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Godin Fantasy —異世界建国譚—  作者: 高峰 遼一
第一章 女神の選定と竜の刻印
17/70

#014 『 導く者と導かれる者 』

◇ お知らせ ◇

長らく、更新を待って下さった方々に朗報です!!

今日(12月24日)から来年の1月7日まで合計20話分を“ 毎日投稿 ”をします!!

( ^∀^)//やったねッ☆

なので、楽しみにしてください!!

 エクトルが一通り話し終えると一呼吸をおくと俺は全身を座っていたソファに預けた。


「話は以上だ。」


 短く一言を告げるエクトルを傍にオリヴィエは口を開き「でも」と続ける。


「王都周辺に逃げた民を救うのが我々に科された使命なのではッ!!」


 諦めの悪い提案にもはや黙ってられなかった俺はオリヴィアを睨み、怒りの籠もった声で告げる。


「使命ですか……。では、その使命のやらのためにあと何人死ねば姫は満足ですか? 我々はあと何人に死ねと命じればいいのですか?」


 突然の横槍にオリヴィエは一瞬戸惑うもすぐに歯をくいしばる。

 姫として支配者たる統治者として当然のことを告げただけだったオリヴィエに対して、俺は現実を直視するように促す。

 

「救うにはそれなりの準備と費用、そして何よりも人が必要です。百を救うために千を犠牲にするのは余りにも馬鹿げています。」


 強く怒気の籠った声と睨みつけるような目つきで一度告げると今度はため息混じりにオリヴィアに諭すように語りかける。


「いいですか、あなたは姫でこの国を背負って立つ人間です。理想ばかりに目を奪われ、理想を理想としたままで先行させれば、いつか足元の小さな小石に躓いて大怪我を負います。そうなった時、一体誰が犠牲になるとお考えで?」


 言い終えると同時にオリヴィアはバツが悪そうな顔で目線を逸らす。


 どうやら理解したらしい姫を他所に俺は思考を巡らせた。


 王都の陥落。それは正に秩序の崩壊を意味していた。

 もはや、この国には政府のような統治機関はなく、ましてや統治者もいない。

 加えて、近代を知らない中世となれば権力者たちがどう動くかは予想するに容易い。

 そう考えた俺は頭を悩ませていた。


 食料も乏しく、労働力たる人手も少ない状況下で次々と立て続けに起こる出来事に俺は頭を抱える。

 その様子を半ば嬉しそうに笑みを浮かべながらジロジロと見てくるエクトルに俺は嫌味の込めた声と態度で問う。


「どうして、笑っているんですか? 父上。」


「なぁに、息子の成長が嬉しくてな。」


 そう言いながらカッカッカッと再び笑うエクトルに俺は一瞬パンチを喰らわそうと拳を握るがいつもの嫌がらせだと思い、水に流した。


「とまぁ、それは良いとしてだな。軍の用意を急げ、アルトス。もうじき戦争が始まる。兵を集め訓練をさせよ。いつ何時攻められても戦えるようにな。」


 誇らしげに告げながら立ち上がるエクトルに、俺は我に帰ったように飛び起きるとエクトルを止めようとすぐさま行動する。


「はっ!? 戦争ッ!? ちょっと、待ってください!!」


「何を焦れているんだ。早くしなければ………。」


「だから、ちょっと待ってください。エクトル卿!! 軍は現在、訓練を中止しておりそう簡単に動かせません。それに我が領内だけでは戦争をするなど自滅行為です!! すでに蔵の小麦を一部の民に開けています。たとえ戦争ができたとしても食料がないと長期戦に耐えれません。それに戦争をしようと思ったら新しい武器も防具も必要です。そこお金はどこから出すんですか!? もうすでに領内の金庫は空なんですよ!!!!」


