#000 『 笑う骸骨 』
人はいずれ死にゆくもの。
そう、心のどこかで俺は思っていた。
いくら涙を流そうが、いくら悲しみに暮れようが、死人は生き返らない。
また、いかに社会保障制度が整われようが、いかに医療技術が発達しようが、人は死からは逃げられない……。
他人から見れば、俺の考えは非常に薄情的だろう。しかし、それは絶対であってどんな人にも平等に死は訪れる。
ただ、唯一言えるのは……それが、今の自分自身には関係のないことだ。
ドカンという大きな衝撃音とともにあたりの道路は僅かに振動する。
刹那、安全地帯を守るように存在するガードレールが極端に曲がる。
その瞬間、俺の目の前に一台の黒の高級車が突如として上空より現れ、あたりの声や音、そして時間の感覚さえ次第に遠く遅くなっていく––––––––。
時が止まって見えるせいか、運転手の驚愕顔が目に焼き付く。
そして、思う。
はは、これが死か…………。
生まれてから二十二年。
入社式当日の朝に俺は、交差点の安全地帯で不覚にもそれを見た。
それは、異常な冷気を漂わせながら浮遊していた。
何処までも続いていく闇のような黒いローブを羽織り、手には巨大な図体にふさわしい巨大な鎌を持った骸骨。
人呼んで–––––––死神。
にわかに、笑って見えるその骸骨顔の死神に俺は言葉通り、命を刈り取られ,
眠りについた。
こうして、始まったばかりのサラリーマン生活が終わりを告げた。