についてエクトル自身と話していた。
だが、エルニアの食料を買うことは間接的にエルニアを支持することとなり海を挟んで睨み合うエリン王国の反感を買いかねないとして丁重に断っていた。
加えて、エリン王国もエリン王国で食料の輸出に対してはかなり消極的であり、度々食料の輸入についての価格を意図的に高騰させてきたこともあった。
無論、その際にはエクトルも怒ってエール島では採取が難しい鉄鉱石などの輸出を絞ったりと報復したのだが、関係が悪いことに変わりはなく、むしろ互いが互いに犬猿の仲だった。
そうした背景からエリン王国は全く信用できず、また頼んでも足元を見られた上での交渉になるために馬鹿高い金額にだいぶ絞られた僅かな量しか輸出しない。
そんな国家を相手にしなければならない為に俺は半ばエール島からの食料輸入は諦めており、他にもミッドランドからの輸入に関してもミッドランド全域で呪いこと冷害によって生産量が低く、どこも小麦の価格は高騰していた。
唯一、冷害を免れたヨーク領では小麦は豊富にあるが我がエクトル領との交易は難しく、陸路では時間がかかる他、飢えを満たせる程の量を運び込むことが困難であり、その価格も高騰する。また、海からの輸送でも難しく、エクトル領は海には面しているもののその全てはアイリッシュ海であり、ヨーク領の面している王国海とは違う。
そこで俺が考えたのが最短ルートであるがこのルートには致命的とも言える問題があった。
そもそも俺の考えた最短ルートというのは、ヨーク領のある地域ヨークシャーから隣の地域ランカシャーまで陸路で、その後ランカシャーからは海が同じなため海路輸送を計画したのだが、このランカシャーが問題だった。
ランカシャーの殆どは我がエクトル領のあるウェールズと同じで山岳が多く、その土地は起伏が激しい。そのため陸路での輸送は難しく、危険も多い。さらに道幅も狭いために輸送できる物の量も必然的に少なくなるというなんの解決にもならないルートだった。
量が必要であるのにも関わらずその量が運べないのは無意味であり、ランカシャーの山岳を無視したルートである陸路ルートも遠回りになるためにそう多くは運べないといった問題があった。
そうした食料問題を再び考え頭を悩ませていた頃、ようやく水平線の向こう側から太陽が昇り始めていた。
朝日が眩しく世界を照らし始める中で俺は、いつの間にか瞑っていた目を開けて、海を眺めた。
先ほどまでは何もなかった場所に徐々に島のような影が照らし出され、あたりを深い霧が覆い始めた。
その光景を見て、俺は咄嗟に叫ぶ。
「船長、このまま濃霧に突っ込めッ!!!」
俺の言葉に船長は困り顔を見せていたが俺が「早くしろッ!!」と半ば命令口調で告げたこともあり、船長はすぐさま船員の水兵に号令をかけた。
慎重に確認しながら進むため帆をたたみ、櫂で徐々に進んでいく船に俺は隣にいたフィンに楽しげに告げた。
「な、あったろ?」
「ええ、確かに。」
驚き半分、不安半分といった表情をするフィンに俺はそっと語りかけた。
「大丈夫だ、別に怪物のいる島に行こうというわけじゃない。むしろ、その逆だ。」
「と言いますと?」
「あの島が俺の思っている島で俺の会いたい人がいるのなら、何もかも解決するかもしれない。」
「…………それってどういうことでしょうか?」
フィンが疑問を口に出した瞬間、船は深かった霧を抜けだし目の前に伝承でのみ聞いたことのある島が現れた。
その光景に俺は言葉が出ず、フィンの質問をそのまま聞き流した。
島には船のある場所からも見てわかるほどに発展したホーリーヘッドのような沿岸都市があり、大きくはないものの港があった。
唯一、ホーリーヘッドの都市と違うのは港の方に小型船または中型船はあるものの軍艦のような大型船がなかったことだった。
そこで俺はすぐさま船長に船を移動させ、島の都市とあい程度離れた船の接岸地点を探させた。
数十分かけて、見つけた接岸地点に船を止めると俺は甲板に兵たちを集め、上陸部隊を編成した。
軍艦一隻におよそ二十人の兵がいる中で俺は各船から五人を連れ出し、俺とフィンを外した合計十人の兵を完全武装させ、上陸部隊に任命すると他の総勢三十人には休息といざと言う時のための予備兵力として船の番をさせ、見知らぬ島へと上陸を開始した。
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