 まるで捲し立てるように告げる俺の意見が届いたのか、エクトルは先ほどまで張っていた胸を撫で下ろすと再び腰を落ち着かせた。


「そうか………事情はわかった。だが、解せんな。誰が蔵を開けさせたんだ。まさか、お前か? アルトス。」


 顎髭に手を当てて鋭い眼光を光らせながら睨みつけてくるエクトルに俺は一瞬驚くも溜息混じりに応えた。


「ええ、そうです。」


「なぜだ?」


 依然として睨みつける中、俺はエクトルが残していった後の政務について話した。


「従来の予想に反して小麦の生産量は低く、このままでは領内の至る所が食糧難による飢饉に遭遇する可能性があったもので。」


「食糧難による飢饉は理解できる。だが、それならば多少の領民を切り捨てれば良いではないか。わざわざ、全ての民を救わんでも都市民だけでも良いのではないか?」


「お言葉ですが、それは愚策です。」


「なんだと……。」


 より一層その目に力を入れて問うエクトルに俺も熱が入り、言葉を返す。


「先ほど姫の仰った様に統治者たる者、民を救うことは責務である使命です。民が領主や国王などの統治者に税を支払うのは、自分たちを守ってもらうためです。

それを蔑ろにして、民の命を選べばこの領内には人はいなくなります。また、それを抜きにしても領民を見殺しにするのには反対です。

 例え、都市民を保護して救えたとしても、都市の外に住まう村の人々たちは生きる為に略奪などを行います。そうすれば、商人たちは気軽に他の街へ商売することも出来なくなり物流は滞ります。そうして物流が途絶えれば都市内も同じ様に飢える事になるます。」


 一切目線を逸さずに説明する俺に、エクトルは先程までの睨みを止めると観念するように呟いた。


「なるほどな………。どうやら、早計だったのは俺の様だな。すまない、アルトス。

 だが、そこまで考えていたのなら蔵を開ければどうなるか分かっておったのだろう?

 蔵を開けた以上、貯蔵分が尽きるまでは良い時間稼ぎになるかもしれん。しかし、根本的な解決を見いだせなければそれは悪手だ。違わないか? それとも解決策があるのか? アルトス。」


 根本的な解決策を聞かれ、俺は言葉が詰まった。

 正直なところ、食糧難の解決策は考えてあった。しかし、それは王都への救援だった。

 だが、今回その王都が襲撃に遭いそのまま陥落したのだから頼みの綱が切れた現状での解決策は浮んでいなかった。

 他にもアイリッシュ海を挟んで存在する島。エール島のエルニアとエリンの両国に食糧支援を求めることも考えたが、北部のエルニアは我が国よりも貧しく、常に南部のエリンに攻められているために国際問題の引き金になりかねないとして断念していた。また、エリンの方もエリンの方で関係は良くなく、ここ近年はないが数十年前まではよく互いの漁船を捕縛し合い、互いに警戒していた。

 そのため、両者とも諦めるしかなかった。

 他にも商人を通して小麦等の食料を仕入れようとしたがイングランド中で食糧難なためどこもなく………諦めていた。

 そんな中での根本的な解決法などはなく、俺は苦虫を潰したような顔で口を開くと絞り出すように真実を告げた。


「………ありません。」


 一言、そう告げる俺にエクトルはそうかと言うと席を立ち、何も言わずに部屋を後にした。


 エクトルが部屋を出て数秒後、俺は拳を握ると目の前のテーブルをドンッと叩き、歯を食いしばる様に呟いた。


「……クソッ」


 前世でよく見ていた某人気小説投稿サイト、小説家だろうの異世界転生というジャンルでは、すでにお決まりとされる中世風ファンタジー。

 知識を武器に様々な問題を解決したり、引き起こしたりする主人公を読んでいて楽しんでいた俺は正にその状況に置かれているにもかかわらず、何も出来ずにいた。

 数百、数千年先の知識をある程度、持ってしてもなかなか解決できない問題に俺は頭を掻きむしった。


 そんな俺を見かねてか一人、一部始終を見ていたオリヴィアは俺の背後に回り、ポンと手を俺の肩に置くと顔をそっと近づけ、俺の耳元に囁くように静かに呟いた。


「大丈夫です。きっと良い解決策がありますから。」


 つい数分前までとは立場が逆転しながら、励ますようにそういう彼女に俺はふと理性を取り戻し顔を上げる。


「お気遣い、有難うございます。オリヴィア姫殿下。では、予定があるのでこれにて失礼させていただきます。」


 半ば強引にオリヴィアから離れるともっともらしい言葉を並べて部屋を後にした。


 まるで逃げるように部屋を後にして向かうの先は城の中でも一番高い塔だった。

 階段を駆け上がり、塔の最上階に着くと俺は深呼吸し、叫ぼうとする気持ちを抑える。


 もはや、何もかもどうでも良いとなる様になれと自暴自棄になりながらも脳内を巡るのは先ほどのエクトルとの会話のみ。

 「解決策はあるのか?」その言葉がまるで壊れたラジオの様に繰り返し脳内で流れる。


 食料という生命に必要なものはそう簡単に取ることはできない。

 近くにスーパーもなければコンビニもないこの世界において、俺は知恵を絞るが何も思い浮かばない。


 何処か大量に食料がないか。何かと取引できないのではないか。または、どこからか奪えないかと………もはや手段を選ばずに考えながら、俺はやはりダメだと呟きながらバタッとその場に倒れた。


 冷たい石畳の上に寝転がりながら、すでに太陽が地平線の向こう側へと沈む中、赤く夕日が照らす空から徐々に星々が現れ、前世でいうところの黄昏時に俺は空を見上げた。


 冷たくも優しいそよ風が頬を撫でる中、俺は一人目を瞑り、考え込む。


 何処かに、何かあるのではないかと。自分は何かを見落としているのではないかと。現在の問題点を様々な視点で見てはああでもない、こうでもないと自問自答を繰り返す。


 そんな中、階段の方からコツコツと人が上がってくる足音が聞こえてくる。

 徐々にその音は大きくなっていき、遂にはかなり近くでコツンという一際大きい音がなると俺は口を開けた。


「夜風は、冷えますよ。オリヴィア姫殿下。」


「それはどうもです。ですが、私はオリヴィア姫殿下ではありませんよ。アルトス様。」


 そう告げる優しい男の声に俺は驚きながら飛び起きると、声の主の方へ顔を向けた。

 そこには、目鼻立ちの良い顔にビシッと決まった執事服を纏った男が、整然とした態度で立っていた。


「ッたく、驚かすなよな。フィン。」


「そう召されますな、アルトス様。」


「それより、どうしてここがわかったんだ? フィン。」


「そうですね。それは秘密です。まぁ、強いて言うのならばそうですね。アルトス様のことなら私はよくご存知ですから。」


 ニカッと微笑むフィンを横目に、俺はため息をつく。


「それよりも夜風はいけませんよ。アルトス様。」


「ああ、わかっているよ。フィン。」


「また、何か考え事ですかな?」


 まるで揶揄うように顎を触り、ウキウキとした態度で見つめてくるフィンに俺は鼻で笑うとフィンの質問に応えた。


「そうだと言ったら?」


「そうですね。私であればいつでも相談に乗りますよ。」


「そうだな。お前は、そういうだろうな。」


「何か、問題でも?」


 俺の返答に違和感を感じたのか、フィンは俺に近づく覗き込むように俺の顔を見る。


「フィン、お前は相談役や護衛役としては優秀だ。だが、こればっかりは相談はなかなかできない。」


 夜空に浮かぶ星々を眺めながらそう告げる俺にフィンは何かを悟ったように身を引くと、階段の方へと歩き出す。


 階段に足を置きながらフィンは、上半身だけ俺の方へ向けるとここに来た理由を告げる。


「アルトス様、下で皆がアルトス様とご夕食を食べようと待っております。」


「ああ、わかった。すぐにいく。」


 夜空を眺め、告げる俺に、フィンは階段をコツコツと足音を鳴らしながら降り始める。

 そんな中、フィンは置いていく俺にそっと助言するように呟いた。


「考えすぎですよ。アルトス様。」


 その言葉を聞いて、俺はフィンがいた方向を向いたがそこにはすでに誰も居なかった。


◇・◇・◇


 扉を開け、静かに入ると部屋の一番奥にある上座にドッシリと山のように構えるエクトルとその右手側にオリヴィア姫がすでにテーブルを前に座り、夕食を取っていた。

 エクトルの左側には食事が用意された空席があり、俺は迷わずその席へと歩み出すと席を引きそのまま座り、目の前の食事を手に取った。


 世界観が中世ヨーロッパであるこの世界において、食事というのはよく言えば豪勢、悪く言えば野蛮だった。男女関係なく、鷲掴みで食べる席に俺は、テーブルマナーと言うのを久々に思い出した。


 ガツガツと鶏肉を貪ってはグラスに注がれたワインで流し込むエクトルを傍目に俺は若干引きながらもそっと視線をスライドさせた。

 幸いにも姫の食事はエクトルとは違ってガツガツとしてはなく、洗礼されていた。

 パンをちぎってはスープに浸し、口へと運ぶ。

 スプーンやフォークがない分、器用に華麗に食べていた。


 そうして半刻もの時間をかけてゆっくり夕食を食べ終えるとそのまま来賓用の部屋へと向かい、ベッドへダイブした。

 前世のベッドと比べればまだ硬いがこの世界ではかなりの柔らかさを持つベッドに俺はそのまま身を任せ、意識を手放した。


 すると食事処クロネコに泊まった時のように目の前の空間が突如として変形していく。


 そうして出来上がったのは、山の中腹にありそうな木の家とベランダ、そして遥か向こうの眼下には都市が広がっていた。

 都市の先には海があるがその海の向こう側には深い霧で覆われていた。


 そんな景色をベランダで眺めている中、背後から聴き慣れた声が聞こえてくる。


「また、会ったわね。アルトス。」


 背後に視線を移すとそこには、クロネコの時に夢であった女性がティーカップを手に佇んでいた。


「………お前は……あの時の。」


「あの時はごめんなさい。どうしても話さねければならなかったから少し、強引に行かせて貰ったわ。」


「何が望みだ? どうして、俺の夢に現れる?」


 俺の質問に、その女性はふふふと笑うと口を潤すようにティーカップを一口飲む。

 そして、無言のまま俺の隣へと立つとそっと口を開いた。


「どうして、「あなたの夢に現れるのか」その質問の答えは簡単よ。一言で言えば、それが私の“運命”だから。そして、あなたにも同じような運命がある。」


彼女がそう言いながら俺の胸を撫でるように触れると俺は言葉を返すように訊ねた。


「“運命”って、前も言ってたがその“運命”ってなんだ?」


「そうね。一言で言えばあなたを導く道。いや、正確にはあなたが進まざるを得ない道とでも言いましょうか。」


 意味深に応える彼女に俺は堪忍袋の緒が切れ、彼女の二の腕をガシッと捕まえると睨むような目付きで説明を求めた。


「もういい加減、まどろっこしいのは嫌なんでな。説明しろ。」


 怒気の籠った声と鋭い目付き、ガシッと掴んでは離さない手に観念したのか。彼女は一瞬驚くもすぐに優しい笑みを浮かべて俺の頬をそっと撫でた。


「わかったわ。全て、説明してあげる。」


 そう告げる彼女に俺は、二の腕を離すと怒りを抑えた。


「すまない。少し苛立った。」


「構わないわ。でも、どうせならもっと優しくして欲しかったなぁ。」


 優しい笑みを浮かべながらそう告げる彼女に、俺は一瞬手間どうとすぐさま、彼女は「ごめんなさいね、冗談よ」と前言を撤回した。


「それで、“運命”ってなんだ?」


「そうね。その前に一つ条件というか、試練を与えるわ。その試練を超えた時、全てを教えてあげる。それじゃ、今夜はここまでのようね。」


「おいッ、話が違うぞ!! 説明しろッ!!!」


 咄嗟に告げられた試練に俺は反骨精神を尖らせると彼女は顔色一つ変えずに指をパシンと鳴らすと俺の意識が徐々に遠ざかり、景色も徐々にぼやけてくる。

 そんな中、響くように彼女の声が聞こえてくる。


「私を見つけてなさい。そこで全てを教えてあげる。」




 翌日、目を覚ますと俺は昨夜と同じように来賓用の部屋にあったベッドで寝そべっていた。

 夢にみた彼女はこの先に何が起こるのか、または何かを知っている可能性が高い。

 そう思うと俺はベッドの側に掛けてあった剣を握ると勢いのままベッドを飛び出し、部屋を後にした。

読んでくださってありがとうございます!! ( ^ω^ )V


広告の下にある星をタッチすると私を応援できるのでよろしくお願いします!!

また、少しでもこの物語を『面白い』、『続きが気になる』と思っていただけたら、

レビューや感想等の方もお願いします!!

( ✌︎'ω')✌︎<オネシャス!

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